動画解説はこちら|YouTube

反応器と反応工学の全体像|設計の7段階と、33本の記事への地図

反応器と反応工学の全体像

反応器は、プラントの中でいちばん設計が特殊な装置です。

熱交換器やポンプは、条件を書いて渡せばメーカーが設計してくれます。反応器は違う。形状そのものをこちらで決めて渡します。そして同じ「反応器」という言葉で呼ばれる装置の中には、0.5秒で終わるものと、167時間かかるものが並んでいます。

この記事は、反応器と反応工学の全体像を1本にまとめた地図です。32本の記事への入口になっています。

この記事で分かること

  • 反応器の設計がどんな順序で進むのか
  • 各段階で何を計算し、何につまずくか
  • 自分がいまどこの話をしているか

設計は7つの段階で進む

下の段が決まらないと、上の段は計算できない

反応器の設計は、おおむね次の順序で進みます。

1. 反応を数式にする反応率・量論・速度式。ここが全部の土台
2. 大きさを出す設計方程式で必要な体積を計算する
3. 熱を扱う発熱を捨てられるか。暴走しないか
4. 実際の流れを見る理想通りに流れていない分をどう見込むか
5. 触媒を入れる粒の中まで原料が届いているか
6. 相が増える気固・気液・重合・培養という別世界
7. 仕様書にするメーカーに渡し、運転して、診断する

この順序には意味があります。1つ前の段階が決まらないと、次の計算ができない。体積を出すには速度式が要り、除熱を決めるには体積が要る。

以下、段階ごとに見ていきます。

1. 反応を数式にする

すべての出発点は「反応がどれだけ速いか」を式にすることです。

まず変数を減らします。限定反応成分を1つ決めれば、他の成分の濃度はすべてその反応率で書ける。気相反応でモル数が変わる場合も、膨張率εを使えば同じ枠に収まります。

ここで最初の落とし穴があります。反応率が高いことと、欲しいものが取れることは別です。逐次反応では、原料を消し切るまで反応させると目的物が消えます。反応率98%で収率1.8%という組合せが実際に成立します。

2. 大きさを出す

速度式が決まれば、必要な体積が出せます。

回分・CSTR・PFRという3つの理想反応器は、1本の物質収支から出てきます。別々の公式を覚える必要はありません。

覚えておきたいのは、CSTRとPFRの体積差は「1/(−r) のグラフの面積の差」として目で読めるということです。式を解かなくても、どちらが有利か図で分かります。

3. 熱を扱う

体積が決まったら、次は熱です。ここが反応器の設計でいちばん危険な領域です。

最初にやるべきは断熱温度上昇の計算です。除熱がゼロなら何度まで上がるのか。この1つの数字で、装置の性格が決まります。

発熱は温度の指数関数で増え、除熱は温度差に比例してしか増えません。この非対称が暴走の正体です。ある温度を越えると、冷やす側が追いつかなくなる。

そして同じ条件で運転点が3つ存在することがあります。着火する温度と消火する温度が違うので、いったん落ちた反応は元の条件に戻しても戻りません。

4. 実際の流れを見る

ここまでは理想的に流れているという前提でした。実機は違います。

ここでシリーズで最も実務的な発見がありました。

短絡があっても、平均滞留時間は変わりません。素通りする分が平均を下げる効果と、残った液が長く留まる効果が打ち消し合うからです。ところが反応率は落ちる。

つまり「滞留時間は設計通りだから流れは正常」という判断は成り立ちません。これは現場で誤診を生みます。

5. 触媒を入れる

固体触媒を使うと、反応が起きる前に「原料が触媒の中まで届くか」という問題が入ります。

拡散が律速していると、触媒の外側の薄い殻でしか反応が起きていません。そして厄介なことに、劣化が見えにくくなります。

活性が落ちると粒内の拡散が追いつくようになり、有効係数が上がって埋め合わせてしまう。真の活性が1/10になっても、見掛けの速度は1/3程度にしか落ちません。気づいたときには手遅れ、という構図です。

6. 相が増える

ここから先は、それぞれが別の世界です。

共通しているのは「反応がどこで起きているか」という視点です。気固反応では反応面が粒子の内側へ後退し、気液反応では界面へ前進してくる。向きは逆ですが、反応面の位置が律速を決めるという構図は同じです。

そして重合と培養は、他と性質が違います。

重合反応が進むほど粘くなるので、撹拌も伝熱も効かなくなる
培養ゆっくり育てると収率が落ちる。菌は増えなくても食べている

普通の反応は「時間をかければ進む」ものですが、この2つはそうではありません。

7. 仕様書にする

最後に、計算を装置にします。

ここで効いてくるのが、余裕値の扱いです。

スケールアップの不確かさに備えて余裕を持たせる——それは正しい。ただし余裕を持ち過ぎると最低操業幅が使えなくなります。流動層は流速が落ちれば流動化せず、撹拌槽は液面が下がれば翼が届かない。

反応器は「大は小を兼ねない」装置だということです。

シリーズを通して見えたこと

33本を書き終えて、繰り返し出てきた性質が3つあります。

① 平均値は、中身を保証しない

平均滞留時間が正常でも流れは壊れている。見掛けの反応速度が正常でも触媒は死にかけている。代表値が正常な範囲にあることは、中身が健全な証拠になりません。

② 効かせたいものほど、頭打ちになる

吸収液を濃くしても、ある濃度から吸収は速くなりません。基質を足しても、飽和定数の10倍で増殖速度は最大の91%です。「もっと入れれば効く」が成り立つ範囲は、思ったより狭い。

③ 同時に立てられない条件がある

スケールアップでP/Vと翼端速度とレイノルズ数は同時に保てない。トラブルの起きにくさと直しやすさは両立しない。反応率を上げると収率が落ちる。

設計とは、この「同時に立てられない」ものの中から何を捨てるかを決める仕事だと言えます。捨てたものを覚えておくのが、後で効いてきます。

どこから読むか

はじめて学ぶ反応率と量論関係設計方程式 の順に
いま設計している断熱温度上昇を先に出す。装置の性格が決まる
運転で困っている収率低下の切り分けから
形式を選んでいる形式の選定に判断の順序をまとめてあります

参考文献

  • 橋本健治『反応工学 改訂版』培風館(シリーズ全体の骨格。速度式から反応装置まで)
  • 化学工学会編『化学工学便覧 改訂五版』丸善(重合反応、生物化学反応、触媒の劣化)
  • 化学工学会編『化学装置便覧 改訂二版』丸善(装置選定の実務、プラント設計と装置)
  • 『プロセス設計シリーズ4 反応・吸収を中心とする設計』化学工業社(設計因子とデータの所在)