熱伝達率の求め方【2つのパターンを紹介】

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熱伝達率ってなに?

熱伝達率ってどうやって求めるの?

そんな悩みを解決します。

本記事の内容

・熱伝達率とは

・実データがある場合の熱伝達率の求め方

・実データがない場合の熱伝達率の求め方

この記事を読めば熱伝達率の求め方が具体的にわかり、計算できるようになります。

私の仕事は化学プラントの設計です。
その経験をもとに分かりやすく解説します。

熱伝達率とは

熱伝達率とは

①壁と流体の間の熱エネルギーの伝えやすさを表す値。

②熱伝達率が大きいと交換熱量が大きくなる。

③流体固有の値ではなく、流れの状態や表面形状などによって変化する。

壁と流体に温度差があるとき、高温側から低温側へ熱が移動します

以下の表から、流れの状態によって熱伝達率に大きな違いがあることがわかります。

流体熱伝達率[・ W / ( m 2 ・ K ) ]
気体・自然対流2~25
液体・自然対流60~1000
気体・強制対流25~250
液体・強制対流100~10000
沸騰・凝縮(相変化熱伝達)3000~100000

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熱伝達率の求め方

熱伝達率の求め方は大きく分けて2通りあります。

  1. ニュートンの冷却法則から求める(実データがある場合)
  2. ヌッセルト数の実験式から求める(実データがない場合)

実データがある場合:ニュートンの冷却法則から求める

ニュートンの冷却法則とは

熱の移動量(伝熱量)は以下の式から求められます。

ニュートンの冷却法則

$$Q=Ah(Th−Tc)$$

Q:伝熱量[W]=[J/s]

A:伝熱面積[m2

h:熱伝達率[・W/m2・K]

Th:高温側温度[K]

Tc:低温側温度[K]

Memo

ニュートンの冷却法則の式はよく

$$\frac{−dQ}{dt}=hS(T−T_m)$$

で紹介されますが、同じものです。

変形すると

$$h=\frac{Q}{A(Th−Tc)}$$

Qは以下の式から求めます。

$$Q=mcΔT$$

Q:伝熱量[W]=[J/s]

m:質量流量[kg]

c:比熱[J/(kg・K)]

ΔT:加熱(冷却)前後の温度差[K]

計算例

$Q=mcΔT$より

$$Q=(50)(4200)(60−50)$$

$$Q=2,100,000W$$

$h=\frac{Q}{A(Th−Tc)}$に代入して

$$h=\frac{2,100,000J/s}{100m2(55℃−30℃)}$$

$$h=840W/(m2・K)$$

実データがない場合:ヌッセルト数の実験式から求める

ヌッセルト数とは

上の計算例のように温度Tや伝熱量Qなどのデータがない場合、ヌッセルト数を実験式を用いて求めることになります。

ヌッセルト数

・対流による熱伝達能力の大きさを表したもの
・流体が静止しているときNu=1

$$Nu=\frac{hd}{k}$$

Nu:ヌッセルト数[−]

h:熱伝達率[・W/m2・K]

d:代表長さ[m]

k:熱伝導率[W/m・K]

ここではプラント設計に必須の円管内流れにおけるヌッセルト数の実験式をご紹介します。

  1. 円管内強制対流層流熱伝達
  2. 円管内強制対流乱流熱伝達
  3. 非円形断面流路の強制対流乱流熱伝達

その前に実験式に含まれる無次元数を先に解説しておきます。

レイノルズ数

・r流体の流れの状態を慣性力と粘性力の比で表したもの
・レイノルズ数が大きいほど流れが乱れていることを表す

$$Re=\frac{duρ}{μ}$$

Re:レイノルズ数[−]

d:代表長さ[m]

u:平均流速[m/s]

ρ:流体密度[kg/m3

μ:流体粘度[Pa・s]

プラントル数

・流体に固有の物性値
・速度境界層と温度境界層の厚さの比を表す
・Pr≒1のとき、速度境界層厚さと温度境界層厚さが一致
・Pr>1のとき、速度境界層が温度境界層より厚くなる

$$Pr=\frac{ν}{α}=\frac{μC_p}{k}$$

Pr:プラントル数[−]

ν=μ/ρ:動粘度[m2/s]

α:温度拡散率[m2/s]

ρ:流体密度[kg/m3

μ:流体粘度[Pa・s]

k:熱伝導率[W/m・K]

Cp:比熱[J/kg・K]

ヌッセルト数の実験式の紹介

円管内強制対流層流熱伝達

Sieder-Tateの式

$$Nu=\frac{hd}{λ}$$

$$=1.86(Re_d^{0.8}Pr)^{1/3}(\frac{d}{L})^{1/3}(\frac{μ}{μ_w})^{0.14}$$

Nu:ヌッセルト数[-]

h:熱伝達率[W/m2・K]

d:円管内径[m]

L:円管長さ[m]

λ:流体の熱伝導率[W/m・K]

Re:レイノルズ数[-]

Pr:プラントル数[-]

μ:粘度at算術平均温度[Pa・s]

μw:粘度at壁温度[Pa・s]

ポイント

・Re<2300

・流れが十分に発達した流体

・管内壁温度一定の条件で使用

円管内強制対流乱流熱伝達

Dittus-Boelterの式

$$Nu=\frac{hd}{λ}$$

$$=0.023Re_d^{0.8}Pr^n

Nu:ヌッセルト数[-]

h:熱伝達率[W/m2・K]

d:円管内径[m]

λ:流体の熱伝導率[W/m・K]

Re:レイノルズ数[-]

Pr:プラントル数[-]

n:流体を加熱するときn=0.4、冷却するときn=0.3

ポイント

・0.6<Pr<100、5×103<Red<5×105

・滑らかな円管内を流れる充分発達した乱流の熱伝達の簡便な式

・壁と流体の温度差があまり大きくないときに有効

Sieder-Tateの式

$$Nu=\frac{hd}{λ}$$

$$=0.027Re_d^{0.8}Pr^{1/3}(\frac{μ}{μ_w})^{0.14}

Nu:ヌッセルト数[-]

h:熱伝達率[W/m2・K]

d:円管内径[m]

λ:流体の熱伝導率[W/m・K]

Re:レイノルズ数[-]

Pr:プラントル数[-]

μ:粘度at算術平均温度[Pa・s]

μw:粘度at壁温度[Pa・s]

ポイント

・μwの値は液面温度における粘性係数を用いる。

・その他の物性値には算術平均温度(Tin+Tout)/2を用いる。

・壁と流体の温度差が大きい場合に有効

非円形断面流路の強制対流乱流熱伝達

円管内径dの代わりに水力直径dhを代表長さとして、円管に対する式に適用する。

$$d_h=\frac{4A}{ω}$$

dh:水力直径[m]

A:流体の断面積[m2

ω:流体が壁面に触れている長さ[m]

水力直径を円管に対する式に適用すれば、長方形断面の流路の熱伝達率も求めることもできます。

まとめ

熱伝達率の求め方を2つの場合に分けて解説しました。

実データがない場合にはヌッセルト数を求めるため、数多くある実験式から当てはまる式を選択する必要があります。

今回は円管内の熱伝達率に的を絞って解説しましたが、他にも流体による分類「自然対流熱伝達」「沸騰伝熱」「凝縮伝熱」、物体による分類「水平平板」「垂直平板」「平行平板」「円管軍」など様々なパターンがあります。

伝熱工学をもっと勉強したい方は、参考書で体系的に学ぶのがおすすめです。

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