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混合拡散モデルと槽列モデル|混ざり方だけで反応率が20ポイント変わる

混ざり方だけで20ポイント

※本記事の参考文献には、Amazonアソシエイトのリンク(アフィリエイト広告)を含みます。

滞留時間分布を測ると曲線が1本手に入ります。しかし曲線のままでは設計に使えません。

曲線を数字1個に落とす。それがこの記事です。数字になれば、反応率が計算できます。

この記事の結論

  • 非理想流れを表すモデルは混合拡散モデル・槽列モデル・組合せモデルの3つ
  • 前2つはパラメーターが1個。だから実測から決められる
  • 槽列モデルの N は N = t̄² / σ²。分散を測るだけで出る
  • 同じ体積・同じ触媒でも、混ざり方だけで反応率が75.6%と95.5%に分かれる

1. 3つのモデル

混ざり方だけで反応率が20ポイント変わる
モデルパラメーター合うもの
混合拡散モデル混合拡散係数 Dz1個管型反応器・固定層反応器
槽列モデル槽数 N(1個撹拌槽列。広く近似に使える
組合せモデル2個以上短絡・死容積がある実機

パラメーターが1個であることが決定的です。1個なら、実測から一意に決められる。2個以上になると、同じ曲線を再現する組み合わせが無数に出てきて、決められなくなります。

だから実務ではまず1パラメーターのモデルで当てにいき、どうしても合わないときだけ組合せモデルを持ち出します。

2. 混合拡散モデル|押出し流れからのズレを拡散で表す

管の中を流れる液を考えます。理想的な押出し流れなら、全部が同じ速さで進みます。

実際には濃度差があると、それを均一にしようとして物質が軸方向に移動します。その移動を拡散と同じ形の式で表すのが混合拡散モデルです。

NA = −Dz (∂CA/∂z)

Dz混合拡散係数[m²/s]。分子拡散係数とは別物で、乱流や流速分布による混ざりをひっくるめた見掛けの係数です。

Dz → 0軸方向に混ざらない押出し流れ
Dz → ∞瞬時に均一になる完全混合流れ

実際には無次元数 Dz/(uL)(u は流速、L は管長)で扱います。これが小さいほど押出し流れに近い。

このモデルが管型と固定層に合うのは自然です。もともと押出し流れを狙っている装置の、そこからのズレを表す形になっているからです。

3. 槽列モデル|完全混合槽が何個分か

もう一方は発想がまったく違います。

実際の反応器を、等しい体積の完全混合槽が N 個直列につながったものとみなす。その N で混合状態を表します。

N = 1完全混合流れ(CSTR 1槽)
N が増えるだんだん押出し流れに近づく
N → ∞押出し流れ

多段CSTRの記事とまったく同じ枠組みです。ただし向きが逆になっています。

  • 多段CSTR:何槽にするか決める(設計)
  • 槽列モデル:実機が何槽相当か測る(診断)

だから N は整数でなくてかまいません。「この管型反応器は完全混合槽8個分の混ざり方をしている」という意味の数字です。

4. N は分散から出る

ここが実用上の核心です。N を決めるのに必要なのは、RTD曲線の分散だけです。

槽列モデルでは、無次元時間で見たときの平均と分散が

θ̄ = 1 、 σθ² = 1 / N

になります。実時間に戻せば

N = t̄² / σ²

インパルス応答の曲線から重心(t̄)と広がり(σ²)を出せば、それだけで N が決まる。曲線を数字1個に落とす作業が、ここで完了します。

N が大きいほど分散が小さい、つまり幅の狭い分布ほど押出し流れに近い——直感どおりの関係です。

実際にやってみる

文献の例題を解いてみます。ある反応器でインパルス応答を測ったところ、t̄ = 155 s、σ² = 3030 s² でした。

N = 155² / 3030 = 7.93 ≒ 8

この反応器は完全混合槽8個分です。ここで k = 0.02 s−1 の1次反応を行うなら、1槽あたりの滞留時間は τ₁ = 155/8 = 19.375 s なので

xA = 1 − 1/(1 + 0.02×19.375)8 = 0.927

同じ反応器を混合拡散モデルで解いた文献の答えは0.9302つのモデルの差は0.28ポイントしかありません。

発想はまったく違うのに、答えが一致する。実際、押出し流れに近いときには両モデルの間に

N = (1/2) ÷ (Dz/uL)

という関係が成り立ちます。どちらを使ってもよい。手元のデータと相手に合わせて選べば十分です。

5. なぜここまでやるのか

手間をかけて N を出す価値はどこにあるのか。混ざり方で反応率がどれだけ変わるかを見れば分かります。

先ほどと同じ条件(t̄ = 155 s、k = 0.02 s−1、つまり kt̄ = 3.1)で、混合状態だけを変えて計算しました。

混合状態反応率PFRとの差
完全混合1槽(N=1)75.6%−19.9
N = 284.6%−10.9
N = 489.9%−5.6
N = 8(この反応器)92.7%−2.8
N = 2094.4%−1.1
押出し流れ(N→∞)95.5%0

同じ装置体積、同じ触媒、同じ温度、同じ流量。違うのは混ざり方だけで、反応率が 75.6% と 95.5% に分かれます。

この20ポイントの差は、触媒を良くしたり温度を上げたりして埋めるようなものではありません。流れの問題は流れで解くしかない。

そして表を上から見ていくと、効きの大きい領域が偏っていることが分かります。N=1→2 で9ポイント上がるのに、N=8→20 では1.7ポイントしか上がらない。多段CSTRで「2槽にするだけで投資対効果がいちばん良い」と書いたのと同じ構造です。

すでに N=8 ある反応器を N=20 にする改造は割に合わない。N=1 に近い反応器を N=2〜4 にする改造は効く。この判断がRTDを測って初めてできるようになります。

6. モデルの限界

最後に注意を2つ。

1つ目。短絡や死容積があるとき、1パラメーターのモデルは無理をします。N や Dz は「全体としてどれくらい混ざっているか」の平均像なので、局所的な異常は表現できない。曲線に2つの山や鋭いスパイクが見えたら、N を出す前に組合せモデルで異常を切り分けてください。

2つ目。上の反応率の計算は1次反応です。1次なら滞留時間分布だけで反応率が決まりますが、2次以上や複合反応では「分子どうしがどう混ざったか」まで効いてきます。選択率が絡む系では、RTDが同じでも結果が変わりえます。

それでも、1次で当たりを付けるだけでも判断は大きく変わります。75.6%と95.5%の差を知らずに触媒を探し続けるより、まず流れを測るほうが速い。

まとめ

非理想流れを表すモデルは3つあり、混合拡散モデルと槽列モデルはパラメーターが1個なので実測から決められます。混合拡散モデルは Dz で押出し流れからのズレを表し、管型・固定層に合う。槽列モデルは完全混合槽 N 個分とみなす方法で、N = t̄²/σ² と分散から直接出ます。文献の例題では N = 7.93 ≒ 8 となり、その N での反応率0.927は混合拡散モデルの0.930とほぼ一致しました。そして同じ体積・同じ触媒でも混ざり方だけで反応率が75.6%から95.5%まで分かれる。効きが大きいのは N が小さい領域なので、N=8 を N=20 にする改造より N=1 を N=4 にする改造のほうが割に合います。ただし短絡・死容積があるときと、2次以上の反応では、このモデルだけでは足りません。

次の記事:撹拌の設計|所要動力と邪魔板、翼の選び方

参考文献

  • 橋本健治『反応工学 改訂版』培風館, 第8章 8・2「非理想流れのモデル」・8・3「混合拡散モデル」・8・4「槽列モデル」(式8・55〜8・59、例題8・5・8・6) Amazonで見る
  • 化学工学会編『化学工学便覧 改訂五版』丸善, 第23章「反応装置」 最新版をAmazonで見る