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触媒は消耗品です。使えば活性が落ちる。
問題は落ちたことに気づけるかです。そして——拡散律速の触媒では、真の活性が1/10になっても、見掛けの速度は1/3程度にしか落ちません。
この記事の結論
- 劣化の機構はコーク析出・シンタリング・被毒・細孔閉塞が主
- 再生できるのはコークだけと考えておく。シンタリングと被毒は基本的に戻らない
- 劣化の指標は2つ。劣化関数 Φ(真の活性)と比活性度 F(見掛け)
- 拡散律速では F ≒ √Φ。見掛けで監視していると手遅れになる
1. 4つの機構
コーク析出
炭素質の物質が触媒表面に積もり、活性点を覆います。
便覧によれば、コークは直径5〜10 nm の塊状の物質が薄く層状になって触媒の内部表面に付着したもの。組成はおおむね CHn で表され、n の値は 0.4〜1.5 程度です。
n が1前後ということは、ほとんど炭素ということです。多核芳香族に近い構造をもつと考えられています。
生成しやすいのは、触媒との相互作用が大きくて強く表面に吸着する物質を含む系です。
- オレフィン、ジエン類、芳香族化合物、極性官能基をもつ化合物
- これらが酸性活性点上で分解・脱水素・重縮合してコークになる
- 金属触媒では、吸着した炭素原子が金属中に溶解・拡散して粒界に凝集する経路もある
コークは唯一、素直に再生できる劣化です。酸素を含むガスで燃やせば除ける。
シンタリング
高温で粒子が焼き固まり、表面積が減る現象です。2つの形があります。
| 担持金属の場合 | アルミナなどに細かく分散した Pt, Pd の微粒子(数nm)が、高温で粒子ごと、あるいは原子状になって表面を移動しながら合一し、粒子径が大きくなる。表面積が減って活性が落ちる |
| 担体自身の場合 | シリカ・アルミナの 1〜10 nm の基本粒子どうしの接触点付近に物質移動が起き、ネックが形成されて最後は合一する |
ここで見落とせない一文が便覧にあります——この現象は水蒸気雰囲気下で加速される。
そして触媒表面積の減少だけでなく、酸量の減少や酸強度分布が弱酸領域に移動するという形の劣化ももたらします。
これが再生操作の落とし穴です。コークを燃やすと水と二酸化炭素が出る。つまり再生そのものが高温+水蒸気の条件で、シンタリングを進めてしまう。コークを取るたびに、別の劣化が少しずつ進みます。
被毒
特定の物質が活性点に強く吸着して塞ぐ現象です。触媒の種類ごとに毒が違います。
| 担体付金属触媒(Ni, Co, Cu, Pt, Pd) | S, As, ハロゲン, P, Pb などの化合物/CO, C2H2 |
| 固体酸触媒(シリカ・アルミナ、ゼオライト) | ピリジン、アミンなどの塩基性有機物質 |
| アンモニア合成触媒(Fe-Al2O3-K) | O2, H2O, CO, CO2, S化合物 |
固体酸触媒が塩基で被毒するのは道理です。酸点が塩基に中和されていると考えれば覚えやすい。
アンモニア合成の欄にO2 と H2O が入っているのが実務的に重い。空気や水分の混入が触媒を殺します。原料の精製が触媒寿命を決めるという構図です。
細孔閉塞・その他
脱硫触媒(Co-Mo/Al2O3、Ni-Mo/Al2O3)では、原料油中のV や Ni が金属硫化物として析出し、細孔を塞ぎます。これは燃やしても取れません。
ほかに、活性成分の一部の昇華消失、担体と活性成分の固相反応、相転移、機械強度の低下——といった原因が挙げられています。
| 機構 | 再生 |
| コーク析出 | できる(燃焼)。ただし再生条件がシンタリングを進める |
| シンタリング | できない |
| 被毒 | 毒による。可逆的なものもあるが基本はできない |
| 細孔閉塞(金属析出) | できない |
再生できるのはコークだけ、と考えておくのが安全です。だから「再生を繰り返せば永久に使える」ということはなく、再生のたびに寿命が削れていきます。
2. 劣化を表す2つの数字
便覧は劣化の程度を表す関数を2つ、明確に区別して定義しています。ここがこの記事の核心です。
| 劣化関数 Φ (deactivation function) | 劣化触媒の化学反応速度 ÷ 未劣化触媒の化学反応速度 | 触媒そのものの活性 |
| 比活性度 F (relative activity factor) | 劣化触媒の総括反応速度 ÷ 未劣化触媒の総括反応速度 | 実際に測れる速度 |
違いは1つです。便覧の但し書きに書かれています——ここでの総括反応速度とは触媒粒子内での物質移動を考慮した反応速度を意味する。
つまり Φ は化学だけ、F は粒内拡散込み。そして我々が現場で測れるのは F のほうだけです。
3. Φ と F はずれる
2つがどれくらいずれるかを計算しました。理屈はこうです。
- 劣化で速度定数 k が Φ 倍になる
- Thiele数 φ は √k に比例するので、φ は √Φ 倍になる(=小さくなる)
- φ が小さくなれば有効係数 η は上がる
- 活性が落ちたぶんを、η の上昇が部分的に埋め合わせてしまう
直感的に言えば、触媒が弱くなると原料が奥まで届くようになるということです。今まで遊んでいた内側が働き始める。
| 未劣化のφ | 領域 | Φ=0.5 | Φ=0.25 | Φ=0.1 |
| 0.05 | 反応律速 | F=0.500 | F=0.250 | F=0.100 |
| 2.0 | 遷移 | F=0.649 | F=0.403 | F=0.197 |
| 10 | 拡散律速 | F=0.697 | F=0.483 | F=0.293 |
| 30 | 拡散律速 | F=0.704 | F=0.494 | F=0.309 |
1行目と3行目を比べてください。どちらも真の活性は1/10(Φ=0.1)です。
- 反応律速の触媒 … 見掛けの速度も1/10に落ちる。異常はすぐ分かる
- 拡散律速の触媒 … 見掛けの速度は1/3程度にしか落ちない
拡散律速では F ≒ √Φ になります。平方根が効くので、劣化が見えにくい。
なぜ危険なのか
反応速度の低下だけを監視していると、拡散律速の触媒では手遅れになります。
「まだ7割出ているから大丈夫」と思っているとき、真の活性はすでに半分を切っている。そしてこの関係は非線形なので、あるところから急に落ち始めます。Φ が下がって φ が小さくなり、拡散律速から反応律速側に入ると、そこから先は F ≒ Φ で素直に落ちる。
Thiele数の記事で「拡散律速では触媒の9割が遊んでいる」と書きました。その裏返しです。遊んでいる9割が予備になっているので、内側が死んでも数字に出ない。
4. どう監視するか
| やること | 意味 |
| 反応温度の上昇で追う | 同じ反応率を保つのに必要な温度がどれだけ上がったか。活性の低下がここに素直に出る |
| 抜き出した触媒を分析する | コーク量、表面積(BET)、金属分散度、被毒物質の蓄積 |
| 割って断面を見る | コークや金属が外周に偏っていれば拡散律速の証拠 |
| 選択率を見る | 活性低下より先に選択率が動くことがある |
| 差圧を見る | 固定層なら閉塞・粉化の兆候 |
1行目が実務では最も使われます。反応器の温度を少しずつ上げて反応率を維持し、その温度の上がり方で寿命を見る。「あと何℃上げられるか」が残寿命になります。
この方法が優れているのは、Φ の低下を温度という別の軸に写し取れる点です。見掛けの速度が鈍感でも、必要温度は上がり続けます。
ただし温度を上げればホットスポットも上がり、シンタリングも加速し、選択率も落ちる。温度による延命には必ず上限を決めておいてください。
5. 装置の型と劣化の付き合い方
| 劣化の速さ | 向く装置 |
| 年単位(ゆっくり) | 固定層。定期修理で抜き替える |
| 月〜週単位 | 固定層を2系列にして交互に再生(スイング) |
| 分単位(急速) | 流動層。反応塔と再生塔を連続循環 |
3行目が流動層の記事で見た石油留分の接触分解です。触媒活性が急激に低下するので、触媒を反応塔と再生塔の間で交互に移動させて連続的に操作している。
装置の型を決めているのが触媒の寿命だ、という見方ができます。反応の性質でも除熱でもなく、劣化の時定数が装置を決める。
設計時には「この触媒は何で劣化し、どれくらいもつか」を先に決めてください。再生できない機構が支配的なら、再生設備を作っても無駄になります。
まとめ
触媒の劣化はコーク析出・シンタリング・被毒・細孔閉塞が主で、素直に再生できるのはコークだけです。しかも再生時の高温と水蒸気がシンタリングを進めるため、再生のたびに寿命が削れます。劣化の指標には触媒そのものの活性を表す劣化関数 Φ と、粒内拡散を含む実測値である比活性度 F があり、両者はずれます。拡散律速では F ≒ √Φ となり、真の活性が1/10でも見掛けは1/3程度にしか落ちません。触媒が弱ると原料が奥まで届き、遊んでいた内側が働き始めるからです。したがって見掛けの速度だけで監視していると手遅れになります。実務では「同じ反応率を保つのに必要な温度の上がり方」で追うのが確実で、抜き出した触媒を割って断面を見ることも有効です。そして劣化の時定数が装置の型を決めます。
これで第5章「気固触媒反応」は終わりです。次章では気固反応・気液反応・重合・培養を扱います。
参考文献
- 化学工学会編『化学工学便覧 改訂五版』丸善, 第27章 27・5「触媒の劣化と再生操作」(表27・9 触媒の劣化原因、劣化関数 式27・158、比活性度 式27・159) 最新版をAmazonで見る
- 橋本健治『反応工学 改訂版』培風館, 第9章「気固触媒反応」 Amazonで見る
化学プラント大全 