※本記事の参考文献には、Amazonアソシエイトのリンク(アフィリエイト広告)を含みます。
前々回で、CSTRはPFRより体積が大きくなると書きました。1次反応・反応率90%で約3.9倍。
ではCSTRを諦めるしかないのか。そんなことはありません。槽を直列に並べればPFRに近づきます。しかも、思ったより少ない槽数で。
この記事の結論
- N槽直列にすると、N→∞ で数学的にPFRに一致する
- 1次反応・反応率90%で、3槽で1.5倍、5槽で1.27倍、10槽で1.12倍まで詰まる
- 効果は最初の数槽で大半が出る。1→2槽で半分近く減る
- 槽ごとの物質収支は直線になるので、速度曲線との交点を階段状に追える
1. なぜ近づくのか

CSTRが不利なのは「入れた瞬間に出口濃度まで薄まる」からでした。器内がずっと、いちばん反応の遅い状態にある。
ここで槽を2つに分けてみます。
- 1槽目:入口の濃い液が、中間の濃度まで薄まる。まだ濃いので速く反応する
- 2槽目:中間濃度から最終濃度へ。ここは遅いが、担当する範囲が狭い
薄まる幅を分割したぶん、平均の反応速度が上がる。これが効いています。
前回の面積の図で言えば、1つの大きな長方形を、複数の細い長方形に置き換えているということです。細くするほど階段が曲線に沿い、曲線の下の面積=PFRに近づく。
数学的にも極限で一致します。等体積N槽・1次反応の全体の空間時間は
kτ = N{(1/(1−xA))1/N − 1}
で、N→∞ の極限は −ln(1−xA)。これはPFRの式そのものです。
2. 何槽で足りるのか

実務で知りたいのは「無限」ではなく「何槽でどこまで詰まるか」です。1次反応・反応率90%で計算しました。
| 槽数 N | 全体の kτ | PFR比 | 1槽からの削減 |
| 1 | 9.000 | 3.91倍 | — |
| 2 | 4.325 | 1.88倍 | 52%減 |
| 3 | 3.463 | 1.50倍 | 62%減 |
| 5 | 2.924 | 1.27倍 | 68%減 |
| 10 | 2.589 | 1.12倍 | 71%減 |
| 20 | 2.440 | 1.06倍 | 73%減 |
| PFR(N→∞) | 2.303 | 1.00倍 | 74%減 |
目を引くのは1槽→2槽で全体積が半分以下になることです。そこから先は効きが鈍り、5槽で1.27倍、10槽でも1.12倍。20槽まで増やしても、PFRとの差は6%しか詰まりません。
つまり判断はこうなります。
- 2〜3槽:投資対効果がいちばん良い領域。ここは検討する価値が高い
- 4〜5槽:PFRの1.3倍程度まで詰まる。撹拌槽の利点を保ったまま体積を抑えたいとき
- 10槽以上:体積のためだけなら割に合わない。PFRを検討すべき
槽を増やせば配管・撹拌機・計装が槽の数だけ増えます。体積の削減と、機器点数の増加を天秤にかけるのが実際の判断です。
3. 図で追う|階段作図
多段CSTRには、蒸留のMcCabe-Thiele法とよく似た作図法があります。
i番目の槽の物質収支を書くと
−rAi = (Ci−1/τi) − (1/τi)Ci
これはCi についての直線です。傾きが −1/τi、切片が Ci−1/τi。
一方、反応速度 −rA は濃度の関数として曲線で描けます。この2つの交点が、その槽の出口濃度です。
- 速度曲線 −rA(C) を描く
- 入口濃度 C0 から傾き −1/τ1 の直線を引く。交点が C1
- C1 から同じ傾きの直線を引く。交点が C2
- 目標濃度に達するまで繰り返す。引いた回数が必要な槽数
McCabe-Thieleで理論段を数えるのとまったく同じ動きです。段の代わりに槽を数えている。
この作図の値打ちは、速度式が複雑でも使えることにあります。解析的に解けない速度式でも、曲線さえ描ければ槽数が読める。実測データから速度曲線を描いた場合もそのまま使えます。
4. 各槽の大きさは同じでなくてよい
上の計算は「等体積」を前提にしていました。実は等体積が最適とは限りません。
作図で考えると分かります。傾き −1/τi は槽ごとに変えられるので、速度が速い前段は小さく、遅い後段は大きくすれば、全体積を減らせる場合があります。
ただし実務では、
- 同じ槽を並べるほうが安い(設計・製作・予備品が共通化できる)
- 最適化で得られる削減は数%程度のことが多い
ので、等体積で設計されることがほとんどです。「等体積は最適ではないが、合理的な選択」という位置づけで覚えておくとよいと思います。
5. 体積以外の効き方
多段化の利点は体積だけではありません。
| 利点 | 中身 |
| 槽ごとに温度を変えられる | 発熱可逆反応で、前段は高温(速く)・後段は低温(平衡を有利に)という運転ができる |
| 槽ごとに原料を分割投入できる | 濃度を抑えて選択率を上げる。発熱を分散させる |
| 滞留時間分布が狭くなる | 1槽だとすぐ抜ける流体がある。多段だと短絡が起きにくい |
| 1槽が止まっても運転を続けられる | バイパスして減産運転という選択肢が持てる |
1つ目は強力です。発熱可逆反応では、温度を上げると速いが平衡が不利になるというジレンマがあります。多段なら段ごとに温度を変えて、この矛盾を分割して解ける。
3つ目も見落とせません。1槽のCSTRは完全混合を仮定していますが、実際には入ってすぐ出口に抜ける流体がある。多段にすると「全部の槽を短絡する」確率が下がるので、実質的な性能が理論値に近づきます。
6. 判断のまとめ
| 状況 | 選択 |
| 体積が問題で、撹拌槽の利点(除熱・固体)が要る | 2〜5槽の多段CSTR |
| 体積が問題で、撹拌槽の利点が要らない | PFR。10槽並べるくらいなら管型にする |
| 発熱可逆反応で温度を段階的に変えたい | 多段+段間冷却 |
| 選択率を上げたい(副反応を抑えたい) | 多段+原料の分割投入 |
| 反応率が低くてよい | 1槽で十分。多段の効果は反応率が高いほど効く |
最後の行が意外に大事です。多段化の効果は反応率が高いほど大きい。反応率50%なら1槽CSTRでもPFRの1.4倍しか違わないので、わざわざ多段にする理由が薄くなります。
まとめ
CSTRを直列に並べると、薄まる幅が分割されるぶん平均の反応速度が上がり、N→∞ で数学的にPFRに一致します。1次反応・反応率90%では1槽→2槽で体積が半分以下になり、5槽でPFRの1.27倍、10槽で1.12倍。効果は最初の数槽で大半が出るので、実務的には2〜5槽が投資対効果の良い領域です。作図はMcCabe-Thieleと同じ階段で、速度式が複雑でも槽数が読めます。そして多段化は体積だけでなく、段ごとの温度制御・分割投入・短絡の抑制にも効きます。
参考文献
- 橋本健治『反応工学 改訂版』培風館, 第5章 5・2「連続槽型反応器の設計」(代数的解法と図解法、i番目の槽の物質収支が Ci についての直線になること)、第3章 図3・3 Amazonで見る
- 化学工学会編『化学工学便覧 改訂五版』丸善 最新版をAmazonで見る
- 『プロセス設計シリーズ4 反応・吸収を中心とする設計』化学工業社
※ 槽数と空間時間の表は、等体積N槽・1次反応・定容系という条件で筆者が計算したものです。N=106 でPFRの値と6桁一致することも確認しています。
化学プラント大全 
