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総括伝熱係数ってなに?
求め方と、実務でどう使うのかを知りたい
そんな悩みを解決します。
・総括伝熱係数とは(熱通過率との違いも整理)
・平板と円管、それぞれの求め方と計算例
・熱抵抗の内訳から「どこに手を打つべきか」を読む方法

私は大学で化学工学を学び、化学メーカーでプラント設計の仕事をしてきました。
総括伝熱係数を求める基本を、なるべくわかりやすく図も用いて解説していきます。
解説動画も作成しました。こちらも合わせてご覧ください。
・総括伝熱係数 U と熱通過率 K は同じもの。汚れの有無で名前が変わるわけではありません。
・U は熱抵抗の直列和の逆数。境膜2つ+隔壁+汚れ2つの、合計5つの抵抗でできています。
・円管では内面と外面で面積が違います。U は「どちらの面積を基準にした値か」を言わないと意味を持ちません。
・設計で見るべきは U の値そのものではなく熱抵抗の内訳。支配している抵抗を減らさない限り性能は上がりません。
総括伝熱係数とは
高温流体から低温流体へ熱が伝わる途中には、複数の熱抵抗があります。

隔壁をはさんで高温流体と低温流体が熱をやりとりするとき、熱は次の経路を順番に通っていきます。
① 高温流体 → 隔壁表面(熱伝達)
② 高温側の汚れの層(熱伝導)
③ 隔壁の中(熱伝導)
④ 低温側の汚れの層(熱伝導)
⑤ 隔壁表面 → 低温流体(熱伝達)
これを毎回ばらばらに扱うのは煩雑ですし、そもそも隔壁の表面温度は測れません。そこで全部まとめて1つの係数で表したものが総括伝熱係数 U です。
$$Q=UA(T_h−T_c)$$
Q:伝熱量[W]
U:総括伝熱係数[W/(m2・K)]
A:伝熱面積[m2]
Th:高温流体温度[K]
Tc:低温流体温度[K]
熱通過率と総括伝熱係数は同じもの
日本語の文献では「熱通過率」(記号 K)という言葉も使われます。これは総括伝熱係数(overall heat transfer coefficient、記号 U)と同じ量を指します。機械工学系では K、化学工学系では U が使われる傾向がある、という程度の違いです。
ときどき「熱通過率に汚れ係数を加えたものが総括伝熱係数」という説明を見かけますが、これは誤りです。どちらも同じ量であり、汚れを含めるかどうかは別の話です。
汚れの扱いについては、清浄時の値を「クリーンU(Uc)」、汚れを含んだ値を「汚れ時のU」あるいは「設計U」と呼び分けます。名前を変えるならこちらの軸で分けてください。
平板の場合 ― 熱抵抗の直列モデル
まずは面積が両側で等しい平板で考えます。ここが理解の土台になります。
隔壁を通る熱流束 q[W/m2]は次のように書けます。
$$q=\frac{T_h−T_c}{(1/h_h)+r_h+(δ/λ)+r_c+(1/h_c)}・・・①$$
$$q=U(T_h−T_c)・・・②$$
したがって
$$U=\frac{1}{(1/h_h)+r_h+(δ/λ)+r_c+(1/h_c)}・・・③$$
U:総括伝熱係数[W/(m2・K)]
hh:高温側の熱伝達率[W/(m2・K)]
hc:低温側の熱伝達率[W/(m2・K)]
λ:隔壁の熱伝導率[W/(m・K)]
δ:隔壁の厚さ[m]
rh:高温側の汚れ係数[m2・K/W]
rc:低温側の汚れ係数[m2・K/W]
①式の導き方
高温流体から隔壁への熱伝達
$$q_1=h_h(T_h−T_{w1})・・・④$$
隔壁内の熱伝導
$$q_2=\frac{λ}{δ}(T_{w1}−T_{w2})・・・⑤$$
隔壁から低温流体への熱伝達
$$q_3=h_c(T_{w2}−T_c)・・・⑥$$
定常状態では、どの断面を通る熱流束も等しくなります。
$$q=q_1=q_2=q_3$$
それぞれを温度差の形に直して足し合わせると、中間の壁面温度 Tw1、Tw2 が消えます。
Th − Tw1 = q / hh
Tw1 − Tw2 = q・δ / λ
Tw2 − Tc = q / hc
──────────────
Th − Tc = q ×{(1/hh) + (δ/λ) + (1/hc)}
ここに汚れの熱抵抗 rh、rc を加えたものが①式です。
計算例1:平板で計算してみる
まずは面積基準を考えなくてよい平板で、実際に数字を入れてみます。

板厚の単位に注意する
ここで最も間違えやすいのが板厚の単位です。δ = 3.0 mm をそのまま代入してはいけません。必ず m に直します。
δ = 3.0 mm = 0.003 m
③式に代入して、熱抵抗を1つずつ出します。
| 熱抵抗の項 | 値[m2・K/W] | 割合 |
|---|---|---|
| 高温側 境膜 1/hh | 5.000 × 10−3 | 55.3% |
| 高温側 汚れ rh | 5.000 × 10−4 | 5.5% |
| 隔壁 δ/λ | 1.875 × 10−4 | 2.1% |
| 低温側 汚れ rc | 5.000 × 10−4 | 5.5% |
| 低温側 境膜 1/hc | 2.857 × 10−3 | 31.6% |
| 合計 | 9.045 × 10−3 | 100% |
$$U=\frac{1}{(1/200)+0.0005+(0.003/16)+0.0005+(1/350)}$$
$$U=110.6\ W/(m^2・K)$$
熱流束は②式から
$$q=110.6×(90−10)=8850\ W/m^2$$
単位換算を間違えるとどうなるか
もし δ = 3.0 mm を「3.0」のまま代入すると、隔壁の熱抵抗は 3.0/16 = 0.1875 となり、他のすべての項の合計(0.00886)の20倍以上になってしまいます。
$$U=\frac{1}{0.1875+0.00886}=5.1\ W/(m^2・K)$$
正解の110.6に対して約20分の1。板厚の単位ひとつで、答えが桁で狂います。
この例から読み取れること
熱抵抗の内訳を見ると、隔壁はわずか2.1%しかありません。板厚3 mmの金属板は、熱の通り道としてはほとんど障害になっていないということです。
支配しているのは高温側の境膜(55.3%)です。この熱交換器の性能を上げたいなら、高温側に手を入れるしかありません。
なお、汚れは両側で合わせて11%を占めています。清浄時であれば Uc = 124.3 W/(m2・K) となり、汚れによって約11%性能が落ちる計算になります。
円管では面積基準を決めなければならない
ここからが実務で本当に重要な部分です。
熱交換器の伝熱面は平板ではなく円管です。円管では、内面積と外面積が違います。
外径19.05 mm・肉厚1.65 mmのチューブなら、内径は15.75 mm。外面積は内面積の 19.05 / 15.75 = 1.21倍あります。2割の差です。
同じ1本の管を通る熱量 Q は1つしかありません。ところが Q = UAΔT の A に外面積を入れるか内面積を入れるかで、辻褄を合わせるための U の値が変わってしまいます。
外面基準の総括伝熱係数 Uo
多管式熱交換器では、外面基準(チューブ外表面)を使うのが一般的です。
$$\frac{1}{U_o}=\frac{1}{h_o}+r_o+\frac{d_o\ln(d_o/d_i)}{2λ_w}+r_i\frac{d_o}{d_i}+\frac{1}{h_i}\frac{d_o}{d_i}・・・⑦$$
Uo:外面基準の総括伝熱係数[W/(m2・K)]
ho:外面側(シェル側)の熱伝達率[W/(m2・K)]
hi:内面側(チューブ側)の熱伝達率[W/(m2・K)]
ro:外面側の汚れ係数[m2・K/W]
ri:内面側の汚れ係数[m2・K/W]
do:管外径[m] di:管内径[m]
λw:管材の熱伝導率[W/(m・K)]
内面側の項に do/di が掛かっているのがポイントです。内面側の抵抗を「外面積あたり」に換算しています。管壁の項も、円筒座標で解いた結果として対数の形になっています。
内面基準の Ui との関係は単純です。
$$U_oA_o=U_iA_i よって U_i=U_o\frac{d_o}{d_i}$$
実務での落とし穴
メーカーの提案書に書かれた U と、自社の過去実績の U を比べるとき、面積基準が違えば2割ずれます。「U が想定より低い」と騒ぐ前に、基準面積を確認してください。
伝熱面積 A の定義も同様です。多管式のカタログ値は通常、チューブ外表面積の合計です。
計算例2:多管式で外面基準のUを求め、内訳を見る
条件
多管式熱交換器。チューブ側に冷却水、シェル側にプロセス液を流します。
チューブ:SUS304、外径 do = 19.05 mm、内径 di = 15.75 mm
管材の熱伝導率 λw = 16 W/(m・K)
チューブ側(冷却水)hi = 3,000 W/(m2・K)
シェル側(プロセス液)ho = 800 W/(m2・K)
チューブ側 汚れ係数 ri = 0.00035 m2・K/W
シェル側 汚れ係数 ro = 0.00020 m2・K/W
計算
まず面積比を出します。
$$\frac{d_o}{d_i}=\frac{19.05}{15.75}=1.210$$
管壁の抵抗は
$$\frac{d_o\ln(d_o/d_i)}{2λ_w}=\frac{0.01905×\ln1.210}{2×16}=1.13×10^{-4}$$
⑦式の各項を並べます。
| 熱抵抗の項 | 値[m2・K/W] | 割合 |
|---|---|---|
| シェル側 境膜 1/ho | 1.250 × 10−3 | 52.3% |
| シェル側 汚れ ro | 2.000 × 10−4 | 8.4% |
| 管壁 | 1.133 × 10−4 | 4.7% |
| チューブ側 汚れ ri(do/di) | 4.233 × 10−4 | 17.7% |
| チューブ側 境膜 (1/hi)(do/di) | 4.032 × 10−4 | 16.9% |
| 合計 | 2.390 × 10−3 | 100% |
$$U_o=\frac{1}{2.390×10^{-3}}=418\ W/(m^2・K)$$
内面基準に直すなら
$$U_i=418×1.210=506\ W/(m^2・K)$$
汚れの影響を確認する
汚れ係数をゼロにしたクリーンな状態と比べてみます。
$$\frac{1}{U_c}=1.250×10^{-3}+1.133×10^{-4}+4.032×10^{-4}=1.766×10^{-3}$$
$$U_c=566\ W/(m^2・K)$$
汚れが入ることで 566 → 418、26%の性能低下です。
言い換えると、この熱交換器は新品時に26%の余力を持たせて設計されているということです。運転を続けて汚れが設計値まで成長したとき、ちょうど所定の性能になります。
どこに手を打つべきか
内訳を見ると、設計判断がはっきりします。
シェル側の境膜が全体の52%を占めています。ここが律速です。もしチューブ側の流速を上げて hi を3,000から6,000へ倍にしても、
チューブ側境膜の抵抗:4.032 × 10−4 → 2.016 × 10−4
合計:2.390 × 10−3 → 2.188 × 10−3
Uo:418 → 457 W/(m2・K)
わずか9%の改善です。その代わり、圧力損失は流速の約2乗で効くので4倍近くになります。ポンプ動力を大きく犠牲にして9%。割に合いません。
一方、シェル側の ho を800から1,600へ倍にすると、
シェル側境膜の抵抗:1.250 × 10−3 → 6.250 × 10−4
合計:2.390 × 10−3 → 1.765 × 10−3
Uo:418 → 567 W/(m2・K) 35%の改善
こちらが効きます。バッフル間隔の見直しなどでシェル側流速を上げる、という提案がメーカーから出てくるのはこのためです。
ここで気づいてほしいのは、シェル側の境膜抵抗を半分にする効果(418→567)が、汚れを完全にゼロにする効果(418→566)とほぼ同じ大きさだという点です。
律速している抵抗にはそれだけの重みがあります。逆に言えば、律速していないところをいくら磨いても、投じた労力は回収できません。
このツールで確かめる
熱抵抗の内訳は、両側の熱伝達率と汚れ係数を入れれば自動で出せます。下のツールでスライダーを動かして、どこが律速していて、そこに手を打つと U がどれだけ変わるかを確かめてください。
総括伝熱係数 U と熱抵抗の内訳
両側の熱伝達率と汚れ係数を入れると、5つの熱抵抗の割合が帯グラフで出ます。どこが律速しているか、そこに手を打つと U がどれだけ変わるかが分かります。
–
チューブ(管)
シェル側(外面)
チューブ側(内面)
熱抵抗の内訳(外面基準)
帯の長さがそのまま熱抵抗の割合。いちばん長いところが律速。
| 熱抵抗 | 値[m²・K/W] | 割合 | これを半分にすると U は |
|---|
U は必ず面積基準とセットで扱ってください。多管式では外面基準が一般的で、内面基準にすると do/di 倍(2割ほど)変わります。
右端の列は「その抵抗だけを半分にしたときの U」です。律速していない項をいくら改善しても U はほとんど動かないことが確かめられます。
実務で気をつけること
汚れ係数を過大に取らない
安全側だからと汚れ係数を大きく取ると、必要伝熱面積が増え、機器が大きくなります。ところが機器が大きくなると流速が下がる。流速が下がると汚れが付きやすくなる。結果として本当に汚れが増える、という悪循環が起きます。
汚れ係数は「安全率」ではなく「予測値」として扱うべきものです。過大な汚れ代は、かえって設備を汚します。
U の概算値から入る
U を h から積み上げて計算するのは、大学の演習では正しい進め方です。しかし実務では、まず流体の組合せから U の概算値を引いて、桁の当たりをつけるところから始めます。
シェル側の h を厳密に計算するにはバッフル間隔などメーカー側の設計変数が要るため、ユーザー側が最初から積み上げるのは現実的ではありません。化学工学便覧や熱交換器のハンドブックに、流体の組合せごとの U の目安が載っています。
単位を確認する
古い資料では kcal/(m2・h・℃) が使われています。
$$1\ kcal/(m^2・h・℃)=1.163\ W/(m^2・K)$$
社内の過去資料と突き合わせるときに、ここでつまずくことがあります。
まとめ
総括伝熱係数 U について解説しました。
・U(総括伝熱係数)と K(熱通過率)は同じもの。汚れの有無で名前は変わりません。
・U は5つの熱抵抗(両側の境膜、両側の汚れ、隔壁)の直列和の逆数です。
・板厚は必ず m に直して代入します。mm のまま入れると答えが桁で狂います。
・円管では内面と外面で面積が違うため、U は面積基準とセットで示します。多管式では外面基準が一般的です。
・設計で見るべきは U の値ではなく熱抵抗の内訳。律速している抵抗を減らさなければ性能は上がりません。
・汚れは通常、性能を2〜3割落とします。過大な汚れ係数は機器を大きくし、流速を落とし、かえって汚れを招きます。
U が求まれば、必要伝熱面積 A が計算できます。
より深く学びたい方には、参考書で体系的に学ぶことをおすすめします。
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