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固定層反応器の設計|ホットスポットはなぜ管の途中にできるのか

管の一点だけが熱くなる

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固体触媒を使う工業反応の多くは、管に触媒を詰めてガスを通すだけの装置で行われます。固定層反応器です。

構造は単純ですが、設計は単純ではありません。管の中の一点だけが異常に熱くなる——ホットスポットという現象が待っているからです。

この記事の結論

  • 固定層は押出し流れに近い。だから収率が高く取れる
  • その代償が温度の不均一。管の途中にホットスポットができる
  • 発熱反応では多管式にして細い管に分けるのが基本
  • 粒径は有効係数と圧力損失の綱引きで決まる

1. 固定層の長所は押出し流れであること

触媒が動かず、ガスが層を通り抜ける。この構造の意味は非理想流れのモデルで見た枠組みで理解できます。

固定層は押出し流れに近い。混合拡散モデルで言えば Dz/(uL) が小さく、槽列モデルで言えば N が大きい。

そこから来る利点は3つです。

  • 同じ体積で反応率が高い。R-19 の表でいえば N が大きい側
  • 逐次反応で中間生成物を取りやすい。滞留時間がそろっているので、進みすぎる分子が少ない
  • 構造が単純で、可動部が無い

2つ目が効きます。選択率の記事で見たとおり、逐次反応 A→R→S で R が欲しいとき、長く留まった分子は S になってしまう。滞留時間分布が狭い固定層は、この損失が小さい。

2. その代償が温度の不均一

押出し流れであることは、混ざらないということでもあります。

撹拌槽なら、どこかで熱が出ても全体に散ります。固定層では散りません。発生した熱はその場に留まり、周りに伝わるしかない。

結果として、管の軸方向に温度のピークができます。これがホットスポットです。

なぜ入口すぐではなく途中にできるのか

2つの効果がぶつかるからです。

入口から進むと原料濃度が下がる → 発熱速度は落ちる
同時に温度が上がる → 反応速度は上がる(アレニウス)

入口付近では温度上昇の効果が勝って発熱が加速し、ある点を越えると濃度低下が勝って収まる。その転換点がホットスポットです。

厄介なのは、この山が運転条件のわずかな変化で急に高くなること。多重定常状態の記事で見た着火と同じ構造で、除熱と発熱のバランスが崩れると温度が跳ね上がります。

違うのは「槽全体」ではなく「管の一点」で起きることです。出口の温度計は正常なのに、管の途中だけが200 K高い——ということが起こりえます。

ホットスポットが招くもの

  • 触媒の劣化シンタリングは高温で加速する
  • 選択率の低下。副反応の活性化エネルギーが高ければ、高温部で一気に増える
  • 暴走。分解温度を越えれば反応暴走に至る
  • 管の材料損傷

3. 打ち手は「細くする」

ホットスポット対策の基本は、熱の逃げ場を作ることです。

固定層の熱は管壁に向かって半径方向に伝わるしかありません。管が太いほど中心から壁までが遠く、中心温度が上がる。

だから発熱反応の固定層は多管式になります。細い管を何千本も並べ、シェル側に熱媒を流す。除熱の記事の言葉でいえば、A を稼ぐために管の本数で勝負する形です。

打ち手中身代償
管を細くする(多管式)中心から壁までの距離を縮める本数が増えて装置費が上がる
触媒を希釈する不活性の充填物と混ぜて入口側の発熱密度を下げる層長が伸びる
活性を軸方向に変える入口側に低活性、出口側に高活性の触媒を積む充填が煩雑。交換時に間違えられない
多段+段間冷却断熱で反応させ、間で冷やす装置が増える
原料を希釈するそもそも発熱密度を下げる処理量が減る、分離負荷が増える

2番目と3番目は「入口側の発熱を抑える」という同じ発想です。ホットスポットは入口寄りにできるので、そこだけ活性を落とす。断熱温度上昇の記事で見た希釈と、考え方は同じです。

4番目は最適温度の記事で見た階段そのものです。発熱可逆反応では、ホットスポット対策と収率向上が同じ手で片づきます。SO2酸化やアンモニア合成の多段反応器がその形です。

4. 粒径の決め方|綱引き

固定層でもう1つ悩ましいのが触媒の粒径です。

粒径を小さくすると粒径を大きくすると
有効係数 η が上がる(触媒が働く)η が下がる
半径方向の伝熱がやや良くなる
圧力損失が増える(粒径の2乗に反比例)圧損が下がる
粉の飛散・目詰まりのリスク

η を取るか、圧損を取るか。これが固定層の粒径設計です。

圧損はブロワやコンプレッサの動力に直結するので、運転費に効きます。一方で η が低ければ触媒を余分に積むことになり、装置費に効く。どちらも金の話になるので、比較して決められます。

実務でよく使われるのが形で逃げる手です。リング状、三葉形、車輪形——外形は大きいまま、拡散距離だけを短くする形状にすれば、圧損を上げずに η を稼げます。中空にすれば空隙率も上がって圧損はむしろ下がる。

5. 設計で押さえる順序

  1. 発熱量を出すΔTad)。断熱で運転できるのか、除熱が要るのかを先に決める
  2. 律速を見極める拡散か反応か)。実機で使う粒径で測る
  3. 粒径と形状を決める。η と圧損の綱引き
  4. 管径を決める。ホットスポットの高さが許容範囲に入るまで細くする
  5. 層長と本数を決める。必要な反応率から
  6. 異常時を確認する。熱媒が止まったら、原料が濃くなったら、触媒が新品のとき(活性が高い)

6番目の「触媒が新品のとき」を忘れないでください。触媒は使い始めがいちばん活性が高く、いちばん危ない。劣化した状態で安定していた運転条件を、触媒交換後にそのまま適用すると、ホットスポットが跳ね上がることがあります。

次の記事で扱う流動層は、この章の問題——温度の不均一と有効係数——をまったく違う方法で解いた装置です。固定層と対で理解すると、選定の判断がつきます。

まとめ

固定層は押出し流れに近いので、同じ体積で反応率が高く、逐次反応の中間生成物も取りやすい装置です。その代償が温度の不均一で、原料濃度の低下と温度上昇がぶつかる点にホットスポットができます。出口の温度計が正常でも管の途中だけが高温という事態が起こり、触媒劣化・選択率低下・暴走を招きます。対策は熱の逃げ場を作ること——多管式で細くする、触媒を希釈する、活性を軸方向に変える、多段+段間冷却にする。粒径は有効係数と圧力損失の綱引きで決まり、リング状などの形状で両立を図ります。そして異常時の検討では「触媒が新品のとき」を必ず入れてください。使い始めがいちばん活性が高く、いちばん危険です。

次の記事:流動層反応器|固定層とほぼ対照的な性質

参考文献

  • 橋本健治『反応工学 改訂版』培風館, 第9章 9・4「気固触媒反応装置」・9・5「固定層触媒反応装置の設計」 Amazonで見る
  • 化学工学会編『化学工学便覧 改訂五版』丸善, 第27章「固体触媒反応」 最新版をAmazonで見る
  • 小宮山宏『反応工学 反応装置から地球まで』(除熱設計) Amazonで見る