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熱交換器の完全ガイド【設計から運用までの全体地図】

熱交換器の完全ガイド【設計から運用までの全体地図】

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困っている人
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熱交換器のことを一通り学びたい

どこから手をつければいい?

そんな要望にお応えします。

この記事の内容

・熱交換器の設計・運用を7つの段階に分けた全体地図

・各段階で何を決め、どの記事を読めばよいか

・化学メーカー(ユーザー側)の視点で必要な範囲

私は大学で化学工学を学び、化学メーカーでプラント設計の仕事をしてきました。
このカテゴリの記事を、実務の順序に沿って並べ直したのがこの記事です。

熱交換器は化学プラントで最も台数の多い機器です。しかし「熱交換器の勉強」と言われても、伝熱工学の教科書は現象の分類で章立てされており、実務の順序とは並びが違います

この記事では、実際に手を動かす順序で全体を地図にしました。必要なところから読んでください。

なお、このカテゴリは化学メーカー(ユーザー側)の視点で書いています。プロセス設計ができ、メーカーの提案を評価でき、既設機を管理できることを目標にしており、チューブピッチや管板厚さといった機器メーカーの設計領域は扱いません。

この地図に出てくる計算は、ブラウザで動く計算ツール6本にしてあります。式を読むより先に触ってみたい方は、計算ツールまとめからどうぞ。

全体像 ― 7つの段階

段階やること主な問い
1. 基礎を押さえる伝熱の仕組みを理解する熱はどう伝わるのか
2. 規模を掴む熱収支と概算面積どれくらいの大きさになるか
3. 成立性を確かめる温度差補正と温度クロスそもそも1台で成立するか
4. 形式を選ぶ多管式かプレート式か、TEMA型式どんな機器にするか
5. 相変化を扱う凝縮器・リボイラ蒸気や沸騰があるとどう変わるか
6. 発注して受け取る仕様書、提案評価何を伝え、何を確認するか
7. 使い続けるレーティング、診断、保全能力は保てているか

段階1:基礎を押さえる

最初に、3つの係数の違いを整理します。ここが曖昧なままだと、この先の計算がすべて怪しくなります。

記事内容
伝熱の3形態伝導・対流・ふく射の使い分け。ふく射が効き始める温度
熱伝導率と熱伝達率の違い物性値とそうでないものの区別。熱通過率=総括伝熱係数
熱伝達率の求め方Re・Pr・Nu と実験式。層流と乱流で式がまったく違う
総括伝熱係数 U熱抵抗の直列和。円管では面積基準が必要

この4本のうち、実務で最も繰り返し使うのが「熱抵抗の内訳を見る」という考え方です。どこが律速しているかが分かれば、打つべき手が決まります。

伝熱の3形態【伝導・対流・ふく射の使い分け】 伝熱の3形態【伝導・対流・ふく射の使い分け】 熱伝導率と熱伝達率の違い 熱伝導率と熱伝達率の違い【計算例で整理する3つの係数】 熱伝達率の求め方 熱伝達率の求め方【実測から逆算する方法と、実験式から予測する方法】 総括伝熱係数Uとは?求め方と計算例 総括伝熱係数Uとは?求め方と計算例【面積基準と律速側の見極め】

段階2:規模を掴む

熱収支を組み、必要伝熱面積の当たりをつけます。精密な計算ではなく桁を掴むのが目的です。

記事内容
熱交換器の伝熱面積の求め方A = Q/(U・ΔTm) の4ステップ
総括伝熱係数 U の概算値一覧流体の組合せから U を引く。律速側で桁を読む
汚れ係数の考え方汚れを熱抵抗として織り込む。過大に取ると逆効果

U を h から積み上げるのは実務的ではありません。シェル側の熱伝達率にはバッフル間隔などメーカー側の情報が要るためです。まず概算値で規模を掴んでください。

熱交換器の伝熱面積の求め方 熱交換器の伝熱面積の求め方【4ステップの計算例つき】 総括伝熱係数Uの概算値一覧【計算する前に桁を掴む】 総括伝熱係数Uの概算値一覧【計算する前に桁を掴む】 汚れ係数(ファウリング)の考え方【過大に取ると、かえって汚れる】 汚れ係数(ファウリング)の考え方【過大に取ると、かえって汚れる】

ツールで試せます 熱収支から必要面積の当たりをつけるところは、ツールで一度に計算できます。U をレンジで入れるので面積も幅で出ます。
→ ③ 必要伝熱面積の概算ツール

段階3:成立性を確かめる

ここが初学者が最もつまずくところであり、実務で最も価値が出るところです。面積を計算する前に確認します。

記事内容
対数平均温度差と補正係数 Fなぜ算術平均ではだめか。F ≧ 0.8 の根拠
温度クロスとは面積を増やしても達成できない温度条件がある
温度効率とNTU法出口温度が未知でも計算できる
圧力損失とのトレードオフ流速2倍で h は1.7倍、動力は6.7倍

温度クロスは必ず押さえてください。「熱収支は合っているのにメーカーから1台では無理と言われた」という場面の答えがここにあります。P と R を計算するだけで、電卓で判定できます。

対数平均温度差ΔTlmと温度差補正係数F【なぜ算術平均ではだめなのか】 対数平均温度差ΔTlmと温度差補正係数F【なぜ算術平均ではだめなのか】 温度クロスとは?1-2型熱交換器で「面積を増やしても解決しない」理由 温度クロスとは?1-2型熱交換器で「面積を増やしても解決しない」理由 熱交換器の温度効率とNTU法 熱交換器の温度効率とNTU法【出口温度が未知でも計算できる】 熱交換器の圧力損失と伝熱のトレードオフ【流速を2倍にすると何が起きるか】 熱交換器の圧力損失と伝熱のトレードオフ【流速を2倍にすると何が起きるか】

ツールで試せます 温度4つを入れるだけで、その条件が1台で成立するか・何シェル必要かが分かります。面積を計算する前にここを確認してください。
→ ① 温度クロス・補正係数F 判定ツール

段階4:形式を選ぶ

目的・条件・制約から機器の形を決めます。伝熱性能より、材料費・圧力損失・清掃性のほうが決定要因になることが多くあります。

記事内容
熱交換器の選び方機能の定義から4つの選定ロジックまで
TEMA型式の読み方BEM・AES・BKU が意味するもの
シェル側とチューブ側の割り付けどちらに何を流すか。競合したときの優先順位
プレート式熱交換器高価な材料ほど有利になる理由
空冷式熱交換器冷却水が要らない代わりに何を失うか
二重管・スパイラル・その他スラリー・高粘度・極低温への解

形式選定と流体の割り付けTEMA型式は連動しています。「どちらの流体が汚れるか」と「温度差はいくらか」に答えれば、選ぶべき型式はほぼ自動的に決まります。

熱交換器の選び方【最高の一台ではなく「最適」な一台を】 熱交換器の選び方【最高の一台ではなく「最適」な一台を】 TEMA型式の読み方【BEM・AES・BKUが意味するもの】 TEMA型式の読み方【BEM・AES・BKUが意味するもの】 シェル側とチューブ側、どちらに何を流すか【割り付けの原則】 シェル側とチューブ側、どちらに何を流すか【割り付けの原則】 プレート式熱交換器【高価な材料ほど有利になる理由】 プレート式熱交換器【高価な材料ほど有利になる理由】 空冷式熱交換器【冷却水が要らない代わりに何を失うか】 空冷式熱交換器【冷却水が要らない代わりに何を失うか】 二重管・スパイラル・その他の熱交換器【スラリー・高粘度・極低温への解】 二重管・スパイラル・その他の熱交換器【スラリー・高粘度・極低温への解】

段階5:相変化を扱う

化学プラントでは、コンデンサとリボイラが主役級です。相変化があると設計の考え方が変わります。

記事内容
凝縮伝熱とコンデンサの設計膜状凝縮、管群補正、ゾーン分割、ドレン排出
不凝縮ガスが凝縮器を殺す理由1%の混入で性能が半減する
沸騰伝熱とリボイラ限界熱流束。温度差を上げすぎてはいけない

相変化では「温度差を大きくすれば性能が上がる」が成り立ちません。凝縮では h が下がり、沸騰では限界熱流束を超えて性能が急落します。顕熱の感覚をそのまま持ち込まないでください。

凝縮伝熱とコンデンサの設計【膜状凝縮・管群補正・ドレン排出】 凝縮伝熱とコンデンサの設計【膜状凝縮・管群補正・ドレン排出】 不凝縮ガスが凝縮器を殺す理由【1%の混入で性能が半減する】 不凝縮ガスが凝縮器を殺す理由【1%の混入で性能が半減する】 沸騰伝熱とリボイラ【温度差を上げすぎてはいけない理由】 沸騰伝熱とリボイラ【温度差を上げすぎてはいけない理由】

ツールで試せます リボイラの熱流束が設計目安に収まっているか、限界熱流束までどれだけ余裕があるかを帯グラフで確認できます。
→ ⑥ リボイラの設計熱流束チェック

段階6:発注して受け取る

メーカーに何を伝え、返ってきた提案の何を確認するか。ユーザー側の腕の見せどころです。

記事内容
設計手順 ― ユーザーとメーカーの役割分担データシートに書くこと、提案評価のチェックリスト

汚れ方・保全計画・据付スペース・用役の余力の4つは、ユーザーしか知りません。ここを伝えないと、現場で清掃できない機器が納入されます。

熱交換器の設計手順【ユーザーが決めること、メーカーが決めること】 熱交換器の設計手順【ユーザーが決めること、メーカーが決めること】

段階7:使い続ける

熱交換器は納入されてからのほうが長い付き合いになります。ユーザー側の中核業務です。

記事内容
既設熱交換器のレーティング増産しても足りるか。ε-NTU 法で検証する
性能が落ちたときの診断手順汚れと決めつける前に確認すべき6つのこと
伝熱管はこう壊れる腐食・エロージョン・振動・熱疲労
冷却水系の管理スケール・腐食・スライム
熱交換器のプロセス安全チューブ破損、液封、冷却喪失

運転データから U の実測値と汚れ抵抗を継続的に記録しておくと、洗浄時期も余寿命も根拠を持って判断できるようになります。これは運転実績を持つユーザーにしかできない仕事です。

既設熱交換器のレーティング【増産しても今の機器で足りるか】 既設熱交換器のレーティング【増産しても今の機器で足りるか】 熱交換器の性能が落ちたときの診断手順【汚れと決めつける前に】 熱交換器の性能が落ちたときの診断手順【汚れと決めつける前に】 伝熱管はこう壊れる【腐食・エロージョン・振動・熱疲労】 伝熱管はこう壊れる【腐食・エロージョン・振動・熱疲労】 冷却水系の管理とスケール・スライム【熱交換器を守る水質】 冷却水系の管理とスケール・スライム【熱交換器を守る水質】 熱交換器のプロセス安全【チューブ破損・液封・冷却喪失】 熱交換器のプロセス安全【チューブ破損・液封・冷却喪失】

ツールで試せます 既設機に別条件を流したときの出口温度、運転データからの汚れ抵抗の逆算。どちらもツールにしてあります。
→ ④ レーティング電卓 と ⑤ 汚れ抵抗の逆算

さらに進むなら ― 省エネ

機器単位の最適化が終わったら、工場全体の熱の使い方に視野を広げます。

熱回収とピンチテクノロジー入門【工場全体で熱を考える】 熱回収とピンチテクノロジー入門【工場全体で熱を考える】

計算はツールで確かめられます

この記事で出てきた計算は、すべてブラウザで動くツールにしてあります。記事の計算例と同じ数値が出ることを確認済みです。

ツール何が分かるか段階
③ 必要伝熱面積の概算機器の規模と用役の必要量2
① 温度クロス・F 判定1台で成立するか、何シェル必要か3
② 熱抵抗の内訳どこが律速していて何が効くか1・3
⑥ 設計熱流束チェックバーンアウトまでの余裕5
④ レーティング電卓既設機の出口温度と流量の上限7
⑤ 汚れ抵抗の逆算いまの汚れと洗浄時期7
熱交換器の計算ツールまとめ【温度クロス判定・レーティング・汚れ診断ほか6本】 熱交換器の計算ツールまとめ【温度クロス判定・レーティング・汚れ診断ほか6本】

この分野で押さえるべき5つの原則

1. 熱抵抗の内訳を見る U の値そのものより、どこが律速しているか。律速していない側をいくら磨いても回収できません。

2. 面積を出す前に成立性を確かめる 温度クロスがあると、面積を増やしても達成できません。P と R で先に判定します。

3. 汚れた状態で性能を保証する 新品時の性能で設計しません。ただし汚れ係数の過大な設定は、流速を落としてかえって汚します。

4. 流速には下限と上限がある 下限は汚れ、上限はエロージョンと振動。この間で設計します。

5. 掃除する人のことを考えて選ぶ 清掃方法は機器を選んだ時点で決まります。U字管を選べば、チューブ内の機械清掃という選択肢は永久にありません。

まとめ

熱交換器の設計・運用を7つの段階に分けて、全体を地図にしました。

最初から順に読む必要はありません。いま直面している問題に対応する段階から読んでいただければと思います。

そして、どの段階でも共通して効くのが「熱抵抗の内訳を見る」という考え方です。設計でも、レーティングでも、トラブル診断でも、この視点があれば次の一手が決まります。

初学者におすすめの伝熱工学の参考書6選! 熱交換器の実務テンプレート【データシート・提案評価チェックリスト・運転記録】 熱交換器の実務テンプレート【データシート・提案評価チェックリスト・運転記録】

参考文献

  • 尾花英朗『熱交換器設計ハンドブック(増訂版)』工学図書、1974年(1994年 2版6刷) Amazonで見る
  • 吉田邦夫・吉田英生 監修『熱交換器ハンドブック』省エネルギーセンター、2005年 Amazonで見る
  • 日本機械学会『伝熱工学(JSMEテキストシリーズ)』日本機械学会、2023年 Amazonで見る
  • 相原利雄『伝熱工学(機械工学選書)』裳華房、1994年 Amazonで見る
  • 日本機械学会『演習 伝熱工学(JSMEテキストシリーズ)』日本機械学会、2023年 Amazonで見る