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既設の熱交換器、増産しても使える?
この条件を流したら出口温度は何℃になる?
そんな悩みを解決します。
・設計(サイジング)とレーティングの違い
・レーティングの手順6ステップ
・増産検討の計算例(流量1.3倍にしたらどうなるか)

私の仕事は化学プラントの設計です。
既設機の能力検証は、ユーザー側の中核業務です。
化学メーカーのプロセス設計者が熱交換器の計算をする場面は、実は新設よりも既設機の検証のほうが多いかもしれません。
「増産したいが、今の熱交換器で足りるか」「原料を変えるが、冷却能力は保てるか」「他プラントの遊休機を転用できないか」──こうした問いに答える作業をレーティングと呼びます。
・設計(サイジング)は面積 A を求める計算。レーティングは A が決まった機器の性能を検証する計算です。
・レーティングでは出口温度が未知なので ΔTlm が使えません。ε-NTU 法を使います。
・流量を変えると h が変わり、U も NTU も変わります。3つが連動するのがレーティングの難しさです。
・熱量 Q が増えても、出口温度の目標を満たせるとは限りません。
・圧力損失と流速の上下限も必ず同時に確認します。
設計とレーティングの違い
| 設計(サイジング) | レーティング | |
|---|---|---|
| 既知 | 4つの温度、流量 | 伝熱面積 A、機器仕様、入口温度、流量 |
| 未知 | 伝熱面積 A | 出口温度、交換熱量 Q |
| 使う式 | A = Q /(U・ΔTm) | ε-NTU 法 |
| 場面 | 新設 | 増産検討、条件変更、転用検討、能力保証の確認 |
レーティングの手順
Step 1:機器仕様を集める
・伝熱面積 A と、その基準(外面/内面)
・チューブの外径・肉厚・長さ・本数・パス数
・シェル径、バッフル間隔、TEMA型式
・材質
・設計圧力・設計温度
Step 2:現状の運転データで検証する
新条件を計算する前に、まず現状を再現できるかを確認します。
現在の運転データ(流量・温度)から実測の U を逆算し、それが妥当な値かを見ます。
$$U_{実測}=\frac{Q}{AΔT_m}$$
これが設計 U と大きく違えば、汚れが進んでいるか、計測に問題があるか、機器仕様の理解が間違っているかのいずれかです。ここを飛ばして新条件を計算しても、結果は信用できません。
Step 3:新条件での熱伝達率を求める
流量が変われば流速が変わり、熱伝達率が変わります。乱流域なら次の関係が使えます。
| 側 | 流量比に対する h の変化 | 備考 |
|---|---|---|
| チューブ側 | (流量比)0.8 | Nu ∝ Re0.8 より |
| シェル側 | (流量比)0.55 〜 0.6 | 流路が複雑なので指数が小さい |
| 層流域 | ほぼ変化しない | Nu ≒ 3.66 に張り付く |
Step 4:新しい U を求める
変わるのは流速が変わった側の境膜抵抗だけです。汚れ・管壁・反対側は変わりません。だからU の改善は h の改善よりずっと小さくなります。
熱抵抗の内訳を持っていれば、該当する項だけを置き換えて合計し直します。
Step 5:ε-NTU 法で出口温度を求める
1シェルパス・2チューブパス(1-2型)の有効度は次式で求まります。
$$ε=\frac{2}{(1+C_r)+\sqrt{1+C_r^2}\cdot\dfrac{1+\exp\left(−NTU\sqrt{1+C_r^2}\right)}{1−\exp\left(−NTU\sqrt{1+C_r^2}\right)}}$$
Cr = Cmin/Cmax(熱容量流量比)
NTU = U・A / Cmin
C = m・cp(熱容量流量)[W/K]
有効度が求まれば、交換熱量と出口温度が出ます。
$$Q=εC_{min}(T_{h,in}−T_{c,in})$$
Step 6:圧力損失と流速を確認する
・圧力損失 ∝(流量比)1.75。許容値に収まるか
・流速の上限:エロージョン・振動は大丈夫か
・流速の下限:減量運転時に汚れやすくならないか
計算例:流量を1.3倍にできるか
既設機の仕様と現状
多管式 1-2型、伝熱面積 A = 34 m2(外面基準)、設計 U = 800 W/(m2・K)
高温側(プロセス液・チューブ側):20 t/h、入口 80℃ → 出口 50℃
低温側(冷却水・シェル側):75 t/h、入口 32℃ → 出口 40℃
現状の交換熱量 Q = 698 kW
現状の再現(Step 2)
$$C_h=\frac{20000}{3600}×4186=23256\ W/K C_c=\frac{75000}{3600}×4186=87208\ W/K$$
$$C_r=\frac{23256}{87208}=0.267 NTU=\frac{800×34}{23256}=1.170$$
1-2型の式に代入すると ε = 0.629。したがって
$$T_{h,out}=80−0.629×(80−32)=49.8\ ℃ Q=702\ kW$$
新条件:プロセス液を26 t/h(1.3倍)に
Step 3:h の変化 チューブ側なので流量比の0.8乗です。
$$1.3^{0.8}=1.234$$
Step 4:新しい U 熱抵抗の内訳(外面基準、合計 1.250×10−3 = U 800)は次のとおりとします。
| 項 | 熱抵抗[m2・K/W] | 割合 |
|---|---|---|
| チューブ側 境膜 | 5.00 × 10−4 | 40% |
| チューブ側 汚れ | 2.50 × 10−4 | 20% |
| 管壁 | 1.00 × 10−4 | 8% |
| シェル側 汚れ | 1.50 × 10−4 | 12% |
| シェル側 境膜 | 2.50 × 10−4 | 20% |
| 合計 | 1.250 × 10−3 | 100% |
チューブ側境膜だけが 5.00 → 4.05 × 10−4 に下がります。
$$合計=1.250×10^{-3}−5.00×10^{-4}+4.05×10^{-4}=1.155×10^{-3}$$
$$U=866\ W/(m^2・K)$$
Step 5:出口温度
$$C_h=\frac{26000}{3600}×4186=30232\ W/K C_r=0.347 NTU=\frac{866×34}{30232}=0.973$$
1-2型の式より ε = 0.559。したがって
$$T_{h,out}=80−0.559×48=53.2\ ℃ Q=811\ kW T_{c,out}=41.3\ ℃$$
結果の判定
| 項目 | 現状(20 t/h) | 増産後(26 t/h) | 判定 |
|---|---|---|---|
| 総括伝熱係数 U | 800 | 866 W/(m2・K) | +8% |
| NTU | 1.170 | 0.973 | 低下 |
| 有効度 ε | 0.629 | 0.559 | 低下 |
| 高温側出口温度 | 49.8℃ | 53.2℃ | 目標50℃に対し +3.2 K × |
| 交換熱量 Q | 702 kW | 811 kW | +15% |
| 圧力損失 | 基準 | 1.58倍 | 要確認 |
対策の選択肢
| 対策 | 効果 | 注意点 |
|---|---|---|
| 冷却水流量を増やす | Cc が増えて Cr が下がる。ε がやや改善 | 用役の余力。圧力損失 |
| 冷却水温度を下げる | 入口温度差が広がる | 冷却塔の能力。季節変動 |
| 洗浄して汚れを落とす | 汚れ抵抗32%分が回復し U が上がる | 最も費用対効果が高いことが多い |
| 機器を1台増設(並列) | 面積が増える | スペース、投資 |
| 出口温度の目標を見直す | 下流工程で吸収できないか | プロセス全体の検討が要る |
この例では、汚れ抵抗が合計で全体の32%(4.00×10−4)を占めています。もし洗浄で汚れを半減できれば、どうなるか計算してみます。
$$U=\frac{1}{1.155×10^{-3}−2.00×10^{-4}}=1047\ W/(m^2・K)$$
$$NTU=\frac{1047×34}{30232}=1.178 ε=0.614 T_{h,out}=50.5\ ℃$$
増設を検討する前に、まず洗浄で足りないかを確認するのが実務の定石です。
このツールで確かめる
ここまでの手順は、機器仕様と流体条件を入れれば自動化できます。スライダーで高温側の流量を振ると、出口温度と交換熱量、そして圧力損失がその場で変わります。目標出口温度を満たせる流量の上限も出るので、増産検討の一次判断に使えます。
既設熱交換器のレーティング(ε-NTU 法)
伝熱面積と総括伝熱係数が分かっている機器に、いまの条件を流したら何℃で出てくるかを計算します。流量を振って、目標出口温度を満たせる上限も出します。
–
機器
高温側
低温側
流量を振ったときの高温側 出口温度
流量を増やすと交換熱量 Q は増えるが、NTU が下がって出口温度は上がる。目標線との交点が上限。
圧力損失の倍率は(流量倍率)1.75 の概算です。伝熱が成立しても、ポンプが送れなければ意味がありません。必ず確認してください。
n(流量とUの関係)は、流速が上がると境膜の熱抵抗が下がる効果の見込みです。高温側の境膜が主抵抗なら n は大きく、汚れや反対側が支配していれば 0 に近づきます。迷ったら n = 0(保守的)で見てください。
汚れが進んだ機器では、設計時の U ではなく運転データから逆算した現在の U を入れてください。
レーティングで外しやすい点
① 汚れ係数を新品の値で計算する
既設機は必ず汚れています。設計時の汚れ係数ではなく、実測から逆算した現在の汚れ抵抗を使ってください。
② 層流域に入っていることに気づかない
高粘度液では、流量を増やしても層流のままで h が改善しないことがあります。Re を必ず計算してください。
③ 温度クロスの発生を見落とす
条件が変わると P と R が変わり、それまで成立していた1-2型で F が取れなくなることがあります。
④ 減量運転を検討しない
増産だけでなく、負荷が下がったときも確認が要ります。流速が落ちて汚れやすくなる、あるいは層流に入って能力が想定以上に落ちる、といったことが起きます。
⑤ 圧力損失の増加を配管系全体で見ない
熱交換器の圧力損失が1.58倍になれば、ポンプの運転点が変わります。ポンプの吐出圧に余裕があるか、系統全体で確認してください。
まとめ
・設計は面積を求める計算、レーティングは面積が決まった機器の性能を検証する計算です。
・出口温度が未知なので ΔTlm は使えません。ε-NTU 法を使います。
・新条件を計算する前に、まず現状の運転データを再現できるか確認します。ここを飛ばすと結果が信用できません。
・流量を変えると h・U・NTU が連動して変わります。h が23%上がっても U は8%しか上がらない、といったことが普通に起きます。
・交換熱量 Q が増えても、出口温度の目標を満たせるとは限りません。NTU が下がるためです。
・増設を検討する前に、洗浄で足りないかを確認するのが定石です。
・圧力損失と流速の上下限も必ず同時に確認します。
化学プラント大全 
