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伝熱管ってどう壊れるの?
流速を上げすぎるとまずいって本当?
そんな悩みを解決します。
・腐食の6つの型と、熱交換器で起きやすいもの
・流速の上限が2つある理由(エロージョンと振動)
・検査方法と、設計段階でできる対策

私の仕事は化学プラントの設計です。
ハンドブックのトラブル事例をもとに、実務で効く対策を整理します。
熱交換器の故障は、そのほとんどが伝熱管(チューブ)で起きます。シェルは肉厚があり温度も穏やかですが、チューブは薄く、両側から異なる環境にさらされ、しかも本数が多い。確率的にもチューブが弱点になります。
チューブが破孔すれば、両流体が混ざります。冷却水にプロセス液が混入すれば環境問題、逆なら製品汚染。性能問題ではなく安全・品質問題です。
・伝熱管の損傷は腐食・エロージョン・振動・熱疲労の4系統に整理できます。
・流速には下限(汚れ)と上限(エロージョン・振動)があり、その間で設計します。
・振動は入口部で最も激しく、短期間で管を破断させます。
・材質を上げれば解決するとは限りません。ステンレスは塩化物応力腐食割れに弱いという弱点があります。
・渦流探傷(ECT)で減肉を定量的に追えます。実績を積めば余寿命が読めます。
腐食の6つの型
| 型 | 起きる条件 | 熱交換器での典型例 |
|---|---|---|
| 全面腐食 | 均一に減肉する | 炭素鋼+腐食性の水。予測しやすく対処しやすい |
| 孔食(ピッティング) | 不動態皮膜が局部的に破れる | ステンレス+塩化物イオン。低流速部で発生しやすい |
| 隙間腐食 | 隙間で酸素濃淡電池ができる | 管板と管の隙間、バッフルと管の接触部 |
| 応力腐食割れ(SCC) | 引張応力+特定の腐食環境 | オーステナイト系ステンレス+塩化物+60℃以上 |
| エロージョン・コロージョン | 高流速で保護皮膜が剥がれ続ける | 入口部、Uベンド部。銅合金で顕著 |
| ガルバニック腐食 | 異種金属の接触 | チューブと管板の材質が違う場合 |
ステンレスなら安心、ではない
「腐食するから材質をSUS304に上げよう」という判断はよくあります。しかし、ステンレスには塩化物に弱いという明確な弱点があります。
冷却水には必ず塩化物イオンが含まれます。濃縮倍率を上げれば濃度も上がります。ここに温度(60℃以上)と引張応力(拡管部の残留応力)が加われば、塩化物応力腐食割れ(塩化物SCC)の条件が揃います。
| 材質 | 塩化物への耐性 | 備考 |
|---|---|---|
| 炭素鋼 | SCCは起きない | 全面腐食するので防食が必要 |
| SUS304 / 316 | 塩化物SCCに弱い | 孔食にも注意。316のほうがやや強い |
| 二相ステンレス | SCCに強い | コスト高 |
| チタン | 海水にも強い | 高価。伝熱性能は低い(λ=17) |
| 銅合金 | 海水に使われる | アンモニアに弱い。流速上限が低い |
流速の上限 ― 2つの理由
① エロージョン(壊食)
流体が高速で壁面を叩き、保護皮膜や母材を削り取る現象です。とくに入口部で激しくなります。チャンネルからチューブに流れ込むとき、流れが乱れて局所的に高速になるためです。
固形分を含む場合はさらに厳しくなります。
| 材質 | 許容流速の目安[m/s] |
|---|---|
| 銅・銅合金 | 1.5 〜 2.0 |
| 炭素鋼 | 2 〜 3 |
| ステンレス鋼 | 3 〜 4 |
| チタン | 4 〜 5 |
対策として、チューブ入口にインレットスリーブ(保護管)を挿入する方法があります。削れるのはスリーブなので、交換すれば済みます。
② 流力振動
シェル側の流れが管束を横切ると、管が振動します。これが共振すると数週間から数か月で管が破断します。腐食が年単位で進むのに対し、振動ははるかに速い破壊です。
| 機構 | 内容 |
|---|---|
| カルマン渦励振 | 管の後方に交互に渦ができ、その周波数が管の固有振動数と一致すると共振する |
| 乱流バフェッティング | 乱流の圧力変動によるランダムな加振。疲労と摩耗を進める |
| 流体弾性不安定 | 最も危険。ある流速を超えると振幅が急激に発散する。管どうしが衝突して破損 |
振動が起きやすい場所
・シェル入口ノズルの直下 ── 流速が最も高い。最も多い破損箇所
・バッフル間隔が広い部分 ── 管のスパンが長く固有振動数が下がる
・Uベンド部 ── 支持が少なく振れやすい
・バッフル切欠き部(ウィンドウ)を通る管
対策はメーカー側の設計事項です。インペンジメントプレート(衝突板)で入口の流れを受け止める、バッフル間隔を詰める、Uベンド部に支持を追加する、といった手が使われます。
ユーザー側は「シェル側流速を上げてほしい」と要求するときに、振動照査を確認することが役割です。伝熱を良くするために流速を上げた結果、管が破断しては本末転倒です。
熱疲労と熱応力
固定管板の熱膨張差
シェルとチューブの金属温度が違えば、伸びが違います。固定管板ではこれを逃がせないため、管板・チューブ・シェルに応力が生じます。
目安として金属温度差50 Kを超えると対策が要ります。伸縮継手を入れるか、U字管・遊動頭に変更します。
急激な温度変化
蒸気の急投入、冷却水の急停止といった運転操作は、チューブに熱衝撃を与えます。運転手順で緩やかな昇温・降温を規定しておくことが対策になります。
検査と余寿命評価
| 方法 | 分かること | 適用 |
|---|---|---|
| 渦流探傷(ECT) | 減肉率、割れ、位置を定量的に | 非磁性材(ステンレス、銅、チタン)のチューブ。最も一般的 |
| 超音波(UT) | 肉厚 | 局所的な測定。全数は困難 |
| 浸透探傷(PT) | 表面の割れ | 管板のシール溶接部 |
| 水圧試験・気密試験 | 貫通の有無 | 漏れの検出。位置の特定は別途 |
| 目視・内視鏡 | 汚れの状態、閉塞 | 開放点検時 |
極値統計による余寿命予測
腐食は均一には進みません。最も深い減肉がいつ貫通するかが問題です。極値統計を使えば、限られた測定点から「最も深い減肉の深さ」を推定できます。
複数回の検査データを蓄積すれば、減肉速度から余寿命が読めます。「次の定修まで持つか」を根拠を持って判断できるようになります。
チューブの栓止め
漏れたチューブは栓(プラグ)で塞ぐのが応急処置です。しかし栓止めした本数だけ伝熱面積が減り、残りのチューブの流速が上がります。
一般には全本数の5〜10%を栓止めの上限とし、それを超えたら管束交換を検討します。栓止め本数は必ず記録してください。
設計段階でできる対策
・流速を適正範囲に設定する ── 下限(汚れ)と上限(エロージョン・振動)の間
・材質を「何に弱いか」で選ぶ ── 塩化物、アンモニア、酸素など環境因子を洗い出す
・金属温度差を確認する ── 50 Kを超えるなら固定管板を避ける
・入口部の保護 ── インペンジメントプレート、インレットスリーブ
・検査できる構造にする ── ECTが入れられるか、管束を引き抜けるか
・冷却水の水質管理を計画に入れる ── 材質選定と水質はセット
まとめ
・伝熱管の損傷は腐食・エロージョン・振動・熱疲労の4系統。破孔は性能問題ではなく安全・品質問題です。
・材質は「何に強いか」ではなく「何に弱いか」で選びます。ステンレスは塩化物応力腐食割れに弱く、減肉を伴わずに割れます。
・流速の上限は2つ。エロージョン(材質で決まる)と流力振動(構造で決まる)です。
・振動は入口ノズル直下で最も激しく、数週間から数か月で管を破断させます。腐食よりはるかに速い。
・固定管板では金属温度差50 Kが目安。超えるならU字管・遊動頭を検討します。
・ECTで減肉を定量的に追い、継続的にデータを取れば余寿命が読めます。
・栓止めは全本数の5〜10%が上限の目安。本数を必ず記録します。
化学プラント大全 
