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熱交換器の伝熱面積はどうやって計算したらいいだろうか
そんな悩みを解決します。
・必要伝熱面積を求める4ステップ
・実際のプラントで出てきそうな数値での計算例
・前提が崩れるとき(相変化、温度クロス)にどうするか

私は大学で化学工学を学び、化学メーカーでプラント設計の仕事をしてきました。
熱交換器の伝熱面積を求める基本を、なるべくわかりやすく解説していきます。
解説動画も作成しました。合わせてご覧ください。
化学メーカーのプロセス設計者にとって、この計算の目的は機器を完成させることではありません。メーカーに引き合いを出す前に規模の当たりをつけること、そして返ってきた提案が妥当かを判断することです。ここが分かっていれば、詳細はメーカーが詰めてくれます。
・基本式は A = Q /(U・ΔTm)。この1本ですべてが決まります。
・手順は、熱負荷Q → 平均温度差ΔTm → 総括伝熱係数U → 面積A の4ステップ。
・向流・並流なら ΔTm は対数平均温度差 ΔTlm。実機の多くは純向流ではないので、温度差補正係数 F を掛けます。
・ΔTm は温度条件で決まってしまいます。設計者が動かせるのは主に U と流量です。
基本式 ― A = Q /(U・ΔTm)
熱交換器の設計は次の式に集約されます。
$$Q=UAΔT_m・・・①$$
これを面積について解けば
$$A=\frac{Q}{UΔT_m}・・・②$$
A:伝熱面積[m2]
Q:全交換熱量(熱負荷)[W]
U:総括伝熱係数[W/(m2・K)]
ΔTm:平均温度差[K]
伝熱面積は、熱量Q、平均温度差ΔTlm、総括伝熱係数Uを順に求めれば算出できます。

なぜ「平均」温度差なのか
高温流体と低温流体の温度差は、熱交換器の入口から出口まで一定ではありません。入口では大きく、出口に向かうにつれて縮まっていきます。
厳密には、微小な面積 dA が受け持つ微小熱量 dQ について
$$dA=\frac{dQ}{UΔT}・・・③$$
が成り立ち、これを全体で積分することになります。
$$A=\int_0^Q\frac{dQ}{UΔT}・・・④$$
しかし U が全面で一定とみなせるなら、場所によって変わる ΔT を1つの代表値 ΔTm で置き換えて、積分せずに済ませることができます。この ΔTm が平均温度差です。
Step 1:熱負荷 Q を求める
熱負荷は熱収支から出します。「何をどこまで加熱・冷却したいか」という要求そのものです。
相変化を伴わない場合(顕熱のみ)
$$Q=mc_pΔT・・・⑤$$
m:質量流量[kg/s]
cp:定圧比熱[J/(kg・K)]
ΔT:入口と出口の温度差[K]
高温流体を冷却するのが目的なら
$$Q=m_hc_{ph}(T_{h.in}−T_{h.out})・・・⑥$$
低温流体を加熱するのが目的なら
$$Q=m_cc_{pc}(T_{c.out}−T_{c.in})・・・⑦$$
相変化を伴う場合は潜熱を加えます。全量が凝縮するコンデンサなら Q = m・r(r:凝縮潜熱[J/kg])が主体になり、過熱蒸気の冷却分や凝縮液の過冷却分を必要に応じて足します。
熱収支は両側で一致する
熱損失を無視すれば、高温流体が失った熱量と低温流体が得た熱量は等しくなります。
$$m_hc_{ph}(T_{h.in}−T_{h.out})=m_cc_{pc}(T_{c.out}−T_{c.in})$$
Step 2:平均温度差 ΔTm を求める
純向流・純並流のとき:対数平均温度差
流れが完全な向流または並流で、U が一定とみなせるなら、対数平均温度差 ΔTlm を使います。
$$ΔT_{lm}=\frac{ΔT_1−ΔT_2}{\ln(ΔT_1/ΔT_2)}・・・⑧$$

ここで ΔT1、ΔT2 は熱交換器の両端における温度差です。
向流のとき
ΔT1 = Th.in − Tc.out
ΔT2 = Th.out − Tc.in
並流のとき
ΔT1 = Th.in − Tc.in
ΔT2 = Th.out − Tc.out
ΔT1 と ΔT2 は入れ替えても結果は同じです(分子と分母の符号が同時に変わるため)。
なお、ΔT1 = ΔT2 のときは式が 0/0 になりますが、極限を取れば ΔTlm = ΔT1 です。実務では両者が近い場合、算術平均で代用しても誤差はわずかです(ΔT1/ΔT2 < 2 なら誤差5%以内)。
なぜ対数平均なのか
温度差は熱交換器の長さ方向に指数関数的に変化します。指数関数を平均すると対数が出てくる、というのが数学的な理由です。
実用上の意味としては、算術平均より必ず小さくなるという点が重要です。算術平均を使うと必要面積を過小評価します。安全側ではありません。
実機の多くは純向流ではない
多管式熱交換器の代表格である1-2型(シェル側1パス、チューブ側2パス)では、チューブ側の流体が往復するため、一部は向流、一部は並流になります。

このような場合、対数平均温度差に温度差補正係数 F(1以下)を掛けます。
$$ΔT_m=F・ΔT_{lm}・・・⑨$$
※ ΔTlm は向流として計算した値を使います
F は流れの形式と、2つの無次元パラメータ P、R から決まります。
$$P=\frac{T_{c.out}−T_{c.in}}{T_{h.in}−T_{c.in}} R=\frac{T_{h.in}−T_{h.out}}{T_{c.out}−T_{c.in}}$$
Step 3:総括伝熱係数 U を決める
方法1:概算値を引く(実務の標準)
流体の組合せと熱交換器の形式から、U の目安を引きます。化学工学便覧や熱交換器のハンドブックに一覧が載っています。
| 組合せ(多管式) | U の目安[W/(m2・K)] |
|---|---|
| 水 ─ 水 | 800 〜 1,500 |
| 水 ─ 有機液(低粘度) | 300 〜 700 |
| 水 ─ 有機液(高粘度) | 50 〜 300 |
| 水 ─ ガス(常圧) | 20 〜 60 |
| 蒸気凝縮 ─ 水 | 1,000 〜 2,500 |
| 蒸気凝縮 ─ 有機液 | 300 〜 900 |
企業で伝熱面積を求めるとき、U を h から積み上げて計算することは多くありません。多管式やスパイラル式は流路が複雑で、とくにシェル側の熱伝達率を正確に計算するにはバッフル間隔などメーカー側の設計変数が必要になるからです。
まずは概算値で規模を掴む。これが実務の順序です。
方法2:熱抵抗から積み上げる
両側の熱伝達率が分かっている、あるいは推定できる場合は、熱抵抗の直列和から計算します。外面基準なら
$$\frac{1}{U_o}=\frac{1}{h_o}+r_o+\frac{d_o\ln(d_o/d_i)}{2λ_w}+r_i\frac{d_o}{d_i}+\frac{1}{h_i}\frac{d_o}{d_i}$$
Step 4:計算例 ― 反応液クーラーの必要面積
設計条件
反応で発熱した液(物性は水とみなす)を冷却水で冷やします。
高温側(プロセス液)
・流量 20 t/h
・入口 80℃ → 出口 50℃
低温側(冷却水)
・入口 32℃ → 出口 40℃(冷却水の返り温度の制約から決定)
形式:多管式 1-2型(シェル側1パス、チューブ側2パス)
Step 1:熱負荷 Q
流量を SI に直します。
$$m_h=20\ t/h=\frac{20000}{3600}=5.56\ kg/s$$
水の比熱 cp = 4,186 J/(kg・K) として
$$Q=(5.56)(4186)(80−50)=698000\ W=698\ kW$$
冷却水の必要流量を確認する
熱収支から冷却水量が決まります。
$$m_c=\frac{Q}{c_pΔT}=\frac{698000}{(4186)(8)}=20.8\ kg/s=75\ t/h$$
Step 2:平均温度差 ΔTm
まず向流として対数平均温度差を計算します。
$$ΔT_1=T_{h.in}−T_{c.out}=80−40=40\ K$$
$$ΔT_2=T_{h.out}−T_{c.in}=50−32=18\ K$$
$$ΔT_{lm}=\frac{40−18}{\ln(40/18)}=\frac{22}{0.799}=27.6\ K$$
次に1-2型の温度差補正係数 F を求めます。
$$P=\frac{40−32}{80−32}=0.167 R=\frac{80−50}{40−32}=3.75$$
この P、R に対して、1シェルパス・2チューブパスの F は
$$F=0.94$$
したがって
$$ΔT_m=(0.94)(27.6)=25.9\ K$$
Step 3:総括伝熱係数 U
水 ─ 水、多管式なので、汚れを含んだ設計値として U = 800 W/(m2・K)(外面基準)を採用します。
Step 4:必要伝熱面積 A
$$A=\frac{Q}{UΔT_m}=\frac{698000}{(800)(25.9)}=33.7\ m^2$$
必要伝熱面積は約34 m2 となりました。
参考までに、純向流(F = 1)だったとすれば
$$A=\frac{698000}{(800)(27.6)}=31.6\ m^2$$
1-2型にしたことで約2 m2、6%分だけ面積が増えている計算です。
この結果をどう使うか
34 m2 という数字が出たら、次にやることは以下のとおりです。
・標準的な多管式のサイズ表と突き合わせて、どのクラスの機器になるか見当をつける
・据付スペース、とくにチューブバンドルの引抜きスペースが取れるか確認する
・冷却水75 t/h が供給できるか、用役設備の余力を確認する
・この規模で概算コストを見積もり、投資判断の材料にする
そのうえでメーカーに引き合いを出します。返ってきた提案の伝熱面積が40 m2 だったとしても、それ自体は問題ありません。メーカーは標準チューブ長やパス数の制約の中で選定するので、多少大きくなるのが普通です。
逆に、返ってきた面積が25 m2 のように大幅に小さければ、U をいくつで見ているのか、汚れ係数をどう取っているのかを確認すべきサインです。
このツールで確かめる
ここまでの4ステップは、条件を入れれば一度に計算できます。U は幅を持った概算値なので、面積も幅で出すのがこのツールの狙いです。冷却側の必要流量、温度差補正係数 F、温度クロスの判定も同時に出ます。
必要伝熱面積の概算
熱負荷 Q → 平均温度差 ΔTm → 総括伝熱係数 U → 面積 A の4ステップを一度に計算します。U はレンジで持つので、面積も幅で出ます。
–
高温側(冷やしたい流体)
低温側(冷却する流体)
総括伝熱係数 U(汚れ込み・外面基準)
U のレンジに対する必要面積の幅
U は幅を持った概算値。面積も幅で認識しておくと、メーカー提案を落ち着いて評価できる。
| 項目 | 値 | 意味 |
|---|
冷却側の必要流量も同時に出ます。用役設備に余力があるかを必ず確認してください。出口温度を上げれば流量は減りますが、平均温度差が縮んで面積が増えます。
相変化がある場合や、粘度が温度で大きく変わる場合は U が場所によって変わるため、ゾーンに分けた計算が必要です。この概算は「規模の当たりをつける」ためのものです。
前提が崩れるとき
今回の計算では、次の前提を置きました。
前提1:全伝熱面で U は一定
前提2:F は1-2型の値
前提3:U は概算値を採用
前提1が崩れるとき
相変化を伴う場合(コンデンサ、リボイラ)や、粘度が温度で大きく変わる高粘度液では、U が場所によって大きく変わります。
このときは伝熱面をゾーンに分割し、区間ごとに Q、ΔTlm、U を計算して面積を積算します。たとえば過熱蒸気を凝縮させるコンデンサなら、「過熱除去部」「凝縮部」「過冷却部」の3ゾーンに分けます。
前提2が崩れるとき
温度条件によっては F が急激に落ちる領域があります。とくに高温側出口温度が低温側出口温度より低くなる温度クロスが起きると、1-2型では所定の性能が出せません。
このときはシェルを直列に並べる、F型シェル(縦仕切板つき)を使う、といった対策が必要になります。
前提3が崩れるとき
概算値の U はあくまで目安です。汚れやすい流体、極端な粘度、特殊な材質の場合はレンジを外れます。
最終的な保証はメーカーの計算に委ねますが、ユーザー側は「なぜその U なのか」を説明できる状態にしておくべきです。とくに汚れ係数の取り方は、運転実績を持っているユーザー側のほうが根拠を出せる領域です。
まとめ
熱交換器の必要伝熱面積の求め方を解説しました。
・基本式は A = Q /(U・ΔTm)
・手順は 熱負荷Q → 平均温度差ΔTm → 総括伝熱係数U → 面積A の4ステップ
・純向流なら ΔTm = ΔTlm。実機の多くは純向流ではないので温度差補正係数 F を掛けます。F ≧ 0.8 が目安
・U は実務ではまず概算値を引きます。h から積み上げるのはシェル側の情報が揃ってから
・熱収支から冷却水量も同時に決まります。用役の余力確認を忘れないでください
次は、出口温度が未知のときに使う温度効率とNTU法に進みます。
参考文献
- 尾花英朗『熱交換器設計ハンドブック(増訂版)』工学図書、1974年(1994年 2版6刷)、第1部 第3章「表面式熱交換器の基本伝熱式」3・1 向流熱交換器、3・3 胴側1パス・管側偶数パス熱交換器、3・14 対数平均温度差および温度差補正係数 Amazonで見る
- 吉田邦夫・吉田英生 監修『熱交換器ハンドブック』省エネルギーセンター、2005年、I編2.1「熱交換器における伝熱の基礎」(1)熱負荷・温度差・伝熱面積と総括伝熱係数、(2)対数平均温度差と温度差補正係数、I編2.2「設計の手順」 Amazonで見る
- 日本機械学会『伝熱工学(JSMEテキストシリーズ)』日本機械学会、2023年、第7章「伝熱の応用と伝熱機器」 Amazonで見る
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