動画解説はこちら|YouTube

空冷式熱交換器【冷却水が要らない代わりに何を失うか】

空冷式熱交換器【冷却水が要らない代わりに何を失うか】

※本記事の参考文献には、Amazonアソシエイトのリンク(アフィリエイト広告)を含みます。

困っている人
困っている人

空冷式ってどんなときに選ぶの?

冷却水式と比べて何が違う?

そんな悩みを解決します。

この記事の内容

・空冷式の構造と2つの通風方式

・設計外気温度の決め方と、夏場の能力低下

・冷却水式とのコスト比較と、選定の判断基準

私の仕事は化学プラントの設計です。
ユーザー側の視点で、採用可否の判断基準を整理します。

空冷式熱交換器(エアフィンクーラー、ACHE)は、フィン付きチューブの外側にファンで外気を送り、プロセス流体を冷却する機器です。

最大の利点は冷却水が要らないこと。水源のない立地や、冷却水系の増強が困難な場合に選ばれます。一方で、空気は熱を運ぶ能力が低いため、機器が大きくなり、外気温度に性能が左右されます。

この記事の結論

・空気側の熱伝達率は水の1/50〜1/100。だからフィンで面積を10〜25倍に拡大します。

・冷却水が不要な代わりに、設置面積が広大になり、外気温度に性能が左右されます。

・設計外気温度は「年間何%の時間をカバーするか」で決めます。夏場のピークに合わせると過大になります。

・プロセス出口温度は外気温度+10〜15 Kが限界。これより下げたいなら冷却水式が必要です。

・水が使えるなら冷却水式のほうが小さく安い。空冷式は水の制約から選ばれる形式です。

なぜフィンが必要なのか

空気の熱伝達率は、水と比べて桁違いに低い値です。

流体熱伝達率 h[W/(m2・K)]
空気(強制対流)30 〜 60
水(強制対流、管内)3,000 〜 6,000

熱抵抗の直列モデルで考えると、空気側が全体の9割以上を支配します。プロセス側の流速をいくら上げても、総括伝熱係数は改善しません。

そこで、空気側の伝熱面積を拡大するという手段を取ります。チューブの外側にアルミのフィンを巻き付け、外表面積をベアチューブの10〜25倍にします。

h が上げられないなら A を増やす。Q = U・A・ΔTm の A に効かせる、という発想です。ラジエーターやエアコン室外機にびっしりフィンが付いているのも同じ理由です。

総括伝熱係数Uとは?求め方と計算例 総括伝熱係数Uとは?求め方と計算例【面積基準と律速側の見極め】

2つの通風方式

方式ファンの位置長所短所
強制通風(Forced draft)管束の。押し込むファンが低温側にあり、駆動部の環境が良い。保守しやすい。動力がやや小さい空気の分布が不均一になりやすい。熱風の再循環が起きやすい
誘引通風(Induced draft)管束の。吸い出す空気分布が均一。排気速度が速く再循環しにくい。降雨・日射の影響を受けにくいファンが高温排気にさらされる。保守が高所作業になる。動力がやや大きい

再循環とは、排出した熱い空気を再び吸い込んでしまう現象です。これが起きると入口空気温度が上がり、能力が落ちます。機器の配置(隣接機器との距離、風向き、建屋の位置)で決まるため、レイアウト検討時に確認が必要です。

設計外気温度をどう決めるか

空冷式の設計で最も重要な判断がこれです。外気温度は年間を通じて変動するため、どの温度で設計するかを決めなければなりません。

考え方

その土地の気象データから、外気温度の超過確率を出します。「年間の何%の時間で、この温度を超えるか」という統計です。

一般には年間の2〜5%の時間だけ設計温度を超える、という設定が使われます。日本の多くの地域では、設計乾球温度は35〜38℃程度になります。

設計外気温度の設定結果
低め(例:30℃)に設定機器は小さく安い。しかし夏場に能力不足になる日が増える
高め(例:40℃)に設定夏場も能力を維持できる。しかし機器が大きく高価になり、年間の大半は過剰能力

重要なのは、能力不足になったときプロセスがどうなるかです。生産量が落ちるだけなら低めの設定でも許容できます。安全に関わる冷却(反応熱の除去など)なら、高めに設定するか、バックアップを持つ必要があります。

能力調整の手段

可変ピッチファン:羽根角度を変えて風量を調整する。最も一般的

ファン台数制御:複数ファンのうち何台運転するかで調整

インバータ制御:回転数で調整。省エネ性が高い

ルーバ:管束上部の可動羽根で通風量を絞る。冬場の過冷却防止にも使う

冬場は逆に冷えすぎることが問題になります。プロセス流体が凍結したり、粘度が上がって流れなくなったり、ワックス分が析出したりします。ルーバや空気の再循環(暖気を意図的に戻す)で対応します。

アプローチ温度の限界

プロセス流体の出口温度は、入口空気温度(=外気温度)より低くできません。実際には、経済的に成立するアプローチ温度(出口温度 − 外気温度)は10〜15 Kが下限です。

これより詰めようとすると、伝熱面積が急激に増えて非現実的になります。

何を意味するか

設計外気温度 35℃ の地域で空冷式を使う場合

→ プロセス出口温度は 45〜50℃ が実用的な下限

→ それより低くしたい場合は、後段に冷却水式を追加するか、全部を冷却水式にする

これが空冷式の最大の制約です。「粗冷却は空冷、仕上げは冷却水」という2段構成がよく採られるのはこのためです。空冷で50℃まで落とし、冷却水で40℃まで仕上げる、といった具合です。

冷却水式との比較

項目空冷式冷却水式(多管式)
冷却水不要必要(冷却塔・ポンプ・水処理が要る)
到達温度外気+10〜15 K冷却水+5〜10 K(通常40℃前後まで)
設置面積広大比較的コンパクト
初期コスト(機器単体)高い安い
初期コスト(用役設備込み)安いことが多い冷却塔・ポンプ・配管が要る
運転コストファン動力ポンプ動力+補給水+水処理薬品
季節変動大きい小さい
騒音大きい小さい
保守フィンの目詰まり清掃、ファン駆動部チューブ清掃、水質管理

判断の順序

実務では次の順で判断します。

1. 到達温度で決まるか ── 外気+10〜15 Kで足りないなら、空冷式単独は不可。

2. 水が確保できるか ── 水源がない、取水規制がある、既設冷却塔に余力がないなら空冷式。

3. スペースがあるか ── 空冷式は広い面積が要る。既設プラント内では成立しないことが多い。

4. コスト比較 ── 用役設備を含めたライフサイクルコストで比較する。

よくある誤解が「空冷式は水を使わないから安い」というものです。機器単体では空冷式のほうが高価です。安くなるのは、冷却塔・ポンプ・水処理設備といった用役側の投資を含めて比較したときです。

実務上の注意点

フィンの汚れ

空気側は大気中の粉じん、花粉、油分、虫などで汚れます。フィンの隙間が詰まると風量が落ち、能力が急激に低下します。定期的な高圧洗浄が必要です。工業地帯や粉体を扱う工場の近くでは、汚れの進行が速くなります。

フィンとチューブの接触熱抵抗

フィンはチューブに巻き付ける(Lフィン、Gフィン)か、押出し成形(一体型)で作られます。巻付け型は経年でフィンとチューブの間に隙間ができ、接触熱抵抗が増えて性能が落ちることがあります。高温用途では一体型が選ばれます。

騒音

ファン騒音は敷地境界の規制に関わります。低騒音ファンや回転数低下で対応しますが、その分ファン台数や面積が増えます。住宅地に近い立地では、この制約が支配的になることがあります。

チューブ側は高圧に対応できる

チューブ側は多管式と同様に高圧に対応できます。石油精製や天然ガス処理で、高圧のプロセス流体を空冷する用途は一般的です。

まとめ

・空気側の熱伝達率は水の1/50〜1/100。フィンで面積を10〜25倍にして補います。

・強制通風は保守しやすく、誘引通風は空気分布が均一で再循環しにくい。

・設計外気温度は「年間2〜5%の時間だけ超える温度」で設定するのが一般的です。

・アプローチ温度の下限は10〜15 K。外気35℃なら出口45〜50℃が限界です。

・「粗冷却は空冷、仕上げは冷却水」の2段構成がよく採られます。

・機器単体では空冷式のほうが高価です。用役設備を含めた比較で判断してください。

熱交換器の選び方【最高の一台ではなく「最適」な一台を】 熱交換器の選び方【最高の一台ではなく「最適」な一台を】 総括伝熱係数Uとは?求め方と計算例 総括伝熱係数Uとは?求め方と計算例【面積基準と律速側の見極め】 初学者におすすめの伝熱工学の参考書6選!

参考文献

  • 吉田邦夫・吉田英生 監修『熱交換器ハンドブック』省エネルギーセンター、2005年、II編1「多管式熱交換器」1.1 空冷、II編9「直接接触式熱交換器(冷却塔)」 Amazonで見る
  • 尾花英朗『熱交換器設計ハンドブック(増訂版)』工学図書、1974年(1994年 2版6刷)、第4部 第27章「空冷式熱交換器の設計法」 Amazonで見る
  • 日本機械学会『伝熱工学(JSMEテキストシリーズ)』日本機械学会、2023年、第7章「伝熱の応用と伝熱機器」 Amazonで見る