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熱交換器の平均温度差ってどう計算するの?
なぜ算術平均じゃだめなの?
そんな悩みを解決します。
・対数平均温度差ΔTlmの意味と、算術平均ではだめな理由
・実機で必ず必要になる温度差補正係数 F
・なぜ F ≧ 0.8 が目安とされるのか

私の仕事は化学プラントの設計です。
その経験をもとに分かりやすく解説します。
熱交換器の設計式 Q = U・A・ΔTm の中で、ΔTm(平均温度差)は少し特殊な位置にあります。
U は流体と機器で決まる。A は設計者が決める。ところが ΔTm は、プロセス側の温度条件が決まった時点でほぼ確定してしまいます。設計者に残された自由度はほとんどありません。
だからこそ、ΔTm を正しく求めることが重要です。ここを甘く見積もると、必要面積を過小評価して、できあがった熱交換器が能力不足になります。
・温度差は熱交換器の中で指数関数的に変化します。だから平均は算術平均ではなく対数平均になります。
・対数平均は算術平均より必ず小さい。算術平均を使うと必要面積を過小評価します。安全側ではありません。
・実機の多くは純向流ではないため、補正係数 F(1以下)を掛けます。F は P と R という2つの無次元数だけで決まります。
・F ≧ 0.8 が実務の目安。この境界には数学的な根拠があります。
なぜ「平均」温度差が必要なのか
熱交換器の中で、高温流体と低温流体の温度差は場所によって変わります。厳密に書けば、微小面積 dA が受け持つ熱量 dQ について
$$dQ=UΔT\,dA$$
が成り立ちます。ΔT が場所によって変わるので、本来は全体を積分しなければなりません。
$$A=\int\frac{dQ}{UΔT}$$
これでは実用になりません。そこで、場所によって変わる ΔT を1つの代表値 ΔTm に置き換えて
$$A=\frac{Q}{UΔT_m}$$
と書けるようにする。この ΔTm が平均温度差です。問題は「どういう平均を取れば、置き換えても正しい答えになるか」です。
対数平均温度差 ΔTlm
U が全面で一定で、流れが完全な向流または並流なら、正しい平均は対数平均になります。
$$ΔT_{lm}=\frac{ΔT_1−ΔT_2}{\ln(ΔT_1/ΔT_2)}・・・①$$
向流のとき
ΔT1 = Th,in − Tc,out(高温側入口の端)
ΔT2 = Th,out − Tc,in(高温側出口の端)
並流のとき
ΔT1 = Th,in − Tc,in(入口側の端)
ΔT2 = Th,out − Tc,out(出口側の端)
ΔT1 と ΔT2 はどちらをどちらに割り当てても結果は同じです。分子と分母の符号が同時に反転するためです。
なぜ対数が出てくるのか
導出の筋道だけ示します。熱交換器の位置 x における温度差を ΔT とすると、微小区間で dQ = U・ΔT・dA。同時に、熱収支から高温側・低温側の温度変化は dQ に比例します。両者を組み合わせると
$$\frac{d(ΔT)}{dA}=−UΔT×(定数)$$
という形になります。「変化率が自分自身に比例する」──これは指数関数の微分方程式です。
つまり温度差は熱交換器の長さ方向に指数関数的に減衰します。指数関数を面積で積分して平均を取れば、対数が現れる。これが対数平均温度差の正体です。
算術平均ではなぜだめか
対数平均は算術平均より必ず小さくなります。
| ΔT1 | ΔT2 | 算術平均 | 対数平均 | 差 |
|---|---|---|---|---|
| 50 K | 40 K | 45.0 | 44.8 | −0.4% |
| 50 K | 25 K | 37.5 | 36.1 | −3.8% |
| 50 K | 10 K | 30.0 | 24.9 | −17.2% |
| 50 K | 5 K | 27.5 | 19.5 | −28.9% |
| 50 K | 2 K | 26.0 | 14.9 | −42.6% |
両端の温度差が近いうちは差がわずかですが、開いてくると急激に乖離します。
ここで重要なのは、算術平均を使うと ΔTm を大きく見積もることになるという点です。ΔTm が大きければ必要面積 A は小さく出ます。つまり、能力不足の熱交換器を設計してしまいます。
ΔT1 = ΔT2 のとき
式が 0/0 になりますが、極限を取れば ΔTlm = ΔT1 です。
実際にこうなるのは、両流体の熱容量流量が等しい向流(R = 1)の場合です。このとき温度差は全長にわたって一定になります。
実機は純向流ではない ― 補正係数 F
なぜ補正が要るのか
対数平均温度差の式は「完全な向流」または「完全な並流」を前提にしています。
ところが多管式熱交換器の代表格である1-2型(シェル側1パス、チューブ側2パス)では、チューブ側の流体が往復します。行きは向流、帰りは並流。この2つが混ざるため、純向流よりも平均温度差が小さくなります。
そこで、向流として計算した ΔTlm に、1以下の補正係数 F を掛けます。
$$ΔT_m=F・ΔT_{lm}・・・②$$
F は2つの無次元数だけで決まる
F は、流れの形式(1-2型、2-4型、直交流など)と、次の2つのパラメータで決まります。
$$P=\frac{T_{c,out}−T_{c,in}}{T_{h,in}−T_{c,in}} R=\frac{T_{h,in}−T_{h,out}}{T_{c,out}−T_{c,in}}$$
P:温度効率。低温側が「取りうる最大の温度上昇」に対して、実際にどれだけ上がったか
R:熱容量流量比。両流体の温度変化の比。熱収支から R =(mccpc)/(mhcph) にも等しい
1-2型の F 早見表
| P\R | 0.2 | 0.4 | 0.6 | 0.8 | 1.0 | 1.5 | 2.0 | 3.0 | 4.0 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 0.1 | 1.000 | 0.999 | 0.999 | 0.998 | 0.998 | 0.997 | 0.995 | 0.992 | 0.988 |
| 0.2 | 0.998 | 0.996 | 0.994 | 0.992 | 0.989 | 0.982 | 0.972 | 0.935 | 0.813 |
| 0.3 | 0.995 | 0.990 | 0.984 | 0.977 | 0.969 | 0.939 | 0.883 | − | − |
| 0.4 | 0.990 | 0.979 | 0.964 | 0.945 | 0.921 | 0.803 | − | − | − |
| 0.5 | 0.981 | 0.957 | 0.924 | 0.877 | 0.802 | − | − | − | − |
| 0.6 | 0.966 | 0.916 | 0.840 | 0.697 | − | − | − | − | − |
| 0.7 | 0.935 | 0.828 | 0.586 | − | − | − | − | − | − |
表から読み取れる傾向は次のとおりです。
・P が小さければ F はほぼ1。低温側の温度上昇が小さい設計なら、補正はほとんど不要
・P が大きくなるほど F は下がる
・R が大きいほど、より小さい P で F が落ちる
・落ち方は緩やかではなく、ある点から崖のように落ちる
F の計算式
表を使わずに計算したい場合、1-2型の F は次式で求まります。S = √(R2+1) として
$$F=\frac{\dfrac{S}{R−1}\ln\dfrac{1−P}{1−PR}}{\ln\dfrac{2/P−1−R+S}{2/P−1−R−S}}・・・③$$
R = 1 のときは第1項が 0/0 になるので、極限を取って
$$F=\frac{\dfrac{SP}{1−P}}{\ln\dfrac{2/P−1−R+S}{2/P−1−R−S}}$$
分母の対数の中身が負になったら、その条件は成立しません。
なぜ F ≧ 0.8 なのか
実務では「F が 0.8 を下回る設計は避ける」という目安が使われます。これには理由があります。
F 早見表の落ち方を見てください。たとえば R = 0.8 の列では
| P | F | 前の行からの落ち幅 |
|---|---|---|
| 0.4 | 0.945 | − |
| 0.5 | 0.877 | 0.068 |
| 0.6 | 0.697 | 0.180 |
P が 0.1 増えるごとに、落ち幅が 0.068 → 0.180 と倍以上になっています。F が 0.8 を下回る領域では、曲線の傾きが非常に急です。ここで設計すると次の問題が起きます。
・温度条件がわずかにずれただけで F が急落し、能力が出なくなる
・原料の組成変動や季節による冷却水温度の変動を吸収できない
・汚れが進んだときの余裕がまったくない
補正が不要なケース
次の場合、F = 1 として扱えます。
純向流・純並流
二重管式熱交換器は構造上ほぼ純向流にできます。
片側が相変化しているとき
凝縮器や蒸発器で、一方の流体の温度が全長にわたって一定なら、流れの向きは関係ありません。
飽和蒸気が凝縮している側は温度が変わらないので、チューブ側が往復しようが、温度差の分布に影響しません。R = 0(または R = ∞)となり、F = 1 です。
1-1型(シェル1パス・チューブ1パス)
向流に組めば F = 1 です。ただしチューブ側の流速を稼ぎにくく、実機では採用しにくい構成です。
実務での使い方
設計するとき
1. 温度条件から P と R を計算する
2. F を求める
3. F ≧ 0.8 なら、その形式で進める
4. F < 0.8 なら、シェル直列など形式を見直す
P と R は温度4つだけで決まるので、熱収支を組んだ直後に判定できます。伝熱面積を計算する前に確認するのが効率的です。
メーカー提案を評価するとき
見積書には流れ形式(1-2型、2-4型など)と F の値が書かれています。確認すべきは次の点です。
・F はいくつか。0.8 を下回っていないか
・シェルを直列にしている場合、その理由は何か(たいてい温度クロス)
・運転条件が振れたとき、F がどこまで落ちるか
3つ目は特に重要です。夏場に冷却水温度が5℃上がったとき、あるいは負荷が7割に落ちたとき、F がどうなるかを確認しておくと、後で慌てずに済みます。
まとめ
・温度差は熱交換器内で指数関数的に変化するため、平均は対数平均になります。
・対数平均は算術平均より必ず小さい。算術平均を使うと必要面積を過小評価します。安全側ではありません。
・実機の多くは純向流ではないため、向流として計算した ΔTlm に補正係数 F を掛けます。
・F は流れ形式と、P・R という2つの無次元数だけで決まります。温度4つが決まれば判定できます。
・F ≧ 0.8 が目安。これは精度ではなく感度の問題です。
・片側が相変化しているときは F = 1 です。
F が取れないほど温度条件が厳しい場合、何が起きているのか。次は温度クロスの問題を扱います。
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