動画解説はこちら|YouTube

汚れ係数(ファウリング)の考え方【過大に取ると、かえって汚れる】

汚れ係数(ファウリング)の考え方【過大に取ると、かえって汚れる】

※本記事の参考文献には、Amazonアソシエイトのリンク(アフィリエイト広告)を含みます。

困っている人
困っている人

汚れ係数ってどう決めればいいの?

安全側に大きく取っておけばいい?

そんな悩みを解決します。

この記事の内容

・汚れ係数とは何か、面積の余裕率との違い

・過大な汚れ係数がもたらす悪循環

・運転実績から汚れ係数を逆算する方法

私の仕事は化学プラントの設計です。
運転実績を持っているユーザー側だからこそ根拠を出せる領域です。

熱交換器は必ず汚れます。運転を始めた瞬間から伝熱面に付着物が成長し、性能は落ちていきます。そこで設計では、あらかじめ汚れの熱抵抗を織り込んでおきます。これが汚れ係数(ファウリングファクター)です。

ところが、この汚れ係数の扱いには落とし穴があります。「安全側だから大きく取っておこう」という判断が、かえって設備を汚す結果を招くのです。

この記事の結論

・汚れ係数は「安全率」ではなく「予測値」。運転周期の終わりにどれだけ汚れているかの見積もりです。

・汚れ係数は熱抵抗[m2・K/W]として U の分母に足します。面積に余裕率を掛けるのとは意味が違います。

・過大な汚れ係数は機器を大きくします。機器が大きくなると流速が下がり、流速が下がると本当に汚れます。

・汚れを減らす最も効果的な手段は、汚れ係数を大きく取ることではなく流速を確保することです。

汚れ係数とは

伝熱面に付着物の層ができると、そこが新たな熱抵抗になります。この熱抵抗を汚れ係数 r で表します。単位は m2・K/W。熱伝達率の逆数と同じ次元です。

$$U=\frac{1}{(1/h_h)+r_h+(δ/λ)+r_c+(1/h_c)}・・・①$$

rh、rc:高温側・低温側の汚れ係数[m2・K/W]

清浄時の U と設計 U

汚れをゼロとしたときの値を清浄時の総括伝熱係数 Uc、汚れを含んだ値を設計 U(あるいは汚れ時の U)と呼びます。

熱交換器は「汚れた状態で必要性能を満たす」ように設計します。したがって、必要伝熱面積の計算には設計 U を使います。

新品のうちは Uc に近い性能が出るので、能力に余裕があります。運転を続けて汚れが設計値まで成長したとき、ちょうど所定の性能になる。これが設計の考え方です。

総括伝熱係数Uとは?求め方と計算例 総括伝熱係数Uとは?求め方と計算例【面積基準と律速側の見極め】

汚れの種類

汚れは1種類ではありません。機構が違えば対策も変わります。

種類内容典型例
析出汚れ(スケール)溶解度を超えた成分が伝熱面で析出炭酸カルシウム、硫酸カルシウム
粒子汚れ懸濁している固形分が沈着泥、砂、錆、触媒粉
化学反応汚れ伝熱面上で重合・分解が起き固着コーキング、ポリマー生成
腐食汚れ腐食生成物そのものが層になる酸化鉄、硫化物
生物汚れ微生物やその代謝物が繁殖スライム、貝類
凝固汚れ流体の一部が冷えて固化ワックス分、高融点成分

温度による違いが重要

析出汚れと化学反応汚れは、伝熱面温度が高いほど激しくなります。

炭酸カルシウムは逆溶解度性を持つため、温度が上がるほど溶解度が下がって析出します。冷却水を加熱する側(=伝熱面が熱い側)でスケールが付きやすいのはこのためです。

化学反応汚れも同様で、壁面温度が閾値を超えると急激に進みます。高粘度の有機液を加熱するとき、蒸気温度を下げてでも壁温を抑えたほうが結果的に長持ちする、という判断が出てくるのはこの理由です。

つまり、汚れは流体の種類だけでなく、その熱交換器での温度と流速で決まります。同じ流体でも条件が違えば汚れ方が違う、ということです。

汚れ係数の目安

TEMA(米国管式熱交換器工業会)や各種ハンドブックに推奨値が載っています。代表的なものを挙げます。

流体汚れ係数 r[m2・K/W]
水蒸気(油分なし)0.00009
海水(50℃以下)0.00009 〜 0.00018
処理済み冷却水(循環)0.00018 〜 0.00035
河川水・工業用水0.0002 〜 0.0006
有機液体(清浄)0.00018 〜 0.00035
有機蒸気(清浄)0.00009 〜 0.00018
重質油・残油0.0005 〜 0.001
高粘度油・タール分を含む液0.0009 〜 0.002

これらはあくまで出発点です。実際の値は、その流体・その温度・その流速・その洗浄周期で決まります。自社に運転実績があるなら、実績から逆算した値のほうがはるかに信頼できます。

汚れ係数の影響を数字で見る

汚れ係数の重みは、他の熱抵抗との相対関係で決まります。同じ汚れ係数でも、機器によって影響がまったく違います。

ケース1:U が大きい機器(水 ─ 水)

清浄時 Uc = 1,500 W/(m2・K) の水 ─ 水熱交換器に、両側 0.00035 の汚れ係数を入れます。

$$\frac{1}{U}=\frac{1}{1500}+0.00035×2=6.67×10^{-4}+7.00×10^{-4}=1.367×10^{-3}$$

$$U=732\ W/(m^2・K)$$

1,500 → 732。性能が51%落ちます。必要面積は2倍になります。

ケース2:U が小さい機器(水 ─ ガス)

清浄時 Uc = 50 W/(m2・K) のガス冷却器に、同じ汚れ係数を入れます。

$$\frac{1}{U}=\frac{1}{50}+7.00×10^{-4}=2.00×10^{-2}+7.00×10^{-4}=2.07×10^{-2}$$

$$U=48.3\ W/(m^2・K)$$

50 → 48.3。わずか3%の低下です。

何を意味するか

U が大きい機器ほど、汚れの影響が致命的になります。

U が大きいということは、もともとの熱抵抗が小さいということです。そこに汚れの抵抗が加われば、相対的に大きな比率を占めます。

高性能なプレート式熱交換器(U が大きい)が汚れに弱いと言われるのは、この理屈です。流路が狭くて詰まりやすいという構造的な理由もありますが、それ以前に「U が大きい機器は汚れの影響を受けやすい」という原理があります。

逆に、空冷式熱交換器のようにガス側が律速している機器では、多少の汚れは性能にほとんど影響しません。

過大な汚れ係数がもたらす悪循環

ここが実務で最も重要な論点です。「安全側だから」と汚れ係数を大きめに取ると、次のことが起きます。

1. 必要伝熱面積が増える

2. 機器が大きくなる(チューブ本数が増える、シェル径が大きくなる)

3. 同じ流量に対して流路断面積が増えるので、流速が下がる

4. 流速が下がると、付着物が流されずに堆積しやすくなる

5. 本当に汚れる

安全側のつもりで取った余裕が、汚れを呼び込む。これが汚れ係数の悪循環です。さらに、新品時は面積が過大なので伝熱量が出すぎます。温度制御のために蒸気や冷却水を絞ることになり、ますます流速が下がります。

汚れ係数は予測値である

この悪循環を避けるには、汚れ係数を「安全率」ではなく「予測値」として扱う必要があります。

安全率なら、大きく取るほど安全です。しかし予測値なら、大きすぎることは外れているということです。

汚れ係数に込めるべき問いは「どれくらい余裕を見ようか」ではなく、「次の定修までにどれだけ汚れるか」です。

実績から汚れ係数を逆算する

運転中の熱交換器から、実際の汚れ係数を求めることができます。ユーザー側にしかできない、最も価値のある作業です。

手順

1. 運転データ(両流体の入口・出口温度、流量)から実測の熱負荷 Q を計算する

2. 温度から ΔTlm と F を計算し、ΔTm を出す

3. 実測 U を求める

4. 清浄時の Uc(設計値、または洗浄直後の実測値)と比較して汚れ抵抗を出す

$$U_{実測}=\frac{Q}{AΔT_m}  r_{合計}=\frac{1}{U_{実測}}−\frac{1}{U_c}・・・②$$

運転時間に対してプロットする

これを定期的に行い、洗浄からの経過時間に対してプロットします。

多くの場合、汚れ抵抗は初期に急速に立ち上がり、その後ゆるやかに増加する(漸近型)か、直線的に増え続けます。

このカーブが得られれば、次の設計で使うべき汚れ係数が根拠を持って決まります。「次の定修まで2年運転するなら、r = 0.0004 まで見ておけばよい」という判断ができるわけです。同時に、洗浄すべき時期も見えてきます。

熱交換器の伝熱面積の求め方 熱交換器の伝熱面積の求め方【4ステップの計算例つき】

汚れを減らす実務的な手段

汚れ係数を大きく取ることは、汚れ対策ではありません。汚れることを前提に面積を積むだけです。本当の対策は別にあります。

① 流速を確保する

最も効果的です。付着物は流体のせん断力で剥ぎ取られるため、流速が高いほど汚れにくくなります。

冷却水をチューブ側に流す場合、1 m/s を下回らないようにするのが一般的な目安です。1.5 m/s 以上あればさらに安心です。

ただし上限もあります。流速が高すぎるとエロージョン(壊食)が起きます。材質によって許容流速が違い、銅合金は2 m/s 程度、ステンレス鋼は3〜4 m/s 程度が目安です。

② 汚れやすい流体をチューブ側に流す

チューブ側は流路が単純で、機械的清掃(ブラシや高圧水)ができます。シェル側は管束の外側なので、機械清掃が困難です。

汚れやすい流体はチューブ側に割り付けるのが原則です。

③ 壁面温度を管理する

析出汚れや化学反応汚れは壁面温度に強く依存します。加熱側の温度を下げる(高圧蒸気ではなく低圧蒸気を使う、など)ことで、汚れの進行を大幅に遅らせられる場合があります。

伝熱量が同じでも、大きな温度差で急速に加熱するより、小さな温度差で穏やかに加熱するほうが汚れにくい、ということです。

④ 清掃できる構造を選ぶ

汚れが避けられないなら、清掃しやすさで選びます。

U字管式は曲がり部の機械清掃ができません。汚れる流体をチューブ側に流すなら、直管の固定管板式か遊動頭式を選ぶ必要があります。

まとめ

・汚れ係数は熱抵抗[m2・K/W]として U の分母に足します。面積に余裕率を掛けるのとは意味が違います。

・汚れの種類によって機構が違います。析出汚れと化学反応汚れは壁面温度に強く依存します。

・U が大きい機器ほど汚れの影響が大きい。水 ─ 水では性能が半減することもあります。

・過大な汚れ係数は機器を大きくし、流速を下げ、かえって汚れを招きます。

・汚れ係数は「安全率」ではなく「予測値」。運転実績から逆算した値が最も信頼できます。

・本当の汚れ対策は、流速の確保、流体の割り付け、壁面温度の管理、清掃できる構造の選択です。

総括伝熱係数Uとは?求め方と計算例 総括伝熱係数Uとは?求め方と計算例【面積基準と律速側の見極め】 初学者におすすめの伝熱工学の参考書6選!

参考文献

  • 尾花英朗『熱交換器設計ハンドブック(増訂版)』工学図書、1974年(1994年 2版6刷)、第2部 伝熱概論 第9章「汚れ係数」 Amazonで見る
  • 吉田邦夫・吉田英生 監修『熱交換器ハンドブック』省エネルギーセンター、2005年、IV編 設備保全 1「水管理・洗浄」1.3 障害の発生機構と防止方法、1.5 熱交換器の設計汚れ係数と許容汚れ付着厚さ Amazonで見る
  • 日本機械学会『伝熱工学(JSMEテキストシリーズ)』日本機械学会、2023年、第7章「伝熱の応用と伝熱機器」 Amazonで見る