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2014年1月9日午後2時5分。三菱マテリアル四日市工場で、洗浄のために取り外した熱交換器が爆発しました。
死者5名、負傷者13名。運転中の設備ではありません。ラインから切り離し、1か月以上かけて安全処理をしたうえで、蓋を開けていた最中の事故です。
この事故の恐ろしさは、原因がここにあることです。
危険物を無害化するために行った処理が、途中で止まり、そのあと乾かされたことで、元より危険な物質を作っていました。
この記事の要点
- 熱交換器内の堆積物を無害化するため、20日間の加湿窒素ブローを行っていた
- その後、3日間の乾燥(ドライ窒素ブロー)を行った。これが決定的だった
- 加水分解生成物は打撃感度が跳ね上がり、爆発威力は元の5〜10倍。乾くほど強くなる
- 着火源は、蓋を開ける作業でフランジ面に生じた打撃と推定された
- 先に開けた下部の蓋で爆発しなかったのは、そこまで水分が届いていなかったから
本記事は、三菱マテリアルが公開している高純度多結晶シリコン製造施設 爆発火災事故調査報告(2014年8月29日)に基づいて整理しています。
1. 何が熱交換器に溜まっていたのか

この工場は、半導体やソーラーパネルの原料になる高純度多結晶シリコンを作っています。
反応炉の中では、シリコンを析出させる反応が約1,000℃で進みます。このとき、目的物のほかにクロロシランポリマー類という副生成物ができます。ケイ素と塩素と水素が連なった、分子量の大きい物質です。
これがガスとともに流れ、下流の熱交換器の中に溜まっていきます。
まず押さえるべきは、目的物ではない物質が装置内に溜まるということです。プロセスの設計者が意図した物質ではありません。それでも、開放するときに向き合うのは、この副生成物のほうです。
2. 無害化するための、正しい処理
クロロシランポリマー類は、水と反応して塩化水素と水素を出します。だから、そのまま蓋を開けると危険です。
そこで行われるのが加湿窒素ブロー――湿らせた窒素を流し、ポリマーの表面をあらかじめ加水分解しておく処理です。目的は報告書にこう書かれています。
「クロロシランポリマー類の表面を加水分解し、チャンネルカバー開放・洗浄時の塩化水素・水素の発生を抑制する目的」
考え方としては正しい処理です。問題は、この加水分解が「途中」で止まると何が残るかでした。
3. 実際に行われた処理の順序
| 時期 | 作業 |
| 2013年11月27日 | 熱交換器を製造ラインから切り離し、搬出 |
| 11月28日〜12月2日 | ドライ窒素ブロー |
| 12月3日〜12月27日(20日間) | 加湿窒素ブロー(表面を加水分解する処理) |
| 2014年1月6日〜8日(3日間) | ドライ窒素ブロー(=乾燥させた) |
| 1月9日 11:00〜12:40 | 下部チャンネルカバーの開放洗浄 → 爆発せず |
| 1月9日 13:40〜 | 上部チャンネルカバーの開放作業 |
| 1月9日 14:05頃 | 爆発・火災 |
ここに、この事故のすべてがあります。加水分解のあとに、乾燥させています。
4. 加水分解生成物のほうが、桁違いに危険だった
事故調査委員会は、実際に試験を行っています。その結果が衝撃的です。
| 性質 | クロロシラン ポリマー類 | その加水分解 生成物 |
| 打撃感度 | 低い(7級) | 高い(2級) |
| 爆発威力 (TNTに対する比率) | 小さい 1.3〜4.9% | 大きい 13〜28% |
| 熱感度 | 高い | 高い |
| 摩擦感度 | 低い(7級) | 低い(6級) |
無害化するはずの処理でできた物質のほうが、打撃に対してはるかに敏感で、爆発威力はおよそ5〜10倍でした。
さらに委員会は、条件による違いも突き止めました。
- 加水分解の温度が高いほど、爆発威力は下がる
- 加水分解生成物の乾燥が進むほど、爆発威力は上がる
- 窒素気流中でも爆発する(=酸素がなくても爆発する)
つまり、安全側に振るべき条件は「高温で加水分解し、湿ったまま保つ」でした。実際に行われたのは、その逆――低温で加水分解し、そのあと3日間乾燥させることです。
「窒素気流中でも爆発する」という点は特に重要です。可燃物と酸素と着火源、という燃焼の三要素で考える習慣があると、窒素置換すれば安全だと思ってしまいます。自己反応性物質には、その理屈が通じません。
5. 着火源は、蓋を開ける作業そのものだった
報告書が推定した発火源は、これです。
「開放作業時に発生したフランジ面での打撃」
特別な火気作業ではありません。蓋を開けるという、それだけの動作です。打撃感度が2級まで上がった物質にとっては、それで十分でした。
爆発で上部チャンネルカバーが飛翔し、作業者に衝突。4名がこれで亡くなりました。さらに爆風で飛ばされて1名が亡くなり、周辺にいた複数名が火傷・薬傷を負っています。
なぜ、下の蓋では爆発しなかったのか
同じ日の午前中、下部の蓋を開けたときには何も起きていません。この差の説明が、この事故の理解を決定づけます。
「加湿窒素ブロー処理の下流側だった下部チャンネルカバー部分に水分が到達せず、クロロシランポリマー類が加水分解されていなかった」
処理が届かなかった場所のほうが、安全でした。
下部は、加水分解されていなかったので爆発しなかった。上部は、加水分解され、そのあと乾かされたので爆発した。同じ装置の中で、処理のムラが危険性の差を作っていたことになります。
そして午前中に無事だったことが、午後の作業への安心につながった可能性は否定できません。
6. 報告書が挙げた間接要因
委員会はFT図を用いて、間接要因を整理しています。中心にあるのは「リスクアセスメントが不十分」でした。
| 要因 | 内容 |
| リスクアセスメントが不十分 | クロロシランポリマー類の加水分解生成物の解析が未実施。十分かつ正確な公知情報も不足していた |
| 作業標準類が不十分 | 記載事項・内容が不十分、審査・承認者が不適切、危険作業が不明確、手順の変更管理が不明確 |
| 教育が不十分 | 作業者・工事担当者・協力会社への教育不足、実作業との乖離、非定常作業指導書の運用方法が不明 |
| 安全管理体制が不十分 | ルール順守状況の確認が不十分、是正対策後のフォローアップが未規定 |
とくに「加水分解生成物の解析が未実施」という一点が重い。無害化処理でできる物質が何なのかを、調べていなかったということです。
公知情報が不足していたことも報告書は認めています。教科書にもSDSにも載っていない物質と、開放作業では向き合うことになります。
7. 自分の工場で確かめる6つのこと
- 装置内に溜まる副生成物が何か、把握していますか。それはSDSに載っている物質ですか
- 無害化処理でできる物質の危険性を、調べたことがありますか。処理後のほうが危険なことはありませんか
- その処理は、装置の隅々まで届いていますか。届いていない場所と届いた場所で、危険性は同じですか
- 「乾かす」工程が、危険側に働くことはありませんか。湿潤を保つべき残渣はありませんか
- 窒素置換すれば安全、と考えていませんか。その物質は自己反応性ではありませんか
- 開放作業は「危険作業」に分類されていますか。協力会社に危険性が伝わっていますか
2番目が、この事故の核心です。安全処理の効果は確認していても、その処理でできる物質の性質を調べている現場は多くありません。
まとめ
- 2014年1月9日、三菱マテリアル四日市工場で、洗浄のため取り外した熱交換器が開放作業中に爆発。死者5名、負傷13名
- 20日間の加湿窒素ブローで加水分解したあと、3日間の乾燥を行っていた
- 加水分解生成物は、元のポリマーより打撃感度が高く(7級→2級)、爆発威力は5〜10倍
- 安全側の条件は「高温で加水分解し、湿潤を保つ」。行われたのはその逆だった
- 着火源は蓋を開ける際のフランジ面の打撃。特別な火気作業ではなかった
この事故が突きつけるのは、「安全にするための操作が、本当に安全側に働いているか」という問いです。中間状態のほうが危険な物質は、実在します。
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入槽・開放作業の準備で「乾かす」ことがなぜ危険側に働くかは、こちらで扱っています。
9年後、別の会社で、同じ「乾燥させたことで危険になった」事故が起きています。
プロセス安全の全体地図
この記事は「プロセス安全・防災」カテゴリの1本です。約100本を6つの領域に整理した地図と、立場・目的別の読む順は、こちらにまとめています。
参考文献
- 三菱マテリアル株式会社 電子材料事業カンパニー「高純度多結晶シリコン製造施設 爆発火災事故調査報告」(2014年8月29日、PDF) ※本記事の事実関係、試験結果、間接要因の記述はすべて本報告によります
- 三菱マテリアル「四日市工場爆発火災事故に関する事故調査委員会最終報告について」(2014年6月12日)
- 安全工学会 監修『実践・安全工学シリーズ1「物質安全の基礎」』化学工業日報社、2012年
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