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2012年 シェブロン・リッチモンド製油所 配管破裂・火災|検査点は、エルボにあった

※本記事の参考文献には、Amazonアソシエイトのリンク(アフィリエイト広告)を含みます。

2012年8月6日、米国カリフォルニア州のシェブロン・リッチモンド製油所で、配管が破裂して火災になりました。

発端は、1分間に約40滴の滴下です。

そして最終的に、19名が蒸気雲に飲み込まれ、周辺住民のうち約15,000名が医療機関を受診することになります。

この事故がプロセス安全の教材として重いのは、シェブロン自身のマニュアルに答えが書いてあったからです。

この記事の要点

  • 硫化腐食はピンホールではなく、破裂になる
  • 炭素鋼のシリコン含有量で、腐食速度が最大16倍変わる
  • 検査点はエルボに置かれる。エルボはシリコンが高い。だから見逃す
  • 破断した部材のSiは0.01%、隣のエルボは0.16%だった
  • 一部の消防士は、配管温度を約130°Fだと思っていた(実際は640°F)

1. 何が起きたのか

40滴/分

時刻起きたこと
15:50頃オペレーターが床上に直径18インチの液だまりを発見。頭上14フィートの保温材付き配管から断続的な滴下
直後滴下は約40滴/分。保温材があるため漏えい箇所を特定できない
16:00過ぎ製油所の消防隊を要請(漏えい発見時の通常慣行)
16:07頃消防隊到着。20フィート×20フィートのホットゾーンを設定。その外はコールドゾーン
最終的に計40名が漏えい箇所に集結
検査員が「2か月前のデータでは、2016年の次回ターンアラウンドまで持つ肉厚がある」と説明。一同は局所的な原因だと考える
保温材を剥がして原因を特定すると決定。足場を組む
外装を撤去すると白い炭化水素蒸気が発生。高温の炭化水素が染みた保温材が、酸素に触れて自然発火
硬い直射水流で保温材を叩き落とす漏えいが著しく悪化、炭化水素が噴出
蒸気雲が急拡大し、ホットゾーンとコールドゾーン双方にいた19名を飲み込む。視界ゼロ
18:30頃着火。18名は直前に脱出。1名は消防車内で火球に包まれたが、防火装備で脱出
18:38地域警報レベル3。3市に屋内退避勧告
23:12火災が制御下に。屋内退避解除

注目してほしいのは、コールドゾーンにいた人まで蒸気雲に飲み込まれたことです。安全な区域として設定されていた場所です。

被害

項目内容
死者0名。蒸気雲に飲み込まれた19名は全員脱出
負傷従業員6名が軽傷
周辺住民事故後数週間で、約15,000名が近隣医療機関を受診(呼吸困難、胸痛、息切れ、咽頭痛、頭痛)。うち約20名が入院
設備原油ユニットは8か月以上経っても停止したまま
行政Cal/OSHA が本件関連17件+追加8件の指摘。提案罰金は約100万ドル

2. 硫化腐食 ― ピンホールではなく、破裂になる

破裂したのは、1976年設置の8インチ炭素鋼配管でした。

項目
材質・規格炭素鋼 ASTM A53B、Schedule 40
初期公称肉厚0.322インチ
運転温度640°F(約338℃)
運転圧力(破断部)約55 psig
流体軽油留分(沸点範囲 401〜653°F)
その流体の自然発火温度640°F(=運転温度と同じ)

最後の行が効いてきます。この配管から漏れた液は、大気に触れれば発火しうる温度にありました。実際、保温材を剥がした際に自然発火が起きています。

シェブロン自身のマニュアルに、書いてあった

CSB報告書は、シェブロン社の『腐食防止・冶金マニュアル』からこう引用しています。

「硫化腐食は製油業界で深刻な火災と死亡事故を引き起こしてきた。主な理由は、比較的広い面積にわたって腐食が進むため、破損がピンホール漏れではなく破裂や大規模漏えいの形をとりやすいことにある。中程度に高い腐食速度が、破損まで何年も検知されないという点で、陰湿でもある。」

――シェブロン社内マニュアル(CSB報告書による引用)

「ピンホールではなく破裂になる」。これが分かっていれば、当日の判断は変わったはずです。

けれども現場は、40滴/分の滴下を局所的な原因(配管サポートによる摩耗など)と考え、クランプで止める案を検討し、保温材を剥がしにいきました。

事故後にシェブロンが作った漏えい対応プロトコルには、こう書かれることになります。硫化腐食による全面薄肉化では、配管にクランプを支持できる構造健全性がないため、クランプは有効な解決策ではない――と。

3. なぜ、そこだけが薄くなったのか

硫化腐食は、450°F〜1,000°Fの温度域で硫黄化合物と鉄が反応して起こる薄肉化です。原油にはほぼ必ず硫黄化合物が含まれるため、「原油を処理するすべての製油所に存在する損傷機構」だとCSBは述べています。

問題は、その速度が同じ配管の中でも大きく変わることです。

シリコン0.10%という境目

シリコン含有量が0.10重量%未満の炭素鋼配管は、それ以上を含むものに比べ、最大16倍の速さで腐食しうる。

――API RP 939-C(CSB報告書による引用)

そして規格の話になります。

規格最低シリコン含有量
ASTM A53B(破断した配管)規定なし
API 5L規定なし
ASTM A106最低 0.10 wt% を要求

1980年代半ばから、製造者は3規格を同時に満たすようになりました。以降の配管は概ね0.10%以上あります。

問題は、その前です。CSBは書いています。「米国の144製油所のうち95%超が、1985年以前に建設されている。」

同じ回路の中で、0.01%と0.16%

事故後、CSBは同じ回路から12サンプルを採取して分析しました。シリコン含有量は0.01〜0.2 wt%に分布し、6本が0.10%未満でした。

部材シリコン状態
破断した52インチ部材0.01 wt%元の肉厚の約90%を喪失
その直上流のエルボ0.16 wt%薄肉化ははるかに軽微

初期の公称肉厚は、どちらも同じ0.322インチ。隣り合った部材で、これだけ差がつきました。

破断部近傍の平均肉厚は、報告書の表現を借りると「10セント硬貨より約40%薄かった」

進行のしかたも記録されています。1976年から2002年までの26年間で約33%を失い、2002年から2012年までの10年間でさらに57%を失いました。抜出温度は1992年の625°Fから2002年に680°Fへ上がり、硫黄含有量も増えていました。

4. サンプリング検査が、原理的に見逃す構造

ここが、この事故のいちばん怖いところです。

肉厚測定は、配管の全長ではなくCML(検査点)と呼ばれる限られた箇所で行います。そしてCSBは、こう指摘します。

  • CMLは、たいていエルボや継手に置かれる。乱流が強く、金属損失が最も速いと考えられているから
  • しかし製造工程の都合上、炭素鋼のエルボや継手は、ASTM A53Bで作られたものでも一般にシリコンが比較的高い
  • したがって高シリコンの継手でだけ測っていると、低シリコンの直管部で進んでいる高い腐食速度を検出できない

ここには、暗黙の前提があります。「腐食は回路全体でだいたい同じ速度で進む」――多くの損傷機構ではその通りで、だからサンプリング検査が成り立ちます。しかしシリコンにばらつきのある古い炭素鋼では、この前提が崩れます。そして手法自体が、その前提の上に建っています。

破断した部材には、検査点がなかった

この8インチ配管には、計19個のCMLがありました。歴史的に、その大半は高シリコンのエルボ等の継手部に置かれていました。

破断した52インチ部材には、CMLが置かれていませんでした。隣接する上流のエルボには、置かれていました。

しかも――2002年の補足的な検査で、この52インチ部材の腐食は一度発見されていました。その時点で、元の肉厚の約3分の1を失っていました。

ところが、CSBはこう記しています。

「検査結果は、検査データベースのCML管理部分に入力されず、新しいCMLの追加も要求されなかった。(中略)その結果、52インチ部材が再び検査されることは二度となかった。」

記録として残ったのは、検査データベース内のメモ1件だけでした。

見つけていたのに、追跡対象にならなかった。10年後、その部材が破裂しました。

5. 基準の引き下げ

もう1つ、重い事実があります。

2011年のターンアラウンド時、この配管は0.14インチという社内の警戒肉厚を、2016年の次回ターンアラウンド前に下回ると予測されました。

そこで何が起きたか。

数値
初期公称肉厚0.322インチ
社内の警戒肉厚(当初)0.14インチ
引き下げ後0.1インチ
引き下げの根拠にされた値0.036インチ(回路内の小部材について算出した最小構造肉厚を、回路全長に適用)
API RP 574 の既定値0.11インチ(6〜18インチ配管)

CSBの評価です。「シェブロンがAPI RP 574の既定値を用いていれば、この配管回路の残存寿命は10年未満と予測され、ターンアラウンド計画グループでの議論が起動されるべきであった。(中略)2012年8月6日の配管破裂は防げた可能性がある。」

そして、シェブロンは最小肉厚値を変更する前に、正式な複数名のレビュープロセスを要求していませんでした。

これは「数値を1人で書き換えられる」という変更管理の問題です。設備は何も変わっていないのに、判定基準が動いた。図面にも現れず、現場からも見えません。

なお同じ2011年のターンアラウンドで、12インチ側の同じ回路は薄肉化のため大部分が交換されていました。同一規格・同一流体・類似条件の8インチ側が同様に薄い可能性は、考慮されませんでした。

3年前に、社内から勧告が出ていた

シェブロンの社内技術組織は、事故の約3年前(2009年9月)に硫化腐食による破損防止のための検査戦略を発行していました。

この4-sidecut配管は、100%部材検査の最優先ランクに該当していました。しかし実施されませんでした。

CSBが挙げる理由は、組織の構造そのものです。

  • ターンアラウンドの作業範囲は判定基準文書で自動的に採否が決まる。この検査戦略は、基準外の作業を正当化する有効な根拠とは見なされなかった
  • 非公式の上申ルートは存在したが、勧告を出した検査・冶金スタッフは一度も試みなかった
  • この戦略をターンアラウンド範囲に含めることを保証する責任者が、上位管理職に一人も指名されていなかった
  • 結果として実施責任のすべてが、決定権も予算権限も持たない下位の従業員に置かれた

正しい技術判断が社内で出ていて、文書にもなっていて、それでも実行されなかった。「誰が実行に責任を持つか」が決まっていなかったからです。

6. 当日の対応 ― 温度が伝わっていなかった

緊急対応の側にも、はっきりした指摘があります。

「一部の消防士は、その配管が約130°Fで運転されていると考えていた。実際には640°Fに近い温度だった。」

――CSB報告書(Finding 19)

実際の温度を知っていれば、高温配管に積極的に手を出すことの危険性を、誰かが指摘していた可能性が高い――CSBはそう述べています。

他にも、指揮体制の問題が並びます。

指摘結果
損傷機構を特定できる技術専門性が、指揮系統に取り込まれなかった漏えいを悪化させる行動が指示された
破裂の可能性を考慮しない狭いホットゾーン設定コールドゾーンにいた人と機材が、蒸気雲に飲み込まれた
保温材撤去に不安を感じた者、停止を提案した者がいた誰も正式に作業停止権限を行使しなかった
事故当日、漏えい対応の正式プロトコルが存在しなかったクランプ案・保温材剥離・放水という判断につながった

3行目について、CSBは背景も記しています。2008〜2010年の社内安全文化調査で、作業停止権限を行使する意欲が低下していたと。

7. CSBの結論と勧告

CSBはこの事故について、技術・組織・緊急対応・安全文化・業界規格・規制の6分野、計26項目の所見をまとめました。

安全文化については、明示的に「寄与原因」という言葉が使われています。

  • 危険な漏えいがあってもユニットの運転継続を促す意思決定
  • 従業員の作業停止権限の行使への消極性
  • 標準以下の設備保全慣行

そして技術的な結論として、本質安全設計に言及しています。

「低シリコン炭素鋼配管の硫化腐食による破損を、管理階層の下位にある手続的防護である検査のみで防ぐことは難しい。」クロムを9重量%以上含む鋼は硫化腐食に強く、同一回路内で腐食速度が極端にばらつくという危険をもたらしません。

検査を頑張るのではなく、材質を変える。これがCSBの示した方向です。

勧告は、主にAPI(米国石油協会)に向けられました。RP 939-C、RP 571、570、RP 578、RP 574、RP 2001――計6件の規格改訂です。シェブロンには、勧告却下の監査可能なプロセスと、最小肉厚値を下げる前の技術レビュー承認プロセスが求められました。

8. 自分の工場で確かめる5つのこと

  • 検査点は、エルボ・継手に偏っていませんか。直管部の測定は何点ありますか
  • 過去に「補足検査で見つけた薄い箇所」が、恒久的な検査点として登録されていますか。
  • 判定に使う最小肉厚を、誰がどう決めていますか。下げるとき、複数名のレビューがありますか
  • 同じ回路の一部を交換したとき、残りの部分も同様に薄い可能性を検討しましたか。
  • 漏えい対応の場に、配管の実際の運転温度と損傷機構が伝わる仕組みがありますか。

まとめ

  • 硫化腐食はピンホールではなく破裂になる。社内マニュアルに書いてあった
  • シリコン0.10%を境に、腐食速度が最大16倍変わる
  • 検査点はエルボに置かれ、エルボはシリコンが高い。だから直管部を見逃す
  • 2002年に見つけていたのに、追跡対象にならなかった
  • 判定基準を下げるのに、複数名のレビューがなかった

「検査で守る」という発想の限界を、これほどはっきり示した事故はそう多くありません。サンプリングは、母集団が均一であることを前提にしています。その前提を疑うところから始める必要があります。

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参考文献

※本記事中の事実関係・数値・引用は、上記CSB報告書の記述に基づいています。日本語訳は筆者によるものです。着火時刻および社内警戒肉厚の値は報告書内に若干の表記差があり、本記事では本文側の記述を採用しています。