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ウォーターハンマーと過渡現象|ポンプ停止・逆止弁・起動時の充填

ウォーターハンマーと過渡現象のアイキャッチ

※本記事の参考文献には、Amazonアソシエイトのリンク(アフィリエイト広告)を含みます。

弁を閉めた瞬間やポンプが停電で止まった直後に、配管から「ドン」という大きな音がする。圧力計の指針が振り切れ、配管が揺れ、しばらくしてフランジから漏れが見つかる。こうした現象の多くはウォーターハンマー(水撃)です。

配管の口径、圧力損失、肉厚は、ふつう流れが落ち着いた定常状態で計算します。ところがウォーターハンマーの圧力は、流速が急に変わる数秒、あるいは1秒に満たない間にだけ現れます。定常の計算書には出てこないのに、その値は運転圧力の何倍にもなることがあります。

この記事では、ポンプの停止・起動と逆止弁で起きるウォーターハンマーを中心に、仕組み、圧力の大きさ、対策を説明します。伝播速度や閉止時間からの詳しい計算は「ウォーターハンマーの計算」、蒸気配管のハンマは「蒸気・ドレン配管とスチームトラップ」で扱います。

この記事の結論

  • ウォーターハンマーは、流速の急変が圧力波となって配管内を音速で往復する現象です。定常の圧力損失計算には現れません。
  • 流速 V を瞬時に止めたときの圧力上昇は ΔP = ρaV。水と鋼管なら a は約1,300 m/s で、2 m/s を止めるだけで約2.6 MPa になります。
  • 弁の閉止時間 T が往復時間 2L/a 以下なら、どれだけ「ゆっくり」閉めたつもりでも急閉と同じ最大圧力が出ます。 2L/a より長くするほど圧力上昇は小さくなります。
  • ポンプ停止ではまず負圧が来ます。 蒸気圧まで下がると水柱が切れ、戻って再結合するときに大きな衝撃圧が出ます。
  • 逆止弁のスラムは、弁が閉じ切る瞬間の逆流速度で決まります。 閉止が遅い弁ほど逆流が育ち、着座で急停止させます。

1. ウォーターハンマーは流速の急変が圧力波になる現象

ウォーターハンマーは、流体の運動量が急に変わったときに生じる圧力波が、管内の流体中を音速で伝わる現象です。圧力は波の前後で階段のように一段変わります。原因は大きく2つに分けられます。

  • 動いている液を急に止める、または急に減速させる:弁の急閉、逆止弁の着座、流れている液が閉じた弁にぶつかる
  • 管内の空間がつぶれて、両側の液柱がぶつかる:ポンプ停止後の水柱分離と再結合、蒸気の泡が凝縮してつぶれるハンマ

タンクから水平に出た長さ L の配管の末端で、弁を一瞬で閉じた場合を考えます。弁に接した液が止まると、その運動エネルギーが圧力に変わり、圧力が上がった領域が伝播速度 a で上流へ広がっていきます。t = L/a で圧力波はタンクに届き、このとき管内の液は全部止まって、全長にわたって圧力が高い状態になります。

タンクの液面の圧力は変わらないので、圧力波はタンクで反射し、今度は圧力を元に戻しながら弁へ向かって戻ってきます。この戻りの波が弁に着くのが t = 2L/a です。2L/a は、圧力波が弁とタンクの間を1往復する時間で、以降の説明はすべてこの時間が基準になります。

弁を急閉したときの圧力波:弁で生じた ρaV の圧力波が上流のタンクで反射し、往復時間 2L/a で弁に戻る

圧力波は、管路の端、分岐、閉じた弁、液の自由表面で反射し、重なりながら減衰していきます。同じ配管でも、どこで反射するかによって圧力の最大値と、それが現れる位置が変わります。

2. 圧力上昇の大きさは ΔP=ρaV と往復時間 2L/a で決まる

流速 V の液を瞬時に止めたときの圧力上昇は、ジューコフスキーの式 ΔP = ρ a V で求めます。ρ は液の密度、a は圧力波の伝播速度です。プラントの鋼管と水なら a は約1,300 m/s で、2 m/s を止めるだけで約2.6 MPa になります。

弁の閉止時間 T が往復時間 2L/a 以下なら、ゆっくり閉めたつもりでも急閉と同じ最大値が出ます。T が 2L/a より長いと、戻ってきた反射波が打ち消し合い、圧力上昇はおよそ閉止時間に反比例して小さくなります。

閉止時間と圧力上昇:閉止時間が往復時間 2L/a 以下なら急閉と同じ ρaV が出て、それより長いと閉止時間にほぼ反比例して小さくなる

たとえば100A の鋼管で長さ600 m なら、2L/a は約0.9秒です。1秒で閉じるとほぼ急閉と同じ約2.4 MPa になり、0.3 MPa 以下に抑えるには流れを止める区間で8秒以上かけます。分岐や複数のポンプがある系、水柱分離が起こりうる系では、圧力波を時間ごとに追う過渡解析で確かめます。

伝播速度の見積り方、緩閉の式、計算例、設計レビューの確認項目は「ウォーターハンマーの計算」で詳しく説明しています。

3. ポンプ停止では負圧が先に来る ― 水柱分離と再結合

停電やトリップでポンプが急に止まると、ポンプ吐出口の近くでは流速が急に落ちますが、管の先の方の液は慣性で流れ続けようとします。その結果、ポンプ吐出側には負の圧力波が生じ、下流へ伝わります。 ポンプの揚程が失われるので、圧力はさらに下がります。吸込側では逆に、ポンプ入口で液が減速するため正の圧力波が生じます。

吐出側の負の波と吸込側の正の波は、それぞれ吐出槽・吸込槽で反射し、ポンプ内も通り抜けて重なり合います。重なった圧力が液の蒸気圧以下になると、液がフラッシュして水柱が切れます。 これが水柱分離(液柱分離)です。切れてできた空間は負圧なので、液柱はやがて引き戻されて再結合し、そのときの衝突で大きな圧力上昇が出ます。

ポンプ停止時の圧力変化:停止直後に圧力が下がり、蒸気圧まで下がると水柱が切れ、再結合の瞬間に大きな衝撃圧が来る

ポンプ停止のハンマで大切なのは、次の2点です。

  • 「ドン」はポンプが止まった瞬間ではなく、少し遅れて来ることがある。水柱が切れてから戻ってくるまで時間がかかるためです
  • 最初に起きているのは圧力の低下。圧力計や記録計が最大値しか見ていないと、原因である負圧を見逃します

どこで水柱が切れやすいかは、配管の高さで決まります。同じ配管でも、低い位置ほど静圧が高いので水柱分離は起こりにくく、ポンプ直後や、途中で持ち上がった高所が危険な場所になります。吐出配管のルートを決める段階で、長い上り勾配の先に高所を作らないかを確認します。

流速 2.0 m/s の流れが瞬時に止まるとすると、圧力は上の計算例と同じ約2.6 MPa 下がります。実際のポンプは回転の慣性で少しずつ減速するので、変化はこれより緩やかです。それでも、運転中の吐出圧力が約2.6 MPa より低い系では、計算上は蒸気圧まで下がりうると考えて検討します。

ポンプ側の対策としては、フライホイールで回転の慣性を大きくして停止時の減速を緩やかにする方法があります。吸込配管やポンプの運転・停止手順との関係はポンプまわりの配管レイアウト、ポンプの始動・停止・切換えを参照してください。

4. 逆止弁のスラムは「閉じる前の逆流」で決まる

ポンプ吐出の逆止弁は、停止後の逆流と逆回転を防ぐために付けます。ところが、一般的な逆止弁は逆流が始まってから、その流れに押されて弁体が閉じる構造です。逆流が始まってから閉じ切るまでの時間差の間に逆流が育ち、弁体が着座した瞬間にその逆流を急に止めます。 これが逆止弁のスラム(チェックバルブスラム)で、逆止弁自体がウォーターハンマーの発生源になります。

逆止弁のスラム:ポンプ停止後に逆流が育ってから弁が閉じると、着座時の逆流速度 Vr に比例した ρaVr の圧力上昇が出る

着座の瞬間に止められる逆流速度を Vr とすると、そのときの圧力上昇はジューコフスキーの式で ρaVr です。100A の鋼管で水なら、逆流がわずか0.3 m/s まで育ってから閉じるだけで、約0.4 MPa の圧力上昇になります。

着座時の逆流速度 Vr圧力上昇 ρaVr(a = 1,317 m/s)
0.1 m/s約0.13 MPa
0.3 m/s約0.40 MPa
0.5 m/s約0.66 MPa

形式による傾向は次のとおりです。

  • スイング式:弁体がアームで大きな円弧を描いて閉じるため、閉止が遅れやすく、スラムを起こしやすい
  • チルチング式:回転軸を弁体中心に近づけて、閉止時間を短くした形式
  • ばね内蔵の衝撃吸収式(ばね付きリフト式、デュアルプレート式など):ばねで、流れが止まりしだい逆流が始まる前から閉じ始めるようにした形式

一方で、長い吐出管などでは、逆流が始まったらゆっくり閉じて、逆流をある程度逃がしながら圧力上昇を抑える緩閉逆止弁を使う方法もあります。速く閉じる弁と遅く閉じる弁のどちらが合うかは、ポンプ停止後に流れがどれだけ速く逆転するかで決まり、一般には決められません。形式ごとの動き方、最低流量、閉止前の逆流と閉止後の漏れの違いは逆止弁の選び方で詳しく説明しています。

5. 空配管の充填とポンプ起動でも起きる

ウォーターハンマーは停止のときだけではありません。ポンプ吐出管が空の状態でポンプを起動すると、液が勢いよく空の管を突進し、逆止弁や止め弁にぶつかります。弁から空気が一気に抜けた瞬間に、液柱が弁体に衝突するのが典型的な形です。小口径なら音と衝撃で済んでも、大口径では液の運動量が大きく、装置を壊すことがあります。

空の吐出管で起動すると、空気が抜けた瞬間に液柱が弁を打つ:液は空の管を加速して進み、弁から空気が一気に抜けると液柱が弁体に衝突する。主弁を閉じて小口径ベントから少しずつ抜く

対策は、起動時に吐出部に空間を作らないことです。

  • 配管ルートと弁の位置を、起動時に空間が残らないように決める
  • ポンプ吐出部に水張りの設備を設ける
  • 主管の弁は閉じておき、小口径のエアベントから抜ける空気の量を超えて液が空洞部に入らないようにしてからポンプを起動する

垂直のU字管のように、弁の向こうに水頭差のある水柱が待っている配管でも、主弁を開けた瞬間に水柱が弁へ衝突します。主弁の前に小さな弁を開けて、空気を少しずつ逃がしてから主弁を開けます。高点のベントと充填手順はベント・ドレン・勾配の設計も参照してください。試験後の充填・昇圧・ドレン抜きの段取りは配管の試運転と立上げで解説しています。

6. 対策の選び方 ― 閉止時間・逆止弁・フライホイール・サージタンク・空気弁

ウォーターハンマーの対策は、「配管を丈夫にする」だけではありません。圧力上昇の式 ρaΔV と、急閉・緩閉の境目 2L/a を見ると、効く手段は「流速の変化 ΔV を小さくする」「変化にかける時間を長くする」「圧力の変化を吸収する」の3つに分けられます。

ハンマ対策は付ける場所で効き方が違う:管径・フライホイール・逆止弁・サージタンク・逃し弁・空気弁・弁の閉止時間を、ポンプから送液先までの位置に示す
対策何に効くか注意点
流速を下げる(管径を上げる)ΔV そのものを小さくする。ハンマが予想される吐出配管では流速を1 m/s 程度に抑える例がある管径・コストが増える
弁の閉止時間を長くする、閉止速度を決めて管理するT > 2L/a にして反射波で打ち消す有効な閉止時間で考える。緊急遮断弁は閉止の速さとの両立が必要
ポンプのフライホイール効果を大きくする停止時の減速を緩やかにし、ΔV の時間変化を小さくする起動時間・モータ負荷が変わる
逆止弁の形式を選ぶ(ばね内蔵・短行程、緩閉)着座時の逆流速度 Vr を小さくする、または逆流を逃がして圧力上昇を抑える系の減速の速さに合わせて選ぶ
サージタンク・空気室(アキュムレータ)圧力の上昇と低下を吸収し、水柱分離を緩和する設置位置と容量の検討が要る
空気弁負圧になったら空気を吸い込ませ、水柱分離を防ぐ空気が混ざってよい液か、可燃性雰囲気にならないかを確認する
自動圧力調節弁(逃し)圧力上昇時に自動で開いて液を逃がす逃がし先の容量と安全

対策同士がぶつかることもあります。たとえば緊急遮断弁は、速く閉じるほど遮断の目的にかないます。一方、液を長い距離送る高い圧力の配管では、速く閉じるほど水撃が大きくなります。緊急遮断弁の閉止速度は、水撃が起きない速さに決めます。空気弁は負圧を抑えますが、空気を入れてよい流体かどうかはプロセス側の判断です。ハンマ対策はプロセス安全の検討と一体で決めます。

蒸気配管の「ガン」という打撃は、液柱を止めるウォーターハンマーとは仕組みが違い、ドレンの塊や蒸気の凝縮が原因です。勾配、ドレンポット、暖機と弁の開け方は「蒸気・ドレン配管とスチームトラップ」で説明しています。

7. 製造・保全で確認すること

  1. 弁の閉止時間:自動弁のストローク時間が設計値から短くなっていないか。手動弁の操作手順に閉止速度の指示があるか
  2. 停止・トリップ時の記録:ポンプ停止や弁操作の直後に、圧力の急上昇だけでなく急低下が記録されていないか。記録計のサンプリングが遅すぎて波形を取り逃がしていないか
  3. 逆止弁:停止時の「ドン」、ポンプの逆回転、ヒンジピン・アーム・シートの摩耗や打痕
  4. 衝撃の痕跡:サポートの変形・ずれ、アンカーのボルトの緩み、フランジ・ガスケット・計装導圧管からの漏れ(疲労割れや継手の破損の見分け方は配管はどう壊れるか)

ハンマが起きたときの初動

  1. 人身の安全と漏れを確認する。高温・高圧・危険物の配管には、遠隔の指示を確認してから近づく
  2. 設備の手順に従い、必要ならポンプや関連設備を安全に止める
  3. 弁を反射的に急開・急閉しない。ポンプの再起動も繰り返さない(空配管や水柱が切れた状態を悪化させる)
  4. トリップの時刻、弁の指令と実開度、圧力・流量・液面のトレンドを保存する
  5. 圧力が落ち着いても、サポート、アンカー、フランジ、逆止弁の内部、計装配管の損傷を点検してから運転を戻す

ハンマの音は、弁体の着座音、熱による配管の伸び、キャビテーション、二相流、サポートのがたなどでも出ます。音だけで決めず、発生した時刻を弁の操作やポンプの停止と照らし合わせます。運転中に定常的に揺れ続けている配管の原因の切り分けは配管振動の原因を切り分けるで扱っています。

まとめ

  • 停止のハンマは、圧力の最大値だけでなく停止直後の圧力低下も記録して確かめる
  • 空の吐出管のままポンプを起動しない。吐出部を液で満たし、空気を少しずつ逃がしてから起動する
  • ハンマが起きたら、弁を反射的に急開・急閉せず、ポンプの再起動も繰り返さない

打撃音や揺れなどの症状から原因を絞り込むときは、配管トラブルの逆引きも使えます。

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参考文献

  • 西野悠司『絵とき「配管技術」基礎のきそ』日刊工業新聞社, 5-6「ウォータハンマ」(式(5-21)〜(5-25)、図5-21〜図5-25) Amazonで見る
  • 西野悠司『「配管設計」実用ノート』日刊工業新聞社, 8.6「流速の急変で起こるウォータハンマ」、10.6「逆止弁のエッセンス」 Amazonで見る
  • 西野悠司『そうか!わかった!プラント配管の原理としくみ』日刊工業新聞社, 7.2「プラントの性能と機能・安全を満たす配管」、9.6「逆止弁のしくみ」 Amazonで見る
  • 高橋徹『流体のエネルギーと流体機械』理工学社, 1・6「流れとエネルギー損失」4「水撃」(式(1・76)、式(1・77)) Amazonで見る
  • 小岩井隆『絵とき「バルブ」基礎のきそ』日刊工業新聞社, 第4章 4-3(逆止め弁)、第9章(ウォータ/スチームハンマ) Amazonで見る
  • 化学工学協会編『プロセス機器構造設計シリーズ3 配管』丸善, 5「配管の振動」5・2(図5・5)
  • 高圧ガス保安協会『高圧ガス保安技術』学識編 11.5「圧縮機とポンプ」(6)水撃作用、保安管理技術編 3.2.6「バルブの操作」
  • 安全工学会監修、新井充ほか編『実践・安全工学シリーズ2 プロセス安全の基礎』化学工業日報社, 3-2「水や空気の危険性」
  • 化学工学協会編『化学プラント建設技術(中)』8「化学プラントの配管工事」8・6
化学プラントニュース―週報と事故速報をわかりやすく紹介するnoteマガジン PLANT NEWS ON NOTE 化学プラントニュース 化学・石油プラントの重要ニュースを、毎週の週報と事故速報でお届けします。現場で押さえたい動きを、わかりやすく整理します。 noteで最新ニュースを読む