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分解点検に立ち会うと、ポンプはケーシング・羽根車・軸・軸受・軸封に分かれ、そのすき間に「リング」と「スリーブ」が出てきます。部品表を眺めても、なぜそこにその部品があるのかは書いてありません。
遠心ポンプの部品は、「摩耗する場所を安い部品に肩代わりさせる」「軸に働く力を打ち消す」という2つの考えで並んでいます。この記事では、液が入って出ていく順に部品を追い、それぞれの役割と、点検で何を見るかをまとめます。
この記事の結論
- ケーシングは「液を集めて速度を圧力に変える」通路。渦巻(ボリュート)は1個か2個、ディフューザは羽根車の翼数±1個の通路
- 羽根車は液質で形が変わる。清浄液=クローズド、スラリー=オープン、紐や布が混じる=無閉塞形
- ライナリングと軸スリーブは「わざと摩耗させる部品」。ケーシングや主軸を守り、摩耗したらそれだけ交換する
- ライナリングのすき間が設計値の最大の2倍になったら交換の目安。すき間が広がると吐出し量と揚程が徐々に落ちる
- 羽根車の穴(バランスホール)や裏羽根は、軸方向に押す力を打ち消して軸受を守るためにある
1. 液の通り道|ケーシングの3つの形

ケーシングには吸込口と吐出し口があり、中に羽根車が収まっています。羽根車が液に速度を与え、ケーシングの通路でその速度を圧力に変えます。通路の形で3種類あります。
| 形 | 特徴 | 使われる場所と働き |
| シングルボリュート | 羽根車の外周に「かたつむり」形の渦巻通路が1個 | 汎用の片吸込渦巻ポンプ。いちばん多い |
| ダブルボリュート | 渦巻通路が180°対称に2個 | 中〜大形(目安:全揚程200 m以上、または吸込口径200 mm以上の単段)。羽根車を押す半径方向の力(ラジアルスラスト)をシングルの4分の1程度に減らす |
| ディフューザ | 羽根車の外周に案内羽根の通路が多数。数は翼数±1が普通 | 多段ポンプ、高揚程。効率よく圧力に変える |
シングルボリュートでは、羽根車を半径方向に押す力(ラジアルスラスト)が最高効率点ではほぼ0で、流量を絞るほど大きくなり、締切で最大になります。小流量で長く運転すると軸がたわみ、軸封や軸受に効いてきます。ダブルボリュートはこの力をシングルの4分の1程度に、ディフューザは5%程度に減らします。

2. 羽根車|液質で形が決まる
羽根車は主軸に固定されて一体で回り、液にエネルギーを与える主役です。形は取り扱う液で選ばれます。

- クローズド形:主板と側板で翼を挟んだ形。清浄な液で効率がいちばん高い
- オープン形:側板がなく翼がむき出し。スラリーなど摩耗成分を含む液。すき間を調整して性能を保つ
- 無閉塞形(ノンクロッグ):翼の数を減らして通路を大きくした形。ビニール紐や布きれなど、詰まる異物が混じる液。ボルテックスポンプは無閉塞形の羽根車で渦をつくり、異物が羽根車に届く前に吐き出す
片吸込か両吸込かも運転に効きます。両吸込は液が両側から入るので軸方向の力がつり合い、同じ流量なら片吸込より必要NPSHを下げられます。 吸込条件の厳しいポンプに両吸込が選ばれるのはこのためです。
3. なぜ羽根車に穴が開いているのか|アキシャルスラスト
片吸込の羽根車は、吸込側の面と背面で受ける圧力が違うので、軸方向に押される力(アキシャルスラスト)が生まれます。放っておくとスラスト軸受がこの力を全部受けて寿命が縮むので、羽根車側で減らします。主板の穴(バランスホール)で背面の液を吸込側へ逃がす、主板の裏の羽根(裏羽根)で背面の圧力を下げる、多段ポンプでは羽根車を背面合わせに並べる、吸込圧力が高いときは主板側のライナをなくす(片ライナ)、といった方法があります。

分解で羽根車に穴が開いていたら、それは「軸受を守るための穴」です。塞いではいけません。異物で詰まっていれば軸受の過熱の原因になります。仕組みの詳細は「アキシャルスラストとは」で扱います。
4. ライナリングとインペラリング|わざと摩耗させる部品
羽根車の出口で高圧になった液は、羽根車とケーシングのすき間を通って吸込側に戻ろうとします(還流)。この戻りを減らすために、ケーシング側にライナリング、羽根車側にインペラリングを付けて、狭いすき間をつくります。
すき間を流れる液は速く、リングはよく摩耗します。もしリングがなくてケーシングと羽根車が直接すき間をつくっていたら、摩耗したときにケーシングや羽根車そのものを交換することになります。だから摩耗する役目を安いリングに肩代わりさせる、これがリングの存在理由です。汎用ポンプでは両方付いていないことが多く、産業用ではライナリングだけ付いていることが多い、というのも覚えておくと図面が読みやすくなります。
還流量はすき間の断面積に比例し、差圧の平方根に比例して増えます。すき間が広がるほど、ポンプが出した液のうち吸込側に戻る分が増え、吐出し量と全揚程が徐々に落ちます。 運転員が「最近、同じ弁開度で流量が出ない」と感じるとき、原因候補の上位にこのすき間の拡大があります。

交換の目安は、ポンプメーカの推奨値があればそれに従い、一般には「性能に支障のない限り、設計値の最大の2倍」が使われます。設計値の最大とは、新品時のすき間の許容範囲の上限のことです。新品のすき間の値はAPI 610(石油精製用遠心ポンプ)が表で定めていますが、ISOやJISは数値を定めていません。
5. 軸スリーブ|主軸を守る円筒
主軸の軸封部(グランドパッキンやメカニカルシールが当たるところ)の外周を覆う円筒が軸スリーブです。液が清浄でも経年で、摩耗性の液ならすぐに、軸封部の軸表面は摩耗します。スリーブがなければ主軸ごと交換。スリーブがあればスリーブだけ交換して主軸は使い続けられます。

ただしスリーブを付けると、軸封のサイズが一回り大きくなってコストが上がります。だから全部のポンプに付いているわけではなく、小形の汎用ポンプではスリーブなしの主軸も普通です。メカニカルシールの場合、スリーブで摩耗しやすいのは主に回転環のガスケットが当たる部分です。分解時はこの部分を見ます。
リングとスリーブに共通するのは、「摩耗は避けられない。だから摩耗する場所を決めておく」という考えです。分解点検で見るべき場所は、この考えで並んでいる場所そのものです。
6. 分解立会いで見る順番
運転員や設備担当が分解点検に立ち会うとき、この記事の順番で見れば漏れがありません。「流量が出ない」「振動が大きい」などの症状から点検箇所を引く見方は「ポンプのトラブル診断早見」にまとめています。
- ケーシング内面:腐食・侵食、ボリュートの舌部(カットウォータ)の摩耗
- 羽根車:翼の入口側の侵食(キャビテーションの痕が出やすい)、主板・側板の減肉、バランスホールの詰まり、翼のひび
- ライナリング/インペラリング:すき間の実測値と設計値の比較。設計値の最大の2倍を超えていれば交換
- 軸スリーブ:軸封が当たっていた部分の段付き摩耗、傷
- 主軸:曲がり(振れ)、キー溝、スラスト軸受の当たり
- 軸受・軸封:「ポンプの軸受と潤滑」「メカニカルシールの構造とフラッシング」「グランドパッキンの締め方と漏らし方」で扱う
立会いの前に部品の位置関係をつかんでおくなら、iPhoneアプリポンプ 3D図鑑の3Dで片吸込渦巻ポンプを分解表示にすると、ケーシング・羽根車・ライナリング・軸スリーブ・軸受を部品ごとに見られます(紹介ページ)。
まとめ
- ダブルボリュートは羽根車を横に押す力(ラジアルスラスト)を4分の1程度に、ディフューザは5%程度に減らす
- 両吸込羽根車は軸方向の力がつり合い、必要NPSHも下げられる
- 分解立会いはケーシング→羽根車→リング→スリーブ→主軸の順で見る
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計算と選定の結果は構想段階の概算で、保証計算ではありません。必要NPSHの概算や比速度からの羽根車の形は目安です。3Dは代表構造の教育用モデルで、特定の機種の寸法・形状とは一致しません。実機の選定・発注・安全判断は、メーカーの性能曲線と仕様書、適用規格で確認してください。
参考文献
- 外山幸雄『絵とき「ポンプ」基礎のきそ』日刊工業新聞社, 第2章「ポンプの構成部品と役割」2-1 ケーシング、2-4 羽根車(アキシャルスラスト)、2-5/2-6 ライナリングとインペラリングとそのクリアランス、2-8 軸スリーブ Amazonで見る
- 高圧ガス保安協会『高圧ガス保安技術』学識編 11.5「圧縮機とポンプ」ポンプの構造(ケーシング・羽根車)
- 高橋徹『流体のエネルギーと流体機械』理工学社, 2章「ポンプ」遠心ポンプの構造 Amazonで見る
- 外山幸雄『ポンプの選定とトラブル対策』日刊工業新聞社, 第2章「知っておきたいポンプの技術」 Amazonで見る
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