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配管の肉厚、フランジの圧力クラス、バルブやガスケットの定格を決めるには、設計圧力と設計温度が必要です。しかし、圧力計と温度計に表示されている通常運転値を、そのまま設計条件にしてはいけません。
起動・停止、弁の閉止、ポンプの締切り運転、上流高圧系からの吹き抜け、冷却水喪失、スチーム洗浄、減圧時の低温化などを考えると、通常運転より厳しい圧力・温度が生じます。反対に、最大圧力と最高温度を無関係に組み合わせると、実在しない過大条件になることもあります。
この記事では、初学者向けに用語の違いから始め、設計担当者が実務で使えるように、配管区間の分け方、異常シナリオ、圧力と温度の組合せ、外圧・真空、ラインリストへの反映まで解説します。
まず結論:一律の余裕ではなくシナリオから決める
設計圧力・設計温度は、通常運転値へ一律の割合や一定値を足すだけでは決まりません。基本手順は次のとおりです。
- 通常運転の圧力・温度範囲を整理する
- 起動、停止、洗浄、再生、待機などの運転モードを追加する
- 弁の誤操作、閉塞、機器停止、ユーティリティ喪失など、合理的に想定する異常シナリオを洗い出す
- 弁、逆止弁、調節弁、機器を境界として配管を設計区間に分ける
- 各シナリオで同時に生じる圧力と温度の組合せを区間ごとに求める
- 適用法規、設計コード、事業所基準に従い、肉厚・材料・圧力温度定格を評価する
- 安全弁、インターロック、運転手順を設計条件の前提にするなら、その信頼性と適用可否を確認する
重要なのは「どれだけ余裕を足したか」ではなく、「何が起きたときの条件を、どの配管区間へ適用したか」を説明できることです。会社基準に標準マージンがあっても、シナリオ確認を省略する理由にはなりません。
運転値・設計値・許容値を区別する
圧力に関する用語は似ていますが、決める順序と意味が異なります。規格や法令によって名称の定義が異なる場合があるため、プロジェクトの用語定義を最初に固定します。

| 用語 | 意味 | 取り違えやすい点 |
|---|---|---|
| 通常運転圧力・温度 | 定常運転で狙う値、または通常制御される範囲 | 設計条件の出発点にすぎず、起動停止や異常時を含まない。正常な変動幅も記録する |
| 最高・最低運転圧力・温度 | 通常の制御運転や予定された運転モードで予想する上限・下限 | 起動・停止・切替え・再生を含めるかをプロジェクトで定義する。異常時を含めると部門間で前提がずれる |
| 設計圧力・設計温度 | 強度、材料、圧力温度定格を評価するため、合理的なシナリオと適用規格から決める設計基準値 | 内圧肉厚計算の入力。許容応力やフランジ・バルブの定格は温度で変わるため、設計温度も同時に必要 |
| 最高許容使用圧力(MAWP) | 完成した設備の材質・板厚・継手効率・温度から逆算した、許容できる圧力 | 設計圧力とは決定方向が逆。同義語として扱わず、採用する設計コードの用語を確認する |
| 安全弁設定圧力 | 過圧保護システムの条件 | 先に決めてそのまま設計圧力と呼ばない。過圧シナリオと設備の許容条件を整理し、吹出し中の圧力上昇、入口圧損、背圧と整合させる |
詳細な比率や許容超過圧は、設備の種類、流体、適用法規・コードによって異なります。
配管を一つの圧力条件で塗りつぶさない
同じP&ID上のラインでも、弁、調節弁、逆止弁、ポンプ、圧力容器などを境に、到達し得る圧力は変わります。設計条件は配管区間ごとに確認します。

典型的なポンプ系では、少なくとも次を分けます。
- 吸込槽からポンプ吸込まで
- ポンプ吐出から調節弁または隔離弁まで
- 調節弁下流から受入れ槽まで
ポンプ吐出側は、吐出弁が閉じたときの締切り圧力と吸込側圧力の組合せを確認します。吸込側は、上流槽の最大圧力と液柱を考えます。調節弁下流側は通常圧力が低くても、弁の故障開、バイパス弁の誤開、上流圧力の吹き抜けによって高圧になる可能性があります。
逆止弁や自動弁を圧力境界として扱う場合は、故障、漏れ、作動失敗をどこまで許容できるかを検討します。単にP&ID上に弁があるだけでは、低圧側が高圧源から隔離される保証にはなりません。
設計圧力は「圧力が高くなる原因」から決める
設計圧力を決めるときは、圧力偏差の原因を設備ごとに洗い出します。すべての配管にすべての故障を機械的に当てはめるのではなく、流体物性、口径、閉塞しやすさ、運転方法から合理的なシナリオを選びます。

高圧源から低圧系への吹き抜け
熱交換器のチューブ破損、調節弁の故障開、バイパス弁の誤開などにより、高圧側流体が低圧側へ入るシナリオです。低圧側の配管・機器が高圧源の圧力へ到達するか、流入量と放出能力の釣合いでどこまで上昇するかを評価します。
ポンプ・圧縮機の吐出側閉止
遠心ポンプでは、吸込側圧力へ締切り揚程相当の圧力が加わります。採用するポンプの性能曲線、最大羽根車径、回転数、液密度、吸込側の最大圧力を使って確認します。
容積式ポンプや容積式圧縮機は、吐出閉止時に圧力が急上昇し得ます。逃し弁、トルクリミット、停止インターロックなどの保護が必要ですが、保護装置の設定と対象区間の設計条件を別々に確認します。
閉じ込め液の熱膨張
二つの弁の間に液体が封じ込められ、日射、スチームトレース、周囲の高温流体などで温められると、小さな温度上昇でも圧力が大きく上がることがあります。長い液封区間だけでなく、熱交換器、バイパス、ドレン枝管も確認します。
気化・反応・外部入熱
冷却喪失、反応暴走、液化ガスの気化、火災などでは、圧力と温度が同時に上がる場合があります。これらは安全弁・破裂板のサイジング条件ともつながりますが、設計圧力を決める作業と放出設備を設計する作業を混同しないようにします。
最低圧力と真空
ポンプ吸引、スチーム凝縮、液抜き、冷却、ベント閉塞によって、配管内部が大気圧より低くなることがあります。正圧だけで設計された薄肉配管、非金属管、ライニング管、ベローズでは、外圧座屈やライナー剥離が問題になります。
設計温度は高温側と低温側を別々に探す
設計温度は「通常運転温度に一定値を足す」だけでは決まりません。最高側と最低側について、流体温度だけでなく管壁が実際に到達する温度を検討します。

最高設計温度で確認すること
- 通常運転中の最高温度と制御変動
- 起動・停止時の一時的な高温
- スチームアウト、乾燥、触媒再生、ホットオイル循環
- 冷却水、冷媒、攪拌の喪失
- 熱交換器破損や弁故障による高温流体の流入
- スチームトレース、ジャケット、日射による管壁加熱
- 反応、圧縮、液化ガスの周囲入熱
短時間の温度上昇をどう扱うかは、適用コードの短時間許容、材料劣化、ガスケットやライニングの限界、繰返し回数を含めて判断します。金属母材だけが耐えても、ソフトシート、ガスケット、塗膜、ライニングが先に限界へ達することがあります。
最低設計温度で確認すること
- 冬季の最低周囲温度と停止中のソーク
- 低温原料を受け入れる起動時
- 液化ガスや冷媒の通常運転
- 減圧、ブローダウン、フラッシングによる自己冷却
- ガスの膨張による温度低下
- 蒸発潜熱による局所冷却
最低温度は凍結対策だけの問題ではありません。炭素鋼などでは低温靭性、衝撃試験、材料選定に直結します。最低流体温度と最低管壁温度が同じとは限らないため、過渡解析や伝熱評価が必要な場合もあります。
圧力と温度は同時に起こる組合せで評価する
設計圧力と設計温度を別々に最大化すると、実際には同時に起きない組合せを作ることがあります。一方、通常圧力・通常温度だけの一組では、異常シナリオを落とします。

実務では、シナリオごとの圧力・温度ペアを設計ケースとして残します。たとえば次のように、支配する評価が異なります。
| 設計ケース | 圧力・温度の特徴 | 主に確認する項目 |
|---|---|---|
| 通常運転 | 長時間継続する条件 | クリープ、腐食、寿命、通常定格 |
| 吐出閉止 | 高圧だが通常温度に近い | 肉厚、フランジ・弁定格、過圧保護 |
| 冷却喪失 | 高温化し、圧力も変化 | 許容応力低下、ガスケット、熱応力 |
| ブローダウン | 低圧化しながら低温化 | 低温靭性、外圧、熱応力 |
| スチーム洗浄 | 低圧でも高温 | 材料・シート・ライニング、熱膨張 |
肉厚計算、フランジ定格、材料選定、熱応力解析で支配ケースが同じとは限りません。ラインリストに代表の設計圧力・設計温度だけを書く場合でも、設計計算書には評価したケースを残します。
内圧だけでなく外圧・差圧・試験状態を確認する
配管へ作用するのは正の内圧だけではありません。大気圧に対する真空、ジャケットとの圧力差、熱交換器の両側差圧、埋設土圧など、構造を支配する差圧を確認します。

特に見落としやすいのは次の条件です。
- スチーム配管を隔離後に凝縮させる
- 容器や配管から液を抜くのにベントが開かない
- ジャケット側の圧力が本体側より高い
- 熱交換器の片側だけを加圧または減圧する
- 真空運転中に外部ジャケットや保温材から荷重を受ける
耐圧・気密試験は、運転時とは圧力、温度、流体重量、支持状態が異なる設計ケースです。水圧試験では液重量が増え、常温で許容応力も変わります。試験圧力の倍率は法規・コードによって異なるため、一般値を流用せず適用規定を確認します。
決めた条件を配管仕様へつなぐ
設計圧力・設計温度は、ラインリストの記入欄を埋めるためだけの数値ではありません。複数の設計判断へ同じ前提を渡すインターフェースです。
設計条件を決めたら、少なくとも次へ反映します。
- 直管・継手の必要肉厚と採用スケジュール
- 材料の許容応力、低温靭性、クリープ域
- フランジとバルブの圧力温度定格
- ガスケット、ボルト、パッキン、ソフトシートの温度限界
- 配管クラスとラインリスト
- 熱膨張量、熱応力、サポート荷重
- 安全弁・破裂板・サーマルリリーフの保護範囲
- 機器ノズル設計条件との整合
- 耐圧・気密試験条件
設計変更でポンプ、調節弁、熱交換器、運転モードが変わった場合は、設計圧力・設計温度へ戻って再評価します。配管クラスを一度選んだあとに、設計条件だけを変更してはいけません。
設計レビューで確認する12項目
- 通常運転値だけでなく、正常な変動範囲が定義されているか
- 起動、停止、待機、洗浄、乾燥、再生の条件があるか
- 高圧源と低圧系の境界を特定したか
- ポンプ・圧縮機の吐出閉止を評価したか
- 閉じ込め液の熱膨張を評価したか
- 冷却・加熱・計装空気・電源喪失を評価したか
- 逆流、弁故障、バイパス誤開を評価したか
- 真空、凝縮、液抜き、ブローダウンを評価したか
- 最高温度だけでなく最低温度を評価したか
- 圧力と温度をシナリオごとの組で記録したか
- 安全装置を前提にする根拠と保護範囲が明確か
- 機器、配管、計装、運転の設計条件が一致しているか
まとめ
設計圧力・設計温度は、通常運転値へ一律の余裕を足して終わる数値ではありません。運転モードと合理的な異常シナリオから、配管区間ごとに同時に起きる圧力・温度の組合せとして決め、その根拠となるシナリオを設計記録に残して、肉厚、材料、定格、過圧保護、試験条件へ一貫して流します。
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参考文献
- 西野悠司『配管設計実用ノート』第13章「ポンプ・配管系を実際に設計する」 Amazonで見る
- 西野悠司『プラント配管の原理としくみ』第2章「内圧により生じる力と応力」 Amazonで見る
- 化学工学会編『プロセス機器構造設計シリーズ2 塔槽類』第2章「塔の構造設計」
- 化学工学会編『実践・安全工学シリーズ2 プロセス安全の基礎』第6章「HAZOPの実務への展開」 Amazonで見る
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- ASME「B31.3 Process Piping」2024 Edition
- American Petroleum Institute「API Standard 521: Pressure-Relieving and Depressurizing Systems」
- 日本産業標準調査会「JIS検索」
- 経済産業省「高圧ガス保安法及び関係政省令の運用及び解釈について」
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