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2011年 東日本大震災の石油コンビナート災害|満水は12日間続いていた

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2011年3月11日、東日本大震災は石油コンビナートにも大きな被害をもたらしました。

この記事では、性格の異なる2つを扱います。千葉県市原のLPG球形タンク倒壊・爆発火災と、津波によるタンク流失と火災です。

前者について、いちばん重い事実を先に書きます。倒壊したタンクは、水で満たされていました。そして、その状態が12日間続いていました。

この記事の要点

  • 満水の内容物重量は、耐震設計重量の約2倍だった
  • 通常は数日で終わる作業が、諸手続・連絡の遅れで12日間続いていた
  • 本震でブレースが破断し、29分後の余震で倒壊した
  • 緊急遮断弁は、計装空気の微少漏れ対策で「開」に固定されていた
  • 調査の結果、耐震基準ではブレース交差部の応力を評価できないことが判明した

1. 市原 ― 12日間の満水

なぜ水が入っていたのか

ここは誤解されやすいところなので、報告書の記述をそのまま引きます。

「364番貯槽は開放検査が行われ、気密試験検査完了後、内部の空気をパージするため、水が注入され、満水状態であった(比重:水1、LPG約0.5)。このため、内容物の重量は、耐震設計重量の約2倍であった。」

「通常は、満水状態で保持される期間は数日程度であるが、諸手続、連絡等の遅れにより、地震発生まで12日間、満水状態が継続した。」

――高圧ガス保安協会 高圧ガス事故概要報告 整理番号2011-078(原典はコスモ石油の事故調査報告書)

耐震補強のために水を張っていたのではありません。定期の開放検査を終え、気密試験のあと内部の空気を追い出すために入れた水です。

そして――数日で抜くはずの水が、12日間そのままになっていました。理由は、諸手続と連絡の遅れです。

この構図は、覚えておく価値があります。「一時的だから」という理由で許容された状態が、想定より長く続く。その間に、たまたま地震が来た。暫定措置が常態化することのリスクは、設備の異常としては現れません。

本震では倒れず、余震で倒れた

時刻起きたこと
14:46本震(市原市で震度5弱、事業所内地震計114gal)。この地震により、364番貯槽の支柱の鋼管ブレースの多くが破断した
15:15茨城県沖地震(市原市で震度4、99gal)。支柱が座屈し、364番貯槽が倒壊。周辺の複数の配管が破損し、LPGが漏洩
15:16頃倒壊した貯槽周辺のガス検知器が発報
15:23頃払出緊急遮断弁、自動弁の閉止操作を開始
15:24頃固定措置がなされた緊急遮断弁の固定を外すため現場に向かったが、すでにLPGが大量に滞留しており、近づける状況ではなかった
15:35頃自衛防災隊がLPG漏洩を確認。共同防災組織に出動要請
15:37頃消防局へ通報
15:47頃漏洩・拡散したLPGに着火し、火災が発生
15:48頃散水操作が完了していないことが判明。計器室は全照明消灯・天井パネル落下で避難指示が出ていたが、従業員が戻り15:54頃に散水完了
17:04隣接する374番貯槽が爆発。以後、17:50までに合計5回の爆発
3/21 10:10鎮火

本震から倒壊まで、29分あります。その間、タンクは「ブレースが多数破断した状態」で立っていました。

報告書によれば、この貯槽は1982年の通達を満足する耐震性を有していました。ただし、その前提は内容物がLPG(比重約0.5)であることでした。

被害

区分内容
人的被害負傷者6名(重傷1名、軽傷5名)。死者なし
球形貯槽同一ヤードの17基が焼損。破裂4基、大きく移動4基、倒壊または倒壊寸前5基、自立していたのは4基(うち1基は傾斜)
隣接設備アスファルトタンクが飛散物で破損し、約100〜107kLが漏えい、一部が海上へ流出
周辺事業所爆発による飛散物・爆風の影響で、隣接する2事業所の構内で火災が発生
避難近隣住民に一時避難勧告(約14時間)。千葉県資料では対象36,000世帯・85,000人に勧告、17の避難所に最大1,142人
爆風約2.5km離れた避難所の窓ガラスが割れ、別場所への二次避難を実施

2. 緊急遮断弁は、開いたまま固定されていた

報告書の記述です。

「364番貯槽と363番貯槽の接続配管の緊急遮断弁は、開状態で固定されていた。理由は、地震発生の約1ヶ月前、緊急遮断弁を開閉するための空気を供給する計装空気配管で微量の漏洩が確認されたので、補修を行うまでの間、空気圧力が低下した場合に緊急遮断弁が閉止することを避けるためであった。」

「緊急時は、現場で開状態の固定を解除する運用としていたが、当日は大量のLPG漏洩により、現場に近づいて解除することができず、結果的に緊急遮断弁はその機能を発揮できなかった。」

整理すると、こうなります。

  • 計装空気の微少漏れがあり、フェイルセーフ(空気圧低下で閉)が誤作動として現れる状態だった
  • 生産を止めないため、補修までの間「開」に固定した
  • 代償措置として「緊急時は人が現場で解除する」と決めた
  • その緊急時に、人は現場へ近づけなかった

これはBow-Tieでいうエスカレーションファクターそのものです。バリアは図面上に存在し、点検記録もあったはずです。しかし「効かなくする条件」が1か月前から成立していました。

公平を期すために書き添えます。報告書は「配管の破断順序の識別が困難なことから、この遮断弁の不作動のみを、事故の主因とすることはできない」と明記しています。分かりやすい犯人を作らない――調査報告書として誠実な書き方だと思います。

なお配管については、「可とう性が低いクロスティー(T字型に直交する配管同士の接続継手)が用いられていた。クロスティーの設置が、配管系の損傷の一因となった可能性がある」とも記されています。

3. なぜ、隣のタンクまで爆発したのか

17時04分から17時50分にかけて、5回の爆発が起きています。最初に倒れた364番ではなく、隣接する374番から始まりました。

報告書が示す機構です。

段階内容
364番付近で火災。当初はプール火炎
配管からの漏洩継続と、火炎の熱で液体ブタンの蒸発が促進され、ジェット火炎に変化
隣接する貯槽への散水が蒸発してしまい、冷却が効かなくなる
貯槽の表面温度が上昇して強度が低下し、内圧に耐えられず破裂

報告書は、374番について「散水がなされていない場合は、出火後約7分後には、貯槽の表面温度が上昇し、強度低下により破裂が生じる結果となった」と記しています。実際には約1時間17分もったので、散水はある程度なされていたと推定されています。

ただし、次の2点も記録されています。

  • 一部の散水管が破損していたことが事故後に確認された(破損の時期は不明)
  • 消火用海水ポンプの追加起動の指示は出たが、他の緊急対応を優先したため遅れ、1回目の爆発以降になった

火災に包まれた圧力容器を散水で冷やし続けられるか。ここが、隣接タンクの運命を分けました。

4. 消防が、近づけなかった

消防庁の記録は、当日の困難さを具体的に伝えています。

記録された内容
出場隊が到着した時点で防液堤内全面火災。爆発危険から全隊が退避し、タンクヤードから約700m地点まで下がった
市原市消防局は「発災当初、有効な消火活動をすることができず」「過去に例をみない高圧ガスタンクの爆発火災であり、海上からの冷却放水が必要」と判断して緊急消防援助隊を受諾
海上部隊は強烈なガスの臭気と輻射熱を受けながら20:08頃から放水を開始
海上保安庁の熱画像監視装置で一部タンクの表面温度が急上昇し、全隊が沖合1kmまで緊急退避する事態が2回発生
東京消防庁は爆発危険で火点に接近できないため、無人走行放水車を選択。海に水中ポンプを投入して吸水し、ホースを300m以上延長
帰宅困難者等による道路渋滞で部隊の集結・到着が遅れ、東京消防庁の陸上部隊の現場到着は翌3月12日0時25分
大容量泡放射システムは搬送されたが、設置展開は実施されなかった(運搬車両・防災要員の確保が困難。理由は「通信網輻輳のため連絡ができなかった」

最後の行が、地震災害固有の難しさを端的に示しています。資機材はあった。人もいた。連絡がつかなかった。

指揮体制についても、率直な反省が残されています。千葉県の資料には、現地本部を設置しなかったことについて「事業所外に被害が拡大するなど事故の規模や影響の大きさを考えれば設置すべきであった」「現地本部の設置が困難な場合でも最低1名の要員の派遣が必要」という各機関の意見が記録されています。

5. 報告書が挙げた、管理上の問題

報告書の記述(要旨)
満水にすることは開放検査のための一時的な措置であった。その間に地震が発生した場合における、潜在リスクに係る認識が不十分であった
緊急遮断弁を開状態で固定するなどの運転措置、及び貯槽への水張りなどの作業工程について、法令と潜在リスクの確認が不十分であった
オフサイト設備の異常時に、オンサイト設備の停止を即座に実施できる体制ではなかった
以前の組織統合時に変更管理が不十分であったため、無人となった計器室またはその近くに、ガス検知器の警報パネル、外部警報装置、緊急操作スイッチ等を残していたため、緊急時対応が遅れた
大規模漏洩を想定した複数の部署間が連携する訓練は実施していなかった。マニュアルには、現場に近付けない程の大規模漏洩時の対応手順に関する記述がなかった
常駐計器室は地震により全照明が消灯し、天井パネル及び天井照明が脱落。係員が避難せざるを得ず、その後の対応に影響が出た

4行目は、組織を統合したときの変更管理の話です。設備は動かしていません。人がいなくなっただけです。それでも、警報が届く先が変わりました。

5行目も重い。「現場に近付けないほどの大規模漏洩」が、手順書に想定されていませんでした。そして当日、まさにその状況が起きています。

6. 津波 ― タンクが流された

もう1つの災害は、性格がまったく違います。

気仙沼・本吉地域広域行政組合消防本部の資料には、こう記録されています。

「気仙沼市朝日町及び潮見町に設置されていた、100キロリットル以上の屋外タンク23基中、22基が津波により流失した。18基のタンクが市内各地で発見されているが、4基は所在不明である。」

「発見されているほとんどのタンクでは、発見場所周囲及び内部に油分は見分されず、津波で流される過程でタンク内の危険物は流出したと考えられ、この流出した危険物に何らかの原因で着火し、漂流物等とともに潮の流れに乗り内湾へ移動し、瓦礫や家屋、さらに山林に延焼拡大し、広範囲に及ぶ火災の一因になったものと思われる。」

流失したタンクの残油量は、合計11,521 kL。うち重油が7,530 kLでした。

資料間で数字が食い違う点を明記しておきます。油量11,521 kLは消防庁の資料とも一致しますが、基数は「22基」(気仙沼消防本部)と「4事業所の10基」(消防庁)で異なります。集計範囲や「流出」の定義の違いと思われますが、報告書からは理由を確認できませんでした。

海の上で、火が動いていた

消防庁の緊急調査には、現場の証言が残されています。

  • 「岸壁に打ち上げられた船が燃え、津波で破壊されたガレキ、林野へと延焼した。」
  • 「海面上でガレキが燃えていた。炎が波で移動していた。」

火災の扱いも通常と異なりました。火のついた漂流物から複数の場所へ延焼拡大した場合は1件の火災として扱うという整理がなされ、気仙沼市の9地区の火災はまとめて1件の「その他火災」として計上されています。

なぜ大量に流出したのか

消防庁の報告書は、被害の様態をこう整理しています。

「タンク本体については本体の損傷は少ないように見受けられる。また、配管については、地震時の停電により緊急遮断弁及び電動弁が作動しなかったため、津波による配管の破断部から大量漏洩したと推測される。」

タンクではなく、配管から漏れた。そして、止めるはずの弁は停電で動きませんでした。

この認識が、後の提言に直結します。消防庁は容量1,000kL以上の屋外貯蔵タンクの危険物配管に、緊急遮断弁の設置を求める提言を出しました。予備動力源と遠隔閉止機能が必要という条件つきです。

統計としては、津波を原因とする危険物の流出のうち、屋外タンク貯蔵所が92件(87%)を占めました。地震そのものを原因とする流出79件では、屋外タンク貯蔵所が27件(34%)で最多、うち16件はスロッシングによる浮き屋根まわりからの流出でした。

7. この災害が変えたもの

制度面の対応で、最も技術的に重いのはこれだと考えています。

「本事案を調査した結果、高圧ガス設備等耐震設計基準ではブレース交差部にかかる応力が評価できないことが判明した。」

――産業構造審議会保安分科会「産業保安分野における大規模地震等対策について」(2014年3月)

基準を満たしていたのに壊れた。調べたら、基準がその応力を見ていなかった。

時期対応
2011年12月例示基準を改正し、耐震設計構造物に水を満たした際の措置を追加
2014年1月耐震設計基準を改正(ブレース交差部の評価)。新設は適合義務
既設約460基は適合義務の対象外のため、施行後1年以内を目途に耐震性評価と改修計画の策定を要請。補正予算の補助金で補強費用の一部を支援

KHKが挙げた教訓には、こうあります。「事故の発端は、貯槽の満水状態時に、大きな地震が短時間に2回発生したことであり、極めて稀な状況であった。しかし、満水状態時に大地震が発生した場合におけるリスク、対処方法等については、事前に十分検討しておくべきであった。」

また事業者側の対策には、「大規模火災時には発災場所に近づくことが困難であり、通常の自衛消防車では放水の到達距離が不足した」ため、三次元火災に対応した多機能型消火砲等を事故後に導入したことが記載されています。

8. 自分の工場で確かめる5つのこと

  • いま、通常と違う状態で置かれている設備はありませんか。水張り中、開放中、仮設中――それは何日目ですか
  • その状態で地震が来たときの荷重を、評価していますか。
  • 「開」に固定している弁はありませんか。解除は、現場に近づけない状況でも可能ですか
  • 停電時に、緊急遮断弁は閉まりますか。予備動力と遠隔操作はありますか
  • 「現場に近づけないほどの漏えい」を、手順書と訓練が想定していますか。

まとめ

  • 倒壊したのは開放検査後の水張り状態。内容物は耐震設計重量の約2倍
  • 数日で終わるはずの状態が、手続と連絡の遅れで12日間続いていた
  • 緊急遮断弁は1か月前から「開」に固定され、解除に行けなかった
  • 津波側はタンク本体ではなく配管から漏れ、停電で弁が閉まらなかった
  • 調査の結果、耐震基準そのものがブレース交差部を評価していなかった

地震は、設備の弱点を狙って来るわけではありません。そのとき偶々そうなっていた状態を、そのまま襲います。だから「今日、通常と違う状態にあるもの」を把握しているかどうかが、そのまま備えになります。

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参考文献

※本記事中の事実関係・数値・引用は、上記の公的資料の記述に基づいています。消防庁の検討報告書は事業所名を匿名化しているため、実名は千葉県資料および消防庁の記録集で確認しています。資料間で数値が異なる箇所は、本文中にその旨を記載しています。