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緊急時対応計画|最初の5分に、その場にいた人が何をするか

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緊急時対応計画は、たいていの工場にあります。分厚い冊子になっていることも多いと思います。

ただ、その分量の大半は「対策本部の構成」「関係先への連絡」に割かれていないでしょうか。

実際に生死を分けるのは、最初の5分に、その場にいた人が何をするかです。

この記事の要点

  • 計画は3つの時間帯に分けて考える
  • 「誰でも止めてよい」を明文化する。迷った5分は戻らない
  • 物質名が伝わらないと、消防は動けない
  • 想定シナリオはETAの結末から作る
  • 訓練で「うまくいった」は成果ではない

1. 3つの時間帯に分ける

時間帯動く人やること
最初の5分その場にいた人止める・離れる・知らせる
〜30分当直、自衛防災組織事態把握、防災設備の起動、通報、避難誘導
30分〜対策本部、外部機関消防・行政との連携、住民対応、報道対応

計画書のページ数は、下にいくほど厚くなります。組織図、連絡網、様式。

けれども、1行目が機能しなければ、2行目も3行目も間に合いません。まずここから設計します。

2. 最初の5分 ― 全員が同じ答えを持つ

この時間帯に必要なことは、4つだけです。そして、全員が同じ答えを言えなければ意味がありません。

決めておくこと失敗の形
何をもって「緊急」とするか判断基準がなく、様子を見てしまう
止める権限は誰にあるか許可を求めているうちに広がる
誰に、どう知らせるか連絡先が古い、つながらない
どこへ逃げるか集合場所が風下だった

「誰でも止めてよい」を、文書にする

これは、精神論ではありません。権限の設計の話です。

止める判断には、必ず「間違っていたらどうしよう」がつきまといます。誤って止めれば、生産が止まり、再スタートに時間がかかり、説明を求められます。

だから、こう書いておく必要があります。

「危険と判断した場合、誰であっても、上位者の許可なく停止・退避の措置をとることができる。結果として異常でなかった場合も、その判断を問わない。

後半の一文が重要です。「空振りを責めない」と書いていなければ、人は空振りを恐れます。

そして、これを書いただけでは足りません。実際に空振りが起きたとき、上司がどう反応するか。そこで文書が本物かどうかが決まります。

集合場所は、1か所では足りない

ガスが漏れたとき、逃げる方向は風向きで変わります。

  • 集合場所を複数決め、風向きで選べるようにする
  • 風向きが分かるものを、現場から見える位置に置く(吹き流し)
  • 重ガスは低いところに溜まる。ピット・地下・窪地は避ける
  • 集合場所での員数確認の方法を決めておく(誰が、どの名簿で)

4つ目は、意外と決まっていません。「全員いるか」が分からないと、捜索に人を入れるかどうかを判断できません。協力会社の入構者まで含めて数えられますか。

3. 通報の設計 ― 何を伝えるか

通報でよくある失敗は、社内の報告ルートを上げてから消防に通報するという順序です。

この2つは並行にしてください。社内の判断を待つ必要はありません。

伝えることなぜ必要か
場所(構内のどこか、進入口)到着してから探す時間をなくす
物質名と、おおよその量これが分からないと、消防は消火方法を決められない
使ってはいけない消火剤水をかけてはいけない物質がある
けが人の有無と人数救急の手配が変わる
風向き・風速接近方向と避難範囲
現在の状況(燃えているか、漏れ続けているか)装備が変わる

2行目と3行目は、事前に渡しておくのが本筋です。緊急時に電話口でSDSを読み上げることはできません。所轄消防に、扱っている物質の一覧・配置図・注意事項を平時に提供しておく。「その情報が消防の手元にある」という状態を作ることが、通報設計の核心です。

4. 想定シナリオは、どこから持ってくるか

「何を想定するか」で、計画の中身は決まります。そして想定に入っていない事象は、当日その場で考えることになります。

ここで使えるのが、イベントツリー解析(ETA)の結末です。

漏えいという1つの起因事象から、ジェット火災、蒸気雲爆発、フラッシュ火災、着火せず拡散――と結末が枝分かれします。これがそのまま、想定シナリオの一覧になります。

選ぶ軸入れるべきもの
被害が最大頻度は低くても、最悪ケースは必要
起こりやすい小規模漏えい。実際にはこれが多い
対応が特殊禁水性物質、毒性ガス、酸欠
外部要因地震、浸水、停電、隣接事業所の火災
悪条件の重なり夜間・休日・少人数

2行目を落とさないでください。最悪ケースだけを想定した計画は、実際に多い「小さな漏えい」に対して過剰か、あるいは何も書いていないことになります。

5. 訓練 ― 「うまくいった」は成果ではない

種類目的落とし穴
シナリオ訓練(事前周知)手順の確認、初めての人の学習台本どおりになる
図上訓練判断の練習。低コストで回数を打てる現場の動きが見えない
実動訓練資機材が動くか、体が動くか準備に時間がかかり、年1回で終わる
ブラインド訓練実力が分かる安全確保の設計が要る

訓練の目的は、できることの確認ではなく、できないことの発見です。

だから、訓練の報告書に「計画どおり実施でき、円滑に対応できた」とだけ書かれているなら、その訓練は情報を生んでいません。

訓練で見るべきこと
通報が入るまでの時間(何分かかったか、実測する)
員数確認が完了するまでの時間
連絡がつかなかった相手はいたか
判断に迷った場面はどこか
手順書のどこを探したか、見つからなかったか
資機材で、使えなかった/足りなかったものはあるか

夜間・休日でやったことがあるか

訓練は、たいてい平日の昼間、人が揃っているときに行われます。

けれども事故は、人が少ない時間帯にも起きます。そして少人数の体制では、同じ手順が成立しないことがあります。

  • 当直の人数で、計画上の役割が全部埋まりますか。
  • 呼び出しから到着まで、実際に何分かかりますか。
  • 夜間、SDSや図面を取り出せますか
  • 協力会社が構内にいる時間帯を、想定に入れていますか

全部を実動でやる必要はありません。図上訓練でも、この4つは検証できます。

6. 外部との連携

相手平時にやっておくこと
所轄消防物質一覧、配置図、消火上の注意事項を提供する。合同訓練
近隣事業所相互応援の取り決め、資機材の融通
自治体避難・広報の連携、想定の共有
近隣住民何が起きたら、どう知らせるかを事前に伝えておく
協力会社入構者への周知、訓練への参加

なお石油コンビナート等特別防災区域に指定された地区の事業所には、自衛防災組織の設置や防災資機材の備付けなどが法令で定められています。該当する場合は、まずその要求を満たしたうえで、自社の計画を組み立てることになります。

4行目は見落とされがちです。事故が起きてから初めて住民と接触すると、伝えるべきことが伝わりません。「サイレンが鳴ったらどうすればよいか」を平時に知らせておくだけで、当日の混乱はかなり減ります。

7. 計画が形骸化しているサイン

サイン意味
連絡網に、異動した人の名前がある更新されていない
資機材が期限切れ(泡原液、呼吸具、電池)点検が回っていない
訓練が毎年同じシナリオ発見がなくなっている
訓練報告書に改善点が書かれていない成果報告になっている
協力会社が訓練に入っていない当日、構内にいる人が想定外
計画書が現場にない使う場所に置かれていない

2行目は、Bow-Tieでいうエスカレーションファクターそのものです。設備はあるのに、効かない。

8. そもそも、被害を小さくしておく

最後に、当たり前ですが大事なことを。

緊急時対応は、最後の防護層です。ここに頼る前に、そもそも被害が小さくなる設計になっているか。防液堤、離隔距離、除害設備、そして人をそこに置かない配置

対応計画をどれだけ磨いても、設計で決まってしまう部分があります。

9. 自分の職場で確かめる8つのこと

  • 「誰でも止めてよい」は、文書に書かれていますか。空振りを問わないことも
  • 集合場所は複数あり、風向きで選べますか。
  • 員数確認に、協力会社の入構者が含まれますか。
  • 所轄消防に、物質一覧と消火上の注意を渡してありますか。
  • 想定シナリオに、小規模漏えいと外部要因が入っていますか。
  • 直近の訓練報告書に、改善点が書かれていますか。
  • 夜間・休日の体制で、検証したことがありますか。
  • 連絡網と資機材は、この1年で更新・点検されましたか。

まとめ

  • 厚さは3番目の時間帯に偏る。設計は1番目から始める
  • 「誰でも止めてよい、空振りは問わない」を文書にする
  • 物質情報は、平時に消防へ渡しておく
  • 想定シナリオはETAの結末から。小規模と外部要因を落とさない
  • 訓練の目的は、できないことの発見

ここまでの仕組み――手順書、報告制度、事故調査、緊急時対応――が本当に機能しているかを確かめるのが、監査です。次に扱います。

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