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【まとめ】RBPS 4つの柱と20の要素|プロセス安全でやるべきことの全体マップ

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※本記事の参考文献には、Amazonアソシエイトのリンク(アフィリエイト広告)を含みます。

プロセス安全を組織で回すには、何をどこまでやればいいのか。

この問いに、世界で最も広く使われている答えがRBPS(Risk-Based Process Safety/リスクに基づくプロセス安全)です。米国化学工学会のCCPS(化学プロセス安全センター)が、次世代のプロセス安全管理の枠組みとして提唱しました。

RBPSの中身は、4つの柱と20の要素です。この20項目が、プロセス安全でやるべきことのチェックリストであり、地図になります。

この記事では20要素をすべて一覧にし、それぞれが何を問うているのか、当ブログのどの記事が対応するのかを示します。自分の職場のどこが弱いかを名指しするための道具として使ってください。

この記事の要点

  • RBPSは4つの柱 ×20要素。誓う → 理解する → 管理する → 学ぶ
  • CCPSのRBPSは、OSHA PSMやEPA RMPよりはるかに適用範囲が広い
  • リスクが低いプロセスには、高いプロセスと同じ厳しさで適用する必要はない。だから「リスクに基づく」
  • 20要素のうち9つが「リスクを管理する」柱に集中している

1. なぜ「リスクに基づく」なのか

RBPSという名前の「リスクに基づく」の部分に、この枠組みの思想が表れています。

CCPSはリスクを3つの要素で定義します。ハザード(何か悪いことになりそうなこと)、大きさ(どれくらい酷いことになり得るか)、実現性(どの程度の頻度で発生し得るか)。したがってプロセス産業のリスクを理解するには、次の3つに答える必要があります。

  1. どんな悪いことが起こりそうか?(人の怪我、環境へのダメージ、経済的損失)
  2. それはどれくらい酷いことになりそうか?
  3. それはどの程度の頻度で発生しそうか?

そのうえでCCPSは、こう述べています。

リソース、すなわちお金と人は有限である。(中略)言い換えれば、リスクの低いプロセスには、リスクの高いプロセスに求められるプロセス安全のエレメントと同じ程度に厳しく適用する必要はない。

ここが実務上とても重要です。20要素をすべて同じ重さで全プロセスに課すのは、RBPSの趣旨ではありません。リスクを理解したうえで、限られたリソースを最も効果的に割り当てる。それがこの枠組みの狙いです。

2. 4つの柱

20要素は、4つの柱に分類されます。この並びが、そのまま組織が踏むべき順序になっています。

問い要素数
① プロセス安全を誓う組織として本気で取り組む意思があるか5
② ハザードとリスクを理解する何が危険で、どれくらい危険かを把握しているか2
③ リスクを管理する日々の運転・保全・変更のなかでリスクを抑え込めているか9
④ 経験から学ぶ自分と他者の失敗を、改善につなげられているか4

③に9要素が集中していることに注目してください。プロセス安全の実務の重心は、ここにあります。

CCPSはこの柱について、次の4点に焦点が絞られるとしています。(1) リスクが存在するプロセスを慎重に運転・維持すること (2) プロセスの変更を管理して、リスクを許容範囲内に収めること (3) 機器の健全性を維持し、材料・製作・修理のクオリティーを確保すること (4) 事故の発生に備え、対応し、管理すること。

また①について、CCPSは「組織は一般に強力なリーダーシップと管理者の堅い決意なしには改善しない」「管理者はプロセス安全が労働安全とは異なることを認識し、労働安全のプログラム以上に行動する必要がある」と述べています。労働災害ゼロを達成していても、プロセス安全は別だということです。

3. 20要素の全体マップ

ここが本記事の中心です。20要素それぞれについて、何を問うているのかと、当ブログの対応記事を示します。

柱① プロセス安全を誓う

#要素問うていること
1プロセス安全文化安全が「本当に」優先されているか。トップの行動に表れているか
2規範の遵守適用される法規・規格・基準を把握し、守っているか
3プロセス安全能力集めた情報を正しく解釈・理解できる人がいるか
4従業員の参画現場が safety の議論に参加しているか
5利害関係者との良好な関係地域・行政・顧客との関係を築けているか

要素1については、日本には「保安力=安全基盤×安全文化」というより具体的な枠組みがあります。安全文化を8要素に分解して、どこが弱いかを名指しできる形にしたものです。

柱② ハザードとリスクを理解する

#要素問うていること
6プロセス知識管理P&ID・設計根拠・物性情報が、正確に維持され使える状態にあるか
プロセス知識管理
7ハザードの特定とリスク分析(HIRA)HAZOP・LOPA・QRAなどで、危険を洗い出し評価しているか

要素7は、米国のOSHA PSM規制が求めるプロセスハザード分析(PHA)に対応します。同規制では5年ごとに1回の更新が要求されています。

また要素6について、CCPSは「多くの設備ではリスク分析あるいは変更管理レビューを行う直前に、プロセス知識が正確で網羅されているかをレビューすることを重要視している」としています。図面が現物と違えば、その上で行うHAZOPは意味を失います。

柱③ リスクを管理する(9要素)

#要素問うていること
8運転手順手順書が実態に合い、守られ、変更はMOCを通っているか
9安全な作業の実行LOTO・ラインブレーク・閉所立入・火気工事などの非定常作業を管理しているか
作業許可(PTW)LOTOと隔離入槽作業
10設備資産の健全性と信頼性検査計画とその実行で、機器の健全性を維持しているか
11協力会社の管理構内で働く協力会社を、同じ基準で管理できているか
12訓練と能力保証教育が「受講記録」ではなく能力になっているか
13変更管理(MOC)同種の置換え以外の変更が、すべて審査を通っているか
14運転準備あらゆるシャットダウンからの立ち上げ前に確認しているか
15操業の遂行「計画して、計画どおり実行する」が組織に根づいているか
16緊急時の管理事故に備え、対応し、管理する体制があるか

当ブログでは、このうち13(変更管理)14(運転準備)・9(安全な作業の実行)を詳しく扱っています。

要素15「操業の遂行」は聞き慣れないかもしれませんが、CCPSは「組織におけるプロセス安全文化の現状の表れ」と位置づけています。単なる運転規律ではなく、「まず実行する作業を計画し、文書化し、次に計画に従って実行する(Plan the Work — Work the Plan)」という、より広い範囲を指します。

柱④ 経験から学ぶ

#要素問うていること
17事故調査原因を構造として捉えているか。個人の責任で終わらせていないか
18測定とメトリクス先行指標を持っているか。事故件数だけを見ていないか
19監査形式ではなく実態を見る監査になっているか
20マネジメントレビューと継続的な改善経営が定期的に見直し、改善が回っているか

CCPSはこの柱について、「内外の情報源に注意を払い、それに基づいて行動すること」と説明しています。自社の事故だけでなく、他社の失敗からも学ぶという意味です。

そしてニアミスの定義も明確です。「事情が少し異なれば事故(物的損害、環境への影響、人的被害)や操業の中断が起きていたかもしれないこと」。組織は自身の間違いや他者の失敗を、プロセス安全向上の機会として捉える必要がある、としています。

4. OSHA PSM・EPA RMPとの違い

米国には法規制としてのPSM(労働安全衛生管理局)とRMP(環境保護庁)があります。RBPSとの関係を整理しておきます。

この意味で、CCPSの定義するPSMは、OSHAのPSMやEPAのRMPよりもはるかに適用範囲が広い。

具体的には、RBPSの20要素のうち1(プロセス安全文化)・3(プロセス安全能力)・11(協力会社の管理)・15(操業の遂行)・18(測定とメトリクス)・20(マネジメントレビュー)といった要素は、規制側に対応する項目がありません。

つまり法規制を満たすことと、RBPSを実践することは同じではありません。日本では米国のような直接的なPSM義務規定がないため、この差はさらに大きくなります。だからこそ、経済産業省の産業保安行政も「自主保安を原則とし、事業者は高い安全文化を醸成して独自の保安確保に取り組む必要がある」としているわけです。

5. 20要素を、どう使うか

この一覧の使い方を3つ挙げます。

使い方1:自職場の弱点を名指しする

20項目に○×をつけてみてください。「安全に課題がある」ではなく「13(変更管理)と18(測定とメトリクス)が弱い」と言えるようになります。名指しできれば、対策も具体的になります。

使い方2:事故報告書を読む枠組みにする

事故報告書を読むとき、「どの要素が破綻したのか」という目で見ると、他社事例が自社の点検項目に変わります。

事故破綻した主な要素
フリックスボロー(1974)13 変更管理/3 プロセス安全能力
パイパー・アルファ(1988)9 安全な作業の実行/14 運転準備/8 運転手順
三井化学岩国大竹(2012)8 運転手順/13 変更管理/6 プロセス知識管理
デンカ青海(2023)6 プロセス知識管理/13 変更管理

この対応づけは、各事故調査報告書の記述をRBPSの枠組みに当てはめた本記事なりの整理です。公式にそう分類されているものではありません。

使い方3:新任者の学習地図にする

CCPSは、「これらの要素の中には他の要素よりも新任のエンジニアやプロセス安全に不慣れな人に関わりが深いものもあるが、関係ないものはない」としています。まず13(変更管理)・9(安全な作業の実行)・7(ハザードの特定とリスク分析)あたりから触れることになるはずです。

6. 日本企業の取り組み

国内の化学メーカーがRBPS的な取り組みをどう進めているかは、別記事で事例を整理しています。

要素ごとの詳細記事

20要素のうち、マネジメント側の主要な要素については個別に詳細記事を用意しています。

要素記事の芯
8 運転手順「あるか」ではなく「使われているか」。書き込みは改訂されていない証拠
16 緊急時の管理最初の5分に、その場にいた人が何をするか
17 事故調査「なぜ」をどこで止めるか。「不注意」は原因ではない
18 測定とメトリクス「安全弁が吹いた」は報告されているか
19 監査通ってしまう監査との差。現物から記録へ遡る
2 規範の遵守保安四法で全体像をつかむ。法令は最低ライン
10 設備健全性受動的バリアと支持構造が、いちばん抜ける
12 教育訓練「受講した」と「できる」は別物
ヒューマンファクター(横断)「不注意」は原因ではなく結果。型で対策が変わる
海外規制(2 規範の遵守)セベソ・PSM・RMPは、それぞれ守る対象が違う

まとめ

  • RBPSは4つの柱×20要素。誓う(5)→ 理解する(2)→ 管理する(9)→ 学ぶ(4)
  • 「リスクに基づく」とは、リスクの低いプロセスに高いプロセスと同じ厳しさを求めないということ
  • CCPSのPSMは、OSHA PSM・EPA RMPより適用範囲が広い。法令遵守=RBPS実践ではない
  • 20項目に○×をつければ、「安全に課題がある」が「13と18が弱い」に変わる

プロセス安全は、気合いでも標語でもありません。20個の具体的な仕組みの集合です。どれが自分の持ち場で、どれが弱いのか。それが言えることが出発点になります。

プロセス安全のどの領域から学べばいいか、全体の地図はこちらにまとめています。

参考文献

  • Center for Chemical Process Safety / AIChE 著、化学工学会 SCE・Net 安全研究会 訳『若い技術者のためのプロセス安全入門』丸善出版、2018年、第2章「プロセス安全の基礎」pp.5-45(表2.1 RBPSエレメントとOSHA PSMエレメントの比較) Amazonで見る
  • CCPS “Guidelines for Risk Based Process Safety”(邦訳『リスクに基づくプロセス安全 ガイドライン』)
  • 安全工学会 監修『実践・安全工学シリーズ3「安全マネジメントの基礎」』化学工業日報社、2013年 Amazonで見る