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低温貯槽のロールオーバー|層が反転すると何が起きるか、どう防ぐか

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困っている人
困っている人

LNGタンクのロールオーバーという言葉は聞くが、何が危険なのか説明できない。

密度の違う液を同じタンクに入れることの、本当のリスクを知りたい。

そんな悩みを解決します。

この記事の内容

密度の異なる2層ができ、それが反転する現象

反転の瞬間に大量のガスが一気に発生する ── これが危険の本体

1971年のラ・スペチア事故で世界的に認識された

防止策は層を作らないこと(受入方法・密度管理・撹拌)

低温貯槽を扱うなら必ず知っておくべき現象です。事故は減っていますが、原理は変わりません。

現場で、この現象はどこで問題になるか

設備リスク
LNG貯槽最も典型的。産地の違うLNGを混載すると層ができる
LPG貯槽プロパン/ブタン比の違う受入
液化アンモニア貯槽温度差による層
液体酸素・窒素・アルゴン同上
低温の反応器・分離塔組成差による層

「密度の違う液を重ねて入れる」設備すべてに可能性があります。

LNGが最も有名なのは、産地によって組成(メタン/エタン/プロパン比、窒素含有量)が大きく違うからです。

何が起きているのか ── 3段階で理解する

段階1:層ができる(成層化)

どうやって層ができるか

密度の違う液を受け入れる(産地・組成が違う)

→ 混ざらずに上下2層に分かれる

→ 軽いほうが上、重いほうが下

受入方法によって、どちらの層になるかが変わります。

受入位置入れる液が既存液より結果
上部から(トップフィル)軽い上に乗る → 層ができる
上部から重い沈んでいく → 混ざりやすい
下部から(ボトムフィル)重い下に溜まる → 層ができる
下部から軽い浮き上がる → 混ざりやすい

「重い液は下から、軽い液は上から」入れると層ができます。 逆にすれば混ざる。

だからLNG基地では、受入液の密度を測ってから注入口を選びます。

段階2:層ごとに性質が変化する

外部からの入熱で、上下の層は違う動きをする

上層:液面から蒸発(ボイルオフ)できる

 → 軽い成分(メタン・窒素)が抜ける → 密度が上がる

下層:上層に押さえられて蒸発できない

 → 入熱で温度だけ上がる → 密度が下がる

上層は重くなり、下層は軽くなる。 差が縮まっていきます。

しかも下層は「過熱状態」になります。その圧力での沸点を超えているのに、上層の重みで蒸発できない。

段階3:反転する(ロールオーバー)

密度が逆転した瞬間

上層と下層の密度が等しくなる

→ わずかな擾乱で層が入れ替わる

過熱状態の下層が一気に上へ

→ 上に来た瞬間、圧力が下がって一斉に蒸発

これがロールオーバーです。「転がる(roll over)」という名前どおり、層がひっくり返る。

危険なのは反転そのものではなく、その瞬間の大量蒸発です。

何が起きるか

通常の10〜100倍のボイルオフガスが短時間で発生

タンク内圧が急上昇

→ 安全弁の能力を超えるとタンクが損傷

→ 大量のガスが放出される

タンクは通常のボイルオフ量で設計されています。 100倍には対応できない。

ラ・スペチア事故(1971年)── この現象が知られた経緯

経緯

イタリア・ラ・スペチアのLNG基地

既存のLNGと組成の違うLNGを受け入れた

→ 約1か月後、突然大量のガスが発生

→ タンクの安全弁から大量放出

→ 屋根に損傷

幸い着火せず、死者は出ませんでした。 しかしこの事故で現象が広く認識されました。

受入から発生まで1か月かかった点が重要です。すぐには起きない。

だから「受入時に問題なかったから大丈夫」とは言えません。

この事故から得られた教訓

組成の違うLNGを混載すると層ができる

層は時間をかけて不安定化する

受入方法(上部/下部)の選択が重要

密度の監視が必要

以後、LNG基地では密度管理と受入方法の選択が標準的な運用になりました。

大規模なロールオーバー事故は、その後ほとんど起きていません。 対策が確立したためです。

数値で確かめる ── どれくらいのガスが出るのか

通常のボイルオフ率

LNG貯槽の設計値

1日あたり0.05〜0.1%(BOR:Boil Off Rate)

→ 10万m³のタンクなら1日50〜100 m³(液)

→ ガス換算で 1日3〜6万Nm³

安全弁とBOG圧縮機は、この量に余裕を見て設計されています。

ロールオーバー時の発生量

下層の過熱度から計算する

下層が飽和温度より ΔT だけ過熱されているとする

→ 反転時に その過熱分の熱がすべて蒸発に使われる

蒸発量 = m × cp × ΔT / ΔH_vap

下層1万トンのLNGが2 K過熱されていたとき、反転で何トン蒸発するか。
(LNGの比熱 cp ≒ 3.5 kJ/(kg·K)、蒸発潜熱 ΔH_vap ≒ 510 kJ/kg)

〔解答〕

蒸発量 = 10,000,000 kg × 3.5 × 2 / 510

 = 70,000,000 / 510 = 約137,000 kg = 137トン

ガス換算(メタン、22.4 L/mol)で 約19万 Nm³

1日分のボイルオフ(3〜6万Nm³)の3〜6倍が、数十分で発生する計算になります。

しかも過熱度が2 Kというのは控えめな想定です。実際にはもっと大きくなりうる。

安全弁の能力を大きく超えます。 これがタンク損傷につながる。

なぜ過熱状態になれるのか

液柱の重さで沸点が上がる

深さ h の位置での圧力 = 気相圧力 + ρgh

→ その圧力での飽和温度は高くなる

→ 下層はその温度まで加熱されても沸騰しない

液深30 m、LNGの密度450 kg/m³ のとき、底部の圧力上昇は?

〔解答〕

Δp = ρgh = 450 × 9.8 × 30 = 132,300 Pa ≒ 0.13 MPa

→ 気相圧が0.1 MPaAなら、底部は0.23 MPaA

→ メタンの飽和温度は −162℃ から 約−148℃へ上昇

底部では14 Kも沸点が高いのです。だから過熱状態を蓄えられる。

反転して上に来ると、圧力が0.1 MPaAに下がる → 14 K分の過熱が一気に蒸発に変わる。

ヘンリーの法則(気液平衡)熱力学第一法則

防止策 ── 層を作らないことが第一

① 受入方法の選択(最も基本)

密度を測って注入口を選ぶ

受入液が既存液より重い上部から注入(沈みながら混ざる)

受入液が既存液より軽い下部から注入(浮きながら混ざる)

「密度差を打ち消す向きに入れる」のが原則です。

LNG基地のタンクには上部・下部の両方に注入ノズルがあります。この使い分けのため。

受入前に船側の密度データを取得し、タンク内の液と比べて注入口を決めます。

② 密度・温度のプロファイル監視

多点測定

タンク内の複数の高さで密度・温度を測る

層ができていないかを監視する

→ 層が検知されたら対策を打つ

LTD(Level-Temperature-Density)計という専用の計器があります。

層があると、密度プロファイルに段差が現れます。

③ 撹拌・循環

層を壊す

タンク内循環ポンプで液を回す

ジェットノズルで撹拌する

→ 層を強制的に混合する

層が検知されたら、早めに混ぜる。 密度差が大きいうちのほうが安全です。

密度差が縮まってからでは、混ぜること自体が反転の引き金になりかねません。

④ ボイルオフの管理

上層から適切に蒸発させる

BOG(ボイルオフガス)を安定して抜く

→ 上層の組成変化を緩やかにする

BOG圧縮機を止めるとタンク圧が上がり、蒸発が抑制されて過熱が進みます。

⑤ 組成管理

そもそも混ぜない

組成の近いLNGだけを同じタンクに入れる

タンクを使い分ける(産地別)

組成が大きく違うなら受入前に既存液を減らす

窒素含有量が特に効きます。 窒素は密度を大きく変え、しかも先に蒸発する。

窒素分が多いLNGは要注意です。上層から窒素が抜けると急激に密度が上がる。

似た現象との区別

現象何が起きるか違い
ロールオーバー層の反転による大量蒸発密度差が原因。容器は健全
BLEVE加熱された容器の破裂とファイヤーボール外部火災が原因。容器が破裂する
蒸気爆発高温物と低沸点液の接触による瞬間蒸発接触が原因。ロールオーバーの一種とも言える
RPT
(Rapid Phase Transition)
LNGが水に触れて瞬間蒸発水との接触が原因。燃焼を伴わない物理爆発

すべて「急激な相変化」という点では共通しています。

RPT(急速相転移)は、LNGが海面に漏えいしたときに起きます。

RPTの機構

LNG(−162℃)が水(+15℃)に触れる

→ 温度差が約180 K

膜沸騰から核沸騰へ遷移する瞬間に、爆発的に蒸発

燃焼を伴わない物理爆発

LNG船からの漏えいで最も懸念される現象のひとつです。

BLEVEとファイヤーボール学識 問6(蒸気爆発と蒸気雲爆発)

実務での判断ポイント

受入計画のチェックリスト

確認すべきこと

受入液の密度・組成(特に窒素含有量)

タンク内液の密度・組成

密度差(1 kg/m³ 以上あれば要注意とされる)

注入口の選択(上部か下部か)

受入速度(速すぎると混合が不十分)

密度差が小さければ、どちらから入れても混ざります。 問題は差が大きいとき。

層が検知されたときの対応

  1. 層の密度差と温度差を確認する
  2. 密度差が縮まっていないか(時系列で見る)
  3. 早めに撹拌・循環して混合する
  4. BOG処理能力に余裕を持たせる
  5. 受入を一時停止することも検討する

密度差が縮まりつつあるときが最も危険です。反転が近い。

設計側の対策

タンクの設計で考慮すること

上部・下部の両方に注入ノズル

多点の密度・温度計

タンク内循環ポンプ

安全弁の容量(ロールオーバーを想定するか)

BOG圧縮機の余裕

安全弁でロールオーバーの全量に対応するのは非現実的です。

だから「起こさない」ことが設計の基本方針になります。

防護層の考え方でいえば、最上流(発生防止)に投資するということです。

LOPA(防護層解析)安全弁の設計

甲種化学ではこう出ます

保安管理技術の運転管理・高圧装置の範囲で扱われます。

押さえる点

密度の異なる層が形成され、反転する現象

反転時に大量のボイルオフガスが発生する

防止策は層を作らないこと(受入方法・密度監視・撹拌)

低温貯槽の材料(9%Ni鋼・オーステナイト系ステンレス・アルミ合金)とセットで問われます。

金属材料の基礎(低温脆性)保安管理技術|材料と熱処理

断熱材の選定(熱伝導率が小さい・吸湿性が小さい・不燃性)も関連論点です。

保安管理技術|防災設備

類似現象(蒸気爆発・BLEVE)との区別は学識の記述でも出ています。

学識 問6の記述問題

まとめ

  • 密度の異なる2層ができ、時間とともに密度差が縮まって反転する
  • 上層は蒸発して重くなり、下層は入熱で軽くなる
  • 下層は液柱の重さで過熱状態を蓄えている(液深30 mで沸点が14 K上昇)
  • 反転の瞬間、過熱分が一気に蒸発する
  • 通常の10〜100倍のボイルオフガスが短時間で発生し、タンク内圧が急上昇
  • 1971年のラ・スペチア事故で認識された(受入から1か月後に発生)
  • 防止策の基本は層を作らないこと
  • 重い液は上部から、軽い液は下部から入れると混ざる
  • 密度・温度の多点監視撹拌・循環
  • 密度差が縮まりつつあるときが最も危険
  • 安全弁で全量を逃がすのは非現実的。発生防止に投資する

低温材料は金属材料の基礎、類似現象はBLEVE蒸気雲爆発へ。

運転管理は保安管理技術|運転管理を参照してください。