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材料選定の資料に「C量0.25%以下」とあるが、その根拠が分からない。
低温で使える材料と使えない材料の境目が、経験則でしか説明できない。
そんな悩みを解決します。
C量が増えると硬く強く、脆くなる ── ここが全部の起点
体心立方(BCC)は低温脆性を示し、面心立方(FCC)は示さない
溶接性の指標炭素当量と、予熱の要否
シャルピー衝撃試験と遷移温度の読み方

圧力容器の材質選定、溶接施工要領の妥当性判断、低温設備の材料選び。ここが土台になります。
現場で、材料の知識はどこで要るか
| 場面 | 何を判断するか |
|---|---|
| 圧力容器・配管の材質選定 | 使用温度・圧力・流体に耐えるか |
| 溶接施工要領(WPS)の確認 | 予熱・後熱の要否、溶接棒の選定 |
| 低温設備の設計 | 最低使用温度に対する材料の可否 |
| 補修・改造の可否 | 現材質に溶接してよいか |
| 材料ミルシートの確認 | 規格値を満たしているか |
| 事故解析 | なぜそこが割れたか |
現場で最も多いのは「代替材でいいか」という判断です。手持ちの材料で済ませたい、というとき。
その場で判断するには、材料の性質が何で決まるかを知っている必要があります。
炭素量が変えるもの ── すべての起点
上がる:引張強さ・降伏点・硬さ・焼入れ性
下がる:伸び・絞り・靭性・溶接性
なぜそうなるのか
炭素は鉄の結晶格子のすき間に入り込む(侵入型固溶)
→ 格子が歪む → 転位(すべり)が動きにくくなる
→ 変形しにくい = 硬い・強い
→ しかし変形できない = 脆い
「変形できる」ことが靭性の本体です。金属が粘り強いのは、力を受けたときに塑性変形して吸収できるから。
転位が動けなくなると、変形せずにいきなり割れます。 これが脆性破壊。
炭素鋼の区分
| 区分 | C量 | 用途 | 溶接性 |
|---|---|---|---|
| 極低炭素鋼 | 〜0.10% | 深絞り・ステンレスのL材 | 良好 |
| 軟鋼(低炭素鋼) | 0.10〜0.30% | 圧力容器・配管・構造物 | 良好 |
| 中炭素鋼 | 0.30〜0.50% | 機械部品・軸 | やや劣る |
| 硬鋼(高炭素鋼) | 0.50〜0.60% | 工具・ばね・レール | 不良 |
| 鋳鉄 | 2%超 | 鋳物・ベッド | 困難 |
JIS G 3118(SGV)、G 3115(SPV) などの規格を見ると、必ずC量の上限があります。
不純物 ── PとSは有害
| 元素 | 由来 | 影響 |
|---|---|---|
| Si・Mn | 製鋼上必要(脱酸) | 強度向上。Mnは硫黄の害を軽減 |
| P(リン) | 不純物 | 低温脆性を助長/焼戻し脆化の原因 |
| S(硫黄) | 不純物 | 高温脆性(赤熱脆性)/MnSが割れの起点 |
PとSは0.03%以下に管理するのが一般的です。高品質材では0.01%以下。
ラメラテア(層状割れ)はMnSの介在物が原因です。板厚方向に引張力がかかると層状に剥がれる。
結晶構造 ── 低温脆性の正体
| 構造 | 略称 | 特徴 | 代表材料 |
|---|---|---|---|
| 体心立方 | BCC | 低温脆性を示す/すべり系が温度依存 | 炭素鋼・フェライト系ステンレス・Cr-Mo鋼 |
| 面心立方 | FCC | 低温脆性を示さない/すべり系が多い | オーステナイト系ステンレス・アルミ・銅・ニッケル |
| 稠密六方 | HCP | すべり系が少ない/加工性が悪い | チタン・亜鉛・マグネシウム |
なぜBCCだけ低温で脆くなるのか
FCC:すべり系が12と多く、温度に依存しにくい
→ 低温でも塑性変形できる → 延性を保つ
BCC:すべり系はあるが、動かすのに必要な力が温度で急変する
→ 低温では転位が動かない → 変形せずに割れる
これを遷移温度(DBTT:Ductile-Brittle Transition Temperature)と呼びます。
だからオーステナイト系は極低温で使える
| 材料 | 結晶構造 | 最低使用温度の目安 |
|---|---|---|
| 炭素鋼 | BCC | −30℃程度 |
| 2.5%Ni鋼 | BCC | −60℃ |
| 3.5%Ni鋼 | BCC | −100℃ |
| 9%Ni鋼 | BCC(組織制御) | −196℃(LNG用) |
| SUS304・316 | FCC | −269℃(液体ヘリウム) |
| アルミ合金 | FCC | 極低温可 |
| 銅・銅合金 | FCC | 極低温可 |
Niは遷移温度を下げる最も有効な元素です。だからNi量で最低使用温度が決まります。
アルミ合金は低温で強度がむしろ上がるので、LNGタンクの内槽にも使われます。
磁性で見分けられる
磁石がつく → BCC(炭素鋼・フェライト系・マルテンサイト系)
磁石がつかない → FCC(オーステナイト系ステンレス)
ただし加工したオーステナイト系は磁性を帯びることがあります(加工誘起マルテンサイト)。
SUS430(フェライト系)は磁性があります。 「ステンレス=非磁性」ではない。
数値で確かめる ── シャルピー衝撃試験
ノッチ(切り欠き)を入れた試験片をハンマで打ち破る
→ 吸収エネルギー[J]を測る
→ 温度を変えて測るとS字カーブになる
遷移温度曲線の読み方
| 温度域 | 吸収エネルギー | 破面 | 破壊の様子 |
|---|---|---|---|
| 高温側(上部棚) | 大きい | 繊維状(延性破面) | 大きく変形してから破断 |
| 遷移域 | 急変する | 混合 | ── |
| 低温側(下部棚) | 小さい | 結晶状(脆性破面) | ほとんど変形せず割れる |
実際の値
| 材料 | 遷移温度の目安 | 上部棚エネルギー |
|---|---|---|
| 普通の炭素鋼 | 0〜20℃ | 100〜200 J |
| 圧力容器用鋼(TMCP材) | −60℃以下 | 200 J以上 |
| SUS304 | なし(遷移しない) | 全温度域で高い |
普通の炭素鋼の遷移温度が室温付近という点に注意してください。
だから圧力容器では、遷移温度の低い鋼(TMCP材・調質材)を使います。
規格での要求
最低使用温度における吸収エネルギーが27 J以上(3個の平均)
個々の値は20 J以上
→ この条件を満たす温度が最低使用温度になる
板厚が厚いほど遷移温度は高くなります。 拘束が強く、三軸応力状態になるから。
だから厚板ほど厳しい材料が要ります。
タイタニック号の事例
1912年の沈没は、氷山との衝突だけでなく鋼板の脆性破壊が被害を拡大したとされています。
硫黄・リンが多い(当時の製鋼技術の限界)
遷移温度が高かった(推定30℃前後)
海水温は−2℃
→ 完全に脆性域で衝撃を受けた
第二次大戦のリバティ船の折損事故も、溶接構造+脆性破壊が原因でした。ここから破壊力学が発展します。
溶接性 ── 炭素当量で判断する
溶接は「急熱急冷」です。だから焼入れと同じことが起きます。
溶接金属の周囲は1,500℃近くまで加熱される
→ 母材の熱で急速に冷える
→ マルテンサイトが生成する(硬く脆い)
→ 低温割れのリスク
炭素当量(Ceq)
Ceq = C + Mn/6 + (Cr+Mo+V)/5 + (Ni+Cu)/15
| Ceq | 溶接性 | 対応 |
|---|---|---|
| 0.40以下 | 良好 | 予熱不要 |
| 0.40〜0.50 | やや注意 | 予熱推奨 |
| 0.50以上 | 要注意 | 予熱・後熱が必須 |
Cr-Mo鋼はCeqが高いので、必ず予熱・後熱を行います。
低温割れ(遅れ割れ)の3条件
① 拡散性水素(溶接棒の吸湿・大気の水分)
② 硬化組織(マルテンサイト)
③ 拘束応力(残留応力・外部拘束)
| 条件 | 対策 |
|---|---|
| 水素 | 低水素系溶接棒/乾燥(300〜400℃で1時間)/後熱(水素を逃がす) |
| 硬化組織 | 予熱(冷却速度を落とす)/入熱の管理 |
| 拘束応力 | 溶接順序の工夫/PWHT(応力除去焼なまし) |
24〜48時間後に非破壊検査するのが標準です。
予熱の意味
① 冷却速度を落とす → マルテンサイトができにくい
② 水素の拡散を促す → 水素が抜けやすい
板厚が厚いほど予熱温度を上げます。 冷却速度が速いから。
後熱(PWHT)は残留応力の除去+組織の焼戻しが目的です。
高圧ガス設備では板厚に応じてPWHTが義務づけられます。
実務での失敗例
失敗例①:手持ちの材料で代替してしまう
SUS304の配管が必要だが、手元にSUS316しかない → これは問題ない(上位材)
SUS316が必要だが、SUS304しかない → ダメ(耐孔食性が足りない)
低温用鋼が必要だが、普通の炭素鋼しかない → 絶対にダメ
ただし上位材でも問題が出る場合があります。 SUS304の代わりにSUS316を使うと、Moの影響で応力腐食割れの挙動が変わることがある。
異材溶接になると、また別の問題が出ます。熱膨張率の差、希釈、炭素移行。
失敗例②:溶接部の硬さを管理しない
硫化水素環境では、硬さがSSC(硫化物応力腐食割れ)を決めます。
母材・溶接部とも HRC 22以下(ビッカースで約250 HV以下)
→ 溶接後の硬さ測定が要求される
溶接部は必ず硬くなるので、PWHTで軟化させる必要があります。
失敗例③:低温脆性を「−30℃以下だけの話」と思う
設計上の最低使用温度は、大気温度だけでは決まりません。
| 低温になる場面 | 何が起きるか |
|---|---|
| 安全弁の吹出 | 断熱膨張で急冷(−50℃以下も) |
| 緊急放出(デプレッシャリング) | 同上 |
| 液化ガスの漏えい | 気化熱で周囲が冷却される |
| 寒冷地の停止中 | 外気温まで下がる |
吹出時の到達温度を計算して材料を選ぶのが正しい設計です。
失敗例④:ミルシートを確認しない
化学成分(C・P・S・合金元素)
機械的性質(引張強さ・降伏点・伸び)
シャルピー衝撃値(低温設備なら必須)
熱処理条件
規格・グレード
「SUS304」と書いてあっても、C量が規格上限に近ければ鋭敏化しやすいことがあります。
低温用途では、衝撃試験の実施温度と値を必ず確認してください。
甲種化学ではこう出ます
技術検定の問3(高圧装置用材料)で毎年出ます。10年で25記述。
C量が増えると硬く強く、脆く、溶接しにくく(3回出題)
低合金鋼=添加元素の合計5%以下(2回)
オーステナイト系は面心立方で低温脆性を示さない
9%Ni鋼はNi量で最低使用温度が決まる
焼なまし(炉冷)と焼ならし(空冷)の区別(3回すり替えられた)
国試の問3は「材料の劣化・腐食」で、材料そのものではありません。
解き方と過去問は保安管理技術|高圧装置用材料と熱処理、腐食側は保安管理技術|腐食と防食にまとめています。
非破壊検査での磁性の話は設備管理と非破壊検査へ。
まとめ
- C量が増えると硬く強くなり、脆く、溶接しにくくなる
- 炭素は格子のすき間に入って転位を止める。だから強く、脆い
- 圧力容器用鋼はC量0.3%以下(溶接するから)
- PとSは有害。Pは低温脆性、Sは高温脆性
- BCCは低温脆性を示し、FCCは示さない
- 磁石で見分けられる(ただし加工で磁性を帯びることがある)
- Niは遷移温度を下げる。9%Ni鋼で−196℃
- 遷移温度はシャルピー衝撃試験で評価する(27 J以上が典型的な要求)
- 普通の炭素鋼の遷移温度は室温付近
- 溶接性は炭素当量 Ceqで判断(0.40以下なら良好)
- 低温割れの3条件=水素+硬化組織+拘束応力
- 安全弁の下流など、想定外に低温になる箇所に注意
次はステンレス鋼です。→ ステンレス鋼の選び方|SUS304/304L/316/316Lと鋭敏化
腐食は腐食のメカニズム・耐食材料の選定、検査は非破壊検査の使い分けへ。
化学プラント大全 
