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蒸留塔の分離が悪くなったが、原因が上限側か下限側か判断できない。
ウィーピングとダンピング、フラッディングとエントレインメント。名前が似ていて整理できない。
そんな悩みを解決します。
異常は蒸気量が少なすぎる側と多すぎる側の2つに分かれる
ウィーピング(軽度)とダンピング(激しい)── 試験でも入れ替えられる
フラッディングは差圧の急上昇で分かる
運転範囲(オペレーティングウィンドウ)の考え方

蒸留塔のトラブルは、まず「蒸気が多いか少ないか」で切り分けます。その地図を作ります。
現場で、トレイ異常はどう現れるか
| 症状 | 考えられる異常 |
|---|---|
| 製品純度が出ない | 段効率の低下(ウィーピング・エントレインメント) |
| 塔頂・塔底の差圧が上がる | フラッディング/閉塞 |
| 差圧が下がる | ダンピング/トレイの脱落 |
| 塔頂温度が下がらない | 分離不良全般 |
| 液面が不安定 | フラッディング/ダウンカマの詰まり |
| 処理量を上げられない | フラッディング限界に達している |
塔の運転は「差圧を見る」ことから始まると言ってよいくらいです。
→ 圧力損失の考え方
トレイの正常な動作 ── 何が起きているか
下から蒸気が孔を通って上がってくる
上から液がダウンカマを通って落ちてくる
→ トレイ上で気液が接触して物質移動する
→ 液はウェア(堰)を越えて次のダウンカマへ
蒸気が液を支えている
蒸気の上向きの圧力が、トレイ上の液の重さを支えている
→ 蒸気が弱いと液が孔から落ちる
→ 蒸気が強すぎると液を吹き飛ばす
これがオペレーティングウィンドウ(運転可能領域)の正体。
蒸気が少なすぎる側 ── ウィーピングとダンピング
| 現象 | 程度 | 何が起きるか | 影響 |
|---|---|---|---|
| ウィーピング | 軽度 | 液が孔からじわじわ漏れる | 段効率がやや低下 |
| ダンピング | 激しい | 液が孔から一気に落ちる | 段効率が大幅に低下/実質的に機能しない |
英語の語感どおりです。これで覚えると入れ替えを間違えません。
なぜ段効率が落ちるのか
本来はウェアを越えてダウンカマを通り、1段下へ行くはず
→ 孔から落ちると気液接触せずにショートカットする
→ その分だけ分離に寄与しない
ダンピングでは、ほとんどの液がショートカットします。塔として機能しない。
原因と対策
| 原因 | 対策 |
|---|---|
| 処理量が少なすぎる(ターンダウン) | 還流比を上げる/リボイラ負荷を上げる |
| リボイラの能力低下 | 汚れの除去/蒸気圧力の確認 |
| トレイの孔が大きすぎる(設計) | バルブトレイへの変更 |
| ウェア高さが不適切 | 改造 |
だから「塔は絞れない」のです。生産調整で流量を落としすぎると分離が崩れます。
トレイの種類でターンダウン比が違う
| トレイ | ターンダウン比 | 特徴 |
|---|---|---|
| 多孔板(シーブ) | 2:1程度 | 安価・単純/ウィーピングしやすい |
| バルブトレイ | 4:1以上 | 低流量でも弁が閉じて漏れにくい |
| 泡鐘(バブルキャップ) | 8:1以上 | ウィーピングしない/高価・圧損大 |
| 充填物 | 条件による | 圧損が小さい/低流量では偏流 |
負荷変動が大きいプラントではバルブトレイが選ばれます。
泡鐘は原理的にウィーピングしません(蒸気が必ずキャップを通るため)が、圧損が大きく高価。
蒸気が多すぎる側 ── ブローイング・エントレインメント・フラッディング
| 現象 | 何が起きるか | 影響 |
|---|---|---|
| ブローイング | 蒸気が液を吹き飛ばす(液膜が破れる) | 気液接触が不十分 |
| エントレインメント | 液滴が上の段へ飛沫同伴 | 逆混合で分離が悪化 |
| フラッディング | 液が下りきれず塔内に溜まる | 差圧急上昇・運転不能 |
エントレインメント ── 分離を逆行させる
蒸留塔は上へ行くほど低沸点成分が濃い
→ 下の段の液(高沸点が多い)が上の段へ飛ぶ
→ せっかく分離したものが混ざる
→ 段効率が落ちる
「逆混合(バックミキシング)」と呼ばれる現象です。
トレイ間隔を広げると、飛沫が上の段に届く前に落ちるので改善します。
フラッディングの2種類
| 種類 | 起きる場所 | 原因 |
|---|---|---|
| ジェットフラッディング | トレイ上 | 蒸気速度が過大で液滴が上段へ運ばれ続ける |
| ダウンカマフラッディング | ダウンカマ | 液量が過大/ダウンカマが小さい/泡立ち |
ダウンカマ内の液が下りきれない
→ ダウンカマ内の液面が上昇
→ 上のトレイまで達する
→ 次々に上の段へ波及(連鎖的)
原因と対策
| 原因 | 対策 |
|---|---|
| 処理量が多すぎる | 負荷を下げる(最も直接的) |
| 還流比が高すぎる | 還流比を下げる |
| 塔頂圧力が低すぎる | 圧力を上げる(蒸気の密度が上がり流速が下がる) |
| 発泡(界面活性物質・微粒子) | 消泡剤/原因物質の除去 |
| トレイの汚れ・閉塞 | 開放清掃 |
| ダウンカマの詰まり | 同上 |
減圧蒸留のほうがフラッディングしやすいのはこの理由。
発泡は見落とされがちな原因です。微量の界面活性物質でも塔が泡だらけになります。
差圧で判断する ── 数値で確かめる
正常:0.3〜0.7 kPa/段(液深+乾き圧損)
→ 30段なら塔全体で 10〜20 kPa
| 差圧の変化 | 考えられる状態 |
|---|---|
| 設計値どおり | 正常 |
| 低い(半分以下) | ウィーピング・ダンピング/トレイの脱落・破損 |
| 徐々に上昇 | 汚れの蓄積/重合物の付着 |
| 急上昇 | フラッディング |
| 変動が激しい | 不安定運転/発泡 |
フラッディング率(%フラッド)
フラッディングが起きる蒸気速度を100%とする
→ 通常は70〜85%で設計する
→ 余裕を持たせる
85%を超えると不安定になります。90%以上では運転できません。
増産で「あと10%上げたい」というときに、この余裕があるかどうかが問題になります。
段効率
段効率 = 理論段数 / 実際の段数
一般的なトレイ塔で 50〜70%
→ 理論段20段が必要なら、実際は30〜40段要る
「同じ段数なのに分離が悪い」=段効率が落ちているということです。
実務での切り分け手順
- 差圧を確認する(上がったか下がったか)
- 処理量・還流比を確認する(設計範囲内か)
- 温度プロファイルを見る(どの段から崩れているか)
- 塔頂圧力を確認する
- 原料組成の変化を確認する
差圧上昇のとき
① 処理量・還流比が上がっていないか(オペレーション要因)
② 塔頂圧力が下がっていないか
③ 発泡していないか(原料に不純物が入った?)
④ 汚れ・閉塞(徐々に上がってきたなら)
差圧低下のとき
① 処理量が下がりすぎていないか
② リボイラの能力が落ちていないか(汚れ・蒸気圧力)
③ トレイが脱落・破損していないか
③は開放しないと分かりません。 ただし差圧が急にゼロ近くになったら疑うべき。
過去に圧力サージ(急激な減圧・水撃)があったなら、トレイが吹き飛んでいる可能性があります。
温度プロファイルの読み方
塔頂から塔底へなめらかに温度が上がる
分離が進んでいる部分では温度勾配が急
| プロファイルの異常 | 考えられる原因 |
|---|---|
| 途中で温度が平坦 | その区間で分離が進んでいない(トレイ異常) |
| 全体的に温度差が小さい | 還流不足/リボイラ不足 |
| 塔頂温度が上がる | 重質分が上がってきている(エントレインメント・フラッディング) |
よくある見落とし ── 発泡
界面活性物質(洗浄剤・添加剤の混入)
微粒子・スラッジ(腐食生成物・重合物)
粘度の高い液
アミン・グリコール系(もともと泡立ちやすい)
アミン吸収塔・グリコール脱水塔は特に泡立ちやすいので、消泡剤の常時注入が標準です。
「原因不明のフラッディング」の多くが発泡です。
運転範囲を意識する
上限:フラッディング/エントレインメント(蒸気過大)
下限:ウィーピング/ダンピング(蒸気不足)
その間で運転する
ターンダウン比が大きいトレイほど、この窓が広いということです。
増産・減産の計画では、この窓の中に収まるかを必ず確認してください。
甲種化学ではこう出ます
技術検定の問12(高圧装置・運転管理)などで出ます。
ウィーピング(軽度)とダンピング(激しい)の入れ替え(R2検定問12ロ)
トレイ上の液深が深くなると段効率は低下する(R4国試問13ロ)
出た誤り記述(令和2年度 技術検定 問12ロ)
多孔板トレイでの激しい液降下をウィーピング、軽度の液降下をダンピングという。
→ × 逆。
出た誤り記述(令和4年度 国家試験 問13ロ)
トレイ上の液深が深くなると、蒸気がトレイから断続的に吹き出し、段効率が高くなる。
→ × 段効率は低下する。
液深が深すぎると、蒸気が断続的に吹き抜けて気液接触が不均一になります。
しかも圧力損失が増えて、フラッディングにも近づきます。
解き方と過去問は保安管理技術|運転管理にまとめています。
学識では流動・伝熱・分離(型10)の範囲ですが、5年間で出題ゼロでした。
まとめ
- トレイ異常は蒸気が少なすぎる側と多すぎる側の2つに分かれる
- ウィーピング=軽度、ダンピング=激しい液降下(蒸気不足)
- ブローイング・エントレインメント・フラッディング(蒸気過大)
- エントレインメントは逆混合で分離を悪化させる
- フラッディングはジェット型とダウンカマ型の2種類
- 差圧が最も分かりやすい指標(急上昇=フラッディング、低下=ウィーピング)
- 圧力を上げるとフラッディングは改善する(蒸気密度が上がる)
- 発泡は見落とされやすい原因(アミン・グリコール系は特に)
- ターンダウン比:多孔板2:1/バルブ4:1/泡鐘8:1
- 設計はフラッディング率70〜85%
- 液深が深すぎると段効率は低下する
蒸留塔の運転は保安管理技術|運転管理、リボイラ・コンデンサは熱交換器の完全ガイドへ。
圧力損失の考え方は配管の圧力損失を参照してください。
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