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ヘンリーの法則とガスの溶解度|ラウールとどう違うか、現場でどう効くか

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困っている人
困っている人

ヘンリーの法則とラウールの法則、どちらを使うのか毎回迷う。

ヘンリー定数の定義が資料ごとに違っていて、逆数なのか掛けるのか分からない。

そんな悩みを解決します。

この記事の内容

ラウールは溶媒、ヘンリーは溶質 ── 濃いほうか薄いほうか

ヘンリー定数は3つの流儀がある。定義を確認してから使う

温度が上がると溶解度は下がる(気体の場合)

配管の脱ガス、吸収塔、キャビテーション ── 現場での現れ方

ガス吸収塔の設計から、炭酸飲料が気の抜ける理由まで、同じ1本の式で説明できます。

現場で、この法則はどこに出てくるか

場面何が起きているか
ガス吸収塔(アミン吸収・水洗)気相の分圧に応じて液に溶ける ── 設計の基礎式
脱ガス(ストリッピング)分圧を下げて溶存ガスを追い出す
ボイラ給水の脱酸素溶存酸素が腐食の原因になる
配管内での気泡発生減圧で溶解度が下がり、溶けていたガスが出てくる
ポンプのキャビテーション圧力低下で溶存ガスが気化・析出
除害設備の水洗溶解度の大きいガスなら水で除去できる

共通しているのは「分圧が下がると溶けていられなくなる」という一点です。

この法則を知らないと、「なぜここで気泡が出るのか」が説明できません。

定義と式 ── ラウールとの違いから

2つの法則は同じ形をしている

ラウール:p = x p°(溶媒・濃い側)

ヘンリー:p = H x(溶質・薄い側)

どちらも「分圧はモル分率に比例する」

ラウールヘンリー
成り立つ濃度域x → 1(溶媒側)x → 0(溶質側)
比例定数純物質の飽和蒸気圧 p°ヘンリー定数 H
典型例エタノール水溶液のエタノール水に溶けた酸素・窒素・CO₂

なぜ比例定数が違うのか

分子が感じている環境が違うからです。

  • 溶媒(x→1):周りはほぼ同じ分子 → 純物質と同じ振る舞い → が定数
  • 溶質(x→0):周りはほぼ溶媒分子 → まったく違う環境 → 別の定数 H が必要

同じ物質でも、濃い側と薄い側で比例定数が変わります。 これが2つの法則に分かれる理由です。

中間の濃度では?

どちらも成り立ちません。 実測値は2本の直線の間を通ります。

その差を表すのが活量係数です。実務ではNRTL、UNIQUACといったモデルで扱います。

ただし、気体の水への溶解のように極端に薄い系では、ヘンリーで十分な精度が出ます。

ヘンリー定数の3つの流儀 ── ここが最大の落とし穴

資料によって定義が違います。 掛けるのか割るのかを間違えると、答えが桁で変わります。

定義単位大きいほど
① p = H x分圧 = H × モル分率Pa(大きい値:MPa級)溶けにくい
② x = H pモル分率 = H × 分圧1/Pa溶けやすい
③ c = H p濃度 = H × 分圧mol/(m³·Pa)溶けやすい

①と②は逆数の関係です。①で170 MPa なら、②では 5.9×10⁻⁹ /Pa。

見分け方

値の桁を見る

MPa や GPa オーダー → ①(p = Hx)

非常に小さい値 → ②か③(x = Hp、c = Hp)

mol/(L·atm) の単位 → ③

甲種化学の試験では ① の形(p = Hx)で与えられます。 問題文に定義が明記されるので、それに従ってください。

実務では文献の定義を必ず確認してください。 「ヘンリー定数 = 1700」だけでは使えません。

主なガスのヘンリー定数(p = Hx、水への溶解、25℃)

ガスH[MPa]溶けやすさ
He約14,600極めて溶けにくい
H₂約7,100溶けにくい
N₂約8,700溶けにくい
O₂約4,400N₂ の約2倍溶ける
CH₄約4,100──
CO₂約165N₂ の約50倍
H₂S約55よく溶ける
NH₃約0.1未満極めてよく溶ける(ヘンリー則から外れる)

H が小さいほど溶けやすい(①の定義のとき)。ここは直感と逆なので注意してください.

空気中の酸素と窒素で、水に溶ける比率が違う

空気は N₂ 79%・O₂ 21% ですが、水に溶けた空気は O₂ が約35%になります。

計算

N₂:x = 0.79×0.1013 / 8,700 = 9.2×10⁻⁶

O₂:x = 0.21×0.1013 / 4,400 = 4.8×10⁻⁶

O₂ の割合 = 4.8 / (9.2+4.8) = 34%

酸素のほうが溶けやすいからです。水中生物が呼吸できるのはこのおかげでもあります。

実務的には、これが溶存酸素による腐食の原因になります。水に触れる設備では常に酸素が供給され続ける ── 腐食のメカニズムを参照してください。

数値で確かめる

例1:水に溶ける酸素の量

25℃、大気圧下の水に溶けている酸素は何 mg/L か。
(O₂ の H = 4,400 MPa、空気中の O₂ 分圧 = 0.21 atm)

〔解答〕

p(O₂) = 0.21 × 0.1013 = 0.02127 MPa

x = p/H = 0.02127 / 4,400 = 4.83×10⁻⁶

水1 L = 55.5 mol なので

n(O₂) = 4.83×10⁻⁶ × 55.5 = 2.68×10⁻⁴ mol

質量 = 2.68×10⁻⁴ × 32 = 8.6×10⁻³ g = 8.6 mg/L

実測値は約8.3 mg/L。 ヘンリーの法則で十分な精度が出ています。

ボイラ給水の管理値は0.007 mg/L 以下(脱気後)。大気平衡の1,000分の1以下まで落とす必要があります。

例2:温度を上げると溶解度はどうなるか

気体の溶解度は温度が上がると下がります。 ヘンリー定数 H が大きくなる。

温度O₂ の H[MPa]溶存酸素[mg/L]
0℃約2,50014.6
25℃約4,4008.3
50℃約6,0005.6
100℃──0(沸騰で追い出される)

これが脱気器の原理です。 加熱して溶存ガスを追い出す。

固体の溶解度は温度が上がると上がるのが普通ですが、気体は逆です。

なぜ逆になるか

気体が液に溶ける過程は発熱(気体分子が液中に固定され、エネルギーを放出する)

ル・シャトリエの原理より、温度を上げると発熱側の反応は戻る

溶解度が下がる

炭酸飲料を温めると気が抜けるのはこれです。

例3:減圧で析出するガスの量

5 MPaA で CO₂ が飽和した水を、大気圧まで減圧した。
水1 m³ あたり、常圧換算で何 m³ の CO₂ が出てくるか。

〔解答〕

5 MPa での溶解:x = 5 / 165 = 3.03×10⁻²

0.1 MPa での溶解:x = 0.1 / 165 = 6.06×10⁻⁴

差 = 2.97×10⁻²

水1 m³ = 55,500 mol なので

析出量 = 2.97×10⁻² × 55,500 = 1,648 mol

常圧換算 = 1,648 × 24.5×10⁻³ = 約40 m³

水1 m³ から40 m³ のガスが出ます。 これが減圧時に気泡が噴き出す理由です。

フラッシュタンクや減圧弁の下流でこれが起きます。 液が泡立って設計流量が流れなくなる、あるいは二相流で配管が振動する ── 実務でよくあるトラブルです。

実務での使いどころと、失敗例

使いどころ①:ガス吸収塔の設計

吸収塔は「気相の分圧」と「液相の濃度」の差を駆動力にしています。

設計の基本

平衡線:ヘンリーの法則で決まる(p = Hx)

操作線:物質収支で決まる

2本の線の間の距離が推進力

→ 距離が大きいほど、少ない段数・少ない充填高さで済む

H が大きい(溶けにくい)ガスは、吸収塔では取りきれません。 別の方法(燃焼・吸着)を考えます。

水洗除害が効くのはH が小さいガス(NH₃・HCl・H₂S・SO₂)です。

H₂・N₂・CH₄ は水洗では取れません。 除害設備の選定はここから決まります。

除害設備と被害局限措置

使いどころ②:キャビテーションと脱ガス

ポンプの吸込側で圧力が下がると、2つのことが同時に起きます。

現象何が出てくるか条件
キャビテーション液そのものの蒸気圧力 < 飽和蒸気圧
脱ガス溶けていたガス圧力低下でヘンリー則から析出

脱ガスのほうが先に起きます。 飽和蒸気圧に達する前から、溶存ガスは出てきます。

だからNPSHに余裕があっても、気泡でポンプ性能が落ちることがあります。

NPSHとキャビテーションポンプの選定

失敗例:サンプリング時にガスが抜けて分析値が狂う

何が起きるか

加圧下の液をサンプリングボトルに常圧で採取

溶存ガスが析出して抜ける

→ 分析値が実際より低く出る

加圧下のサンプルは、加圧のまま採取する(密閉ボンベサンプラー)のが正しい方法です。

失敗例:脱酸素したつもりで、配管から酸素が入る

脱気器で溶存酸素を落としても、下流の配管が負圧になっていると大気から酸素が入ります。

ヘンリーの法則は「入る側」にも働きます。 分圧差があれば、どちらの向きにも移動します.

負圧部のフランジ・シール部は、漏れる(外へ)だけでなく吸い込む(中へ)ことを想定してください。

ラウールの法則との併用 ── 実務では両方使う

気液平衡の計算では、成分ごとに使う法則が違うことがあります。

典型的な系:水にCO₂が溶けている

(溶媒、x ≒ 1)→ ラウール:p_H₂O = x_H₂O × p°_H₂O

CO₂(溶質、x ≒ 0)→ ヘンリー:p_CO₂ = H × x_CO₂

同じ系の中で、成分ごとに法則を使い分けます。 これが実務での標準的な扱いです。

見分けの実践

与えられた定数で決まる

飽和蒸気圧 p° が与えられている → ラウール

ヘンリー定数 H が与えられている → ヘンリー

「溶解度」「水への溶解」という語 → ヘンリー

「気液平衡」「沸点」という語 → ラウール

ラウールの法則とドルトンの法則はラウールの法則とドルトンの法則で扱っています。

甲種化学ではこう出ます

学識の型3にあたります。令和2〜6年度の60大問中6回、うちヘンリーが3回と最多でした。

年度・問内容
R2 国試 問1酸素の飽和水溶液(ヘンリー)
R6 検定 問1気体Aの水への溶解と温度変化(ヘンリー定数が温度で変わる)
R2 検定 問1エタノールの気液平衡(ラウール)
試験での問われ方

ヘンリー定数から液相のモル分率を出す

温度を上げたときの再平衡(総量保存で立式する)

飽和蒸気圧との併用(全圧から水蒸気を引く)

解き方と過去問の詳細は学識・型3|蒸気圧と気液平衡にまとめています。

検定の問6では「気体の溶解度とガス吸収法」が記述として出ています(R5検定)。→ 学識 問6の記述問題

まとめ

  • ラウールは溶媒(x→1)、ヘンリーは溶質(x→0)。同じ形で定数が違う
  • ヘンリー定数には3つの流儀がある。定義を必ず確認する
  • p = Hx の定義なら、H が小さいほど溶けやすい
  • 気体の溶解度は温度が上がると下がる(溶解が発熱だから)
  • 水に溶けた空気はO₂ が約35%(酸素のほうが溶けやすい)
  • 減圧すると大量のガスが析出する(5 MPa の CO₂ 飽和水1 m³ から40 m³)
  • 水洗除害が効くのは H が小さいガス(NH₃・HCl・H₂S・SO₂)
  • キャビテーションより脱ガスのほうが先に起きる
  • 同じ系でも成分ごとに法則を使い分ける

熱力学の基礎に戻る場合は理想気体の状態方程式、実在気体の補正は実在気体|圧縮係数とvdW式へ。

吸着による分離はPSAとTSA|吸着によるガス分離を参照してください。