※本記事の参考文献には、Amazonアソシエイトのリンク(アフィリエイト広告)を含みます。
ポンプのトラブルの多くは吸込側で起きます。そして吸込側の失敗は、運転を始めてからでは直せないものが多い。配管のルート、吸込口の深さ、タンクの中でのポンプの位置——どれも据え付けてしまえば動かせないからです。
この記事では、吸込側でやってはいけないことを3つに分けて整理します。①空気を巻き込む、②配管の中に空気を溜める、③損失を増やしてNPSHAを削る。前の記事のNPSHAの式で言えば、③が hL を増やす話、①②は式に出てこない別の失敗です。
この記事の結論
- 吸込タンクの液面が下がると、吸込口に渦(くぼみ→断続→連続→集中→浸水)が育って空気を巻き込む。最低液面と吸込口の深さで決まる
- 吸込口は壁・底から離す。ポンプ2台なら中心間を吸込口径の3倍以上あける。吸込口の手前で旋回流を作らない配置にする
- 吸込配管は空気が滞留する盛り上がりを作らない。偏心レジューサは上面を平らに、吸込弁はハンドルを横向き(または45°)に
- 吸込ストレーナの注意点はただ1つ、NPSHAが確保されていること。目が細かいほど損失が増えてNPSHAを削る
- ストレーナを付けるなら、差圧計か吸込圧力計で「アラーム+シャットダウン」を組む。人は必ず見落とす
1. 空気を巻き込む|液面が下がると渦が育つ

吸込タンクの液面が下がっていくと、吸込口の上で渦が段階的に成長します。
- 液面にくぼみができる(まだ空気は入らない)
- 断続的に空気が引き込まれる(気泡が時々落ちる)
- 連続した渦になる(渦の芯が空気の柱になる)
- 集中する(渦が吸込口に真っ直ぐ入る)
- 浸水(壁際で空気が直接吸い込まれる)
②以降では空気がポンプに入ります。空気を吸ったポンプは、キャビテーションとほぼ同じ症状(音・振動・圧力計の不安定・流量低下)を出します。 前の記事で「切り分けが必要」と書いたのはこのためです。
防ぐには寸法で決めます。教科書には吸込口径ごとに「最低液面から吸込口までの深さ」「底からの高さ」「壁からの距離」の表があり、たとえば口径100 mmなら最低液面から330 mm、底から250 mm、壁から200 mm程度。口径300 mmになると850 mm・740 mm・450 mmと大きくなります。吸込口が太いほど深く沈めなければならない、と覚えておけば感覚が合います。
フート弁やベルマウス(ラッパ状の吸込口)を付ける場合も同じ考え方で寸法が決まります。ベルマウスは流れを整えて渦を出にくくするので、条件が厳しいときに使われます。
運転員に効く一文:タンクの「最低液面(LWL)」は、容量の下限ではなく空気を吸い込まない下限として決まっていることがあります。液面警報を軽く見ない理由はここです。
2. 吸込口とタンクの位置|旋回流を作らない
ポンプが2台あって吸込口が別々のときは、中心間を吸込口径の3倍以上あけます。近すぎると互いの流れが干渉して渦を誘発します。
もっと大事なのは吸込口の手前(前流)で旋回流ができないように配置することです。教科書には「理想的/良好/不良」の配置例が並んでいて、要点はこうです。
- 流れが吸込口へまっすぐ入る配置が理想
- 吸込口が壁の片側に寄っている、流れが斜めから当たる、吸込口の手前で流路が急に広がる——これらは旋回流を作るので不良
- 複数台を一列に並べるなら、流れの方向に対して対称に置く
水平配管で吸い込む場合も同様で、液面からの深さ(1.5d以上、ベルマウスなら2.5d以上)と、底からの高さ(1.0〜1.5d、ベルマウスなら1.25d以上)が決まっています。
これらは据付が終わると変えられません。「タンクの液面が下がると鳴くポンプ」は、たいてい設計段階でここを外しています。
3. 配管の中に空気を溜めない

吸込口から空気を吸わなくても、吸込配管の中に空気が滞留していれば同じことです。
吸込タンクの液面がポンプ軸心より下(吸上げ)の場合、配管の途中に盛り上がった箇所(山)があると、そこに空気が溜まります。 一度溜まると液が流れても抜けず、始動のたびに悪さをします。だから吸込配管は、タンクからポンプへ上り勾配一本で施工するのが原則です。下がってまた上がる、という形を作らない。
同じ理由で、次の2つが定番の注意点になります。
- 偏心レジューサは上面を平らに(フラット・オブ・トップ)。 吸込口径からポンプ口径へ細める継手を同心(センターを合わせる)で付けると、上側に三日月形の空間ができて空気が溜まります。偏心にして上面を平らに揃えれば、その空間ができません
- 吸込弁(仕切弁)はハンドルを横向きに。 仕切弁を通常どおり縦(ハンドルが上)に付けると、弁体が入る帽子の中に空気が滞留します。 ハンドルを横向きにすれば空気だまりが上に来ません。ただし横向きは開閉しにくいので、45°程度に傾けて設置しても実用上は問題ないとされます
ポンプ本体まわりも同じで、吸込ノズルの直前に空気が溜まる形を作らないよう、配管の取り回しに良い例・悪い例があります。要は「上に凸を作らない」の一点です。
4. 吸込ストレーナ|注意点はただ1つ
吸込ストレーナ(吸込口直前のこし器)は必須ではありません。付けたほうがよいのは主に2つの場合です。
- 建設中の異物が残っている可能性がある場合。溶接スケール、ボルト・ナットの置き忘れなど。これらがポンプに入れば羽根車を壊します
- プロセス上、液温がある温度以下になると結晶が析出する可能性がある場合
メッシュは想定する異物が通らない大きさに。一般には40メッシュがよく使われます。
形式は4つ。使い分けはメンテナンス性で決まります。
| 形式 | 使いどころ |
| コーン形 | 建設完了後、試運転前の配管洗浄のときだけ。洗浄が終われば外す |
| Y形 | 配管途中に常時設置。目詰まりしたときの清掃が比較的容易 |
| バケット形 | 常時設置。配管中にぶら下げられない大型 |
| 複式 | 目詰まりで清掃が必要になってもポンプを運転し続けなければならない場合 |
そして注意点はただ1つ、NPSHAが確保されていることです。 メッシュ数が大きい(目が細かい)ほど吸込側の圧力損失が大きくなり、その分NPSHAが小さくなります。前の記事の式で言えば hL が増えるということです。
水系で吸込圧力が高いときは、目が細かくても問題にならないことが多い。しかし液化ガスは吸込圧力は高くても飽和蒸気圧も高いので、ストレーナの圧力損失とNPSHAを必ず計算で予測しなければなりません(この話は2本先の記事で扱います)。
口径はポンプ吸込口径と同じにすれば配管径を変えずに済みますが、損失が大きいときは1ランク以上大きいストレーナにします。NPSHAが足りていても、安全のため1ランク上にすることがあります。
5. ストレーナを付けたら、人が間違える前提で守る
ここが実務でいちばん大事なところです。教科書ははっきり書いています——「弁などを含め、付属品は少ない方がポンプにとっては安全」。理由は、
- 吸込ストレーナが目詰まりしているのを見落とす
- 全開にするところを間違って全閉にして始動する
- 電気的なトラブルで検知できない
という事故が実際にあるからです。だからストレーナを付けるなら、人が間違えてもポンプが守られるように、次の4つを組みます。
- ストレーナ前後の差圧を測り、規定以上で「アラームそしてシャットダウン」する接点付差圧計
- または、ストレーナとポンプ吸込口の間の吸込圧力の異常低下を検知してシャットダウンする接点付圧力計
- メンテのためにストレーナ前後に仕切弁を付けるなら、全開に保持するための錠が付いた仕切弁にする
- 電気信号でシャットダウンする場合、信号線が切れていないことを確認する接点を回路に設ける(断線してもアラームが出ない、を防ぐ)
3番目と4番目は、プロセス安全でいうフェイルセーフの考え方そのものです。「弁は全開が正しい状態なので、間違って閉められないように施錠する」「信号がないこと=正常、にしない」。
6. 巡回で見るところ
以上を運転員の巡回に翻訳すると、こうなります。
- 吸込ストレーナの差圧計。前回値と比べて上がっていないか。上がっていれば清掃の計画を立てる
- 吸込圧力計。設計値からどれだけ下がっているか。NPSHAの余裕が減っているサイン
- タンクの液面。最低液面に近づいていないか。近づくと渦が育つ
- 吸込弁の開度。全開になっているか(施錠されていれば確認だけ)
- 液温。上がっていれば飽和蒸気圧が上がってNPSHAが減る
これらはすべて、NPSHAの式のどこかの項に対応しています。吸込側の巡回は、NPSHAの式を歩いて確かめる作業だと思うと、見るべき順番が決まります。
まとめ
- 液面が下がると吸込口に渦が育つ(くぼみ→断続→連続→集中→浸水)。最低液面と吸込口の深さ・底からの高さ・壁からの距離で防ぐ
- 吸込口の手前で旋回流を作らない配置にする。2台なら中心間は口径の3倍以上
- 吸込配管に上に凸の形を作らない。偏心レジューサは上面を平らに、吸込弁はハンドルを横向きか45°に
- ストレーナの注意点はNPSHAの確保。目が細かいほど損失が増える。液化ガスは特に計算で確認
- ストレーナを付けたら差圧または吸込圧力でアラーム+シャットダウン、弁は施錠、断線検知まで組む
次の記事は、吸込配管に残った空気をどう抜くか——始動前の空気抜きと呼び水です。
参考文献
- 外山幸雄『ポンプの選定とトラブル対策』日刊工業新聞社, 2・8「吸込ストレーナ」、2・9「吸込口と吸込タンク」、2・10「吸込配管」 Amazonで見る
- 西野悠司『「配管設計」実用ノート』日刊工業新聞社, 3.5「ポンプNPSHと配管」、4.4「ポンプまわり配管」 Amazonで見る
- 西野悠司『絵とき「配管技術」基礎のきそ』日刊工業新聞社, 吸込み配管のレイアウト、偏心レジューサ、ストレーナの差圧(Amazonリンク未発行)
- 外山幸雄『絵とき「ポンプ」基礎のきそ』日刊工業新聞社, 第5章「ポンプの据付けと試運転」 Amazonで見る
- 化学工学会編『プロセス機器構造設計シリーズ6 化学プラント用ポンプ・圧縮機』丸善, 5・1 ポンプの据付(配管)
化学プラント大全 
