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メカニカルシールの構造とフラッシング|Plan 11・23・32を現場で読む

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メカニカルシールの細い配管を見て、すべて「冷却水」と呼んでいないでしょうか。実際には、ポンプ吐出し液を戻すライン、シール室内の液をクーラーへ循環するライン、外部の清浄液を注入するラインなどがあり、閉めたときの影響も異なります。

メカニカルシールを理解する近道は、まず固定環と回転環の摺動面を知り、次に「液がどこから来て、何を通り、どこへ戻るか」を追うことです。この記事ではPlan 11・23・32を中心に、構造、液膜、フラッシングの目的、現場点検をつなげます。

この記事の結論

  • 回転環と固定環の端面を接触させ、薄い液膜で潤滑・冷却しながら漏れを小さくする
  • フラッシングの目的は、発生熱の除去、液相維持、異物排除、シール室環境の安定化
  • Plan番号は暗記せず、出発点・駆動差圧・通過機器・戻り先で読む
  • Plan 11は吐出し側からシール室、Plan 23はシール室循環とクーラー、Plan 32は外部清浄液の注入
  • 細管やオリフィスが閉塞すると、配管が付いていてもフラッシュは成立しない
  • インバータ低速、締切付近、予備機待機でも圧力差・流量・冷却が成立するか確認する

1. メカニカルシールの構造

回転環と固定環の摺動面、ばね、薄い液膜と微量漏れを示すメカニカルシール断面図
(一次資料を参考に当サイト作成)

代表的なシングルメカニカルシールは、次の部品で構成されます。

  • 回転環:軸またはスリーブに固定され、軸と一緒に回る
  • 固定環:シールカバー側に固定され、回転しない
  • 摺動面:回転環と固定環が向かい合う平滑な端面
  • ばね:停止時や低圧時にも端面を押し合わせる
  • 二次シール:Oリングやガスケットなど、環と軸・カバーの間を封じる
  • スリーブ・グランド:シール部品を保持し、ポンプへ取り付ける

回転環と固定環は、主軸に直角な端面で摺動します。グランドパッキンが軸の円筒面を締めるのに対し、メカニカルシールは端面を使う点が大きな違いです。

2. 漏れを小さくできる仕組み

摺動面は完全に乾いた状態で押し付けているのではありません。シール室の液がごく薄い液膜を作り、面を潤滑・冷却します。液膜の一部は高圧側から低圧側へ移動するため、物理的には微少な漏れが存在します。

液膜が厚過ぎれば漏れが増え、薄過ぎれば面が接触して発熱・摩耗します。次の条件が崩れると液膜を維持できません。

  • シール室に液が満たされていない
  • 液が摺動面で気化する
  • 固形分、結晶、重合物が面へ入る
  • フラッシュが止まり熱を持ち去れない
  • 振動、軸振れ、芯ずれで面が開く
  • 二次シールが固着し、面が追従できない

「漏れが見えないから良好」とは限りません。シール室温度、フラッシュ流量、振動、ドレンやベントの状態も確認します。

3. バランス形とアンバランス形

シール面を閉じる方向には、ばね力と液圧が作用します。液圧による押付けが過大になると摩擦と発熱が増えるため、高圧条件では液圧の有効面積を小さくしたバランス形が使われます。

アンバランス形は構造が比較的単純ですが、適用圧力や液性に制約があります。バランス形は面圧を抑えやすい一方、段付きスリーブなど構造が増えます。現場で外観だけから判断せず、シール断面図・型式・データシートを確認します。

4. シングルとダブル

シングルシールは摺動面が1組です。ダブルシールは2組のシール面を持ち、その間にバッファ液またはバリア液を設けます。

  • プロセス側より低い圧力の液を使う考え方では、プロセス液が中間系へ漏れる可能性を監視する
  • プロセス側より高い圧力のバリア液を使う考え方では、清浄なバリア液がプロセス側へ入る可能性を管理する
  • 液面、圧力、温度、漏れ量の監視が必要

二重化すれば自動的に安全になるわけではありません。バリア液喪失、圧力逆転、クーラー停止、計器故障を含めた保護が必要です。

5. フラッシングは何をしているか

フラッシングとは、シール室または摺動面へ液を流し、シールが働ける環境を作ることです。主な目的は次のとおりです。

  • 摺動面で発生した摩擦熱を持ち去る
  • シール室の液温を下げ、液相を保つ
  • 固形分や析出物をシール面から遠ざける
  • シール室の圧力を保ち、外気吸込みや気化を防ぐ
  • 清浄で潤滑性のある液をシール面へ供給する

冷却ジャケット、クーラー、クエンチは似ていますが、同じではありません。フラッシュはシール室側の液流れ、クーリングは機器・液から熱を除く操作、クエンチは大気側へ流体を供給して付着防止や漏れ処理を行う考え方です。

6. フラッシングプランの読み方

メカニカルシールのPlan 11、Plan 23、Plan 32について液の出発点と戻り先を比較した図
(一次資料を参考に当サイト作成)

Plan番号より先に、次の順で線を追います。

  1. 液の出発点は、ポンプ吐出し、シール室、外部源のどこか
  2. 流れを作る差圧またはポンピングリングは何か
  3. オリフィス、ストレーナ、サイクロン、クーラー、計器を通るか
  4. シール室のどのポートへ入り、どこへ戻るか
  5. 停止時、低速時、締切時にも流れが成立するか

流量計がなくても、入口・出口の温度差、圧力差、配管表面温度、サイトフロー、ドレン状態などで異常の兆候を得られる場合があります。ただし、触診は高温・危険物・回転機周辺の作業規則に従います。

7. Plan 11|吐出し側からシール室へ

Plan 11は、ポンプ吐出し側から液を取り出し、オリフィスなどで流量を制限してシール室へ送る代表的な再循環です。

流れ:吐出し側 → オリフィス → シール室

目的

  • 吐出し圧力を利用してシール室へ流れを作る
  • シール面の熱を持ち去る
  • シール室を液で満たし、液相を保つ

注意点

  • 取扱液が汚れていれば、その液をシール室へ送ることになる
  • オリフィス、細管、取出し口が閉塞しやすい
  • 吐出し圧力とシール室圧力の差が小さい運転点では流量が減る
  • インバータ低速時は吐出し圧力が下がり、必要流量を確保できない場合がある

Plan 11は単純で広く使われますが、「吐出し側につながっているから必ず流れる」とは限りません。

8. Plan 23|シール室循環とクーラー

Plan 23は、シール室の液をポンピングリングで外部クーラーへ送り、冷却してシール室へ戻す閉ループに近い循環です。

流れ:シール室 → ポンピングリング → クーラー → シール室

目的

  • シール室の液だけを効率よく冷却する
  • 高温液で摺動面付近の液相を保つ
  • ポンプ本体からシール室への熱流入を抑えた構造と組み合わせる

注意点

  • ポンピングリングの向き、回転方向、クリアランスが不適切だと循環しない
  • 配管にガスだまり・液だまりができると流れを妨げる
  • クーラー冷却水停止や汚れで除熱できなくなる
  • 循環液の温度差・流れが小さいと異常を見逃しやすい

Plan 23は外部の清浄液をプロセスへ注入する方式ではありません。シール室液を循環冷却する点でPlan 32と異なります。

9. Plan 32|外部清浄液を注入

Plan 32は、外部の清浄な液を適切な圧力でシール室へ注入します。

流れ:外部液源 → ストレーナ・流量調整・圧力計 → シール室

目的

  • スラリーや汚れたプロセス液をシール面から遠ざける
  • 潤滑性・冷却性のある清浄液を供給する
  • シール室を外部液で置換または希釈する

注意点

  • 外部液はプロセスへ混入する。品質、反応、物質収支、排水負荷を確認する
  • シール室圧力より十分高い供給圧が必要だが、過大注入も避ける
  • 外部液喪失、低圧、流量低下を監視する
  • 逆流防止と、停止時のラインアップを決める

Plan 32の注入液を単なるユーティリティ水と考えないでください。プロセスへ入る原料・不純物の一つとして管理します。

10. そのほかの代表的な考え方

Plan 01・02

Plan 01はポンプ内部の流路からシール室へ液を導きます。Plan 02は外部循環を設けない考え方です。単純ですが、発熱・気化・異物の条件が厳しくないことが前提です。

Plan 12・13・14

Plan 12はPlan 11にストレーナを加える形、Plan 13はシール室から吸込側へ戻して流れを作る形、Plan 14は吐出し側からシール室へ送り、シール室から吸込側へ戻します。ストレーナは異物を取る一方、目詰まりが新たな故障モードになります。

Plan 31

吐出し液をサイクロンセパレータへ通し、固形分を分離して清浄側をシール室へ送ります。粒子条件、差圧、戻り先が成立しなければ分離性能を期待できません。

11. 現場点検のポイント

配管のつながり

  • P&IDとシール配管図で出発点・戻り先を確認する
  • 細管をたどり、途中のオリフィス、ストレーナ、クーラー、計器を特定する
  • 弁の通常位置と、閉止タグ・封印の意味を確認する

流れが成立しているか

  • 入口と出口の圧力差
  • 流量計、サイトフロー、フロースイッチ
  • クーラー前後や往復配管の温度差
  • シール室温度と通常値からの変化
  • ガスだまり、液だまり、逆勾配、閉塞

シールの状態

  • 漏れ量の増加、噴霧、結晶付着、焦げ、変色
  • 異音、振動、軸受温度との同時変化
  • 大気側ドレン・クエンチの流れ
  • バッファ・バリア液の液面、圧力、温度、汚れ

12. よくある誤操作と故障

細管の弁を閉める

漏れや保全作業のために閉めた弁を戻し忘れると、外観上は配管が付いていてもフラッシュはゼロです。重要弁は通常位置表示、施錠・封印、復旧チェックを決めます。

ストレーナだけを清掃して終える

閉塞物がどこから来たかを確認します。腐食生成物、結晶、シール面破片、配管スケールなら再発します。取出し口やオリフィスも点検対象です。

低速運転を追加する

インバータで回転数を下げると、ポンプ差圧と内部循環が変わります。定格速度で過剰なフラッシュでも、最低速度では不足する場合があります。運転範囲全体で確認します。

冷やせばよいと考える

冷却によって粘度が上がる、結晶化する、重合物が析出する液もあります。シール室の目標は単純な最低温度ではなく、液相・潤滑性・清浄性が安定する温度です。

13. 異常時の切り分け

シール漏れや温度上昇が出たら、設備SOPに従って安全を確保し、次の順で考えます。

  1. フラッシュ・冷却・バリア液が本当に流れているか
  2. シール室圧力が液の蒸気圧に対して十分か
  3. ストレーナ、オリフィス、クーラー、配管に閉塞・ガスだまりがないか
  4. 運転点、回転数、液温、液性が直前に変わっていないか
  5. 振動、芯ずれ、軸受異常、配管荷重が同時に出ていないか
  6. シール面・二次シール・スリーブに損傷がないか

増えた漏れを止めるために、補助配管を閉じるのは逆効果になり得ます。漏れ経路と補助系の目的を確認してから操作します。

まとめ

  • メカニカルシールは回転環と固定環の端面を薄い液膜で潤滑・冷却する
  • フラッシングは熱、気化、異物、圧力を管理してシール室環境を作る
  • Plan 11は吐出し側から、Plan 23はシール室循環+クーラー、Plan 32は外部清浄液注入
  • 配管が存在しても、差圧不足、低速、閉塞、ガスだまり、弁閉で流れないことがある
  • 現場では番号より、出発点・通過機器・駆動力・戻り先を追う

次の記事では、グランドパッキンを「漏れゼロ」にしない理由と、左右均等な増し締め、温度と漏れの見方を解説します。

参考文献

  • 外山幸雄『絵とき「ポンプ」基礎のきそ』日刊工業新聞社, 2-8「メカニカルシール」・第6章「ポンプの運転」  Amazonで見る
  • 外山幸雄『ポンプの選定とトラブル対策』日刊工業新聞社, 第6章「軸封のトラブル」  Amazonで見る
  • 化学工学会編『プロセス機器構造設計シリーズ6 化学プラント用ポンプ・圧縮機』丸善, 4.2「軸封装置」
  • 化学工学会編『化学装置便覧 改訂二版』丸善, 第18章「ポンプ・圧縮機・冷凍機」
  • 松村正夫『入門 新ポンプ技術』丸善, 第3章「ポンプの選定」  Amazonで見る