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2023年 ダウ・ケミカル ルイジアナ工場 爆発|置き忘れた作業灯が、2か月後に効いた

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2023年5月、米国ルイジアナ州のダウ・ケミカル工場。定期修理で還流ドラムの中に入った作業員が、可搬型の作業灯を1台、置き忘れました。

2か月後の7月14日午後9時15分。同じプラントで一連の爆発と火災が発生し、31,000ポンド(約14トン)を超えるエチレンオキサイドが放出されました。周辺住民には屋内退避命令が出されています。

置き忘れた作業灯から、どうやって爆発まで届くのか。その連鎖が、この事故の学びどころです。

この記事の要点

  • 定修で容器内に残された作業灯が劣化し、金属片となって下流へ流れた
  • その金属片が破裂板を突き破り、エチレンオキサイドが放出配管へ入った
  • 放出配管は漏れで窒素シールを失い、空気で満たされていた
  • 着火した火炎は約15mの配管を伝わり、還流ドラムの気相部へ到達した
  • CSBは「容器を閉じる手順」の国際規格そのものの改訂を勧告した

本記事は、米国化学安全・有害性調査委員会(CSB)の最終調査報告書に基づいて整理しています。

1. エチレンオキサイドという物質

置き忘れた作業灯が、2か月後に効いた

この事故を理解するには、扱っていた物質の性質を先に押さえる必要があります。

性質意味すること
沸点 約10.4℃常温では気体。加圧・冷却して液体で扱う
可燃性空気と混ざれば燃える
ヒトに対する発がん性が知られている漏れれば、燃えなくても健康被害になる
反応性が高い加熱されると自ら分解する。酸素がなくても圧力が上がる

最後の1行が決定的です。エチレンオキサイドは「燃える」だけでなく「分解する」。だから、火炎が容器に入ると、そこで燃焼が止まらずに中身そのものが分解して圧力を上げます。これがこの事故の破局を決めました。

2. 5月:作業灯が残された

2023年5月の定期修理で、還流ドラムの内部に人が入って作業しました。閉所作業です。

暗い容器の中で作業するには、照明が要ります。使われたのは可搬型の作業灯でした。

作業が終わり、容器の蓋が閉じられ、プラントが起動されます。作業灯は、中に入ったままでした。

CSBは、寄与要因としてこう記しています。

「Dowの容器閉止の手順および慣行が不十分であり、容器が十分に清掃され作業灯が撤去されたことを確認しないまま、再起動することを許した」

「容器に入る手順」は、どの工場にもあります。

酸素濃度の測定、可燃性ガスの確認、隔離、監視人の配置。入るときの安全は、厳しく管理されています。

では、「容器を閉じる手順」はどうでしょうか。中に何も残っていないことを、誰が、どうやって確認していますか。

3. 7月:5つの段階を経て爆発した

CSBが特定した連鎖を、順に追います。1つでも切れていれば、爆発には至りませんでした。

① 作業灯が壊れて、金属片になった

プラントが起動されると、還流ドラムの中は液体のエチレンオキサイドで満たされます。作業灯はその中で劣化し、金属片となってドラム内および下流の機器へ流れていきました。

② 金属片が、破裂板を突き破った

流れ着いた先に、製品クーラーの破裂板(ラプチャーディスク)がありました。金属片がこれを貫通し、破裂板は部分的に開いた状態になります。

破裂板は、圧力が上がったときに破れて中身を逃がす部品です。設計上、開くのは異常時だけ。それが、平常運転中に穴が開いた状態になりました。

③ 放出配管は、空気で満たされていた

ここが、この事故のもうひとつの核心です。

破裂板の先の圧力放出配管は、本来窒素で満たされている設計でした。可燃物が入っても燃えないようにするためです。

しかしCSBによれば、事故前から配管に漏れがあり、窒素の雰囲気が失われて空気で満たされていました。

窒素シールは、防護層です。そして、静かに失われる種類の防護層です。破れているかどうかは、圧力や流量を見ていなければ分かりません。「窒素が入っている」と図面に書いてあることと、いま実際に入っていることは別です。

④ 火炎が、配管の中を15m伝わった

穴の開いた破裂板を通って、エチレンオキサイドが空気の入った配管へ流れ込みます。可燃性混合気ができ、着火しました。

火炎は約50フィート(約15m)の配管の中を伝播し、安全弁に到達します。圧力上昇で安全弁が作動しました。

⑤ 安全弁の先は、還流ドラムだった

そして、この設計です。

製品クーラーの圧力放出配管は、還流ドラムへ戻す構成になっていました。

安全弁が開いたことで、火炎はエチレンオキサイドの還流ドラムの気相部へ入りました。ドラム内のエチレンオキサイドは加熱され、分解を始めます。

分解反応による圧力上昇に耐えられず、還流ドラムは破局的に破壊されました。

またしても「安全弁の先」の問題です。

セベソ(1976)は大気開放。BPテキサスシティ(2005)はブローダウンスタック。そしてここでは、可燃物で満たされた容器へ戻していました。

放出先の設計は、「圧力を逃がせるか」だけでなく「そこへ何が来たとき、何が起きるか」で評価する必要があります。

4. 2010年に、直す機会があった

CSBの報告書に、重い指摘があります。

この圧力放出は、もともと熱膨張のシナリオから製品クーラーを守るためのものでした。そして――

「2010年に製品クーラーが交換された際、熱膨張の脅威をなくし、エチレンオキサイドを還流ドラムや他の場所へ放出する危険性を排除するようにシステムを修正することができたはずである」

機器を交換したときが、設計を見直す機会でした。同等品への取替は、変更管理の対象外とされがちです。しかし、そのとき初めて「なぜこの放出先なのか」を問い直せます。

5. CSBは、規格そのものの改訂を勧告した

この事故のCSB勧告は、興味深い形をしています。ダウ社への勧告だけでなく、規格団体に向けられているのです。

宛先勧告の内容
NFPA
(米国防火協会)
NFPA 350(安全な閉所作業の指針)を更新し、閉所作業を行った容器が、清掃され起動準備が整った状態で残されることを確実にする方法を示すこと
NFPANFPA 326(タンク・容器の入槽・清掃・修理の保安基準)に、同様の要求事項を設けること
ASSP
(米国安全専門家協会)
ANSI/ASSP Z117.1(閉所への立入りの安全要求事項)を更新し、同様の指針を示すこと

3つとも、同じことを言っています。

閉所作業の規格には、「安全に入る方法」は書いてあったが、「安全に閉じる方法」が十分に書かれていなかった。

これは、日本の現場にもそのまま当てはまります。入槽作業の手順書は分厚いのに、閉止の手順は「異物がないことを確認する」の一行で終わっていないでしょうか。誰が、何を見て、どう記録するのか。

6. 自分の工場で確かめる6つのこと

  • 容器を閉じる前の確認は、手順書に書かれていますか。「異物なし」の一行で終わっていませんか
  • 容器に持ち込む工具・照明の員数管理をしていますか。入れた数と出した数を照合していますか
  • 窒素シールされている系統は、いま本当に窒素で満たされていますか。圧力や流量を監視していますか
  • 安全弁・破裂板の放出先は、何が入っている場所ですか。そこへ火炎が来たら何が起きますか
  • 機器を同等品に取り替えたとき、放出系の設計を見直していますか。「同じものだから」で通していませんか
  • 扱っている物質は、酸素がなくても分解しますか。それを前提に放出量を計算していますか

2番目は、すぐに始められる対策です。持ち込んだ物の員数管理は、手術室では当たり前に行われています。

まとめ

  • 2023年7月14日、米ダウ・ケミカル ルイジアナ工場で爆発・火災。約14トンのエチレンオキサイドが放出され、住民に屋内退避命令が出た
  • 起点は、2か月前の定修で還流ドラムに置き忘れられた作業灯だった
  • 劣化した金属片が破裂板を貫通し、窒素シールを失って空気が入っていた放出配管へEOが流入した
  • 火炎は約15mの配管を伝わり、放出先だった還流ドラムでEOが分解、ドラムが破壊された
  • CSBは「閉所作業後に容器を安全に閉じる方法」を規格に盛り込むよう、NFPA・ASSPに勧告した

この事故が突きつけるのは、「入るときと同じ厳しさで、閉じていますか」という問いです。事故は、蓋を閉めた2か月後に起きました。

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入槽作業の準備と、そして「閉じる」手順については、こちらで扱っています。

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