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安全弁の口径が正しく計算されていても、取り付け方を間違えれば機能しません。しかも厄介なことに、その不具合は普段の運転ではまったく表面化しません。
代表例がチャタリングです。安全弁が開いたり閉じたりを高速で繰り返し、弁座を損傷させる現象で、原因の多くは「入口配管の圧力損失が大きすぎる」ことにあります。
この記事では、安全弁の設置と配管設計で守るべき8つのポイントを整理したうえで、安全弁とは役割の違う緊急脱圧弁の考え方まで解説します。
この記事の結論
- 保護対象機器から安全弁入口までの圧力損失は設定圧力の3%以下。超えるとチャタリングを起こす
- 過大な口径もチャタリングの原因。吹出条件が2ケース以上あるなら、小口径を複数個で段階的に吹かせる
- 安全弁は圧力を設定圧以内に抑える設備。緊急脱圧弁は圧力を急速に下げる設備。役割が違う
- 緊急脱圧のサイズは、API規格で肉厚25mmの容器を15分以内に内圧50%まで下げるのが一つの目安
1. 安全弁は「どこに」取り付けるか
まず大前提です。安全弁は、その機能が効果的に発揮される箇所に取り付ける。
- ガスを放出する場合は気相部に取り付ける
- 液を放出する場合は液相部に取り付ける
当たり前に見えますが、既設プラントでは配管の都合で妥協されていることがあります。液相部に付いた安全弁からガスを逃がそうとしても、必要な流量は出ません。
次に取付位置です。保護しようとする機器に直接取り付けるのが望ましい。これが不可能な場合は、可能な限り近接して設置し、保護対象機器から安全弁入口までの圧力損失を最小限にします。
2. 入口配管の3%ルール ― チャタリングを防ぐ
やむを得ず離れた位置に取り付ける場合、守るべき数値があります。
保護対象機器から安全弁入口までの圧力損失は、
安全弁設定圧力の 3% 以下とする。
なぜ3%なのか。圧力損失が3%を超えると、安全弁が開いたり閉じたりを繰り返す現象(チャタリング)が発生し、弁座の損傷につながるからです。
メカニズムはこうです。安全弁が開くと入口配管に大流量が流れ、圧損の分だけ弁の入口圧力が下がります。この低下が大きいと、弁は「圧力が下がった」と判断して閉じてしまう。閉じれば流れが止まり、圧損がゼロになって圧力が戻り、また開く。この繰り返しが高速で起こります。
結果として、必要な流量が出ないうえに、弁座が叩き壊されます。つまり「作動したのに守れず、しかも次回はもっと守れない」という最悪の状態になります。
この3%は吹出時の流量で計算します。通常運転時の流量ではありません。安全弁が全開したときの流量で入口配管の圧損を計算し、設定圧の3%に収まるかを確認します。既設で入口配管が長い場合は、口径を上げるか、取付位置を機器に近づけるかの検討になります。
3. 過大サイズもチャタリングを招く
意外に思われるかもしれませんが、チャタリング防止のため、過大な安全弁サイズとしてはいけません。
「大は小を兼ねる」は安全弁には当てはまりません。必要量に対して口径が大きすぎると、少し開いただけで大量に流れて圧力が急降下し、すぐ閉じてしまう。前章と同じ振動現象が起きます。
吹出条件が2ケース以上あるとき
ここで実務的な悩みが生じます。たとえば「通常のブロック時は小流量、外部火災時は大流量」のように、想定ケースによって必要吹出量が大きく違う場合です。
最大ケースに合わせて1個の大口径弁にすると、小流量ケースでチャタリングします。一次資料が示す解は明快です。
安全弁の吹出条件が2ケース以上ある場合は、小口径の安全弁を複数個取り付け、圧力の上昇にともない段階的に吹き出すようにするのが望ましい。
設定圧をわずかにずらした複数個の弁を並べることで、小さな異常では1個だけが、大きな異常では全数が作動します。これは信頼性の面でも有利で、1個が固着しても残りが機能します。
4. 放出管と出口配管の設計
出口側にも守るべき点があります。
- 放出管の呼び径は、安全弁出口の口径以上とする。絞ってはいけません
- 放出管は個々の安全弁に設置する。複数の弁で1本の放出管を共用すると、同時作動時に互いの背圧になります
- 出口配管による荷重は極力小さくする。配管の重量や熱膨張による力が弁体にかかると、作動不良や弁漏れの原因になります
- サポートは作動時の振動・衝撃に十分耐えるものとする。安全弁の吹出は静かな現象ではありません。反力を見込んだ支持が必要です
- 放出管には雨水が入らない構造とし、垂直管にはドレン抜きを設ける。溜まった水は、冬季には凍結して閉塞の原因になります
最後の項目は地味ですが、実際のトラブルとして起こります。放出管の詰まりは、安全弁を「作動しても逃がせない」状態にします。
5. 放出先の選び方 ― 大気・フレア・除害設備
放出先の選定は、扱う物質で決まります。
| 物質 | 放出先 |
| 可燃性ガス | できるだけフレアスタックに導いて燃焼させるのが基本 |
| 毒性ガス | 除害設備に導き、無毒化してから大気放出する |
| 無害なガス | 大気へ直接放出(背圧の問題が生じないという利点がある) |
フレアへ導く場合の注意
安全弁からの放出ガスをブローダウンヘッダーでフレアスタックへ移送する場合、ヘッダーでの圧力損失が背圧となって安全弁の作動に影響します。したがって、安全弁の作動に影響を与えないヘッダーサイズにする必要があります。
ここが、安全弁を単体で設計できない理由です。背圧が決まらなければ型式(コンベンショナル型かバランス型か)も決まりません。
大気へ直接放出する場合の着火対策
可燃性ガスを放出管で大気中へ直接放出する場合で、雷または静電気による着火が考えられるときは、消火用水、粉末消火設備、スチーム噴出ノズルなどのうち適切なものの設置を検討します。
6. 緊急脱圧弁 ― 圧力を「下げる」設備
ここから役割の違う設備の話になります。
| 安全弁 | 緊急脱圧弁 | |
| 目的 | 系内の圧力上昇を設定圧以内に抑える | 系内の圧力を急速に降下させる |
| 作動 | 上流側の静圧力で自動的に作動 | 信号を受けて作動させる |
| 設置目的 | 過圧による破壊の防止 | 火災時の容器保護、異常反応時の反応器保護 |
安全弁は「これ以上上げない」ための設備、緊急脱圧弁は「積極的に下げる」ための設備です。
なぜ火災時に脱圧が必要なのか
液体を保有した圧力容器が火炎にあぶられると、内部で温度差が生じます。
- 液体に接している鋼板:液体の蒸発により気化熱が奪われるため、著しい温度上昇は抑制される
- 気体に接している鋼板:温度が著しく上昇する
気相部の鋼板温度が上がると金属強度が低下し、やがて容器が内圧に耐えられなくなって破裂します。可燃性液体を保有していれば、そこでBLEVE(Boiling Liquid Expanding Vapor Explosion)が発生し、瞬時に大量の可燃性液体が大気中に放出されてファイヤーボールの危険が生じます。
緊急脱圧弁は、容器の内圧を急速に下げることで、強度が落ちた鋼板でも耐えられる状態にして破裂を防ぐための設備です。
15分ルールの根拠
API規格は、緊急脱圧弁のサイズについて次を一つの目安としています。
肉厚25mmの容器に対して、15分間以内に容器内圧力(ゲージ圧)を50%まで低下させることができる吹出量とする。
この15分という数字には根拠があります。APIは、種々の肉厚の鋼板の片側がガソリン火災にさらされたときの上昇温度と経過時間の関係を示しており、そこから読み取れるのが次の関係です。
| 到達温度 | 肉厚 1/2インチ | 肉厚 1インチ(約25mm) |
| 800°F(約427℃) | 約4.0分 | 約7.6分 |
| 1,000°F(約538℃) | 約5.2分 | 約10.4分 |
| 1,200°F(約649℃) | 約7.0分 | 約14.0分 |
| 1,300°F(約704℃) | 約9.5分 | 約16.8分 |
数値はAPIが示す計算値にもとづく整理です(一部は測定値)。実際の設計では規格の最新版と社内基準を確認してください。
肉厚25mmの鋼板が強度を大きく失う温度に達するまで、おおよそ15〜17分。この時間内に圧力を半分まで落とせれば破裂を回避できる、という設計思想です。数字を覚えるのではなく、「鋼板が持ちこたえる時間との競争である」という構造を理解しておくことが実務では役に立ちます。
7. 緊急脱圧で見落とされること
緊急脱圧弁を設置すると、脱圧そのものが新たな問題を生みます。設計時に必ず検討すべき2点です。
① 低温脆性
緊急脱圧弁を作動させると、圧力の急激な降下により液体が蒸発し、気化熱が奪われて液体温度が急速に降下します。
特にLNG、LPG、液化エチレンのような液化ガスを保有している場合は、きわめて低温になります。したがって脱圧弁を設置した容器の設計は、この温度降下による低温脆性を考慮して材料を選定しなければなりません。
火災から守るために付けた設備が、別の破壊モードを持ち込む。これは本質安全設計の記事で述べた「危険を消したのか、移しただけなのか」の典型例です。
② 下流からの逆流
緊急脱圧弁を作動させるとシステム内の圧力が急激に降下するため、下流側からの逆流が考えられます。
対策は2つです。
- 脱圧する区間をあらかじめ設定しておき、上流・下流の隔離弁を閉じてから緊急脱圧弁を作動させる
- 必要に応じて、脱圧弁を設置した容器の下流側ラインにチェッキ弁を設ける
「脱圧すればいい」ではなく「どの区間を、どの順序で脱圧するか」まで設計しておく必要があります。緊急時に運転員が考えて判断できることではありません。
8. 現場でやりがちな失敗
失敗1:入口配管を通常流量で圧損計算する
3%ルールは吹出時の流量で評価します。通常運転の流量で計算すると、当然ながら余裕たっぷりの結果になり、実際の吹出時にチャタリングします。
失敗2:改造で入口配管が伸びたことに気づかない
機器の移設やノズルの付け替えで、安全弁までの配管が長くなることがあります。これは立派な変更であり、3%の再確認が必要です。配管を1本足しただけ、という感覚で通してしまうのが最も危ない。
失敗3:安全弁の元弁を閉めたまま運転する
点検などで安全弁を切り離した後、元弁を開け忘れる。これは防護層を完全に外した状態であり、インターロックの解除と同じ扱いをすべき事象です。元弁の開閉状態は、シフト引継ぎで確認する対象に入れてください。
失敗4:緊急脱圧を「大きいほどよい」と考える
脱圧速度を上げれば低温脆性のリスクが増し、逆流の影響も大きくなります。15分・50%という目安は、守れる下限であると同時に、むやみに超える必要のない水準でもあります。
まとめ
- ガス放出は気相部、液放出は液相部。保護対象機器に直接取り付けるのが望ましい
- 入口配管の圧力損失は設定圧の3%以下。超えるとチャタリングで弁座が損傷する
- 過大サイズもチャタリングの原因。吹出条件が複数あるなら小口径を複数個で段階的に
- 放出管は安全弁出口径以上、個々の弁に個別に。荷重・振動・雨水・ドレンまで見る
- 緊急脱圧弁は圧力を急速に下げてBLEVEを防ぐ設備。API目安は肉厚25mmで15分以内に50%まで
- 脱圧は低温脆性と逆流を持ち込む。材料選定と脱圧区間の設定をセットで設計する
安全弁は、計算して選定したら終わりの設備ではありません。どこに、どうつなぐかまで含めて初めて防護層になります。
参考文献
- 安全工学会 監修『実践・安全工学シリーズ2「プロセス安全の基礎」』化学工業日報社、2012年、第3章9-3節「安全弁の設置上の配慮」pp.118-119、10節「緊急脱圧弁」pp.120-121、表3-13「火災にさらされた鋼板の上昇温度」 Amazonで見る
- API Standard 520 Part II「Installation」
- API Standard 521「Pressure-relieving and Depressuring Systems」
化学プラント大全 
