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【まとめ】リスクアセスメント手法の選び方|HAZOP・LOPA・QRAをいつ使うか

※本記事の参考文献には、Amazonアソシエイトのリンク(アフィリエイト広告)を含みます。

HAZOP、LOPA、QRA、What-if、FMEA、FTA、ETA、Bow-Tie。リスクアセスメントの手法は、名前だけでも覚えきれないほどあります。

しかし実務で問われるのは、手法名の暗記ではありません。いま何を知りたいのか。それにはどの手法が向いているのか。この判断ができるかどうかです。

手法は大きく「洗い出す」「絞り込む」「数字にする」の3段階に分かれます。この構造が見えると、どれをいつ使うかが自然に決まります。

この記事は「リスクアセスメント手法」カテゴリの入口です。手法の選び方を整理し、各テーマの詳細記事へ案内します。

この記事の要点

  • 手法は定性 → 半定量 → 定量の3段階。上流ほど広く浅く、下流ほど狭く深い
  • HAZOPで洗い出し、LOPAで絞り込み、QRAで全体像を描くという流れが基本
  • すべてのシナリオをQRAにかける必要はない。手間と得られる情報のバランスで選ぶ
  • 手法は「誰に何を説明するか」でも選ばれる。技術者向けと経営・行政向けでは適した出力が違う

1. 手法は3段階に分かれる

広く浅く、から、狭く深くへ

まず全体の構造です。リスクアセスメント手法は、どこまで数字にするかで3つに分かれます。

段階やること代表的な手法出力
定性
洗い出す
「何が起こり得るか」を漏れなく挙げるHAZOP、What-if、チェックリスト、FMEAシナリオの一覧
半定量
絞り込む
防護層の効き目を数えて、対策の要否を判断するLOPA、リスクマトリクス残余リスクの桁
定量
数字にする
頻度と影響を計算し、リスクの絶対値を出すQRA、FTA、ETA年間死亡確率、FN曲線

この順序には意味があります。上流ほど広く浅く、下流ほど狭く深い。だから、いきなりQRAから始めることはしません。まず広く洗い出し、重要なものだけを深く見ていきます。

2. どの手法を、いつ使うか

実務での選び方を、目的別にまとめます。

知りたいこと使う手法
このプロセスで何が起こり得るか、網羅的に知りたいHAZOP
HAZOPを回す前に、ざっと当たりをつけたいWhat-if、チェックリスト
特定の機器が壊れたら何が起きるかFMEA
この事故が起きる確率はどれくらいかFTA(原因側から)
漏えいが起きたら、どう分岐して何になるかETA(結果側へ)
いまの防護層で足りているか、対策は要るかLOPA
工場全体のリスクを、行政や住民に説明したいQRA
原因と結果を1枚で見せたいBow-Tie
対策をどこまでやれば「十分」と言えるかALARPの考え方
人と組織の要因を構造的に見たいM-SHELモデル
古い設備のどこから手を付けるかRBI(リスクベース検査)

手法を選ぶ軸がもうひとつあります。誰に何を説明するかです。技術者同士ならHAZOPのワークシートで通じますが、経営層や地域住民にはQRAのFN曲線や、Bow-Tieの1枚図のほうが伝わります。

3. HAZOP ― 洗い出しの基本

HAZOPは、プロセスをノードに区切り、パラメータ(温度・圧力・流量など)にガイドワード(「無い」「多い」「少ない」など)を掛け合わせて、ずれ(デビエーション)を機械的に洗い出す手法です。

実務上の要点は「準備8割」であること。そしてノードの切り方と、その場でどこまで判断するかの線引きです。

HAZOP以外の手法との使い分けは、こちらでまとめています。What-if、FMEA、FTA、ETA、CCA、Bow-Tieの6手法です。

4. LOPA ― 防護層の効き目を数える

HAZOPで挙がったシナリオのうち、重要なものをLOPAにかけます。起因事象の頻度に、各防護層の不作動確率(PFD)を掛けていき、残余リスクの桁を出す手法です。

ここで決定的に重要なのが、何を防護層として数えてよいかです。独立防護層(IPL)の考え方を理解していないと、実際には1つしかない層を2つ数えてしまいます。

とくに間違いやすいのが次の2点です。

  • 同じDCS・同じセンサー・同じ電源を共有する層は、独立ではない
  • 運転員の介入は、時間的余裕がある場合にのみ層として数えられる

独立防護層そのものの考え方(IPL1〜IPL8)は、設計側の記事で詳しく扱っています。LOPAをやる前に読んでおくと、防護層の数え方が変わります。

また、防護層のうち安全計装システム(SIS)については、SILとPFDの考え方を別記事で解説しています。

5. QRA ― 工場全体のリスクを描く

QRA(定量的リスク評価)は、個々のシナリオではなく工場全体のリスクプロファイルを描く手法です。

出力される指標が、他の手法と決定的に違います。個別リスク(場所ごとの年間死亡確率)と社会的リスク(FN曲線)は、そのまま土地利用計画や地域との対話に使えます。

6. 「どこまでやれば十分か」の判断

手法を回してリスクを評価したあと、たいてい次の問いにぶつかります。「で、対策はどこまでやればいいのか」

この問いに答える枠組みがALARP(As Low As Reasonably Practicable)です。リスクをゼロにはできない以上、「合理的に達成可能な限り低く」したと言えるかどうかが判断基準になります。

7. 設備と人 ― もうひとつの2軸

ここまではプロセスのリスクを見る手法でした。しかし現実の事故は、設備の劣化人・組織の要因からも起こります。このカテゴリには、その2軸の記事もあります。

設備の側面 ― 老朽化とRBI

建設後30〜50年が経過した設備では、腐食・減肉、疲労・亀裂、保温下腐食(CUI)といった劣化が、外観からは分かりにくい形で進みます。どこから手を付けるかをリスクで決めるのがRBIの考え方です。

人と組織の側面 ― M-SHEL

M-SHELモデルは、人(Liveware)を中心に、ソフトウェア(手順)・ハードウェア(設備)・環境・他者・マネジメントとのインターフェース(適合性)を見る枠組みです。「誰が悪いか」ではなく「どの噛み合わせが悪いか」を構造として捉えます。

8. 手法を回すときの落とし穴

落とし穴1:図面が現物と違う

筆者の実感では、これが最も重く効いてきます。CCPSは「多くの設備ではリスク分析あるいは変更管理レビューを行う直前に、プロセス知識が正確で網羅されているかをレビューすることを重要視している」としています。

変更のたびにP&IDが更新されていなければ、次のHAZOPは「嘘の図面」の上で行われます。手法の精度以前の問題です。

落とし穴2:独立していない層を数える

LOPAはリスク低減量を掛け算します。だから層の数え間違いは、結果を桁で狂わせます。共通要因を疑ってください。

落とし穴3:対策が「インターロック追加」に偏る

HAZOPの対策欄が、インターロックと安全弁で埋まっていないでしょうか。その前に「そもそもこの危険をなくせないか」を問うのが本質安全設計の考え方です。効くのは設計の上流です。

落とし穴4:やって終わりにする

リスクアセスメントの価値は、アクションが実行され、閉じるまでにあります。米国のOSHA PSM規制では、PHAを5年ごとに1回更新することが要求されています。一度やった記録が残っていることと、いま有効であることは別です。

9. 実践編 ― 手法ごとの詳細記事

ここまでは手法の選び方でした。個々の手順・計算例・落とし穴は、それぞれの詳細記事で扱っています。

段階手法その記事の芯
洗い出すWhat-if・チェックリスト全部HAZOPは回らない。規模で選ぶ仕組み
FMEA「壊れる」は故障モードではない。RPNの罠
掘り下げるFTA1次カットセットと、共通原因が壊す掛け算
ETA頻度の順と被害の順は一致しない
Bow-Tieバリアは「ある」と「効く」が違う
基準に照らすリスクマトリクスと許容リスク基準あのセルの色は、誰が決めたのか
性能を決め、維持するSILの決め方と検証SILは選ぶものではなく、計算で出る
機能安全 IEC 61508・61511認証品を買っただけでは、機能安全にならない

10. どの順に読むか

目的読む順序
はじめて手法に触れるこの記事 → HAZOP → 6手法の使い分け → LOPA
HAZOPに参加することになったHAZOP → 多重防護とIPL → 本質安全設計
LOPAで防護層を数える多重防護とIPL → LOPA → SIS
対策の妥当性を説明する必要があるALARP → QRA
古い設備の保全計画を立てる老朽化設備 → RBI・予知保全の実務
ヒューマンエラーの再発防止をまとめるM-SHELモデル → M-SHELで事例を読み解く
重大シナリオを掘り下げるFTA → ETA → Bow-Tie
機器の保全計画に落とすFMEA → 老朽化設備 → RBI・予知保全
変更のたびの評価を軽くしたいWhat-if・チェックリスト → 変更管理(MOC)
社内の判定基準そのものを見直すリスクマトリクスと許容リスク基準 → ALARP → LOPA
安全計装の性能を決めるLOPA → SILの決め方と検証 → 機能安全

そして、これらの手法が組織の仕組みのなかでどこに位置するかは、RBPSの20要素マップで確認できます。手法は要素7(ハザードの特定とリスク分析)に対応します。

まとめ

  • 手法は定性(洗い出す)→ 半定量(絞り込む)→ 定量(数字にする)の3段階
  • 基本の流れはHAZOP → LOPA → QRA。すべてを定量まで持っていく必要はない
  • 手法は「誰に何を説明するか」でも決まる。技術者向けと経営・行政向けでは適した出力が違う
  • 最大の落とし穴は図面が現物と違うこと。手法の精度以前の問題
  • 対策欄がインターロックで埋まっていたら、本質安全を問い直すサイン

手法は道具です。いま何を知りたいのかが決まっていれば、道具は選べます。逆に、手法から入ると「HAZOPをやったこと」自体が目的になります。

プロセス安全のどの領域から学べばいいか、全体の地図はこちらにまとめています。

参考文献

  • 安全工学会 監修、新井充・佐藤吉信・高木伸夫・野口和彦・若倉正英 編『実践・安全工学シリーズ2「プロセス安全の基礎」』化学工業日報社、2012年、第4章「安全性解析手法」、第2章「化学産業におけるリスクアセスメントと許容リスク基準」
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  • Center for Chemical Process Safety / AIChE 著、化学工学会 SCE・Net 安全研究会 訳『若い技術者のためのプロセス安全入門』丸善出版、2018年、2.8節「ハザードの特定とリスク分析」
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