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爆発の影響評価|TNT換算とホプキンソンの三乗根法則で距離を決める

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困っている人
困っている人

爆発の影響範囲を見積もりたいが、どこから手をつければいいのか分からない。

TNT換算という言葉は知っているが、なぜ換算するのかが腑に落ちない。

そんな悩みを解決します。

この記事の内容

TNT換算は「爆風だけ」を比べるための共通尺度

三乗根法則で、量が変わっても同じ図表が使える

収率(TNT当量係数)が最大の不確かさ ── 1〜10%

過圧の目安:7 kPaで窓が割れ、70 kPaで建物が全壊

保安距離の設定、防爆壁の要否、緊急時の避難範囲。定量的リスク評価の中核にある計算です。

現場で、この評価はどこで要るか

場面何を決めるか
保安距離の設定設備間・保安物件までの距離
防爆壁・障壁の要否コントロール室・電気室の防護
建屋の配置常時人がいる建物をどこに置くか
QRA(定量的リスク評価)被害範囲と影響人数
緊急時の避難範囲事故時にどこまで下がるか
事故の再現解析被害から爆発規模を逆算する

「どこまで離せば安全か」を数字で言うための道具です。

法令の保安距離は、こうした評価の積み重ねから決まっています。

製造の技術上の基準(保安距離)

なぜTNTに換算するのか

理由

爆風(ブラスト)のデータはTNTで大量に蓄積されている(軍事研究の遺産)

→ 他の爆発をTNT何kg相当に直せば、既存の図表がそのまま使える

TNTが特別に強いから基準にしているのではありません。 データがあるから基準になっただけです。

エネルギーで比べると、むしろ炭化水素のほうが大きい

物質エネルギー[MJ/kg]TNTの何倍
TNT(爆発熱)4.191.0
プロパン(燃焼熱)46.411.1
メタン(燃焼熱)50.011.9
水素(燃焼熱)120.928.9

それでもTNTのほうが破壊力があるのは、反応速度が違うからです。

何が違うのか

TNT(爆ごう):反応速度 約7,000 m/s。エネルギーが一瞬で解放される

炭化水素の燃焼(爆燃)数 m/s 〜数十 m/s。ゆっくり解放される

同じエネルギーでも、解放が速いほど圧力波が強くなります。

だからTNT換算では、燃焼熱に「収率」を掛けるのです。

爆燃と爆轟の違い

計算の3ステップ

① TNT当量を出す

W_TNT = η × M × ΔHc / 4,190[kg]

η:収率(TNT当量係数)

M:可燃物の質量[kg]、ΔHc:燃焼熱[kJ/kg]

4,190:TNTの爆発熱[kJ/kg]

② 換算距離を出す(ホプキンソンの三乗根法則)

Z = R / W_TNT^(1/3)[m/kg^(1/3)]

R:爆心からの距離[m]

③ 図表から過圧を読む

換算距離 Z に対して、ピーク過圧・インパルス・到達時間が決まる

なぜ三乗根なのか

次元の話

爆発のエネルギー ∝ 体積 ∝ 長さの3乗

→ 同じ過圧になる距離は、エネルギーの3乗根に比例する

爆発量が8倍になっても、同じ被害が及ぶ距離は2倍にしかなりません。(8^(1/3) = 2)

これが「距離を離すことの効果」を過小評価しがちな理由でもあります。

逆に言えば、8倍の量に備えるには2倍の距離でよいということです。

収率(TNT当量係数)── ここが最大の不確かさ

可燃物のエネルギーのうち、爆風に変換される割合です。

条件収率 η の目安
開放空間・障害物なし1〜3%
部分的に閉塞・障害物あり3〜10%
密閉空間・強い閉塞10〜20%
爆ごうに移行した場合最大100%近く

実務では 3〜10% を使うことが多いです。ただし条件で1桁変わります。

なぜこんなに幅があるのか

爆風の強さを決めるのは「燃焼速度」

開放空間:火炎が自由に膨張できる → 圧力が上がらない → 収率が低い

障害物が多い:乱れが発生 → 燃焼速度が加速 → 収率が高い

配管・構造物の間:DDT(爆ごうへの転移)が起きうる → 収率が急上昇

プラント内は障害物だらけです。だから開放空間の値は使えません。

フレアランドや空地での漏えいなら1〜3%、装置間での漏えいなら10%という使い分けになります。

収率の選び方が、評価結果を1桁変えます。 ここは根拠を残しておくべき部分です。

より精密な方法

手法特徴
TNT等価法簡便。近距離では過大評価になる
TNO Multi-Energy法閉塞度を考慮。より現実的
Baker-Strehlow-Tang法火炎速度から直接計算
CFD最も精密。計算コストが高い

TNT法は近距離で過大に、遠距離で過小に出る傾向があります。

スクリーニングにはTNT法、詳細評価にはMulti-Energy法というのが実務の使い分けです。

数値で確かめる

例1:プロパン1トンの漏えい・爆発

プロパン1,000 kg が漏えいして蒸気雲を形成し、着火した。
収率3%、燃焼熱46,400 kJ/kg とする。TNT当量と、7 kPa(窓が割れる)の距離は?

〔解答〕

W_TNT = 0.03 × 1,000 × 46,400 / 4,190

 = 1,392,000 / 4,190 = 332 kg

W^(1/3):log 332 = 2.521 → ÷3 = 0.840 → 逆引き 6.92

7 kPa に対応する換算距離は図表から Z ≒ 15 m/kg^(1/3)

R = 15 × 6.92 = 約104 m

1トンの漏えいで、100 m 先の窓が割れます。

例2:収率を10%にすると

同じ条件で収率10%(障害物の多い装置エリア)だと?

〔解答〕

W_TNT = 0.10 × 1,000 × 46,400 / 4,190 = 1,108 kg

W^(1/3):log 1,108 = 3.045 → ÷3 = 1.015 → 10.35

R = 15 × 10.35 = 約155 m

収率が3.3倍で、距離は1.5倍。三乗根なので効き方が緩やかです。

これが三乗根法則の実感です。量や収率が大きく変わっても、距離はそこまで伸びない。

例3:立方根を四則電卓で出す

関数電卓が使えない場面(試験も含む)での手順です。

W = 332 kg の場合

log 332 = log 3.32 + 2 = 0.521 + 2 = 2.521

÷ 3 = 0.840

③ 0.840 = 0.840 + 0 なので、表から 真数 6.92

W^(1/3) = 6.92

「対数を取って3で割って、逆引き」。これだけです。

検算:6.92³ = 331。合っています。

ピーク過圧の目安 ── 数字で被害を語る

ピーク過圧被害
1 kPa大きな音がする程度
2 kPa窓ガラスの一部が割れる
7 kPa窓ガラスがほぼ全部割れる/軽微な建物被害
14 kPaブロック塀が倒れる/木造建物に部分的損傷
21 kPa木造建物が大破/鋼構造に変形
35 kPa鉄筋コンクリート建物に損傷/人が飛ばされる
70 kPa建物がほぼ全壊/致死率が高い
100 kPa以上ほぼ全壊・全滅

7 kPa と 21 kPa と 70 kPa。この3つを覚えておくと、評価結果の意味がすぐ分かります。

人への直接影響は意外と鈍い

過圧人体への直接影響
35 kPa鼓膜が破れ始める
100 kPa鼓膜破裂 50%
200 kPa肺損傷のしきい値
350 kPa致死のしきい値

人が死ぬのは、爆風そのものより「建物の崩壊」と「飛散物」です。

だから建物の耐爆設計が重要になります。コントロール室の防爆化は、この理由から。

屋外にいるほうが安全なことすらあります。 建物の中で崩壊に巻き込まれるより。

被害局限措置蒸気雲爆発

インパルス(力積)も見る

2つの指標

ピーク過圧:瞬間的な圧力の最大値

インパルス:過圧を時間で積分した値(=どれだけ押されたか)

剛性の高い構造物はピーク過圧、柔らかい構造物はインパルスが効きます。

だからP-I線図(Pressure-Impulse diagram)という2次元の図で評価します。

同じピーク過圧でも、継続時間が長いほうが被害が大きいのはこのためです。

実務での使いどころと、限界

使いどころ:保安距離の妥当性を検証する

手順

最大想定漏えい量を決める(配管破断・貯槽の内容量など)

収率を条件から選ぶ(開放か、閉塞ありか)

TNT当量過圧の分布を計算する

保安物件の位置での過圧を確認する

⑤ 許容できなければ距離を取るか、防護する

①の想定が最も重要です。 ここを甘くすると、以下の計算がすべて無意味になります。

「配管が全周破断したら」を想定するかどうかで、結果が桁で変わります。

限界①:蒸気雲の形成を評価していない

TNT換算は「爆発したら」の話です。そもそも爆発するかどうかは別問題。

その前に必要な評価

漏えい速度(穴の大きさ・圧力から)

拡散・希釈(風速・大気安定度・地形)

爆発範囲内にある量(LEL〜UELの間にある分だけが寄与)

着火源の有無

漏れた全量が爆発に寄与するわけではありません。 濃すぎる部分も薄すぎる部分も燃えない。

実務では、爆発範囲内にある質量だけを M に入れます。 これが分からないと、大幅な過大評価になります。

ガス拡散の評価爆発範囲(LEL・UEL)

限界②:近距離では過大評価になる

TNTは点爆源、蒸気雲は体積を持った爆源です。

何が違うか

TNTは1点から圧力波が出る → 近くでは極端に高い過圧

蒸気雲は広い領域全体で燃える → 近距離の過圧はTNTほど高くない

雲の直径程度の距離までは、TNT法は信用できません。

近距離を評価するならMulti-Energy法かCFDを使ってください。

限界③:BLEVEは別の現象

UVCE(蒸気雲爆発)BLEVE
原因漏えい+着火加熱された液化ガス容器の破裂
主な被害爆風ファイヤーボールの輻射熱+容器破片
評価手法TNT換算・Multi-Energyファイヤーボール径・輻射熱

BLEVEをTNT換算で評価するのは適切ではありません。 主な被害が輻射熱だからです。

ファイヤーボールの経験式

直径 D = 5.8 M^(1/3)[m](M:燃料質量 kg)

継続時間 t = 0.45 M^(1/3)[s](M < 30,000 kg)

ここでも三乗根が出てきます。 体積とエネルギーの関係は共通です。

BLEVEとファイヤーボール

限界④:粉じん爆発には使えない

粉じん爆発は燃焼速度が遅く、爆風の性質が違います。

Kst値(爆発指数)による評価が標準です。

粉じん爆発

甲種化学ではこう出ます

学識の型9(燃焼・爆発)の一形態です。令和2〜6年度の60大問中2回出ました。

年度・問内容
R2 国試 問5硝酸エチル:ベンソン法で生成エンタルピー → 爆発熱 → TNT換算
R3 検定 問4アセトアルデヒド:TNT換算・爆風ピーク過圧
試験での手順

生成エンタルピー(または問題文の値)から爆発熱を出す

W_TNT = 爆発熱 × 質量 / 4,190

Z = R / W^(1/3)立方根を対数表で

④ 図表からピーク過圧を読む

③の立方根が本番の山場です。 「logを取って3で割って逆引き」を手が覚えるまで練習してください。

4,190 kJ/kg は問題文で与えられます。 暗記は不要。

解き方と過去問は学識・型9|燃焼・爆発の計算、爆発熱の計算は学識・型8|熱化学ヘスの法則と生成エンタルピーへ。

法令では、保安距離・障壁の規定として出てきます。→ 製造の技術上の基準

まとめ

  • TNT換算は、爆風データが豊富なTNTを共通尺度にするための手法
  • TNTのエネルギーは4.19 MJ/kg。プロパンの11分の1にすぎない
  • TNTが強いのは反応速度(約7,000 m/s)
  • W_TNT = η × M × ΔHc / 4,190
  • Z = R / W^(1/3)(ホプキンソンの三乗根法則)
  • 爆発量が8倍でも、同じ被害の距離は2倍
  • 収率 η が最大の不確かさ。開放1〜3%、閉塞あり3〜10%
  • 過圧の目安:7 kPaで窓、21 kPaで木造大破、70 kPaで全壊
  • 人が死ぬのは建物崩壊と飛散物。爆風の直接影響は鈍い
  • 漏れた全量が爆発に寄与するわけではない(爆発範囲内の分だけ)
  • 近距離では過大評価になる。詳細評価はMulti-Energy法
  • BLEVEは輻射熱が主なのでTNT換算は不適切

燃焼・爆発の計算全体は学識・型9|燃焼・爆発の計算、断熱火炎温度は断熱火炎温度の計算へ。

実務の関連記事:蒸気雲爆発BLEVE爆燃と爆轟被害局限措置