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吸着によるガス分離|PSAとTSA、ゼオライトと分子ふるい活性炭の使い分け

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困っている人
困っている人

PSAとTSA、どちらを選べばいいのか判断基準が分からない。

吸着剤の種類が多すぎて、何を基準に選ぶのか整理できていない。

そんな悩みを解決します。

この記事の内容

PSAは圧力、TSAは温度で脱着する ── 使い分けは濃度で決まる

分離の原理は平衡吸着速度差の2つ

窒素PSAと酸素PSAで吸着剤が違う理由

吸着熱、破過、再生 ── 現場で問題になる3点

空気分離、水素精製、ガス乾燥、VOC回収。吸着はプラントの至るところにあります。

現場で、吸着はどこにあるか

用途取るもの/残すもの方式
窒素発生装置空気から O₂ を吸着、N₂ を得るPSA
酸素発生装置空気から N₂ を吸着、O₂ を得るPSA
水素精製改質ガスから CO₂・CH₄・CO を除去PSA
圧縮空気の除湿水分を吸着PSA(ヒートレス)
深冷分離の前処理水分・CO₂ を除去(凍結防止)TSA
VOC回収溶剤蒸気を回収TSA(蒸気再生)
脱硫H₂S・メルカプタンを除去TSA

PSAは「大量の不純物を頻繁に」、TSAは「微量の不純物を深く」取るのが基本の使い分けです。

吸着は蒸留より低エネルギーですが、扱える量に限りがあります。相補的な関係です。

吸着の基礎 ── 物理吸着と化学吸着

物理吸着化学吸着
結合力ファンデルワールス力化学結合
吸着熱小さい(20〜40 kJ/mol)大きい(80〜400 kJ/mol)
可逆性可逆(再生できる)不可逆なことが多い
選択性低い高い
多層吸着するしない(単分子層)
ガス分離への利用主にこちら限定的(脱硫など)

ガス分離のPSA・TSAは物理吸着です。可逆でなければ再生できません。

吸着平衡 ── ラングミュアの式

被覆率

θ = Kp / (1 + Kp)

θ:表面の被覆率(0〜1)、K:吸着平衡定数、p:分圧

条件θ は吸着量は
Kp ≪ 1(低圧)θ ≒ Kp圧力に比例(ヘンリー領域)
Kp ≫ 1(高圧)θ ≒ 1飽和

これが吸着等温線の形です。低圧では直線、高圧では頭打ち。

PSAが成立するのは、低圧と高圧で吸着量に差があるからです。飽和領域では差がつかない。

吸着熱と脱着

吸着は発熱、脱着は吸熱

気体分子が表面に固定される → 自由度が減るΔS < 0

自発的に起きる(ΔG < 0)ためには ΔH < 0 でなければならない

吸着は必ず発熱

だから温度を上げると脱着します。 これがTSAの原理です。

ル・シャトリエの原理そのものです。→ 平衡の温度依存性

PSAとTSA ── 何を変えて脱着させるか

PSA(圧力スイング)TSA(温度スイング)
脱着の駆動力減圧加熱
サイクル時間数十秒〜数分数時間〜1日
適する濃度高濃度(数%〜数十%)低濃度(ppm〜数%)
吸着剤の量少ない(頻繁に再生)多い(長時間吸着)
エネルギー圧縮動力加熱と冷却
到達純度中〜高非常に高い(ppb級も可)
設備小型・シンプル大型・再生設備が必要

使い分けは「濃度」で決まります。 濃いものはPSA、薄いものはTSA。

なぜ濃度で分かれるのか

PSAが高濃度向きな理由

減圧だけでは完全には脱着しきれない(吸着剤に残る)

→ 微量成分をppbレベルまで取るのは苦手

しかしサイクルが速いので大量を処理できる

TSAが低濃度向きな理由

加熱すればほぼ完全に脱着できる

→ 次のサイクルで深く吸着できる

しかし加熱・冷却に時間がかかるので頻繁には再生できない

深冷分離の前処理でTSAを使うのは、CO₂ を ppm 以下まで落とす必要があるからです。

CO₂ が残っていると−180℃で凍結し、熱交換器を閉塞させます。 だから徹底的に取る。

PSAの動作サイクル

基本の4ステップ(複数塔で切り替える)

加圧吸着:原料ガスを加圧供給、不純物を吸着、製品を得る

均圧:他塔と圧力を分け合う(圧縮動力の回収

減圧脱着:大気圧または真空まで下げて不純物を放出

パージ:製品ガスの一部で吸着剤を洗浄

②の均圧が効率を大きく左右します。 ここで圧力エネルギーを回収する。

④のパージには製品を使うので、その分だけ回収率が下がります。

VPSA(真空PSA)

脱着側を真空まで引く

→ 圧力比を稼げるので低圧側での差が大きくなる

→ 酸素PSAでよく使われる

吸着剤の選び方 ── 分離の原理が違う

吸着剤細孔径特徴主な用途
活性炭広い分布疎水性/有機物に強いVOC回収・脱臭・水素PSA
ゼオライト(モレキュラーシーブ)均一(3A・4A・5A・13X)親水性/極性分子を強く吸着乾燥・CO₂除去・酸素PSA
シリカゲル中程度親水性/安価乾燥
活性アルミナ中程度親水性/機械強度が高い乾燥・脱フッ素
分子ふるい炭素(CMS)非常に均一拡散速度差で分離窒素PSA

平衡分離と速度分離 ── ここが最重要

2つの原理

平衡分離:吸着の差で分ける(ゼオライトなど)

速度分離:吸着速度の差で分ける(CMSなど)

窒素PSAと酸素PSAで吸着剤が違うのは、原理が違うからです。

窒素PSA酸素PSA
吸着剤分子ふるい炭素(CMS)ゼオライト(13X・LiX)
原理速度分離平衡分離
何が起きるかO₂ のほうが速く拡散して吸着されるN₂ のほうが強く吸着される
製品N₂(非吸着側)O₂(非吸着側)
到達純度99.99%以上も可約95%が上限

なぜ酸素PSAは95%が上限なのか

アルゴンが取れないからです。

理由

空気は N₂ 78%、O₂ 21%、Ar 0.93%

ゼオライトは Ar と O₂ をほとんど区別できない(分子径・分極率が近い)

→ N₂ を取り除くと、O₂ と Ar が残る

→ 21/(21+0.93) = 約95.7% が理論上限

99%以上の酸素が必要なら、深冷分離(蒸留)を使うしかありません。

アルゴンの分離は深冷分離でも難しく、専用の塔が必要です。

酸素・窒素・貴ガスの性質

ゼオライトの型番の意味

型番細孔径通すもの/通さないもの
3A約0.3 nmH₂O は通る/エタノールは通らない
4A約0.4 nmH₂O・CO₂・SO₂・C₂H₆ まで
5A約0.5 nm直鎖炭化水素は通る/分岐・環状は通らない
13X約1.0 nm大きい分子も通る/N₂ を強く吸着

3Aはエタノールの脱水に使われます。 水だけ入れて、エタノールは入れない ── 共沸を越えて無水にできる。

「分子ふるい(モレキュラーシーブ)」という名前は、この細孔径による選別から来ています。

数値で確かめる

例1:吸着剤の必要量

空気1,000 Nm³/h から水分を除去する。
入口露点20℃(飽和水蒸気量 約17 g/m³)、吸着容量 15 wt%、再生サイクル4時間のとき、吸着剤量は?

〔解答〕

水分量 = 1,000 × 17 = 17,000 g/h = 17 kg/h

4時間分 = 68 kg

吸着剤量 = 68 / 0.15 = 453 kg

→ 安全率1.5を見て 約680 kg

吸着容量は「破過するまで」の値ではなく「平衡吸着量」です。実際には使い切れないので安全率が要ります。

例2:吸着熱による温度上昇

上の条件で、吸着熱による温度上昇は?
(水の吸着熱 約3,000 kJ/kg、空気の熱容量 1.0 kJ/(kg·K))

〔解答〕

発熱量 = 17 kg/h × 3,000 = 51,000 kJ/h

空気の質量流量 = 1,000 Nm³/h × 1.29 kg/Nm³ = 1,290 kg/h

ΔT = 51,000 / (1,290 × 1.0) = 約40 K

40℃も上がります。 温度が上がると吸着量が減るので、性能が落ちる。

これが吸着塔で起きる「熱波(thermal wave)」です。吸着帯とともに温度のピークが移動します。

大型の吸着塔では、この熱の扱いが設計の要点になります。

例3:破過(ブレークスルー)

吸着帯(マストランスファーゾーン)の移動

入口側から順に飽和していく

吸着帯が塔内を下流へ移動する

吸着帯の先端が出口に達すると破過(出口濃度が上昇)

現象原因
破過が早い流速が速すぎる/吸着剤の劣化/入口濃度が高い
吸着帯が長い物質移動が遅い/粒径が大きすぎる
破過曲線がなだらか同上(分離が甘い)

吸着帯が長いと、その分の吸着剤が無駄になります。 粒径を小さくすると吸着帯は短くなりますが、圧力損失が増える。

粒径と圧力損失のトレードオフが、吸着塔設計の中心です。

圧力損失の考え方

実務での失敗例

失敗例①:前段の水分除去を怠る

ゼオライトは水を最も強く吸着します。

何が起きるか

目的成分(CO₂ など)より水が優先的に吸着される

→ 目的成分の吸着容量が奪われる

性能が急激に落ちる

「吸着塔の能力が出ない」というトラブルの多くが、水分です。

前段に活性アルミナやシリカゲルの層を置くのが標準的な対策です。

多層構造の例(深冷分離の前処理)

1層目:活性アルミナ → 水分を除去

2層目:ゼオライト13X → CO₂ を除去

失敗例②:再生温度が足りない

吸着剤必要な再生温度の目安
シリカゲル120〜150℃
活性アルミナ150〜200℃
ゼオライト200〜350℃
活性炭(VOC)蒸気(100〜150℃)

ゼオライトの再生温度は高いです。水を強く吸着するぶん、脱着にもエネルギーが要る。

再生が不十分だと、サイクルごとに残留量が積み上がって性能が落ちます。

「だんだん寿命が短くなる」なら、再生条件を疑ってください。

失敗例③:活性炭の自然発火

活性炭は酸化発熱します。 VOC回収装置での火災は珍しくありません。

危険な条件

ケトン類(MEK など)を吸着したとき(酸化しやすい)

再生後の冷却が不十分なまま吸着に切り替える

吸着熱が蓄積する(風量が少ない、局所的な滞留)

再生後は必ず十分に冷却してから吸着工程に戻す。 温度監視も必須です。

自然発火のメカニズム蓄熱と暴走

失敗例④:粉化・劣化を見落とす

吸着剤の劣化

粉化:繰り返しの圧力変動で粒子が砕ける → 圧損上昇・下流への飛散

被毒:不可逆吸着する成分(重質分・油分)が細孔を塞ぐ

水熱劣化:高温+水蒸気でゼオライトの結晶構造が壊れる

圧力損失の上昇は、粉化を知る最も分かりやすい指標です。

圧縮機からのオイルキャリーオーバーは、吸着剤の被毒の主原因です。前段のフィルタが重要。

設備健全性管理リスクベース検査

膜分離との比較 ── 検定で毎年出るテーマ

吸着(PSA/TSA)膜分離
原理吸着量・速度の差透過速度の差
運転バッチ的(切替えあり)連続
到達純度高い中程度(多段化が必要)
設備塔が複数必要コンパクト
可動部切替弁なし
適する規模中〜大小〜中

膜の2種類

多孔質膜

細孔をすり抜ける

クヌッセン拡散:分子量の平方根に反比例する速度差で分ける

分離係数は小さい(√(M₂/M₁) 程度)

非多孔質膜(溶解拡散膜)

膜に溶解して拡散する

透過速度 = 溶解度 × 拡散係数

分離係数は大きい(分子の性質で大きく変わる)

「非多孔質のほうが分離性能が高い」のは、溶解度という化学的な選択性が加わるからです。

水素分離膜(パラジウム膜)は非多孔質。水素だけが金属中に溶解・拡散するので、極めて高い選択性が出ます。

検定の問6(4)は5年連続で分離技術でした。→ 学識 問6の記述問題

甲種化学ではこう出ます

技術検定の問6(4)は、5年連続で分離技術でした。

年度テーマ
R2多孔質膜のガス分離
R3アルゴンの分離精製
R4PSAとTSA
R5気体の溶解度とガス吸収法
R6非多孔質膜の透過・分離

検定を受けるなら、ここは準備しておけば確実に1問取れます。 4つから3つ選ぶ形式なので、確実な1問は大きい。

「PSAとTSAについて説明せよ」への解答例

吸着剤に吸着させた成分を脱着させる方法の違いによる分類である。

PSA(圧力スイング吸着)は、高圧で吸着させ減圧することで脱着させる方式。サイクルが数十秒から数分と短く、比較的高濃度の成分を大量に処理するのに適する。空気からの窒素・酸素製造や水素精製に用いられる。

TSA(温度スイング吸着)は、低温で吸着させ加熱することで脱着させる方式。加熱と冷却に時間を要するためサイクルは数時間から1日と長いが、脱着が十分に行えるため微量成分を極めて低濃度まで除去できる。深冷分離装置の前処理(水分・二酸化炭素の除去)などに用いられる。

「減圧/加熱」「高濃度/低濃度」「短サイクル/長サイクル」の3点が採点の核です。

学識全体の記述対策は学識 問6の記述問題、ガスの溶解はヘンリーの法則とガスの溶解度を参照してください。

まとめ

  • ガス分離に使うのは物理吸着(可逆だから再生できる)
  • 吸着は必ず発熱。だから加熱すると脱着する
  • PSAは減圧、TSAは加熱で脱着させる
  • 使い分けは濃度:高濃度はPSA、低濃度(ppm以下まで)はTSA
  • 分離の原理は平衡分離(吸着量の差)と速度分離(拡散速度の差)
  • 窒素PSAはCMSで速度分離、酸素PSAはゼオライトで平衡分離
  • 酸素PSAは約95%が上限(アルゴンが分離できないため)
  • 水分が最大の敵。前段で除去する(多層構造)
  • 吸着熱で数十Kの温度上昇が起きる
  • 活性炭の自然発火に注意(再生後の冷却を十分に)
  • 膜は多孔質=クヌッセン拡散/非多孔質=溶解拡散

ガスの溶解はヘンリーの法則とガスの溶解度、平衡の温度依存は平衡定数の温度依存性へ。

除害設備としての利用は除害設備と被害局限措置を参照してください。