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緊急脱圧とフレアシステム|圧力を「抑える」のと「下げる」のは違う

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安全弁は、容器の圧力が設計圧を超えないようにする装置です。では、火に炙られている容器を守れるでしょうか。

守れません。金属は、温度が上がると弱くなるからです。設計圧以下でも、金属が耐えられなくなれば破裂します。

だから、火災時には圧力そのものを積極的に下げる必要があります。それが緊急脱圧です。

この記事の要点

  • 安全弁は圧力を抑える装置。緊急脱圧は圧力を下げる操作。目的が違う
  • 火災時は金属の強度が落ちるため、設計圧以下でも破裂し得る
  • 脱圧すると温度が下がる。炭素鋼の低温脆性に注意
  • フレアの落とし穴は背圧・ノックアウトドラムの液面・失火
  • 脱圧弁は火災現場へ行かずに操作できる必要がある

1. なぜ「抑える」だけでは足りないのか

安全弁は、圧力が設定値に達したら開いて逃がします。これで容器内の圧力は、設計圧を大きく超えません。

ここで見落とされやすいのが、容器が耐えられる圧力は一定ではないということです。

容器の設計圧は、設計温度での値です。

火災で外から炙られ、金属が高温になれば、材料の許容応力は下がります。設計圧のつもりの圧力が、そのときの金属にとっては過大な圧力になります。

とくに危険なのが、液面より上の気相部です。液に触れている壁は、中の液が沸騰することで熱を奪われ、比較的低い温度に保たれます。しかし気相部の壁には、その冷却がありません。

だから火災時の容器は、気相部の壁から壊れます。安全弁がきちんと吹いていても、です。安全弁は圧力を抑えますが、金属の温度は下げてくれません。

そこで、圧力を積極的に抜きます。圧力が低ければ、金属が弱っても持ちこたえられる。これが緊急脱圧の考え方です。

2. どこまで、どれだけ速く抜くか

脱圧の設計基準として広く参照されているのが、API Standard 521 の考え方です。

火災に曝される容器について、およそ15分程度で、設計圧の50%程度まで圧力を下げることを目安とする、という趣旨のものです。金属が破断に至る前に、応力を下げきるための時間です。

この「15分」という数字が、実務では独り歩きしがちです。押さえておくべきは意味のほうです。

  • 火災の熱で金属が弱っていく速さと、圧力を抜く速さの競争である
  • だから容器の肉厚・材質・耐火被覆の有無で、必要な速さは変わる
  • 耐火被覆があれば金属の昇温は遅くなり、脱圧の要求は緩む

実際の設計では、対象の容器ごとに評価します。目安をそのまま当てはめるのではなく、根拠を持って決めることが要点です。

3. 脱圧すると、温度が下がる

ここが、緊急脱圧設計で最も見落とされやすい点です。

圧力を急に下げると、ガスは膨張して温度が下がります。液がある場合は、蒸発潜熱を奪って残った液がさらに冷えます。

火災を想定した装置が、低温の問題を作ります。

炭素鋼は、低温で脆くなります。粘り強く変形する材料が、ある温度を下回ると、衝撃であっけなく割れる材料に変わります。

だから脱圧設計では、次を確認します。

  • 脱圧中に、容器と配管の金属温度がどこまで下がるか
  • その温度が、材料の最低使用温度を下回らないか
  • 下回るなら、脱圧速度を落とすか、低温用の材料を使う

火災対応としては速く抜きたい。低温脆性としてはゆっくり抜きたい。この2つのせめぎ合いが、脱圧速度の設計です。

4. 脱圧弁は、どこから操作するのか

設計上の要件を並べます。

要件理由
遠隔操作できる火災現場へ行かないと操作できない弁は、使えない
フェイルオープン(FO)電源や計装空気が失われても、圧力を逃がす方向へ
動力源が独立している火災で焼けた電源・空気配管に依存しない
操作場所が離れている制御室、あるいは安全な離隔距離のある場所から
誤操作しにくい脱圧は生産を止める操作。しかし躊躇させてもいけない

1番目が、意外に守られていません。「緊急脱圧弁はある」と言われて図面を追うと、操作は現場のスイッチだった、ということがあります。その場所は、火災時に人が近づける場所ですか。1999年のJCO臨界事故では、反応を止めるために人が放射線の強い場所へ近づく必要がありました。

5. 抜いた先 ― フレアシステム

圧力を抜くということは、中身がどこかへ行くということです。可燃性ガスなら、燃やして無害化するのがフレアです。

主な構成

要素役割
フレアヘッダー各所の安全弁・脱圧弁からの放出を集める配管
ノックアウトドラムガスに同伴した液を分離する。液がフレア先端へ行くと火の玉になる
シール(水シール等)ヘッダーへ空気が逆流するのを防ぐ。逆火を止める
パージガスヘッダー内を可燃性ガスで満たし、空気を入れない
パイロットバーナー常時点火しておく。消えていれば燃やせない
スチーム/空気アシストすすの発生を抑え、完全燃焼させる

落とし穴① 背圧

フレアヘッダーは、多くの系統で共用します。複数の安全弁が同時に吹いたら、ヘッダー内の圧力(背圧)が上がります。

背圧が上がると、安全弁は設計どおりの流量を出せません。バランス型やパイロット式でなければ、設定圧そのものもずれます。

だから設計では、「どの安全弁が同時に吹く想定か」を決めます。全数同時か、全停電時に吹くものだけか、火災の影響範囲にあるものだけか。この想定次第で、ヘッダー径は大きく変わります。

落とし穴② ノックアウトドラムの液面

2005年のBPテキサスシティは、この形でした。

塔から溢れた液が安全弁を通ってブローダウンドラムへ流れ込み、ドラムは容量を超えました。そしてそこはフレアではなく、大気開放のスタックでした。炭化水素はスタック頂部から噴き上がり、蒸気雲になります。

教訓は2つあります。受け止める容器の容量と液面管理、そしてその先が大気か、燃やす設備か

落とし穴③ ヘッダーに空気が入る

放出配管は、平常時は流れがありません。だから空気が入り込みやすい。

そこへ可燃性ガスが来れば、配管の中に可燃性混合気ができます。着火すれば、配管の中を火炎が伝わります。

2023年のダウ・ケミカルの事故が、まさにこれでした。放出配管は本来窒素で満たされている設計でしたが、漏れによって窒素の雰囲気が失われ、空気で満たされていました。そこへエチレンオキサイドが入り、着火し、約15mの配管を伝わって還流ドラムへ到達しています。

パージガスとシールは、地味な設備です。普段は何も起きません。しかしこれが失われていると、放出系そのものが可燃性の空間になります。パージ流量が出ていることを、監視しているでしょうか。

落とし穴④ パイロットが消えている

フレアは、常時燃えているパイロットで着火します。それが消えていれば、放出されたガスは燃えずに大気へ出ます。

強風、雨、燃料切れ。消える理由はいくつもあります。だからパイロットの燃焼を検知する仕組み(熱電対、火炎検知)と、複数のパイロットを持つことが一般的です。

6. 「放出先」という共通の落とし穴

この連載で扱った事故を並べると、同じ形が繰り返し現れます。

事故安全装置放出先
セベソ(1976)破裂板は作動した除害設備なしの大気
BPテキサスシティ(2005)安全弁は作動した大気開放のブローダウンスタック
ダウ・ケミカル(2023)安全弁は作動した可燃物が入った還流ドラム

3件とも、圧力を逃がす装置は設計どおりに働いています。問題は、その先に何を置いたかでした。

放出先の設計は、「圧力を逃がせるか」だけでなく「そこへ何が来たとき、何が起きるか」で評価する必要があります。

7. 自分の職場で確かめる8つのこと

  • 緊急脱圧弁は、どこから操作しますか。火災時にそこへ行けますか
  • 脱圧弁はフェイルオープンですか。動力源は火災の影響を受けませんか
  • 脱圧速度の根拠は何ですか。「15分」を目安として使うだけになっていませんか
  • 脱圧中の金属温度を評価しましたか。低温脆性の範囲に入りませんか
  • 同時に吹く安全弁の想定は、何ですか。背圧は許容範囲に収まりますか
  • ノックアウトドラムの液面を監視していますか。容量は足りていますか
  • ヘッダーのパージ流量を監視していますか。空気が入り得る箇所はありませんか
  • 大気開放のままになっている放出系は、残っていませんか。

7番目は、ダウ・ケミカルの事故が示した点です。パージが効いていることは、流量を見なければ分かりません。

まとめ

  • 安全弁は圧力を抑える。緊急脱圧は圧力を下げる。火災時は後者が要る
  • 火災で金属が弱れば、設計圧以下でも破裂する。とくに気相部の壁
  • 脱圧すると温度が下がる。速く抜きたい要求と、低温脆性のせめぎ合い
  • フレアの落とし穴は背圧・ノックアウトドラムの液面・空気の侵入・パイロットの失火
  • セベソ・BP・ダウの3件とも、装置は作動した。放出先が問題だった

緊急脱圧とフレアは、「最悪の日のために、平常時ずっと維持しておく設備」です。パイロットの炎も、パージの流量も、普段は何の役にも立ちません。役に立つ日には、もう間に合いません。

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参考文献

※脱圧の目標圧力・所要時間の基準値、および背圧の許容範囲は、規格の版・容器の条件・安全弁の型式によって異なります。実設計では該当規格の原典と機器仕様を確認してください。