動画解説はこちら|YouTube

冷凍サイクルとCOP|逆カルノーで上限を知り、実機との差を読む

※本記事の参考文献には、Amazonアソシエイトのリンク(アフィリエイト広告)を含みます。

困っている人
困っている人

COPが1を超えるのが、いまだに腑に落ちない。

設定温度を1℃下げると電気代がどれだけ変わるのか、根拠を持って説明したい。

そんな悩みを解決します。

この記事の内容

COPは効率ではない。作った熱ではなく「運んだ熱」の比

上限は COP = T_L/(T_H − T_L)温度差が小さいほど大きい

膨張弁で仕事を捨てている理由と、その代償

冷凍トン冷凍能力・冷媒の選び方

冷凍設備の省エネ検討、能力不足の原因究明、冷媒の選定。判断の軸はすべてここにあります。

現場で、冷凍サイクルはどこにあるか

設備何を冷やしているか
チラープロセス冷却水(7〜15℃)
冷凍機(アンモニア・フロン)低温プロセス(−10〜−40℃)
冷凍倉庫製品保管(−20〜−25℃)
ガス液化装置深冷分離(−100℃以下)
空調計器室・電気室
ヒートポンプ逆に加熱側を使う

高圧ガス保安法では、冷凍設備も規制対象です。冷凍能力によって第一種・第二種製造者に分かれます。

冷凍設備は電力消費の大きい部分です。COPを1上げれば、そのまま運転費が下がります。

蒸気圧縮式冷凍サイクル ── 4つの機器

サイクルの流れ

圧縮機:低温低圧の冷媒蒸気を圧縮(動力を入れる

凝縮器:高温高圧のまま放熱して液化(Q_H を捨てる

膨張弁:減圧して低温にする(等エンタルピー

蒸発器:低温低圧で吸熱して気化(Q_L を汲み上げる

冷やす仕事をしているのは蒸発器です。ここで冷媒が蒸発するときの潜熱で熱を奪います。

なぜ圧縮するのか

目的は「温度を上げること」

低温側から熱をもらった冷媒は、まだ低温

そのままでは外気に熱を捨てられない(熱は高温→低温にしか流れない)

圧縮して温度を上げてから捨てる

圧縮機は「熱を運ぶポンプ」です。低い温度の熱を、高い温度まで持ち上げている。

エネルギー収支

第一法則から

Q_H = Q_L + W

汲み上げた熱 + 入れた仕事 = 捨てる熱

熱力学第一法則と4つの状態変化

COP ── 効率ではなく「運搬効率」

定義

冷凍機:COP = Q_L / W汲み上げた熱 ÷ 入れた仕事)

ヒートポンプ:COP = Q_H / W捨てた熱 ÷ 入れた仕事)

Q_H = Q_L + W なので

COP_HP = COP_冷凍 + 1

なぜ1を超えるのか

熱を「作って」いないからです。

電気ヒーターヒートポンプ
やっていること電気を熱に変える熱を運ぶ
1 kWの電力で1 kWの熱3〜5 kWの熱
指標効率(≦1)COP(>1)

エネルギー保存則には反していません。 差の分は、低温側から汲み上げてきた熱です。

だから「効率」という言葉を使わないのです。成績係数(Coefficient of Performance)と呼びます。

上限は逆カルノーで決まる

理論最大COP

冷凍機:COP_max = T_L / (T_H − T_L)

ヒートポンプ:COP_max = T_H / (T_H − T_L)

絶対温度で計算する

エントロピーとカルノーサイクル

数値で確かめる

例1:温度差とCOPの関係

用途T_LT_H温度差COP_max実機の目安
チラー7℃(280 K)35℃(308 K)28 K10.04〜5
冷凍−10℃(263 K)35℃(308 K)45 K5.82.5〜3
低温冷凍−40℃(233 K)35℃(308 K)75 K3.11.3〜1.6
超低温−80℃(193 K)35℃(308 K)115 K1.70.7前後

温度差が広がるとCOPは急激に落ちます。 −80℃では、投入した電力より少ない熱しか汲み上げられません。

実機はカルノーの4〜5割程度。膨張弁の損失、圧縮機の断熱効率、熱交換の温度差で落ちます。

例2:設定温度を変えると電気代はどう変わるか

チラーの出口を 7℃ から 12℃ に上げられるとしたら、消費電力はどれだけ減るか。
(凝縮温度35℃、実機COPはカルノーの45%とする)

〔解答〕

7℃:COP_max = 280 / 28 = 10.0 → 実機 4.5

12℃:COP_max = 285 / 23 = 12.4 → 実機 5.6

同じ冷却熱量なら消費電力は 4.5/5.6 = 0.80

約20%削減

5℃上げるだけで20%です。 冷凍設備の省エネで最も効くのがこれ。

「念のため低めに設定」が、そのまま電気代になります。 プロセスが本当に必要な温度を確認してください。

例3:凝縮温度を下げる効果

同じチラー(出口7℃)で、凝縮温度を 40℃ から 32℃ に下げられたら?

〔解答〕

40℃:COP_max = 280 / 33 = 8.5

32℃:COP_max = 280 / 25 = 11.2

約24%の消費電力削減

凝縮器の汚れ、冷却水温度、送風機の性能低下は、すべて凝縮温度を上げます。

凝縮圧力が上がってきたら、まず凝縮器を疑う。 洗浄で戻ることが多い。

例4:冷凍トンと冷凍能力

単位の換算

1日本冷凍トン(JRT)= 3.86 kW

(0℃の水1トンを24時間で0℃の氷にする能力)

1米国冷凍トン(USRT)= 3.52 kW

法令上の「冷凍能力」は、日本冷凍トンで計算します。

1日の冷凍能力区分
50トン以上第一種製造者(許可)
20トン以上50トン未満第二種製造者(届出)
3トン以上20トン未満その他(一部の規制のみ)

フルオロカーボン・アンモニアでは閾値が異なります。 冷媒の種類で区分が変わる点に注意してください。

製造の許可と届出

膨張弁 ── なぜ仕事を捨てるのか

理論的には、膨張タービンで仕事を回収できます。 なのに実際は膨張弁を使う。

膨張弁膨張タービン
過程等エンタルピー(ΔH=0)等エントロピーに近い
仕事の回収なしあり
温度低下小さい大きい
二相流問題なし羽根が壊れる
構造単純・安価複雑・高価
制御容易(過熱度制御)難しい

膨張弁の下流は気液二相です。 タービンに液滴が入ると羽根が壊れます。

だから小型の冷凍機では膨張弁が標準です。回収できる仕事より、設備費と信頼性のほうが重要。

大型の空気分離装置では膨張タービンを使います。 規模が大きければ回収が経済的に見合う。

膨張弁でも温度が下がる理由

ジュール・トムソン効果と、一部の液が蒸発する潜熱の両方です。

実際に起きていること

高圧の液冷媒が減圧される

→ 飽和温度が下がる → 一部が蒸発(フラッシュ)

→ その潜熱で残りの液が冷える

フラッシュした分は冷却に寄与しません。 これが膨張弁の損失です。

ジュール・トムソン効果

冷媒の選び方 ── 何を見るか

観点何が重要か
使用温度域その温度で適度な蒸気圧になるか
蒸発潜熱大きいほど冷媒循環量が少なくて済む
臨界温度凝縮温度より十分高いこと
安全性可燃性・毒性
環境性ODP(オゾン層破壊)・GWP(温暖化)
材料適合性銅・アルミ・シール材との相性

主な冷媒の比較

冷媒蒸発潜熱
[kJ/kg]
特徴注意点
アンモニア(R717)1,370潜熱が極めて大きい/GWP=0/安価可燃性かつ毒性銅を腐食
CO₂(R744)約230GWP=1/不燃・無毒臨界温度31℃(超臨界運転)
フルオロカーボン
(R404A等)
150〜200扱いやすいGWPが高い/規制強化
プロパン(R290)約425GWP小/性能良好可燃性
水(R718)2,260安全・安価0℃以下で使えない/真空運転

アンモニアの潜熱はフロンの7倍以上です。同じ冷凍能力なら循環量が7分の1で済む ── 配管も機器も小さくなります。

だから大型の産業用冷凍はアンモニアが主流です。毒性と可燃性を管理できる工場なら、性能と経済性で圧倒的に有利。

アンモニアは銅を腐食します。 配管は鋼を使う。フロン用の銅配管をそのまま流用すると事故になります。

アンモニアの性質材料の選定

CO₂の臨界温度31℃という制約

外気35℃で運転すると、凝縮側が臨界温度を超えます。

この場合は超臨界サイクル(トランスクリティカル)になり、通常の凝縮が起きません。

夏場に効率が落ちるのはこのためです。CO₂冷媒は寒冷地や低温側で有利。

臨界温度と超臨界流体

実務での失敗例

失敗例①:能力不足の原因を圧縮機だけに求める

症状考えられる原因
蒸発温度が上がらない冷媒不足/膨張弁の開度不足/蒸発器の汚れ
凝縮圧力が高い凝縮器の汚れ/冷却水不足/不凝縮ガスの混入
吸込圧力が低い冷媒不足/フィルタドライヤの詰まり
過熱度が大きい冷媒不足/膨張弁の詰まり

不凝縮ガス(空気)の混入は見落とされがちです。 凝縮器上部に溜まって伝熱面積を奪います。

飽和圧力より実際の圧力が高いなら、不凝縮ガスを疑ってください。パージで戻ります。

失敗例②:低温側を必要以上に下げる

前述のとおり、5℃で20%変わります。

よくある設計の余裕

プロセスは10℃で足りる

→ 「余裕を見て」7℃設定

→ 熱交換器の温度差も見て、蒸発温度は2℃

本来より8℃低い温度で運転している

余裕は必要ですが、その代償を認識してください。

失敗例③:ヒートポンプのCOPを冷凍機と同じにする

COP_HP = COP_冷凍 + 1 です。

加熱用途でカタログのCOPを見るとき、どちらの定義かを確認してください。

失敗例④:部分負荷でのCOPを見ない

定格COPと実運転COPは違う

多くの冷凍機は定格点で最も効率が良い

部分負荷ではCOPが下がる(オンオフ制御なら特に)

インバータ機は部分負荷でCOPが上がることがある

年間の実運転を考えると、定格COPより部分負荷特性のほうが効きます。

複数台に分割して台数制御するのが、実務での標準的な対処です。

甲種化学ではこう出ます

学識の型5にあたります。R6国試問2で逆カルノーサイクルのT-S線図が出ました。

試験で押さえる点

COP = T_L/(T_H − T_L)(絶対温度)

COP_HP = COP_冷凍 + 1

COPは1を超える(熱効率と別物)

膨張弁は等エンタルピー

法令では、冷凍能力による第一種・第二種の区分が出ます。

冷凍以外の製造冷凍
第一種製造者処理能力100 m³/日以上冷凍能力50トン以上
第二種製造者同上未満20トン以上50トン未満

冷凍だけ「トン」という別の単位で区分されます。 ここが法令の頻出ポイント。

学識の解説は学識・型5|圧縮機動力と冷凍サイクル、法令は製造の許可と届出を参照してください。

まとめ

  • COPは効率ではない。熱を作るのではなく運んでいるから1を超える
  • COP_max = T_L/(T_H − T_L)(絶対温度)
  • 温度差が小さいほどCOPは大きい。−80℃ではCOPが1を割る
  • 実機はカルノーの4〜5割
  • 設定温度を5℃上げれば約20%省エネ
  • 凝縮温度を8℃下げれば約24%省エネ
  • 膨張弁は二相流に耐えるために仕事を捨てている
  • アンモニアの潜熱はフロンの7倍以上。ただし銅を腐食する
  • CO₂は臨界温度31℃。夏場は超臨界運転になる
  • 凝縮圧力が高いときは不凝縮ガスの混入も疑う
  • 法令では冷凍能力50トン以上が第一種製造者

圧縮機そのものは圧縮機の理論動力、エントロピーとカルノーはエントロピーとカルノーサイクルへ。

冷媒ガスの性質はガス各論①ガス各論②を参照してください。