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高圧の容器に何kg入るのか、理想気体で計算したら現物と合わなかった。
圧縮係数の図を見せられても、どの線を読めばいいのか分からない。
そんな悩みを解決します。
10 MPa で15%ずれる ── 高圧ガスで理想気体が使えない理由
圧縮係数 Z を読む手順は対臨界に直すだけ
vdW式の a は分子間力、b は分子自身の体積
混合気体は Kayの方法(モル分率で加重平均)

高圧ガス設備の充填量計算、貯槽の在庫管理、安全弁のサイジング。実務で効いてくる補正です。
現場で、この補正はどこで効くか
理想気体で計算すると危険側に外れる場面があります。
| 場面 | 何が起きるか |
|---|---|
| 高圧容器の充填量 | 理想気体の計算より実際は多く入る(Z<1のとき) |
| 貯槽の在庫管理 | 圧力から量を出すと誤差が出る |
| 安全弁のサイジング | 吹出量の計算に密度が必要 |
| 圧縮機の動力計算 | 体積効率の評価にZが要る |
| 低温での挙動 | 臨界点に近づくと理想気体はまったく使えない |
常温・常圧なら理想気体で十分です。 補正が要るのは高圧・低温のときだけ ── その線引きを知ることが実務では重要です。
理想気体の基本は理想気体の状態方程式と気体定数を参照してください。
なぜ理想気体からずれるのか
① 分子自身の体積はゼロ
② 分子間に力が働かない
どちらも現実には成り立ちません。 そして2つの効果は逆向きに働きます。
| 効果 | 何が起きるか | 圧力への影響 |
|---|---|---|
| 分子間力(引力) | 壁にぶつかる分子が引き戻される | 実測圧力が下がる → Z < 1 |
| 分子自身の体積 | 動ける空間が狭くなる | 圧力が上がる → Z > 1 |
だから Z のグラフは下がってから上がる
| 条件 | 支配的な効果 | Z |
|---|---|---|
| 高温・低圧 | どちらも小さい | Z ≒ 1 |
| 低温・中圧 | 分子間力 | Z < 1(最も縮む) |
| 高圧 | 分子自身の体積 | Z > 1(縮まない) |
ファン・デル・ワールスの式
(p + a n²/V²)(V − nb) = nRT
1 mol あたりなら (p + a/Vm²)(Vm − b) = RT
| 項 | 何の補正か | どちら向きに効くか |
|---|---|---|
| a n²/V² | 分子間力 | 測定圧力に足す(本来の圧力は高い) |
| nb | 分子自身の体積(排除体積) | 体積から引く(動ける空間は狭い) |
a は分子間力の強さ、b は1 mol の分子が占める実効体積です。
| 物質 | a[Pa·m⁶/mol²] | b[m³/mol] | 特徴 |
|---|---|---|---|
| He | 0.0035 | 2.4×10⁻⁵ | a が極小(分子間力がほとんどない) |
| N₂ | 0.141 | 3.9×10⁻⁵ | ── |
| CO₂ | 0.364 | 4.3×10⁻⁵ | a が大きい(分極しやすい) |
| NH₃ | 0.423 | 3.7×10⁻⁵ | a が大きい(水素結合) |
| H₂O | 0.554 | 3.1×10⁻⁵ | a が最大(強い水素結合) |
ヘリウムは a がほぼゼロ。だからヘリウムは非常に理想気体に近く、極低温まで液化しません。
圧縮係数 Z ── ずれを1つの数で表す
Z = pV / (nRT)
→ pV = ZnRT
理想気体なら Z = 1
対応状態の原理 ── これが図表を使える理由
ガスの種類が違っても、臨界点からの相対的な位置が同じなら、Z がほぼ同じになります。
Tr = T / Tc(対臨界温度)
pr = p / pc(対臨界圧力)
主なガスの臨界定数
| ガス | Tc[K] | Tc[℃] | pc[MPa] |
|---|---|---|---|
| He | 5.2 | −268 | 0.23 |
| H₂ | 33.2 | −240 | 1.30 |
| N₂ | 126.2 | −147 | 3.39 |
| O₂ | 154.6 | −119 | 5.04 |
| CH₄ | 190.6 | −82.6 | 4.60 |
| C₂H₆ | 305.4 | 32.2 | 4.88 |
| CO₂ | 304.2 | 31.0 | 7.38 |
| C₃H₈ | 369.8 | 96.7 | 4.25 |
| NH₃ | 405.5 | 132.4 | 11.35 |
| H₂O | 647.1 | 374.0 | 22.06 |
臨界温度が実務の分水嶺です。
臨界温度より上では、どれだけ加圧しても液化しない
→ N₂・O₂・H₂・He は常温で圧縮ガス(液化しない)
→ C₃H₈・NH₃ は常温で液化ガス(加圧すれば液になる)
Z を読む手順
- Tr = T/Tc と pr = p/pc を計算する
- 図表で Tr の曲線を選ぶ
- pr の位置で縦軸の Z を読む
- pV = ZnRT に代入する
数値で確かめる
例1:高圧窒素の充填量
内容積 47 L の容器に、15 MPaA・25℃ で窒素を充填した。
理想気体で計算した場合と、Z = 1.02 で補正した場合の質量は?
〔解答〕
Tr = 298.15 / 126.2 = 2.36(臨界温度よりはるか上)
pr = 15 / 3.39 = 4.42
→ 図表から Z ≒ 1.02(高圧なので Z > 1)
理想気体:n = 15×10⁶ × 0.047 / (8.314 × 298.15) = 284.5 mol → 7.97 kg
補正あり:n = 284.5 / 1.02 = 278.9 mol → 7.81 kg
例2:低温の CO₂ ── ここは差が大きい
CO₂ を 5 MPaA・20℃ で扱う。理想気体との差は?
〔解答〕
Tr = 293.15 / 304.2 = 0.96(臨界温度のすぐ下)
pr = 5 / 7.38 = 0.68
→ この領域では Z ≒ 0.3〜0.4
→ 理想気体の2〜3倍の量が入る
この領域では実際には液化していることも多く、状態そのものを確認する必要があります。
例3:Kayの方法(混合気体)
Tc,mix = Σ(yᵢ Tc,ᵢ)
pc,mix = Σ(yᵢ pc,ᵢ)
yᵢ はモル分率
メタン70 mol%、エタン30 mol% の混合気体を、250 K・6.0 MPaA で扱う。Z を読む座標は?
〔解答〕
Tc,mix = 0.70×190.6 + 0.30×305.4 = 133.4 + 91.6 = 225.0 K
pc,mix = 0.70×4.60 + 0.30×4.88 = 3.22 + 1.46 = 4.68 MPa
Tr = 250 / 225.0 = 1.11
pr = 6.0 / 4.68 = 1.28
Kayの方法は近似です。 成分の性質が大きく違う(分子サイズや極性の差が大きい)と誤差が出ます。
実務での使いどころと、失敗例
使いどころ:どこから補正するか
pr < 0.1(臨界圧力の1割以下)→ 理想気体でよい
Tr > 2(臨界温度の2倍以上)→ 高圧でも Z は1に近い
Tr < 1.2 かつ pr > 0.5 → 必ず補正する
窒素・酸素・空気は常温なら Tr が2以上なので、10 MPa 程度までは誤差数%で済みます。
プロパン・アンモニア・CO₂ は常温で Tr が1前後。ここは要注意です。
失敗例:貯槽の在庫を圧力で管理する
気相部の圧力から在庫を推定する運用にしていた
外気温が下がって Tr が下がる → Z が小さくなる
同じ圧力でも実際の物質量は増えている
→ 在庫を過小評価してしまう
失敗例:安全弁のサイジングで密度を間違える
安全弁の必要吹出面積は、吹出条件での密度に依存します。
Z < 1 の領域では実際の密度は理想気体より大きい
→ 同じ質量流量でも体積流量は小さい
→ 理想気体で計算すると過大な面積になる(安全側だが不経済)
逆に Z > 1 の領域では過小になります。 こちらは危険側です。
安全弁の設計は安全弁の設計と口径計算、設置基準は安全弁の設置基準を参照してください。
超臨界流体という領域
臨界温度・臨界圧力の両方を超えると、気体でも液体でもない状態になります。
| 性質 | 超臨界流体は |
|---|---|
| 密度 | 液体に近い(溶解力が大きい) |
| 粘度・拡散性 | 気体に近い(浸透しやすい) |
| 界面 | 存在しない(気液の区別がない) |
超臨界CO₂による抽出(コーヒーのカフェイン除去など)はこの性質を使っています。
フガシティー ── 平衡計算のための補正
Z が体積の補正なら、フガシティーは圧力(化学ポテンシャル)の補正です。
f = φ p(φ:フガシティー係数)
活量 a = f / f°
理想気体なら φ = 1、f = p
| 圧縮係数 Z | フガシティー係数 φ | |
|---|---|---|
| 補正の対象 | 体積・密度 | 化学ポテンシャル |
| 使う場面 | 充填量・在庫・流量 | 化学平衡・気液平衡 |
| 理想気体 | Z = 1 | φ = 1 |
平衡定数を活量で定義しておくと、理想気体でも実在気体でも同じ形の式が使えます。
甲種化学ではこう出ます
学識の型2にあたります。計算としては令和2〜6年度の60大問中1回ですが、記述では3回出ています。
| 年度・問 | 内容 | 形 |
|---|---|---|
| R4 国試 問1 | Kayの方法 → 対臨界 → 圧縮係数 → 質量 | 計算 |
| R2 国試 問6(1) | vdW式を分子間力と排除体積で説明 | 記述 |
| R3 検定 問6(1) | vdW式と2つの補正項 | 記述 |
| R4 検定 問6(1) | 理想気体とは何か | 記述 |
解き方と答案例は学識・型2|実在気体、記述対策全般は学識 問6の記述問題にまとめています。
ガスごとの臨界定数はガス各論①・ガス各論②でも扱っています。
まとめ
- 理想気体の仮定は①分子体積ゼロ ②分子間力なし。両方とも現実には成り立たない
- 2つの効果は逆向き。だから Z は下がってから上がる
- vdW式の a は分子間力、b は分子自身の体積(排除体積)
- 極性が強いほど a が大きい(NH₃・H₂O はずれが大きい)
- Tr = T/Tc、pr = p/pc に直して図表を引く
- 臨界温度より上では液化しない。N₂・O₂・H₂ は常温で圧縮ガス
- Tr < 1.2 かつ pr > 0.5 なら必ず補正
- 混合気体はKayの方法(モル分率で加重平均、近似)
- Z は体積、フガシティー φ は平衡の補正
気体の溶解はヘンリーの法則とガスの溶解度、状態変化は熱力学第一法則と4つの状態変化へ。
基本に戻る場合は理想気体の状態方程式と気体定数を参照してください。
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