
圧縮機の所要動力を概算したいが、どの式を使えばいいのか分からない。
なぜ多段にして中間冷却するのか、理屈で説明できない。
そんな悩みを解決します。
等温 < ポリトロープ < 断熱(冷却しながら圧縮する場合) ── 同じ圧力比に必要な仕事の大小
多段の最適中間圧 √(p₁p₂) を、相加相乗平均から導く
多段化の本当の理由は動力より吐出温度
断熱効率とポリトロープ効率の違い

動力の概算、吐出温度の予測、段数の決定。圧縮機まわりの判断はここから始まります。
現場で、この計算はどこで要るか
| 場面 | 何を判断するか |
|---|---|
| 圧縮機の選定 | 所要軸動力とモータ容量 |
| 段数の決定 | 1段で足りるか、多段が要るか |
| 吐出温度の予測 | 潤滑油の劣化・材料の許容温度 |
| 中間冷却器の熱負荷 | 冷却水量の設計 |
| 省エネ検討 | 吸込温度を下げる効果の試算 |
| トラブル解析 | 吐出温度が高い = 効率が落ちている |
吐出温度は、効率と安全の両方を映す指標です。上がってきたら必ず原因を追ってください。
圧縮機の機種選定そのものは圧縮機の種類と選び方とブロワー・圧縮機の選定を参照してください。
3つの圧縮過程
W = nRT ln(p₂/p₁)
圧縮しながら完全に冷やし続ける ── 現実には不可能
W = [γ/(γ−1)] × nRT₁ × [(p₂/p₁)^((γ−1)/γ) − 1]
熱の出入りなし ── 速い圧縮はこれに近い
pV^m = 一定
式は②のγをmに置き換える ── 実機はここ。冷却しながら圧縮すれば 1 < m < γ、冷却のない機械は損失が熱になって m > γ
| 過程 | pV^n = 一定 の n | 温度は |
|---|---|---|
| 等温 | n = 1 | 変わらない |
| ポリトロープ(冷却あり) | 1 < n < γ | 上がる(断熱より緩やか) |
| ポリトロープ(冷却なしの実機) | n > γ | 断熱より高くなる(損失の熱) |
| 断熱 | n = γ | 最も上がる |
| 定容 | n → ∞ | ── |
n が1に近いほど仕事が小さい。 だから冷やしながら圧縮するほうが得です。
なぜ等温のほうが仕事が小さいのか
断熱圧縮では温度が上がり、その分だけ圧力も余計に上がるからです。
等温線(pV = 一定)より、断熱線(pV^γ = 一定)のほうが傾きが急
同じ圧力比まで圧縮するとき、断熱のほうが面積(=仕事)が大きい
「上がった温度の分だけ、余計に仕事をしている」と考えると分かりやすい。
状態変化の基礎は熱力学第一法則と4つの状態変化を参照してください。
数値で確かめる
例1:等温と断熱で仕事はどれだけ違うか
空気(γ=1.40)1 mol を 0.1 → 0.8 MPaA、入口20℃で圧縮する。
①等温 ②断熱 それぞれの仕事は?
〔① 等温〕
W = nRT ln(p₂/p₁) = 1 × 8.314 × 293.15 × ln 8
ln 8 = 3 × ln 2 = 3 × 0.693 = 2.079
W = 2,437 × 2.079 = 5,067 J
〔② 断熱〕
(p₂/p₁)^((γ−1)/γ) = 8^0.2857 = 1.812
W = [1.40/0.40] × 1 × 8.314 × 293.15 × (1.812 − 1)
= 3.5 × 2,437 × 0.812 = 6,927 J
断熱のほうが37%多く仕事が要ります。 これが冷却する価値です。
例2:吐出温度
T₂ = T₁ × (p₂/p₁)^((γ−1)/γ)
= 293.15 × 1.812 = 531 K = 258℃
実機は断熱効率があるので、さらに高くなります。
断熱効率75%のとき、実際の吐出温度は?
〔解答〕
理論の温度上昇 = 531 − 293 = 238 K
実際の温度上昇 = 238 / 0.75 = 317 K
T₂ = 293 + 317 = 610 K = 337℃
80℃近く違います。 潤滑油の許容温度を超えるかどうかの分かれ目になります。
例3:軸動力の概算
P = W × ṅ / η
W:1 mol あたりの仕事、ṅ:モル流量、η:全効率
上の条件で 1,000 Nm³/h を圧縮する。断熱効率75%、機械効率95%のときの軸動力は?
〔解答〕
1,000 Nm³/h = 44,600 mol/h = 12.4 mol/s
理論動力 = 6,927 × 12.4 = 85.9 kW
軸動力 = 85.9 / (0.75 × 0.95) = 121 kW
→ モータは132 kW または150 kWを選定
実務ではこの概算で機種の当たりをつけ、メーカーに詳細計算を依頼します。
多段圧縮の最適中間圧 ── √(p₁p₂) の導出
2段圧縮、中間冷却で各段の入口温度を同じ T₁ に戻す
1段目:p₁ → p_m / 2段目:p_m → p₂
各段の仕事は (p出口/p入口)^k − 1 に比例(k = (γ−1)/γ)
和を最小にする条件
W ∝ (p_m/p₁)^k + (p₂/p_m)^k
(p_m/p₁)^k × (p₂/p_m)^k = (p₂/p₁)^k … p_m が消える
積が一定の2つの正の数は、等しいときに和が最小になります(相加相乗平均の関係)。
(p_m/p₁)^k = (p₂/p_m)^k
→ p_m/p₁ = p₂/p_m(各段の圧力比が等しい)
→ p_m² = p₁p₂
→ p_m = √(p₁p₂)
本質は「各段の圧力比を等しくする」ことです。√ はその結果にすぎません。
n段に一般化
圧力比 = (p₂/p₁)^(1/n)
0.1 MPaA から 8.0 MPaA まで3段で圧縮する。各段の圧力は?
〔解答〕
全体の圧力比 = 80
各段 = 80^(1/3)
log 80 = 1.903 → ÷3 = 0.634 → 逆引き 4.31
→ 0.10 → 0.431 → 1.857 → 8.0 MPaA
圧力を等分(引き算)ではなく、等比(掛け算)に分けます。 ここを間違える人がいます。
多段化の本当の理由は、動力より吐出温度
動力は2段で約3割、3段で約4割下がりますが、その先は頭打ちです。
| 段数 | 各段の圧力比 | 理論動力(1段=100として) |
|---|---|---|
| 1段 | 80 | 100 |
| 2段 | 8.94 | 70 |
| 3段 | 4.31 | 62 |
| 4段 | 2.99 | 59 |
3段以上では、増やしても効果が頭打ちになります。設備費が見合わない。
ところが温度は劇的に違う
| 段数 | 各段の圧力比 | 各段の吐出温度(入口20℃、γ=1.40、断熱) |
|---|---|---|
| 1段 | 80 | 1,025 K = 752℃ |
| 2段 | 8.94 | 548 K = 275℃ |
| 3段 | 4.31 | 445 K = 172℃ |
| 4段 | 2.99 | 401 K = 128℃ |
1段で752℃。潤滑油が炭化し、発火します。 だから多段は必須なのです。
1段では温度が成立しないので多段にし、動力の頭打ちが段数の上限を決める。 これが実務の理解です。
潤滑油の劣化・炭化(スラッジが堆積、弁の固着)
油の発火(特に酸素圧縮機では致命的)
材料の強度低下
ガスの分解(アセチレンなど)
酸素圧縮機では油を使わない(オイルフリー)のが原則です。酸素と油の組み合わせは発火に直結します(→ 酸素の取扱い)。
アセチレンは圧力が上がると分解爆発するため、圧縮そのものに制限があります。
実務での使いどころと、失敗例
使いどころ①:吸込温度を下げる効果
同じ質量(モル数)を送る仕事は、吸込温度 T₁ に比例します。
吸込 40℃(313 K)→ 20℃(293 K)にすると
293 / 313 = 0.936
→ 同じ量を送る動力が6.4%削減
直射日光や吸込ダクトの配置による吸込温度上昇は、そのまま電気代になります。 吸込フィルタの詰まりは温度ではなく吸込圧力を下げ、同じく圧力比を大きくします。
夏場にガス1 kgあたりの電力(原単位)が悪化するのはこれが理由です。吸込体積が一定の機械では、夏は送れる質量も減ります。日除けや吸込ダクトの配置で改善できます。
使いどころ②:中間冷却器の性能低下を見つける
中間冷却器の出口温度が上がってきた
→ 次の段の吸込温度が上がる
→ 次の段の吐出温度が上がる
→ 動力も増える
最終段の吐出温度だけ見ていると、原因が中間冷却器にあることに気づけません。
各段の入口・出口温度を記録するのが基本です。
失敗例①:吐出温度上昇の原因を冷却水だけに求める
| 吐出温度が上がる原因 | 確認するもの |
|---|---|
| 冷却水量・温度 | 冷却水の流量計・温度計 |
| 吸込圧力の低下 | 圧力比が上がっている = フィルタ詰まり |
| 吐出圧力の上昇 | 下流の閉塞・弁の絞りすぎ |
| 内部漏れ | ピストンリング摩耗・弁の不良 |
| 効率低下 | 同じ条件での動力が増えていないか |
吸込圧力が下がると圧力比が上がり、吐出温度も上がります。 冷却の問題ではありません。
圧力比を計算してから原因を絞るのが正しい順序です。各段の温度と中間圧力から弁の漏れを見分ける方法は往復動圧縮機の異常と弁の保全で解説しています。
失敗例②:断熱効率とポリトロープ効率を混同する
| 断熱効率(等エントロピー効率) | ポリトロープ効率 | |
|---|---|---|
| 基準 | 等エントロピー変化 | ポリトロープ変化 |
| 圧力比の影響 | 圧力比が上がると下がる | 圧力比によらない |
| 使う場面 | 全体性能の比較 | 多段機の各段の比較 |
同じ機械でも、圧力比が違えば断熱効率は違う値になります。 機種比較では注意が必要です。
ポリトロープ効率のほうが圧力比の影響を受けないので、機械そのものの良し悪しを比べるのに適しています。
失敗例③:容積効率を無視して吐出量を見積もる
実際の吐出量 = 押しのけ量 × 容積効率
容積効率はすきま容積と圧力比で決まる
圧力比が上がると容積効率は下がる
吸込圧力が下がると、圧力比が上がって容積効率も下がります。 吐出量が二重に減る。
「同じ回転数なのに流量が出ない」ときは、まず吸込圧力を確認してください。
甲種化学ではこう出ます
学識の型5にあたります。令和2〜6年度の60大問では主として出た回はゼロでした。
ただし保安管理技術の問6(圧縮機・ポンプ)では毎年出ています。
等温 < ポリトロープ < 断熱(仕事の大小。ポリトロープは冷却しながら圧縮する場合)
多段化の目的(動力削減と吐出温度低下)
最適中間圧 = √(p₁p₂)
容積効率と圧力比の関係
酸素圧縮機はオイルフリー
学識の解説は学識・型5|圧縮機の理論動力と冷凍サイクル、保安管理技術の全体像は保安管理技術の攻略へ。
法令では、圧縮機の吐出温度や潤滑油の管理が技術基準に含まれます。→ 製造の技術上の基準
まとめ
- 等温 < ポリトロープ < 断熱(同じ圧力比に必要な仕事。冷却しながら圧縮する場合。冷却のない実機は断熱より温度も仕事も大きい)
- 多段の最適中間圧 p_m = √(p₁p₂)。本質は各段の圧力比を等しくすること
- 多段化の本当の理由は吐出温度(1段だと752℃、3段なら172℃)
冷凍サイクルへの応用は冷凍サイクルとCOP、エントロピーと断熱効率はエントロピーとカルノーサイクルへ。
比熱比γの値は比熱・マイヤーの関係・比熱比を参照してください。
圧縮機の実機の運転・保全は圧縮機完全ガイドにまとめています。
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