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SDSの読み方|現場で本当に見るべき7項目と、SDSに書いていないこと

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SDSは16項目、十数ページあります。1枚を最初から最後まで読む人は、まずいません。

かといって「読まない」を選ぶわけにもいきません。問題は、どこを、どういう目で見るかです。

この記事では、現場の技術者が優先して見るべき7項目と、SDSに書いていないことを整理します。

この記事の要点

  • まず見るのは項目9(物性)項目10(安定性・反応性)
  • 項目10は、いちばん読まれず、いちばん事故につながる
  • 「データなし」「区分外」は「安全」という意味ではない
  • SDSは自社の運転条件を知らない。温度・圧力・スケールは書いていない
  • SDSは出発点であって、リスクアセスメントの結論ではない

1. まず、16項目の地図を持つ

SDSの項目立ては、JIS Z 7253で定められています。どのメーカーのものでも、順番は同じです。

項目中身
1化学品及び会社情報
2危険有害性の要約(GHS分類、絵表示、注意喚起語)
3組成及び成分情報
4応急措置
5火災時の措置
6漏出時の措置
7取扱い及び保管上の注意
8ばく露防止及び保護措置(許容濃度、保護具)
9物理的及び化学的性質
10安定性及び反応性
11有害性情報(LC50など)
12環境影響情報
13廃棄上の注意
14輸送上の注意(国連番号、クラス)
15適用法令
16その他の情報(改訂日、参考文献)

順番が固定されているというのは、「知りたいことが、必ず同じ場所にある」ということです。これはかなり大きな利点です。

2. 現場で本当に見るべき7項目

① 項目9:物理的及び化学的性質

設計と現場判断の土台になる数字が、ここに集まっています。

見る数字何が決まるか
引火点常温で可燃性雰囲気ができるか。防爆区域、加熱の可否
爆発範囲(LEL・UEL)検知器の設定、不活性ガス置換の要否
蒸気密度(空気=1)漏れたガスが、上に行くか下に溜まるか
沸点・蒸気圧どれだけ揮発するか。夏場の挙動
発火点高温面に触れたときに発火するか
粘度・比重漏えい時の広がり方、水との分離

このなかで見落とされやすいのが蒸気密度です。数字自体は地味ですが、ガスが溜まる場所と、検知器を付ける高さを決めます。

② 項目10:安定性及び反応性

最も読まれず、最も事故につながる項目です。

  • 避けるべき条件――加熱、衝撃、直射日光、乾燥
  • 混触危険物質――酸化剤、酸、アルカリ、水、金属
  • 危険有害な分解生成物――燃やしたときに何が出るか

3つ目は、消防に伝えるべき情報です。消火活動中に有毒ガスが出る物質は珍しくありません。

ただし、項目10には決定的な限界があります。「混触危険物質」の欄は物質の一般的なカテゴリ(酸化剤、強酸…)で書かれることが多く、自社の他のタンクに何が入っているかは知りません。SDSを1枚ずつ読んでも、組み合わせのリスクは見えないのです。

③ 項目8:ばく露防止及び保護措置

許容濃度・TLVと、推奨される保護具が書かれています。

ここで注意すべきは、ここに書かれているのは通常作業を想定した値だということです。漏えい時の避難判断には、別の指標(ERPG、IDLH)が要ります。

④ 項目2:危険有害性の要約

GHS分類の区分と、絵表示、注意喚起語(「危険」「警告」)が並びます。全体像をつかむには、ここが最短です。

ただし、「区分外」「分類できない」「データなし」の読み方に注意してください。

これらは「危険がない」ではなく、「基準に照らして区分に当たらなかった」「判断する情報がなかった」という意味です。調べていないから空欄、という場合もあります。

⑤ 項目4・5・6:応急措置/火災時/漏出時

事故が起きた瞬間に開くページです。だからこそ、起きる前に読んでおく必要があります。

特に確認しておきたいのが、次の2点です。

  • 使ってはいけない消火剤――水をかけてはいけない物質があります
  • 応急措置に必要なもの――洗眼設備、中和剤、特定の解毒手順

必要なものが構内にあるか。SDSを読んで初めて、それが分かります。

⑥ 項目7:取扱い及び保管上の注意

保管温度、換気、容器材質、そして分離して保管すべき物質が書かれています。

倉庫のレイアウトを決めるときに使う項目ですが、実際には「空いている場所に置く」で運用されがちなところです。

⑦ 項目15:適用法令

消防法の類別、安衛法の対象物質、化管法、毒劇法などの該当が書かれています。

新しい物質を導入するときは、まずここを見ます。許可や届出が必要になるかどうかが、ここで分かります。

3. 読み方の落とし穴

① 空欄を「安全」と読まない

繰り返しになりますが、これが最も多い誤読です。

書かれ方本当の意味
区分外基準に照らすと、その区分には当たらなかった
分類できない判断するためのデータが足りない
データなし/情報なし調べられていない
分類対象外その危険性クラスの対象になる物質ではない

このうち「分類できない」「データなし」は、危険性の不在を示していません。むしろ「未知」という状態です。

② 供給元が違えば、内容も違う

同じ物質でも、メーカーによってSDSの記載は異なります。分類の判断も、引用しているデータも違うことがあります。

調達先を変えたら、SDSも取り直す。「同じ物質だから」で流用しないことです。

③ 版が古い

SDSには改訂日が入っています(項目16)。GHSの改訂、法令の改正、新しい知見によって、内容は更新されます。

現場のファイルに10年前のSDSが綴じられたまま、ということは珍しくありません。これはプロセス知識管理の問題そのものです。

4. SDSに書いていないこと

ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。

書いていないことなぜ書けないか
自社の運転条件SDSは常温・常圧を基本に書かれています。200℃・2MPaで使ったときの挙動は載っていません
スケール試薬瓶1本と、20m³のタンクでは危険性が違う。堆積による蓄熱も、量の問題です
他の物質との組み合わせ自社の設備に何があるかを、SDSは知りません
設備固有の事情材質適合性、シール材、滞留部、デッドレグ
時間が経った状態過酸化物の生成、重合、劣化、乾いた残渣

SDSは「この物質は、一般にこういう性質を持ちます」という情報です。

「この設備で、この条件で、この量を扱ったときにどうなるか」は、自分たちで評価するしかありません。

つまり、SDSはリスクアセスメントの入力であって、出力ではありません。SDSを配っただけでリスクアセスメントを済ませたことにはなりません。

5. SDSを「使える状態」にしておく

SDSは持っているだけでは機能しません。必要な瞬間に、必要な人が取り出せるかが問われます。

  • 夜間・休日に、当直者が取り出せますか。担当者のPCの中にありませんか
  • 停電時に見られますか。電子データだけになっていませんか
  • 消防や救急に渡せる形になっていますか。
  • 協力会社の作業者に、扱う物質のSDSが伝わっていますか。

1つ目と2つ目は、実際の事故対応で問題になったという話をよく聞くところです。

6. 自分の職場で確かめる7つのこと

  • 扱っている物質の蒸気密度を、答えられますか。検知器はその高さにありますか
  • 項目10の「混触危険物質」を、隣のタンクの中身と突き合わせましたか。
  • 「水をかけてはいけない物質」が構内にありますか。消防と共有していますか
  • 「データなし」の欄を、危険がない意味で読んでいませんか。
  • SDSの改訂日は、いつですか。調達先を変えたあと、取り直しましたか
  • SDSに書かれていない運転条件(高温・高圧)で使っていませんか。
  • 夜間に、当直者がSDSを取り出せますか。

まとめ

  • 優先して見るのは項目9(物性)項目10(安定性・反応性)
  • 蒸気密度は地味だが、ガスの溜まる場所と検知器の高さを決める
  • 「データなし」は「安全」ではない。未知という状態
  • SDSは運転条件・スケール・組み合わせを知らない
  • SDSはリスクアセスメントの入力。配っただけでは終わらない

SDSの数字は、それぞれ違う質問への答えです。どの質問への答えなのかを知っていれば、必要なときに正しく引き出せます。

物質の危険性については、下のまとめ記事から各テーマへたどれます。

参考文献

※本記事はSDSの読み方を理解するための概説です。SDSの記載事項・様式はJISおよび関係法令の改正により変わります。実際の作成・交付義務については、最新の法令原文と厚生労働省・経済産業省の公表資料をご確認ください。