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エントロピーが「乱雑さ」と言われても、現場の数字と結びつかない。
圧縮機の断熱効率が何を表しているのか、きちんと説明できない。
そんな悩みを解決します。
dS = δQ/T ── 定義はこれだけ。乱雑さの話は後回しでいい
T-S線図では面積が熱量。だからカルノーが長方形になる
等エントロピー = 可逆断熱。実機はここからのズレで評価する
断熱効率が、理論と実機の差を1つの数にまとめている

圧縮機・タービンの性能評価、冷凍サイクルの設計、熱回収の限界。実務ではここから判断します。
現場で、エントロピーはどこに出てくるか
「エントロピー」という言葉では出てきません。 別の名前で現れます。
| 現場の言葉 | 実はエントロピーの話 |
|---|---|
| 断熱効率(等エントロピー効率) | 理想の等エントロピー変化からのズレ |
| 圧縮機のポリトロープ効率 | 同上(基準の取り方が違うだけ) |
| タービンの取り出せる仕事の上限 | 等エントロピー膨張が上限 |
| 熱回収できる温度の限界 | 低温の熱は仕事に変えられない |
| Mollier線図(h-s線図) | 横軸がエントロピー |
| 冷凍機のCOPの上限 | 逆カルノーで決まる |
第一法則はエネルギーの量、第二法則(エントロピー)は質を扱います。
第一法則は熱力学第一法則と4つの状態変化を参照してください。
定義 ── まずは数式から入る
dS = δQ_rev / T
可逆過程で系が受け取った熱を、そのときの絶対温度で割ったもの
「乱雑さ」という説明は、この定義から導かれる解釈です。 先に定義を押さえてください。
この定義から読めること
高温で熱をもらう → 分母が大きい → ΔS は小さい
低温で熱をもらう → 分母が小さい → ΔS は大きい
これが熱回収の設計思想そのものです。高温の熱は仕事に変える、低温の熱は加熱に使う。
よく使う3つの形
ΔS = ΔH / T
例:水の蒸発(100℃)ΔS = 40,700 / 373 = 109 J/(mol·K)
ΔS = nR ln(V₂/V₁) = −nR ln(p₂/p₁)
ΔS = nCp ln(T₂/T₁)
①が実務で最も使います。 蒸発潜熱を沸点で割るだけ。
熱力学第二法則 ── 何を禁止しているか
孤立系のエントロピーは減少しない(ΔS ≧ 0)
熱は高温から低温へしか自然には流れない(クラウジウス)
1つの熱源から熱を取り出して、全部を仕事に変えることはできない(ケルビン)
| 過程 | ΔS |
|---|---|
| 可逆断熱 | = 0 |
| 不可逆断熱 | > 0 |
| 孤立系全体 | ≧ 0 |
何が不可逆性を生むか
| 原因 | 現場での例 |
|---|---|
| 有限の温度差での伝熱 | 熱交換器(温度差ゼロなら伝熱しない) |
| 摩擦・圧力損失 | 配管、バルブ、機器内部 |
| 絞り膨張 | 膨張弁、オリフィス |
| 混合 | 異なる流体を合流させる |
| 化学反応 | 自発的な反応はすべて |
「効率を上げる」とは、これらを減らすことにほかなりません。
熱交換器の温度差を小さくする → 伝熱面積は増えるが損失は減る
配管を太くする → 圧力損失が減る
膨張弁をタービンに替える → 仕事を回収できる
T-S線図 ── 面積が熱量になる
定義 dS = δQ/T を変形すると δQ = T dS
→ Q = ∫ T dS
→ T-S線図では曲線の下の面積が熱量
p-V線図では面積が仕事、T-S線図では面積が熱量。 この対応で覚えてください。
4つの変化がどう描かれるか
| 変化 | T-S線図での形 |
|---|---|
| 等温 | 横線(Tが一定) |
| 可逆断熱(等エントロピー) | 縦線(Sが一定) |
| 定圧 | 右上がりの曲線 |
| 定容 | 定圧より急な右上がり |
カルノーサイクル ── T-S線図で長方形になる
① 等温膨張(T_H で熱 Q_H を受け取る)── 横線(右向き)
② 断熱膨張(T_H → T_L)── 縦線(下向き)
③ 等温圧縮(T_L で熱 Q_L を捨てる)── 横線(左向き)
④ 断熱圧縮(T_L → T_H)── 縦線(上向き)
横線2本と縦線2本 → 長方形です。
長方形から効率が読める
上辺の下の面積 = 受け取った熱 Q_H = T_H ΔS
下辺の下の面積 = 捨てた熱 Q_L = T_L ΔS
長方形の面積 = 正味の仕事 W = (T_H − T_L) ΔS
η = W / Q_H = (T_H − T_L)ΔS / (T_H ΔS)
= 1 − T_L / T_H
この式が言っていること
- 作動流体の種類によらない(水でも空気でもアンモニアでも同じ)
- 絶対温度で計算する(摂氏では成り立たない)
- あらゆる熱機関の効率の上限を与える
- T_L = 0 K でない限り、効率は100%にならない
数値で見る
| 高温側 | 低温側(常温) | カルノー効率 |
|---|---|---|
| 100℃(373 K) | 25℃(298 K) | 20% |
| 300℃(573 K) | 25℃(298 K) | 48% |
| 600℃(873 K) | 25℃(298 K) | 66% |
| 1,500℃(1,773 K) | 25℃(298 K) | 83% |
これが低温廃熱の回収が難しい理由です。バイナリー発電などが検討されますが、経済性が厳しいのは物理的な理由があります。
実機はカルノー効率の5〜7割程度。火力発電で40〜60%、というのはこの制約の中の数字です。
断熱効率 ── 実務で最も使うエントロピーの応用
圧縮機やタービンの性能は、等エントロピー変化からのズレで表します。
圧縮機の場合
η_ad = 理論の仕事(等エントロピー) / 実際の仕事
= Δh_s / Δh_actual
実際の圧縮では摩擦などでエントロピーが増えるので、同じ吐出圧に到達するのに余計な仕事が要ります。
| 等エントロピー圧縮 | 実際の圧縮 | |
|---|---|---|
| ΔS | 0 | > 0 |
| 吐出温度 | 理論値 | 理論値より高い |
| 必要な仕事 | 最小 | より大きい |
数値例
空気を 0.1 → 0.8 MPaA、入口20℃で圧縮する。断熱効率75%のとき、実際の吐出温度は?
〔解答〕
等エントロピー吐出温度:T₂s = 293 × 8^0.2857 = 293 × 1.812 = 531 K(258℃)
理論の温度上昇 ΔT_s = 531 − 293 = 238 K
実際の温度上昇 = 238 / 0.75 = 317 K
実際の吐出温度 = 293 + 317 = 610 K = 337℃
この差が潤滑油の劣化や炭化を招きます。 圧縮機の吐出温度監視は、効率だけでなく安全の問題です。
タービンの場合は逆になる
η_ad = 実際の仕事 / 理論の仕事(等エントロピー)
= Δh_actual / Δh_s
どちらも効率は1以下になるように定義されています。定義式の向きを確認してから使ってください。
逆カルノー ── 冷凍機とヒートポンプ
サイクルを逆回しにすると、仕事を加えて低温側から熱を汲み上げる装置になります。
冷凍機:COP = Q_L / W = T_L / (T_H − T_L)
ヒートポンプ:COP = Q_H / W = T_H / (T_H − T_L)
COP_HP = COP_冷凍 + 1
詳細は冷凍サイクルとCOPで扱います。
実務での使いどころと、判断の勘所
使いどころ①:熱回収の優先順位を決める
高温(400℃以上):発電・高圧蒸気の発生
中温(150〜400℃):プロセス加熱・中圧蒸気
低温(100℃以下):予熱・給湯(仕事には変えにくい)
高温の熱を低温の用途に使うのは「もったいない」。エントロピーの言葉では「エクセルギーを捨てている」。
使いどころ②:膨張弁をタービンに替えるべきか
| 膨張弁 | 膨張タービン | |
|---|---|---|
| 過程 | 等エンタルピー(ΔH=0) | 等エントロピーに近い |
| ΔS | 増える(不可逆) | ほぼ一定 |
| 仕事の回収 | なし | あり |
| 温度低下 | 小さい | 大きい |
| 二相流 | 問題なし | 羽根が壊れる |
| コスト | 安い | 高い |
大型の空気分離装置では膨張タービンを使い、小型の冷凍機では膨張弁を使う── 規模で経済性が変わります。
判断の勘所:エントロピーは「もう戻れない量」
エントロピーが増えた分は、元に戻せません。
配管で1 MPa の圧力損失が出た
→ そのエネルギーは熱になって流体を少し温めた
→ その熱を集めても、元の圧力には戻せない
→ ポンプで押し直すしかない
→ 配管の圧力損失
「乱雑さ」という説明について
統計力学では、エントロピーは状態の数(W)で定義されます。
S = k ln W
k:ボルツマン定数、W:その状態を実現する微視的な場合の数
「取りうる状態が多い=乱雑」という解釈から、「乱雑さ」という言い方が生まれました。
「乱雑さ」で理解しようとすると、かえって混乱します。 たとえば「気体を混合するとエントロピーが増える」は乱雑さで説明できますが、「圧縮機の断熱効率」を乱雑さで説明するのは無理があります。
定義(dS = δQ/T)と、T-S線図での面積。この2つで実務は回ります。
甲種化学ではこう出ます
学識の型4の一部です。令和2〜6年度の60大問中、エントロピーが2回、カルノーが2回出ています。
| 年度・問 | 内容 |
|---|---|
| R5 国試 問2 | 蒸発のエントロピー・断熱膨張 |
| R5 検定 問2 | エントロピーの定義・等エントロピー膨張 |
| R6 国試 問2 | 逆カルノーサイクルの T-S 線図 |
| R5 検定 問6(2) | 可逆カルノーサイクルと効率式(記述) |
ΔS = ΔH/T(相変化)
等エントロピー = 可逆断熱(言い換えられているだけ)
η = 1 − T_L/T_H と、作動流体によらないこと
解き方と過去問の詳細は学識・型4|熱力学の状態変化、記述の答案例は学識 問6の記述問題にまとめています。
まとめ
- 定義は dS = δQ_rev / T。まずここから
- 高温の熱ほど質が高い(同じQでもΔSが小さい)
- T-S線図では面積が熱量(p-V線図は仕事)
- 等温=横線、可逆断熱=縦線。だからカルノーは長方形
- η = 1 − T_L/T_H。作動流体によらず、あらゆる熱機関の上限
- 100℃の廃熱からは理論上でも20%しか仕事が取れない
- 等エントロピー = 可逆断熱。実機は断熱効率でズレを表す
- 断熱効率75%なら、圧縮機の吐出温度は理論より80℃高くなる
- エントロピーが増えた分は元に戻せない
- 「乱雑さ」は解釈。実務ではdS = δQ/T で足りる
次は冷凍サイクルです。→ 冷凍サイクルとCOP|逆カルノーで上限を知る
第一法則は熱力学第一法則と4つの状態変化、圧縮機への応用は圧縮機の理論動力へ。
化学プラント大全 
