現場に配属されて最初に戸惑う回転機、それが「送風機(ブロワー・ファン)」ではないでしょうか?
「ブロワーとファンの違いは?」
「なぜここはルーツブロワーで、あっちはターボファンなんだ?」
先輩に聞くと「圧力の違いだよ」と一言で返されがちですが、実務ではそれだけでは説明がつかないことが多々あります。
今回は、教科書的な定義だけでなく、「現場でトラブルを起こさないための選定・使い分けの勘所」を、若手エンジニア向けに噛み砕いて解説します。
1. 圧力による呼び名の違い

送風機は吐出圧力によって呼び名が変わります。
境界線はJISやメーカー定義により多少曖昧ですが、化学プラントの実務では以下の感覚を持っておけばOKです。
| 名称 | 吐出圧力(目安) | 現場のイメージと用途 |
|---|---|---|
| ファン (Fan) | ~10kPa 未満 | 「風を送る」 換気扇、空調、ドラフトチャンバー排気など。圧力が低いので、配管抵抗に弱いです。 |
| ブロワー (Blower) | 10kPa ~ 100kPa | 「風を押し込む」 水深数メートルのタンクへのエアレーション(曝気)や、抵抗のある反応器への圧送など。 |
| コンプレッサー (Compressor) | 100kPa (0.1MPa) 以上 | 「ガスを圧縮する」 計装空気やプロセスガスの昇圧。ここからは高圧ガス保安法の適用範囲になることが多く、管理レベルが跳ね上がります。 |
【実務のポイント】
「10kPaを超えたらブロワーの領域」と捉えましょう。ファン選定のつもりで安易にダクトを引くと、圧力損失に負けて全く風が出ない…という失敗に繋がります。
2. 構造による決定的な違い:「容積式」vs「遠心式」

ここが今回の一番の重要ポイントです。
カタログの数値(スペック)が同じでも、「送り出す仕組み」が違えば、運転特性(クセ)は全く異なります。
① 容積式(ルーツブロワー等): 「定量性の鬼」
仕組みとイメージ
2つのマユ型(または3葉)のローターが回転し、一定量の空気を「部屋」に閉じ込めて吐き出します。
イメージは「柄杓(ひしゃく)」です。ひしゃくで水を汲み出す動作を高速で繰り返していると思ってください。
現場で役立つ特性(PQ特性)
- 風量がブレない: 吐出側の圧力が変動しても、風量はほとんど変わりません(PQカーブが縦に立っている)。
- 用途: 負荷変動のある排水処理槽(水位が変わっても空気量を変えたくない)や、管閉塞リスクのある粉体輸送。
注意
容積式は「何が何でも押し込もうとする」特性があります。
もし吐出側のバルブを全閉(閉め切り)にすると、逃げ場を失った圧力は無限に上昇し、配管破裂やケーシング破壊、モーター焼損などの重大事故に直結します。
そのため、安全弁(リリーフ弁)の設置と健全性の確認は、エンジニアの生命線です。
② 遠心式(ターボブロワー等): 「バランスの達人」
仕組みとイメージ
羽根車(インペラ)を高速回転させ、遠心力で気体に速度を与え、それを圧力に変換します。
イメージは「バケツ」です。バケツに水を入れてグルグル回し、その遠心力で中身を飛ばす感覚です。
現場で役立つ特性(PQ特性)
- 圧力なりに風量が変わる: 圧力が上がると風量が減ります(PQカーブが右下がり)。
- 用途: 大流量の空気を効率よく送りたい場合。排ガス燃焼炉や乾燥機など。脈動が少なく静かです。
注意
風量を絞りすぎたり、背圧が高くなりすぎたりすると、空気の逆流と順流が繰り返される「サージング(喘振)」が発生します。
「ボッ、ボッ、ボッ」という呼吸音とともに配管全体が激しく振動し、放置すると設備が壊れます。風量の絞りすぎには厳重注意です。
3. その選定で大丈夫? 「ゴミ・粉」との戦い

プロセス設計で意外と見落とされるのが、「ガスに含まれるダスト(粉塵)やミスト」です。
「風量と圧力が足りているからOK」で選ぶと、半年後に羽根がゴミだらけになって振動停止…という憂き目に遭います。
遠心式ファンの代表的な羽根形状(インペラ)を見てみましょう。
多翼ファン(シロッコファン)
- 特徴: 小さな羽根がたくさんついている。
- 弱点: 羽根の隙間が狭いため、少しでも粉や油分を含むと即座に詰まります。
- 鉄則: クリーンな空調、室内の換気専用。プロセス排気には使わないのが無難です。
プレートファン(ラジアルファン)
- 特徴: 単純な板状の羽根が放射状に伸びている構造。
- 強み: 構造がシンプルで頑丈。遠心力でゴミを吹き飛ばす「セルフクリーニング効果」があります。
- 鉄則: 粉体輸送、集塵機、排ガス処理など、「汚いガス」を扱うなら、まずはこれを検討してください。効率は少し落ちますが、信頼性は抜群です。
ターボファン
- 特徴: 後ろ向きにカーブした流線型の羽根。
- 強み: 最も効率が良く、省エネ。
- 注意: 付着性の強い粉体には不向きですが、乾燥した軽いダストなら対応可能なタイプもあります。
4. 【まとめ】ブロワー選定フロー

迷ったときは、この自問自答フローを思い出してください。
- 圧力は?
- 100kPa以上 → コンプレッサーの世界へ。
- それ以下 → 次へ。
- 風量の「質」は?
- 圧力が変動しても「絶対に一定量を送りたい」 → 【容積式(ルーツ)】
- 大風量が欲しい、圧力が一定 → 【遠心式(ターボ)】
- ガスは汚れているか?
- ダスト・粉あり → プレートファン(ラジアル)
- クリーン → ターボ または 多翼ファン
機械にも「性格」があります。
頑固者(ルーツ)には逃げ道を、繊細(ターボ)には安定した環境を。
相手の特性を理解して設計・運転することが、安定稼働への近道です。
化学プラント大全 