日東電工(Nitto)は、就活の「化学メーカー」のリストに入っていながら、**ナフサも反応器も出てこない会社**です。作っているのはテープ、フィルム、回路材料。それで**売上収益1兆281億円、営業利益1,836億円、営業利益率17.9%**。このシリーズの29社の中で、利益率は信越化学・日産化学・日油に次ぐ4番目です。
もう1つ先に数字を出すと、**売上の83%が海外**です。日本の売上は1,728億円しかありません。アジアだけで64%。**日本で作って日本で売る会社ではない**、と最初に知っておいてください。
私は化学メーカーの生産技術者として12年働いています。この記事では決算短信と募集要項という一次資料だけを使って、「何で稼ぎ、どこで働くのか」を整理します。難易度や口コミは扱いません。
化学業界そのものが曖昧な人は先に「化学業界とは」(→化学業界とは)へ。29社の比較は→化学メーカー大手29社の違いへ。
一言でいうと|「塗る・貼る・はがす」で稼ぐ会社
日東電工は1918年(大正7年)設立、本社は大阪・梅田のグランフロント大阪です。創業時は電気絶縁材料の会社で、いまも社名に「電工」が残っています。
事業の核は、**フィルムやテープの上に機能を持つ層を塗って、貼れる・はがせる形にする技術**です。製品を並べると、
- スマートフォンのバッテリーを固定し、修理のときは電気を流すとはがれる**電気剥離テープ**
- ノートパソコンやスマートフォンの画面に使う**偏光フィルムなどの光学フィルム**
- ハードディスクの読み取りヘッドを支える**回路付きサスペンション(CIS)**
- 半導体の製造工程で使う保護テープ
- 紙おむつの伸縮材や、海水淡水化の**高分子分離膜**
- 核酸医薬の**受託製造**
「化学メーカー」というより**機能材料の加工メーカー**です。原料のポリマーやモノマーは買ってきます。自社で差がつくのは、**何を塗るか・どう塗るか・どう貼れる形にするか**。この3つで世界上位を取っているのが強みです。会社自身は「ニッチトップ戦略」と呼んでいます。
就活生が押さえるべき性格は3つです。
- **営業利益率17.9%は29社中4番目**。石化を持つ総合化学(→三菱ケミカルGの企業研究、→三井化学の企業研究)が数%の世界で、この数字は別の生き物です(→化学メーカー大手29社の違い)
- **売上の83%が海外**。日本は17%。工場も売り先もアジアが中心で、決算は為替で動きます(2026年3月期は1.7%の円高で営業利益81億円の減益要因)
- **財務が極端に堅い**。自己資本比率79.6%は三洋化成工業(→三洋化成工業の企業研究)の81.4%に次いで29社中2番目。有利子負債がほぼなく、現金を3,598億円持っています
決算を読む|売上1兆円・利益1,836億円・海外83%

| 項目 | 数字(出典・基準日) |
|---|---|
| 売上収益 | 1兆281億7千1百万円(2026年3月期。前期比+1.4%) |
| 営業利益 | 1,836億1千5百万円(同。前期比▲1.1%) |
| 親会社の所有者に帰属する当期利益 | 1,334億9千8百万円(同。前期比▲2.7%) |
| 売上収益営業利益率 | **17.9%** |
| 親会社所有者帰属持分比率(自己資本比率) | **79.6%**(2026年3月31日現在) |
| 現金及び現金同等物 | 3,598億円(同) |
| 資本金 | 267億円 |
| 従業員数 | 連結28,006名/単体7,084名(2026年3月末) |
| グループ会社 | 国内18社・海外70社 |
| 本社 | 大阪市北区大深町4番20号 グランフロント大阪 タワーA |
| 設立 | 1918年10月25日 |
数字の読み方を3つ。
- **売上は横ばい、利益は微減**。増収の中身は、ハイエンドスマートフォンとノートPCの生産台数が想定を上回ったこと、半導体メモリやセラミックコンデンサー向けの工程用材料が増えたこと。減益の中身は円高(▲81億円)と、LCDスマートフォン向け光学フィルムからの戦略的撤退です
- **地域別の売上を見ると会社の形が分かります**。日本1,728億円(16.8%)、米州969億円(9.4%)、欧州965億円(9.4%)、**アジア・オセアニア6,619億円(64.4%)**。光学フィルムと回路材料は中国・韓国・台湾の顧客に近い場所で作って売っています。「地域別の売上は各拠点の所在地による」と短信に書かれているので、**アジアで作ってアジアで売っている**金額です
- **減損は当期「重要な事項なし」**。前期は123億円(プラスチック光ファイバーの事業化中止、フレキシブルセンサのれん、ドイツ子会社のれん)を計上していました。2026年3月期はそれが無く、**素の実力がそのまま出た期**と読めます
3つのセグメント|利益の8割はオプトロニクス

| セグメント | 主な製品 | 売上収益 | 営業利益 | 利益率 |
|---|---|---|---|---|
| インダストリアルテープ | 接合・保護・プロセス・自動車材料(基盤機能材料) | 3,666億円 | 517億円 | 14.1% |
| オプトロニクス | 光学フィルム(情報機能材料3,862億円)、CIS・高精度基板(回路材料1,416億円) | 5,278億円 | **1,499億円** | **28.4%** |
| ヒューマンライフ | 核酸受託製造(ライフサイエンス540億円)、高分子分離膜(334億円)、おむつ用材料(563億円) | 1,437億円 | ▲50億円 | ― |
| その他 | 新規事業(次世代半導体・環境・デジタルヘルス) | 0.1億円 | ▲70億円 | ― |
※ 売上収益はセグメント間の内部売上を含む。このほか調整額▲59億円を引いて連結の営業利益1,836億円。
読み方のポイント:
- **オプトロニクスが営業利益の82%**。1,836億円のうち1,499億円。しかも利益率28.4%。中身は光学フィルム(ノートPC・タブレット・スマートフォンの画面)と、生成AIのデータセンター向けハードディスクに使うCISです。**この会社を志望するなら、まずここを理解すること**
- **ただしオプトロニクスは前期比▲13.4%の減益**。LCDスマートフォン向け光学フィルムからの撤退と、工程保護フィルムの値下げが理由です。短信には「非ディスプレイ市場における新規事業創出に取り組む」とあり、**ディスプレイ依存をどう減らすかが会社の課題**だと読めます
- **インダストリアルテープは+12.6%の増益**。電気剥離テープがスマートフォンの採用モデルを広げ、半導体・コンデンサー向けの工程用材料も増えました。**豊橋事業所に過去最大の390億円**を投じて、この剥離技術を拡大すると短信に書かれています
- **ヒューマンライフは赤字ですが、前期の▲117億円から▲50億円に改善**。核酸医薬の受託製造で大型案件が商用化ステージに移ったためです。**会社が次の柱として育てている領域**で、国内と米国に核酸材料の新工場が本格稼働する予定です
「化学メーカー」なのに反応器が無い|機能材料の川下にいる
化学業界の川(→化学業界とは)でいうと、日東電工は**いちばん川下**にいます。
- ナフサを分解して基礎原料を作る会社(→三菱ケミカルGの企業研究、→三井化学の企業研究)が**上流**
- ポリマーやモノマーを作る会社が**中流**
- 日東電工は、**買ってきたポリマーを溶かして塗り、フィルムやテープの形にして、最終製品のメーカーに納める**。加工と設計の会社です
同じ「川下の加工」でも、積水化学(→積水化学工業の企業研究)や東洋紡(→東洋紡の企業研究)が「樹脂を成形する・フィルムにする」のに対し、日東電工は**フィルムの表面に機能を持たせる**ところに技術があります。偏光フィルムなら「光の向きをそろえる層」、電気剥離テープなら「電圧をかけるとはがれる接着層」。**層の設計と塗布の技術が商品**です。
現場の目線で言うと、これは**働く環境がまったく違う**ということです。
- 石化プラントのような24時間連続運転の巨大装置ではなく、**塗工機(コーター)と積層・裁断の工程**が中心
- ロットと品種が多く、**歩留まりと異物管理**が勝負。半導体やディスプレイ向けはクリーンルーム
- **顧客の製品開発と一緒に進む**仕事が多い。スマートフォンの新モデルに合わせてテープの仕様が変わる
「化学工学を学んだけれど、反応や蒸留より材料やプロセス設計がやりたい」という人には、総合化学より合う可能性があります(→化学メーカーの職種図鑑)。逆に**大型装置を動かしたい人には向きません**(→コンビナート地域で働くという選択)。
職種・初任給|募集要項を読む
| 項目 | 内容(2026年度実績) |
|---|---|
| 募集職種(技術系) | 研究開発、生産技術、製造技術、品質保証など |
| 募集学科 | 全学部全学科 |
| 初任給 | 学士 基本給290,000円/修士 基本給313,000円/博士 323,500円〜(個別決定) |
| 平均年間給与(有報・単体) | 8,437,000円(平均年齢41.0歳・平均勤続15.5年・単体6,813名、2026年3月31日現在) |
| 賞与・昇給 | 賞与年2回、昇給年1回 |
| 勤務時間 | 8:00〜16:45 または 8:45〜17:30(拠点による)。フレックスタイム制、標準労働時間7時間55分 |
| 年間休日 | 125日。完全週休2日、年次有給休暇は最大20日(1時間単位で取得可) |
| 福利厚生 | 独身寮、借上社宅、財形、持株会、企業年金基金、確定拠出年金など |
| 勤務地 | 東北・関東・豊橋・亀山・滋賀・茨木・尾道の各事業所、本社(大阪)、東京本社、名古屋支店、大阪支店など |
※ 平均年間給与は有価証券報告書(2026年06月17日提出、EDINET S100YCAR)の「従業員の状況」による。単体の全従業員の平均で、賞与・基準外賃金を含む。新卒の初任給とは別の数字。29社の並びは→化学メーカー大手29社の違いへ。
現場の目線で4つ。
- **初任給は修士313,000円で、29社の中では上位**。ダイセル(333,000円)、三菱ガス化学(322,185円)、信越化学(320,950円)、クラレ(320,300円)、レゾナック(315,000円)に次ぐ水準です(→化学メーカー大手29社の違い)。「基本給」と明記されているので、トクヤマ(→トクヤマの企業研究)やADEKA(→ADEKAの企業研究)のような手当込みの表示ではありません
- **年間休日125日は平均的**。29社では三洋化成工業の128日(→三洋化成工業の企業研究)、DIC・UBEの126日に次ぎます。**有給が1時間単位で取れる**のは、現場では地味に効きます
- **勤務時間が拠点で違う**。8:00始業の事業所と8:45始業の事業所があります。配属先で生活リズムが変わることは知っておいてください
- **募集職種に「製造技術」と「生産技術」が分かれている**。製造技術は工場で日々の生産を回す側、生産技術は新しい設備や工程を立ち上げる側、という整理が一般的です(→化学メーカーの職種図鑑)。面接で「どちらをやりたいか」を聞かれたときに答えられるようにしておくとよい
どこで働くか|事業所は7つ、研究も事業所の中

| 区分 | 拠点 |
|---|---|
| 本社 | 大阪本社(大阪市北区・グランフロント大阪)、東京本社(中央区八重洲) |
| 事業所(製造・研究) | 東北事業所(宮城県大崎市)、関東事業所(埼玉県深谷市)、豊橋事業所(愛知県豊橋市)、亀山事業所(三重県亀山市)、滋賀事業所(滋賀県草津市)、茨木事業所(大阪府茨木市)、尾道事業所(広島県尾道市) |
拠点案内で「研究開発」の絞り込みをかけると、出てくるのは**事業所と同じ場所**です。独立した中央研究所の住所はなく、**研究は各事業所の中で、製品と一緒に動いている**と読めます。茨木事業所はもともと本社があった場所で、歴史的な中核です。
現場から3つ。
- **東京本社があっても、技術系の配属は事業所**です。大阪・東京の本社は営業・管理が中心。技術職で「都心勤務」を期待するとずれます(→化学メーカーの選び方)
- **事業所は北から南まで散っている**。宮城・埼玉・愛知・三重・滋賀・大阪・広島。どれも地方都市で、**車があったほうがいい立地**が多い。採用サイトには「宮城県大崎市での暮らし方」「三重県亀山市での暮らし方」「広島県尾道市での暮らし方」というページがあり、**会社自身がそこを説明している**のは、それが入社後の現実だからです
- **豊橋は次の主力**。390億円の投資が決まっています。電気剥離テープを伸ばすなら、ここに人が要ります
一次資料はここにある
自分で確かめるための場所を書いておきます。**この記事の数字はすべてここから取りました。**
| 資料 | 見どころ |
|---|---|
| 決算短信(IR>決算短信・決算説明会資料) | 添付資料p.2〜3「セグメントの業績概況」。製品名と増減理由が文章で書かれている。p.4に3セグメントの前期比の表 |
| 決算短信 p.21〜22 | 地域別・製品群別の売上収益。**日本17%・アジア64%がここで分かる** |
| 決算短信 p.6「今後の見通し」 | 豊橋への390億円投資、核酸材料の新工場、非ディスプレイへの展開。**会社が次に何をするかはここ** |
| 会社概要/拠点案内 | 拠点案内は「製造/加工」「研究開発」で絞り込める。研究所が事業所の中にあることが分かる |
| 採用サイト 募集要項 | 初任給が「基本給」と明記。勤務地・勤務時間が拠点で違うことも書いてある |
| 採用サイト「暮らし方」ページ | 大崎・亀山・尾道の生活が会社の言葉で説明されている |
**注意点を1つ。** 日東電工の公式サイト(nitto.com)は、環境によってはコマンドラインのツールから読めません(このシリーズで一度、記事を後回しにした理由がこれでした)。決算短信のPDF自体は外部の配信サーバーに置かれているので、ブラウザからは普通に開けます。
向いている人・確かめておくこと
決算と募集要項から読み取れる範囲で書きます。**難易度や口コミは扱いません。**
向いていそうな人:
- **材料の表面や層の設計に興味がある人**。反応や蒸留より、塗る・貼る・はがすの世界です(→化学メーカーの職種図鑑)
- **海外と仕事をする前提で構わない人**。売上の83%が海外、グループ会社70社が海外。技術職でも海外拠点とのやり取りは日常です
- **地方の事業所で腰を据えられる人**。宮城・埼玉・愛知・三重・滋賀・大阪・広島のどこかです
確かめておくこと:
- **オプトロニクス依存をどう減らすのか**。利益の82%がディスプレイとHDD向けです。短信は「非ディスプレイ市場における新規事業創出」と書いていますが、具体的に何かは会社説明会で聞く価値があります
- **ヒューマンライフ(核酸・膜・おむつ材料)がいつ黒字になるのか**。▲117億円→▲50億円と改善中で、新工場が稼働予定。**自分が行きたい事業がここなら、なおさら聞いてください**
- **為替の影響をどう見ているか**。1.7%の円高で81億円の減益要因でした。海外売上が大きい会社の宿命ですが、数字の振れ幅は知っておくこと
- **製造技術と生産技術、どちらで応募するか**。募集要項で分かれています。事業所配属が前提なので、行きたい土地も含めて考えてください(→化学メーカーの選び方)
数字だけを見て決めないでください。**この会社の強さは「利益率17.9%」ではなく、その利益率を出している「塗って貼ってはがす技術」の側にあります。** 製品を1つ手に取って(スマートフォンの画面でも、テープでも)、どこに自社の技術が入っているかを想像してから志望動機を書いてください(→化学メーカーの志望動機の書き方)。
日東電工(Nitto)は1918年設立、大阪に本社を置く機能材料の加工メーカーです。2026年3月期は売上収益1兆281億円、営業利益1,836億円で利益率17.9%。利益の82%は光学フィルムとHDD用回路材料のオプトロニクスが稼ぎ、売上の83%は海外です。自己資本比率79.6%。事業所は宮城から広島まで7つ。29社の比較は化学メーカー大手29社の違いへ。
化学プラント大全 
