DICは、就活生から「印刷インキの会社でしょ? 紙が減っているのに大丈夫?」と見られがちな会社です。
たしかに売上1兆522億円の**52%がインキ事業**です。でも中身は本や新聞ではなく、**食品や日用品のパッケージに刷るインキ**が主力。パッケージは減っていません。そして**グループ163社のうち141社が海外**という、極端にグローバルな会社でもあります。
私は化学メーカーの生産技術者として12年働いています。この記事では決算短信と募集要項という一次資料だけを使って、「何で稼ぎ、どこで働くのか」を整理します。難易度や口コミは扱いません。
化学業界そのものが曖昧な人は先に「化学業界とは」(→化学業界とは)へ。10社の比較は→化学メーカー大手10社の違いへ。
一言でいうと|インキ・顔料・樹脂の3本柱を世界で回す会社
DICの創業は**1908年(明治41年)の川村インキ製造所**。1937年に会社として設立され、長く「大日本インキ化学工業」という社名でした。2008年に現在のDICになっています。
いまはインキだけでなく、有機顔料と合成樹脂まで持つ会社です。
| 項目 | 数字(出典・基準日) |
|---|---|
| 売上高 | 1兆522億円(2025年12月期。前期比▲1.8%) |
| 営業利益 | 522億円(同。前期比+17.2%) |
| 経常利益 | 443億円(同。前期比+16.7%) |
| 親会社株主に帰属する当期純利益 | 324億円(同。前期比+51.8%) |
| 売上高営業利益率 | 5.0% |
| 自己資本比率 | **37.0%**(2025年12月31日現在) |
| 資本金 | 966億円 |
| 従業員数 | 連結20,884名/単体3,880名(2025年12月31日現在) |
| グループ会社数 | 163社(国内22社・海外141社)(同) |
| 本社 | 東京都中央区日本橋 |
| 創業/設立 | 1908年2月15日/1937年3月15日 |
就活生が押さえるべき性格は3つです。
- **極端にグローバル**:グループ163社のうち**141社が海外**。連結20,884名に対し単体は3,880名で、社員の8割以上は海外・国内グループ会社にいます。M&Aで世界に広げてきた会社です
- **自己資本比率37.0%はこのシリーズで最も低い**(→化学メーカー大手10社の違い)。買収で大きくなった会社の特徴で、借入が多い。信越化学の78.7%(→信越化学工業の企業研究)と比べると対照的です
- **決算期は12月**。3月期の他社と数字を並べるときは期がずれます
事業の中身|3セグメントを売上と利益で見る

| セグメント | 主な製品 | 売上高 | セグメント利益 |
|---|---|---|---|
| パッケージング&グラフィック | グラビアインキ、オフセットインキ、新聞インキ、ジェットインキ、ポリスチレン | 5,497億円 | 311億円 |
| ファンクショナルプロダクツ | アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、PPSコンパウンド、工業用テープ | 2,868億円 | 231億円 |
| カラー&ディスプレイ | 有機顔料、ヘルスケア食品 | 2,152億円 | 50億円 |
| 合計(3事業の計592億円から全社費用72億円を引く) | 1兆522億円 | 営業利益522億円 |
※ 出典:2025年12月期 決算短信。売上は外部顧客への売上高。セグメント利益は営業利益ベース。
読み方のポイント:
- **インキが売上の52%、利益の53%**。ここが会社の柱です。ただし中身はグラビアインキ(食品などの軟包装向け)が中心で、新聞インキは一部です。**「紙の印刷が減る=DICが減る」ではない**、という点は理解しておいてください
- **カラー&ディスプレイは売上2,152億円に対し利益50億円**(2.3%)。有機顔料の市況が厳しく、ここが立て直しの焦点です
- **ファンクショナルプロダクツは利益率8.0%**(セグメント間を含む売上2,909億円に対し231億円)。エポキシ樹脂やPPSコンパウンドといった機能材料で、3つの中では収益性が高い
- **全社費用は72億円**と小さめです。カネカ(→カネカの企業研究)の392億円と比べると、事業部の外に持つ研究費が少ない設計だと分かります
3年で最終赤字から立ち直った

DICを見るときに知っておくべきなのが、**直近3年の動き**です。
| 年度 | 売上高 | 営業利益 | 純利益 |
|---|---|---|---|
| 2023年度 | 1兆387億円 | 179億円 | **▲399億円** |
| 2024年度 | 1兆711億円 | 445億円 | 213億円 |
| 2025年度 | 1兆522億円 | 522億円 | 324億円 |
- **2023年度は399億円の最終赤字**でした。そこから2年で営業利益は約3倍、純利益は324億円の黒字まで戻しています
- 売上はほぼ横ばい(1兆387億円→1兆522億円)。**売上を伸ばして直したのではなく、利益率を上げて直した**ということです。高付加価値品へのシフトとコスト管理が効いています
- 自己資本比率も32.7%(2024年度末)から37.0%(2025年度末)へ改善しています
**就活の面接では、この「立て直しの途中」という現在地が語れると強い**です。伸びている会社の話をする学生は多いですが、「立て直しをどう続けるか」に関心を示す学生は少ない(→化学メーカーの面接で聞かれること)。
化学業界の川(→化学業界とは)で言えば、DICはナフサクラッカーを持たず、**樹脂や顔料を作って加工品(インキ・テープ)まで届ける中流〜川下**の会社です。
工場と研究所|どこで働くか

国内は**本社・2支店・10工場・研究所・美術館**という構成です。
| 拠点 | 所在地 | |
|---|---|---|
| 本社 | 東京都中央区日本橋3-7-20 | |
| 大阪支店 | 大阪市中央区久太郎町/名古屋支店 | 名古屋市中区錦 |
| 東京工場 | 東京都板橋区坂下3-35-58(**登記上の本店**) | |
| 千葉工場 | 千葉県市原市八幡海岸通12 | |
| 鹿島工場 | 茨城県神栖市東深芝18 | |
| 埼玉工場 | 埼玉県北足立郡伊奈町小室4472-1 | |
| 館林工場 | 群馬県館林市大島町 | |
| 北陸工場 | 石川県白山市湊町 | |
| 小牧工場 | 愛知県小牧市下末 | |
| 四日市工場 | 三重県四日市市霞1-5 | |
| 滋賀工場 | 滋賀県湖南市柑子袋373 | |
| 堺工場 | 大阪府高石市高砂1-3 | |
| 総合研究所 | 千葉県佐倉市坂戸631 | |
| DIC川村記念美術館 | 千葉県佐倉市坂戸631(総合研究所と同じ敷地) |
現役として補足すると、この配置の特徴は3つです。
1つは、**工場が10か所と多いこと**。単体3,880名という規模に対して工場が多いのは、インキ・顔料・樹脂と製品の種類が多く、それぞれ違う設備が要るためです。
2つめは、**関東に集中していること**。東京・千葉・茨城・埼玉・群馬で5工場。生活の拠点を関東に置く技術者が多くなります(→化学メーカーの選び方)。
3つめは、**研究所が1つで、美術館と同じ敷地にあること**。千葉県佐倉市の総合研究所とDIC川村記念美術館は同じ住所です。研究職の勤務地は基本的にここになります。
千葉工場と鹿島工場はコンビナート型です(→コンビナート地域で働くという選択)。
職種・初任給|募集要項を読む
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 技術系の職種 | 基礎・開発研究、応用・改良研究、分析・物性解析・計算化学・データサイエンス、知的財産 など |
| 生産系の職種 | 生産技術、生産プロセス開発、生産システム開発、製造、品質保証 など |
| 事務系の職種 | 営業・マーケティング、購買・物流、総務・人事 など |
| 対象学科 | 全学部全学科 |
| 初任給 | 学部了 276,830円/修士了 301,830円/博士了 351,260円 |
| 賞与 | **年4回(4月・5月・10月・11月)** |
| 勤務時間 | 工場 8:30〜17:00/総合研究所・本社・支店 8:45〜17:15(休憩60分) |
| 休日 | **年間休日126日**(2026年度)、年次有給休暇 初年度13日・次年度14日・最高20日 |
| 勤務地 | 東京、千葉、埼玉、茨城、大阪、愛知、石川、三重、群馬、滋賀 |
| 諸手当 | 住宅手当、家族手当、通勤手当、時間外手当 など |
読み方:
- **賞与が年4回**というのは、このシリーズで唯一です。年2回(6月・12月)の会社がほとんどの中で、4月・5月・10月・11月に分けて支給されます。手取りの入り方が変わるので、生活設計をするときに知っておくとよい点です
- **年間休日126日はシリーズ最多**(→化学メーカー大手10社の違い)。積水化学の125日(→積水化学工業の企業研究)を上回ります
- **技術系と生産系が別の職種として立っている**のは分かりやすい設計です。研究をやりたいのか、工場で設備と向き合いたいのかで入口が分かれます(→化学メーカーの職種図鑑、→生産技術エンジニアの仕事内容)
- 初任給は修士了301,830円。全産業平均(大学卒26.2万円、→化学メーカーの初任給と年収カーブ)を上回りますが、シリーズの中では中位から下です(→化学メーカー大手10社の違い)
- **対象学科が「全学部全学科」**。技術系でも学科を限定していない点は珍しい書き方です
公開資料の読み方|この会社を自分で追いかけるには
| 資料 | 見るところ |
|---|---|
| 決算短信・決算説明資料(IR) | カラー&ディスプレイ(顔料)の利益が戻るか。自己資本比率が改善し続けるか |
| DICレポート(統合報告書) | 海外141社をどう束ねるか。事業ポートフォリオの入れ替え方針 |
| 会社概要の「業績等の推移」 | 3年分の売上・営業利益・経常利益・純利益が並んでいます。この記事の図2はここから作りました |
面接では「2023年度の最終赤字から2年で立て直しましたね」と言えると、資料を読んだ学生だと伝わります。そのうえで「顔料事業をどうするか」に触れられると、事業を分けて見ていることが伝わります(→化学メーカーの面接で聞かれること)。
どんな人に向くか
- **海外と関わりたい人**:グループ163社のうち141社が海外。連結2万人のうち単体は3,880名です。海外グループ会社との仕事が日常になります
- **製品の種類の多さを楽しめる人**:インキ、顔料、樹脂、テープ、PPSコンパウンド、ヘルスケア食品。1つを深く掘るより、幅を持ちたい人に合います
- **関東で働きたい人**:10工場のうち5つが関東、研究所も千葉です(→化学メーカーの選び方)
志望動機の③会社の層(→化学メーカーの志望動機の書き方)では、「立て直しの途中にある、極端にグローバルなインキ・顔料・樹脂の会社」という現在地を踏まえて語ると通りやすくなります。
この記事の使い方と注意
- 数字は2025年12月期決算と、執筆時点の募集要項に基づきます(最終更新:2026年8月)
- **この会社は12月決算**なので、3月期の他社と単純比較はできません
- 国内の印刷インキ事業はDICグラフィックス(株)が担っており、本記事の拠点一覧はDIC本体のものです
- 就職難易度・採用大学・口コミは扱いません。一次資料と現場の感覚だけを書いています
DICは1908年創業の旧・大日本インキ化学工業で、インキ・有機顔料・合成樹脂の3本柱を持ちます。売上1兆522億円の52%がインキ事業。グループ163社のうち141社が海外という極端にグローバルな会社で、2023年度の最終赤字から2年で立て直しました。国内10工場、研究所は千葉・佐倉。10社の比較は化学メーカー大手10社の違いへ。
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