クレハの決算は、読み方の練習になります。
5つの事業は、すべて黒字でした。合計で145億円の営業利益。ところが連結では186億円の営業損失です。差の331億円は、どのセグメントにも配分されない調整額で、その中心が減損損失365億円です。
もう1つ意外なのは、利益トップが家庭用ラップ(クレラップ)を含む樹脂製品事業だということ。売上367億円で営業利益69億円、利益率は約19%。BtoCの製品が、この会社でいちばん稼いでいます。
私は化学メーカーの生産技術者として12年働いています。この記事では決算短信だけをもとに、「何で稼ぎ、どこで働くのか」を整理します。難易度や口コミは扱いません。
化学業界そのものが曖昧な人は先に「化学業界とは」(→化学業界とは)へ。29社の比較は→化学メーカー大手29社の違いへ。
一言でいうと|いわきの1拠点から生まれる会社
クレハの設立は1944年6月21日。旧社名は呉羽化学工業です。福島県いわき市のいわき事業所(敷地112万m²)が、グループのマザー工場になっています。
作っているものは幅広い。PPS樹脂、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、PGA樹脂、炭素繊維、農薬、慢性腎不全用剤、そして家庭用ラップ。
| 項目 | 数字(出典・基準日) |
|---|---|
| 売上収益 | 1,617億円(2026年3月期。前期比▲0.2%) |
| 営業損失 | ▲186億円(同。前期は+94億円) |
| 親会社の所有者に帰属する当期損失 | ▲107億円(同。前期は+78億円) |
| 資本金 | 181億円 |
| 従業員数 | 連結3,941名/単体1,631名(2026年3月31日現在) |
| 本社 | 東京都中央区 |
| 設立 | 1944年6月21日 |
就活生が押さえるべき性格は3つです。
- 当期は減損で赤字:営業損失186億円ですが、5つの事業はすべて黒字です。次の章で詳しく見ます
- 製品の幅が広い割に、規模は中堅:売上1,617億円、連結3,941名。1人あたりが担う範囲は広い会社です
- いわきへの一極集中:本社は東京ですが、生産と研究の中心は福島県いわき市です
事業の中身|5セグメントを売上と利益で見る

| セグメント | 主な製品 | 売上収益 | 営業利益 | 利益率 |
|---|---|---|---|---|
| 機能製品 | PPS樹脂、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、PGA(ポリグリコール酸)樹脂加工品、炭素繊維、球状活性炭 | 613億円 | 21億円 | 3.4% |
| 樹脂製品 | 家庭用ラップ、流し台用水切り袋、食品保存容器、調理シート、フッ化ビニリデン釣糸、塩化ビニリデンフィルム、自動充填結紮機 | 367億円 | 69億円 | 18.7% |
| 化学製品 | 農業・園芸用殺菌剤、慢性腎不全用剤、か性ソーダ、塩酸、モノクロルベンゼンなど | 295億円 | 14億円 | 4.5% |
| その他関連 | 産業廃棄物処理、理化学分析・測定、運送・倉庫、医療サービス | 182億円 | 26億円 | 10.4% |
| 建設関連 | 土木・建築工事の施工請負、工事監理 | 160億円 | 15億円 | 6.7% |
| 5事業の計 | 1,617億円 | 145億円 | — | |
| 連結(調整額▲331億円。うち減損損失▲365億円) | 1,617億円 | ▲186億円 | — |
※ 出典:2026年3月期 決算短信。売上は外部顧客への売上収益。利益率はセグメント間を含む売上に対する比率。
読み方のポイント:
- 利益トップは樹脂製品の69億円。家庭用ラップ(クレラップ)を含む事業で、利益率18.7%。BtoCブランドを持つことの強さがここに出ています
- 機能製品は売上613億円で利益21億円(3.4%)。PPS樹脂やPVDFといった高機能材料ですが、リチウムイオン電池用バインダー向けのPVDFが苦戦しています。中国子会社ではPVDF生産設備の増強工事を中止しています
- PGA(ポリグリコール酸)樹脂加工品は伸びています。シェールオイル・ガスの掘削に使う分解性の材料で、使用後に自然に分解します
- 建設関連と「その他関連」を持つのも特徴。土木・建築工事、産業廃棄物処理、医療サービスまで。いわき事業所を支える機能が事業になった形です
全事業が黒字なのに、なぜ連結は赤字なのか

| 段階 | 金額 |
|---|---|
| 5つの事業の営業利益の合計 | +145億円 |
| 調整額(うち減損損失▲365億円) | ▲331億円 |
| 連結の営業損失 | ▲186億円 |
- 減損損失365億円は、どのセグメントにも配分されず調整額に入っています。決算短信の注記では、その他の費用373億円のうち減損損失が365億円です。調整額の合計(▲331億円)が減損より小さいのは、ほかにプラスの調整項目があるためです
- 減損とは、設備の将来の稼ぎの見込みが下がったときに帳簿価値を切り下げる会計処理です。現金が出ていくわけではありません。詳しくは→減損とは何かで説明しています
- 同じ構図はクレハだけではありません。当期は帝人(→帝人の企業研究)が889億円、三菱ガス化学(→三菱ガス化学の企業研究)が784億円の減損を計上しています。電池材料(クレハ)、高機能繊維(帝人)、メタノール(三菱ガス化学)と、各社が不振事業の見直しを同時に進めたのが2026年3月期でした
就活生への含意は1つ。 「赤字=危ない会社」と短絡しないこと。どのセグメントが赤字なのか、それとも全部黒字で減損だけなのかを見分けられると、企業研究の質が変わります(→化学メーカーの面接で聞かれること)。
化学業界の川(→化学業界とは)で言えば、クレハはナフサクラッカーを持たず、自社の樹脂を作って最終製品(ラップ)まで届ける会社です。川上から川下まで自社で通しているのが特徴です。
工場と研究所|どこで働くか

| 拠点 | 所在地 |
|---|---|
| 東京本社 | 東京都中央区 |
| いわき事業所 | 福島県いわき市 |
| 中央研究所 | 福島県いわき市(いわき事業所と同じ住所) |
| 樹脂加工事業所 | 茨城県小美玉市 |
| 樹脂加工研究所 | 茨城県小美玉市 |
| 樹脂加工事業所 | 兵庫県丹波市 |
| 東京研究所 | 東京都江東区 |
| 営業所 | 大阪、仙台、福岡 |
現役として補足すると、この会社の拠点はきわめてシンプルです。
- いわき事業所(福島県いわき市)が中核。敷地112万m²で、機能樹脂・炭素繊維・リチウムイオン電池部材・食品包装材を作っています。中央研究所も同じ住所にあります
- 樹脂加工は茨城(小美玉)と兵庫(丹波)
- 研究は、いわきの中央研究所、小美玉の樹脂加工研究所、東京・新木場の東京研究所の3か所
技術系で入ると、いわき勤務の可能性が高いと考えておいてください。いわき市は福島県の太平洋側で、東京から特急で約2時間半です(→化学メーカーの選び方)。
生産と研究が同じ敷地にあるというのは、作ったものをすぐ試せるという意味で研究職にも生産技術職にも意味があります(→生産技術エンジニアの仕事内容、→院卒で研究開発職に就く)。
職種と働く場所|募集の見方
※ 参考として、平均年間給与は有価証券報告書(2026年06月22日提出、EDINET S100YFHO)の「従業員の状況」によると7,418,000円(平均年齢43.6歳・平均勤続19.8年・単体1,631名、2026年3月31日現在)。単体の全従業員の平均で、賞与・基準外賃金を含む。新卒の初任給とは別の数字。29社の並びは→化学メーカー29社の平均年収ランキングへ。
クレハの新卒採用は、企画開発職系(総合職)と実務推進職系(一般職)に分かれています。技術系の勤務地は、いわき事業所(福島県いわき市)または樹脂加工事業所(茨城県小美玉市)が中心で、将来的な転勤の可能性があると案内されています。
初任給などの条件は、年度ごとに採用サイトで更新されます。 本記事では公表値の引用を控えます。応募を検討する際は、必ず最新の募集要項で確認してください。
読み方として押さえておくべきことを3つ書きます。
- 勤務地が最初から絞られているのは、この会社の特徴です。全国転勤が前提の会社(→帝人の企業研究)とは設計が違います。いわきで腰を据えたい人には向きます(→化学メーカーの選び方)
- 製品の幅が広いので、配属先で仕事の中身が大きく変わります。高機能樹脂、農薬、医薬、食品包装材。志望時にどの領域に関心があるかを整理しておくと、面接で話せます(→化学メーカーの志望動機の書き方)
- 連結3,941名・単体1,631名という規模です。大手化学(数万人規模)とは、1人が担う範囲がかなり違います
公開資料の読み方|この会社を自分で追いかけるには
| 資料 | 見るところ |
|---|---|
| 決算短信のセグメント注記 | 調整額に何が入っているか。当期は減損損失365億円がここに入っています |
| 決算短信・決算説明資料(IR) | 機能製品(PVDF・PPS・PGA)の利益が戻るか。樹脂製品の利益率が続くか |
| 中期経営計画(IR) | 電池材料をどう立て直すか。PGAをどこまで伸ばすか |
面接では「5事業はすべて黒字で、赤字は減損によるものですね」と言えると、注記まで読んだ学生だと伝わります(→化学メーカーの面接で聞かれること)。
どんな人に向くか
- 製品の幅を楽しめる人:高機能樹脂、炭素繊維、農薬、医薬、家庭用ラップ。1つの会社でこれだけ違うものを扱います
- いわきで腰を据えたい人:生産と研究の中心が1か所にあります。転勤の幅は狭いほうです
- BtoCとBtoBの両方に触れたい人:クレラップという消費者向けブランドと、電池材料というBtoBの両方があります
志望動機の③会社の層(→化学メーカーの志望動機の書き方)では、「いわきの1拠点から、樹脂も農薬もラップも生み出している会社」という理解を軸に語ると通りやすくなります。
この記事の使い方と注意
- 数字は2026年3月期決算に基づきます(最終更新:2026年8月)。従業員数は2026年3月31日現在の公表値です
- 当期は減損損失365億円により連結が営業赤字です。5つの事業セグメントはいずれも黒字である点と合わせて読んでください
- 初任給などの採用条件は本記事では扱っていません。 年度ごとに更新されるため、公式の募集要項で確認してください
- 就職難易度・採用大学・口コミは扱いません。決算短信・有価証券報告書と現場の感覚だけを書いています
クレハは1944年設立、福島県いわき市の1拠点を中核に、高機能樹脂から農薬・医薬・家庭用ラップまで作る会社です。2026年3月期は5事業すべてが黒字で合計145億円でしたが、減損365億円により連結は186億円の営業損失。利益トップは家庭用ラップを含む樹脂製品事業です。29社の比較は化学メーカー大手29社の違いへ。
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