三洋化成工業の決算を開くと、数字の向きが噛み合っていません。**売上高は10.1%減って1,278億円。ところが営業利益は18.6%増えて100億円**。売上が144億円も落ちたのに、利益は16億円増えている。
理由は**高吸水性樹脂(紙おむつの吸水材)の事業から撤退した**からです。売っていたものをやめたので売上は減り、そのぶん赤字も消えたので利益は増えた。**「売上が減った」が悪いニュースとは限らない**、という決算です。
私は化学メーカーの生産技術者として12年働いています。この記事では決算短信と募集要項という一次資料だけを使って、「何で稼ぎ、どこで働くのか」を整理します。難易度や口コミは扱いません。
化学業界そのものが曖昧な人は先に「化学業界とは」(→化学業界とは)へ。29社の比較は→化学メーカー大手29社の違いへ。
一言でいうと|「はたらき」を売る界面活性剤の会社
三洋化成工業は1949年(昭和24年)創立、京都市東山区に本社があります。**創業から一貫して界面活性剤を軸にしてきた会社**です。
会社自身は自社の製品を「**パフォーマンス・ケミカルス**」と呼んでいます。採用サイトの説明が分かりやすいので、そのまま趣旨を借りると——**何でできているかではなく、「どんなはたらきをするか」が問われる化学品**、という意味です。
これは化学メーカーの中でも位置づけがはっきりしています。
- ナフサを分解して基礎原料を大量に作る会社(→三菱ケミカルGの企業研究、→三井化学の企業研究)ではない
- 素材そのものを売る会社(→東レの企業研究の炭素繊維、→信越化学工業の企業研究のシリコンウエハ)でもない
- **買ってきた原料を組み立てて、「泡立つ」「くっつく」「静電気を逃がす」「水を吸う」といったはたらきを持つ薬剤にして、少量を高く売る**
作っているものを並べると、洗剤の界面活性剤、自動車シート用のウレタンフォーム原料、潤滑油添加剤、プラスチックの永久帯電防止剤、炭素繊維用の薬剤、コピー機のトナーバインダー、アルミ電解コンデンサ用の電解液、廃水処理用の高分子凝集剤。**バラバラに見えますが、すべて「他社の製品に少量入って性能を決める薬剤」です。**
就活生が押さえるべき性格は3つです。
- **規模はこのシリーズで最小**:売上1,278億円、連結従業員1,626名。売上3兆7,040億円の三菱ケミカルグループ(→三菱ケミカルGの企業研究)とは29倍の差があります(→化学メーカー大手29社の違い)
- **財務はこのシリーズで最も堅い**:自己資本比率81.4%。信越化学工業の78.7%(→信越化学工業の企業研究)を上回り、29社で最高です
- **BtoBのさらに奥**:最終製品に社名は出ません。志望動機で「御社の製品を使っています」は言いにくい会社です(→化学メーカーの志望動機の書き方)
決算を読む|減収なのに増益になった

| 項目 | 数字(出典・基準日) |
|---|---|
| 売上高 | 1,278億5千9百万円(2026年3月期。前期比▲10.1%) |
| 営業利益 | 100億7百万円(同。前期比+18.6%) |
| 経常利益 | 122億5千6百万円(同。前期比+26.7%) |
| 親会社株主に帰属する当期純利益 | 156億3千7百万円(同。前期比+276.6%) |
| 売上高営業利益率 | 7.8% |
| 自己資本比率 | **81.4%**(2026年3月31日現在) |
| 資本金 | 130億5千1百万円(同) |
| 従業員数 | 連結1,626名(同) |
| 本社 | 京都市東山区一橋野本町11-1 |
| 創立 | 1949年11月1日 |
**この決算は3か所で引っかかります。順に見てください。**
**1つめ:売上▲144億円なのに営業利益+16億円。**
決算短信は減収の理由を「高吸水性樹脂事業からの撤退ならびに中国安価製品の流入による競争激化」、増益の理由を「半導体分野の好調に加え、当該撤退による収益性改善やサプライチェーン全体の効率化」と書いています。**やめた事業が赤字だったので、やめると利益が増える**という構図です。
**2つめ:純利益156億円が経常利益122億円より大きい。**
普通は経常利益から税金を引くので純利益のほうが小さくなります。ここが逆転しているのは、連結子会社だったSDPグローバル株式会社を吸収合併した際に、**同社から引き継いだ税務上の繰越欠損金などで繰延税金資産を追加計上した**ためです。決算短信にそう書かれています。**会計上の一度きりの要因**なので、来期の予想は純利益90億円(▲42.4%)に戻ります。
**3つめ:自己資本比率81.4%。**
前期の76.8%から4.6ポイント上がりました。有利子負債がほとんどなく、投資有価証券を厚く持っている会社です。**29社で最高**(→化学メーカー大手29社の違い)。就活の観点では「潰れにくさ」より「**攻めにお金を使う会社ではない**」と読むほうが実態に近い。設備投資は年62億円で、売上の5%程度です。
5つのセグメント|利益の柱は石油・輸送機

セグメントの切り方が独特です。**製品別でも地域別でもなく、「どの産業に納めるか」で切っています。**
| セグメント | 主な製品 | 売上高 | セグメント利益 | 利益率 |
|---|---|---|---|---|
| 石油・輸送機 | ウレタンフォーム原料、潤滑油添加剤 | 483億円 | 56億円 | 11.6% |
| プラスチック・繊維 | 永久帯電防止剤、炭素繊維用薬剤 | 265億円 | 24億円 | 9.2% |
| 情報・電気電子 | トナーバインダー、コンデンサ用電解液 | 225億円 | 36億円 | **16.0%** |
| 生活・健康 | 洗剤用界面活性剤、医薬品原料 | 176億円 | ▲1億円 | ― |
| 環境・住設 | 高分子凝集剤、断熱材用ウレタン原料 | 129億円 | ▲1億円 | ― |
※ 全社費用13億6千万円(新規事業の研究開発費など)が別途引かれて、連結の営業利益100億円になります。
読み方のポイント:
- **利益の柱は石油・輸送機の56億円**。全社の営業利益100億円の56%を占めます。中身は自動車シートのウレタンフォーム原料と潤滑油添加剤。ただし短信は「ポリウレタンフォーム用原料が海外安価品の攻勢により…低調」とも書いており、**利益が増えたのは数量ではなくコスト側の改善**です
- **利益率がいちばん高いのは情報・電気電子の16.0%**。売上は3番目ですが、半導体関連材料とアルミ電解コンデンサ用電解液が伸びて、利益は前期比42.0%増。**この会社の成長エンジンはここ**です
- **2つのセグメントが赤字**。生活・健康は高吸水性樹脂の撤退で売上が42.8%減り、営業損失1億6千7百万円。環境・住設も住設向けウレタン原料が海外安価品に押されて営業損失1億2千4百万円。**5事業のうち2つが赤字という状態は、まだ構造改革の途中**だと読んでください
- **「化学メーカーの利益率は数%が普通」の中で7.8%は中位**(→化学メーカー大手29社の違い)。突出はしていませんが、規模の小ささを考えると悪くない数字です
高吸水性樹脂からの撤退|日本触媒と正反対の選択
この記事でいちばん見てほしいのがここです。
**高吸水性樹脂(SAP=Super Absorbent Polymer)は、紙おむつの中で尿を吸ってゲルにする粉**です。アクリル酸を原料に作ります。三洋化成はこれを子会社のSDPグローバルで手がけていましたが、**2026年3月期に撤退し、同社を連結範囲から外して吸収合併しました。**
ここで思い出してほしいのが、同じシリーズの**日本触媒(→日本触媒の企業研究)**です。日本触媒はアクリル酸から高吸水性樹脂を作り、**それが売上の7割を占めるマテリアルズ事業の中核**になっています。
**同じ製品を、片方は柱にし、片方はやめた。**
決算短信から読み取れる理由は「中国安価製品の流入による競争激化」です。紙おむつの吸水材は世界的に供給過剰で、**規模で勝てないなら撤退したほうが利益が残る**。三洋化成の規模(売上1,278億円)では、この土俵で戦い続けるより、利益率16.0%の情報・電気電子に資源を寄せるほうが合理的だった、という判断です。
数字でも裏が取れます。撤退した生活・健康セグメントは、**前期は売上307億円で営業利益1億7千6百万円**(利益率0.6%)。撤退後は売上176億円で営業損失1億6千7百万円。**売上の4割を占めていた事業が、ほとんど利益を生んでいなかった**ことが分かります。
就活生への意味を3つ書きます。
- **「シェア世界◯位」と「儲かる」は別**です。同じ製品でも、会社の規模と原料の持ち方によって答えが変わる。**志望動機で製品を語るなら、その会社にとってその製品がどういう位置づけかまで見てください**(→化学メーカーの志望動機の書き方)
- **撤退は珍しくありません**。中国の増産で汎用品が採算割れするのは化学業界全体の流れで、石化を持つ6社が「石化のあとの柱」を探しているのと同じ話です(→化学メーカー大手29社の違い)
- **入る前に「いま伸ばしている事業はどこか」を確かめる**。この会社なら情報・電気電子です。撤退した事業の話をしても噛み合いません
職種・初任給|募集要項を読む
**全職種を「総合職」で募集**しています。技術系は3つに分かれます。
| 技術系の職種 | 主な学科 |
|---|---|
| 研究開発 | 化学系(有機・高分子・合成・化学工学・生化学)、薬学、バイオ、農学 |
| プロセス・設備エンジニア | 化学工学、機械工学、電気・電子、化学 |
| 製造・運転管理 | 化学、薬学、機械工学、電気・電子 |
| 項目 | 内容(2025年4月実績・2024年度実績) |
|---|---|
| 初任給 | 修士了 306,700円/学部卒・高専専攻科修了 274,700円/高専本科卒 244,000円 |
| 平均年間給与(有報・単体) | 8,220,000円(平均年齢42.9歳・平均勤続18.6年・単体1,267名、2026年3月31日現在) |
| 諸手当 | 通勤、時間外、家族、特別食事手当(勤務地による)、交替制勤務手当 |
| 昇給・賞与 | 昇給 年1回(4月)、賞与 年2回(6月・12月) |
| 勤務地 | 京都、東京、愛知、茨城、神奈川ほか |
| 年間休日 | **日勤128日/交替制勤務145日**(2024年度実績) |
| 平均残業時間 | **7.2時間/月**(2024年度実績) |
| 平均有給取得 | 13.0日(2024年度実績) |
| 新卒採用数 | 17名(2025年)/25名(2024年)/31名(2023年) |
| 平均勤続年数 | 18.3年(2024年度実績) |
※ 平均年間給与は有価証券報告書(2026年06月16日提出、EDINET S100YC0P)の「従業員の状況」による。単体の全従業員の平均で、賞与・基準外賃金を含む。新卒の初任給とは別の数字。29社の並びは→化学メーカー大手29社の違いへ。
現場の目線で4つ。
- **年間休日128日はこのシリーズで最多**(→化学メーカー大手29社の違い)。DIC・UBEの126日、積水化学の125日を上回ります。**交替制勤務は145日**で、これは8日につき3日休みという勤務表によるものです
- **平均残業7.2時間/月は相当に少ない**。月20〜40時間の会社が普通の中で、この数字は目を引きます。ただし**部署と時期で差が出る**のが実態なので、面接で「配属先の繁忙期」を聞いてください(→化学メーカーの面接で聞かれること)
- **初任給306,700円は29社の中では中位**。全産業平均(大学卒26.2万円、→化学メーカーの初任給と年収カーブ)は大きく上回ります。トクヤマ(→トクヤマの企業研究)やADEKA(→ADEKAの企業研究)と違い、**手当込みという注記はありません**
- **採用数が17名と少ない**。31名→25名→17名と3年で半減しています。規模が小さい会社なので当然ではありますが、**同期が十数人という環境をどう見るか**は考えておいたほうがいい。なお新卒離職者数は2024年で0名、平均勤続18.3年です
**男性の育児休業取得が40名中37名**(2024年度実績)というのも、この規模の化学メーカーとしては高い数字です。
どこで働くか|京都に本社と研究所、工場は4つ

| 区分 | 拠点 |
|---|---|
| 本社 | 京都市東山区 |
| 研究所 | 本社研究所(京都市東山区)、桂研究所(京都市西京区) |
| 工場 | 名古屋工場(愛知県東海市)、衣浦工場(愛知県半田市)、鹿島工場(茨城県神栖市)、京都工場(京都市東山区) |
| 支社・営業所 | 東京支社、名古屋営業所、中国営業所(広島)、西日本営業所(福岡) |
**このシリーズでいちばん拠点が少ない会社のひとつ**です。工場は4つだけ、研究所は2つとも京都市内。
現場から3つ。
- **研究職なら、ほぼ京都**です。本社研究所と桂研究所の両方が京都市内にあります。**化学メーカーで「研究=京都」と読める会社は多くありません**(→化学メーカーの選び方)
- **製造・設備なら、愛知か茨城**。名古屋工場(東海市)と衣浦工場(半田市)は愛知の臨海部、鹿島工場は茨城の鹿島臨海工業地帯です。鹿島には三菱ガス化学(→三菱ガス化学の企業研究)や信越化学(→信越化学工業の企業研究)の工場もあります
- **転勤の幅は読みやすい**。拠点が京都・愛知・茨城・東京にほぼ限られるので、生活設計は立てやすい部類です。逆に言えば**「行き先の選択肢が少ない」**とも言えます
一次資料はここにある
自分で確かめるための場所を書いておきます。**この記事の数字はすべてここから取りました。**
| 資料 | 見どころ |
|---|---|
| 決算短信(IR>決算短信・決算説明会資料) | 添付資料p.2の「セグメント別の状況」。5事業それぞれの増減理由が文章で書いてある |
| 決算短信 添付資料p.3 | 「連結業績推移とその特徴」。減収増益の理由が箇条書きで整理されている。**まずここを読むと早い** |
| 決算短信 p.18〜19 | セグメント情報の注記。前期と当期の数字が並ぶので、どこが動いたか分かる |
| 決算説明資料 | アナリスト向け。63ページあり、事業ごとの戦略が図で説明されている |
| 会社概要/国内拠点 | 工場・研究所の住所。配属先を具体的に想像するのに使う |
| 採用サイト 新卒採用募集要項 | 初任給・年間休日・平均残業・採用数・離職者数まで公開されている。**開示が細かい部類** |
**決算短信のPDFは、URLの規則が分かりやすい会社です。**「tanshin26_4_4.pdf」の26が2026年3月期、最初の4が第4四半期(通期)を指します。年度を差し替えれば過去分にも当たれます。
向いている人・確かめておくこと
決算と募集要項から読み取れる範囲で書きます。**難易度や口コミは扱いません。**
向いていそうな人:
- **少量で効く薬剤の設計に興味がある人**。この会社の製品は「他社の製品に数%入って性能を決めるもの」です。大きな装置で大量に作る仕事とは別の面白さがあります(→化学メーカーの職種図鑑)
- **京都で研究したい人**。研究所が2つとも京都市内という化学メーカーは限られます
- **同期が十数人の環境で構わない人**。採用17名(2025年)。手厚く見てもらえる反面、比較対象が少ない環境です
確かめておくこと:
- **情報・電気電子をどこまで伸ばすのか**。利益率16.0%でいちばん伸びているセグメントですが、売上は225億円と小さい。ここが全社を引っ張れる規模になるのか、会社説明会で聞く価値があります
- **赤字の2セグメントをどうするのか**。生活・健康と環境・住設が営業損失です。高吸水性樹脂に続く撤退や再編があるのか。**自分が行きたい事業がそこなら、なおさら聞いてください**
- **自己資本比率81.4%をどう使うのか**。財務に余裕がある会社が、それを設備投資に回すのか、M&Aに使うのか、配当で返すのか。中期経営計画に書かれているはずです
- **交替制勤務になる可能性**。製造・運転管理で入ると交替制勤務があります。年間休日145日と多い一方、生活リズムは日勤と別物です(→コンビナート地域で働くという選択、→プラントオペレーターの仕事内容)
数字だけを見て決めないでください。**この会社の数字は「構造改革の途中」を映しています。**1期の決算ではなく、3期並べて向きを見るのが正しい読み方です(→化学メーカーの選び方)。
三洋化成工業は1949年創立、京都に本社を置く界面活性剤の会社です。2026年3月期は売上1,278億円で10.1%の減収ながら、営業利益は100億円で18.6%の増益。高吸水性樹脂事業からの撤退で、赤字事業が消えたためです。日本触媒が同じ製品を柱にしているのとは正反対の選択でした。自己資本比率81.4%と年間休日128日はシリーズ最高。29社の比較は化学メーカー大手29社の違いへ。
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