動画解説はこちら|YouTube

東洋紡の企業研究|フィルムで立て直した会社を現役化学技術者が解説【2026年版】

東洋紡は「紡」の字が入っていますが、いま稼いでいるのは繊維ではありません。利益の6割はフィルム——食品を包む包装用フィルムと、工業用フィルムです。

そして2026年3月期は、営業利益が67.6%増、純利益は457.8%増という急回復の年でした。フィルムの利益が69億円から166億円へ、2.4倍になったことが効いています。

私は化学メーカーの生産技術者として12年働いています。この記事では決算短信と募集要項だけをもとに、「何で稼ぎ、どこで働くのか」を整理します。難易度や口コミは扱いません。

化学業界そのものが曖昧な人は先に「化学業界とは」(→化学業界とは)へ。29社の比較は→化学メーカー大手29社の違いへ。

一言でいうと|紡績から始まり、いまはフィルムの会社

東洋紡のルーツは1882年(明治15年)の大阪紡績です。設立は1914年6月26日。日本の紡績業を代表する会社でした。

いまはフィルム/ライフサイエンス/環境・機能材/機能繊維・商事/不動産の5セグメント。エアバッグ用基布、診断薬用酵素、透析膜、エンジニアリングプラスチックまで持ちます。

項目数字(出典・基準日)
売上高4,216億円(2026年3月期。前期比▲0.1%)
営業利益279億円(同。前期比+67.6%)
経常利益229億円(同。前期比+116.0%)
親会社株主に帰属する当期純利益112億円(同。前期比+457.8%)
売上高営業利益率6.6%
自己資本比率34.0%(2026年3月31日現在)
資本金517億円(2026年3月31日現在)
従業員数連結9,398名/単独2,885名(同)
本社大阪市北区梅田(大阪梅田ツインタワーズ・サウス)
創業/設立1882年/1914年6月26日

就活生が押さえるべき性格は3つです。

  • 急回復の年だった:営業利益+67.6%、経常利益+116.0%、純利益+457.8%。前期が低かった反動も含みますが、立て直しが数字に出た年です
  • 自己資本比率34.0%は化学大手の中では低い水準(→化学メーカー大手29社の違い)。DIC(37.0%)を下回ります。設備投資と借入が重い構造です
  • 営業利益279億円に対し経常利益229億円。営業利益より経常利益が小さいのは、支払利息などの負担があるためです。UBE(→UBEの企業研究)とは逆の形です

事業の中身|5セグメントを売上と利益で見る

利益の6割はフィルム
セグメント主な製品売上高セグメント利益
フィルム包装用フィルム、工業用フィルム1,752億円166億円
環境・機能材エンジニアリングプラスチック、工業用接着剤、光機能材料、アクア膜、機能フィルター、スーパー繊維、不織布1,101億円97億円
機能繊維・商事エアバッグ用基布、機能衣料、アパレル製品、衣料テキスタイル896億円13億円
ライフサイエンス診断薬用酵素などのバイオ製品、医薬品、医用膜、医療機器345億円1億円
不動産不動産の賃貸・管理45億円20億円
その他77億円11億円
合計(全社費用など▲29億円の調整を含む)4,216億円営業利益279億円

※ 出典:2026年3月期 決算短信。売上は外部顧客への売上高。セグメント利益は営業利益ベース。

読み方のポイント:

  • フィルムの利益166億円が、全社279億円の6割。売上でも4割を占める、名実ともに主力です
  • 不動産が売上45億円で利益20億円(利益率44%)。大阪など都市部の遊休地を賃貸に回している事業で、少ない売上で大きく稼ぐ構造です。化学メーカーの決算でここまで不動産が効いている例は珍しい
  • ライフサイエンスは20億円から1億円に落ちました。診断薬用酵素は市況と顧客の在庫調整の影響を受けやすい事業です
  • 機能繊維・商事は売上896億円で利益13億円(1.5%)。衣料関連は薄利です。ただしエアバッグ用基布はダイセル(→ダイセルの企業研究)のインフレータと組み合わさって使われる部材で、技術的には高度です

何が伸びて、何が落ちたか

フィルムが2.4倍になった
セグメント前期(2025年3月期)当期(2026年3月期)
フィルム69億円166億円
環境・機能材80億円97億円
ライフサイエンス20億円1億円
機能繊維・商事5億円13億円
不動産18億円20億円
(全社)167億円279億円
  • フィルムが2.4倍になったことが、全社の回復をそのまま説明しています。包装用フィルムは食品パッケージ向けで、原料価格と売価のバランスが効く事業です
  • ライフサイエンスは20分の1に。ただし売上は345億円でほぼ横ばい(前期343億円)なので、売れなくなったのではなく、利益が出なくなったということです
  • 環境・機能材は80億→97億と着実に伸びています

1つの事業の振れ幅が、会社全体の業績を決めてしまう。 これがいまの東洋紡の構造です。就活生としては、「どのセグメントに配属されるか」で見える景色が大きく変わる会社だと理解しておくべきです(→化学メーカーの選び方)。

化学業界の川(→化学業界とは)で言えば、東洋紡はナフサクラッカーを持たず、樹脂を買ってフィルム・繊維・膜に加工する川下の会社です。東レ(→東レの企業研究)と出自も立ち位置もよく似ています。

工場と研究所|どこで働くか

工場は敦賀と岩国が中心
拠点所在地
本社大阪市北区
東京支社東京都中央区
名古屋支社名古屋市西区
九州営業所福岡市博多区
敦賀事業所(第一・第二、ポリマー工場、フイルム工場、バイオ工場、環境・ファイバー工場)福井県敦賀市
岩国事業所(機能膜工場、樹脂・ケミカル工場、環境・ファイバー工場)山口県岩国市
犬山工場愛知県犬山市
庄川工場富山県
宇都宮工場栃木県
高砂工場兵庫県高砂市
大津医薬工場滋賀県大津市
大館透析膜工場秋田県大館市
総合研究所滋賀県大津市

現役として補足すると、この会社の拠点配置には特徴が2つあります。

1つは、敦賀(福井)と岩国(山口)に工場が集まっていること。どちらも「事業所」の中に複数の工場が入る形で、フィルム・バイオ・ポリマー・機能膜などが並んでいます。技術系で入ると、この2か所のどちらかになる可能性が高い(→化学メーカーの選び方)。

もう1つは、研究所が滋賀県大津市の1か所に集約されていること。研究職の勤務地は原則ここです。大阪本社から近く、京阪神圏で暮らせます(→院卒で研究開発職に就く)。

岩国は帝人(→帝人の企業研究)の岩国事業所とも同じ地域です。この一帯には化学工場が集まっています(→コンビナート地域で働くという選択)。

職種・初任給|募集要項を読む

項目内容
技術系総合職素材・プロセス、ライフサイエンス、プラントエンジニア
事務系総合職営業・スタッフ、システム企画開発
対象学科機械、電気・電子、化学工学、物質・材料、高分子、有機化学、生命・薬学、情報 など
初任給(2025年4月入社者実績)博士了 307,600円/修士了 280,000円/学部卒 260,000円/高専専攻科卒 260,000円/高専本科卒 236,200円
平均年間給与(有報・単体)6,853,737円(平均年齢40.1歳・平均勤続14.2年・単体2,885名、2026年3月31日現在)
賞与年2回(6月・12月)
休日年間休日123日、完全週休2日制
勤務地本社(大阪)、支社(東京・愛知・広島・福岡)、研究所(滋賀)、工場(秋田・栃木・富山・福井・愛知・兵庫・山口)
採用実績(2025年度)推薦応募で62名(男性39名・女性23名)

※ 平均年間給与は有価証券報告書(2026年06月23日提出、EDINET S100YGRC)の「従業員の状況」による。単体の全従業員の平均で、賞与・基準外賃金を含む。新卒の初任給とは別の数字。29社の並びは→化学メーカー29社の平均年収ランキングへ。

読み方:

  • 技術系が「素材・プロセス」「ライフサイエンス」「プラントエンジニア」の3つに分かれているのは分かりやすい設計です。バイオ・薬学系の入口が独立しているのは、診断薬用酵素や医用膜を持つ会社ならではです(→化学メーカーの職種図鑑)
  • 初任給は修士了280,000円。全産業平均(大学卒26.2万円、→化学メーカーの初任給と年収カーブ)は上回りますが、29社の中では下位です(→化学メーカーの初任給の読み方)
  • 推薦応募で62名という採用実績が公表されています。推薦ルートの比重が大きい会社なので、研究室の推薦枠を確認しておく価値があります(→院卒で研究開発職に就く)
  • 年間休日123日は平均的です

公開資料の読み方|この会社を自分で追いかけるには

資料見るところ
決算短信・決算説明資料(IR)フィルムの利益が続くか。ライフサイエンスが戻るか。自己資本比率が改善するか
中期経営計画(IR)どの事業に投資し、どれを縮めるか
採用サイトの募集要項職種の3分類と、工場の所在地(7県)

面接では「フィルムの利益が69億から166億に伸びて、全社の回復を説明していますね」と言えると、決算を読んだ学生だと伝わります(→化学メーカーの面接で聞かれること)。

どんな人に向くか

  • フィルムの成形をやりたい人:包装用・工業用フィルムがこの会社の芯です。押出・延伸・コーティングといった加工技術が中心になります
  • バイオ・医療に関心がある人:診断薬用酵素、透析膜、医用膜。化学メーカーの中では医療系の入口が広いほうです
  • 関西・北陸で働きたい人:本社は大阪、研究所は滋賀、主力工場は福井(敦賀)です(→化学メーカーの選び方)

志望動機の③会社の層(→化学メーカーの志望動機の書き方)では、「紡績から始まり、いまはフィルムで稼ぐ会社」という現在地を踏まえて語ると通りやすくなります。

この記事の使い方と注意

  • 数字は2026年3月期決算と、執筆時点の募集要項に基づきます(最終更新:2026年8月)。資本金・従業員数は2026年3月31日現在の値です
  • 当期は前期からの回復幅が大きい年です。純利益+457.8%という数字は、前期が低かったことの裏返しでもあります
  • 自己資本比率34.0%は化学大手の中では低い水準です
  • 就職難易度・採用大学・口コミは扱いません。決算短信・有価証券報告書・募集要項と現場の感覚だけを書いています

東洋紡は1882年に大阪紡績として始まり、いまはフィルムで稼ぐ会社です。売上4,216億円、営業利益279億円のうち166億円がフィルム。前期の69億円から2.4倍に伸び、全社の回復をそのまま説明しています。自己資本比率34.0%は化学大手の中では低い水準。工場は敦賀と岩国が中心。29社の比較は化学メーカー大手29社の違いへ。

化学プラントニュース―週報と事故速報をわかりやすく紹介するnoteマガジン PLANT NEWS ON NOTE 化学プラントニュース 化学・石油プラントの重要ニュースを、毎週の週報と事故速報でお届けします。現場で押さえたい動きを、わかりやすく整理します。 noteで最新ニュースを読む