動画解説はこちら|YouTube

金属材料の基礎|炭素量が変えるもの、体心立方と面心立方、低温脆性はなぜ起きるか

※本記事の参考文献には、Amazonアソシエイトのリンク(アフィリエイト広告)を含みます。

困っている人
困っている人

材料選定の資料に「C量0.25%以下」とあるが、その根拠が分からない。

低温で使える材料と使えない材料の境目が、経験則でしか説明できない。

そんな悩みを解決します。

この記事の内容

C量が増えると硬く強く、脆くなる ── ここが全部の起点

体心立方(BCC)は低温脆性を示し、面心立方(FCC)は示さない

溶接性の指標炭素当量と、予熱の要否

シャルピー衝撃試験と遷移温度の読み方

圧力容器の材質選定、溶接施工要領の妥当性判断、低温設備の材料選び。ここが土台になります。

現場で、材料の知識はどこで要るか

場面何を判断するか
圧力容器・配管の材質選定使用温度・圧力・流体に耐えるか
溶接施工要領(WPS)の確認予熱・後熱の要否、溶接棒の選定
低温設備の設計最低使用温度に対する材料の可否
補修・改造の可否現材質に溶接してよいか
材料ミルシートの確認規格値を満たしているか
事故解析なぜそこが割れたか

「なぜこの材料なのか」を説明できないと、改造や補修で判断を誤ります。

現場で最も多いのは「代替材でいいか」という判断です。手持ちの材料で済ませたい、というとき。

その場で判断するには、材料の性質が何で決まるかを知っている必要があります。

炭素量が変えるもの ── すべての起点

C量が増えると

上がる:引張強さ・降伏点・硬さ・焼入れ性

下がる:伸び・絞り・靭性溶接性

硬く強くなるが、脆くなり、溶接しにくくなる。 トレードオフです。

なぜそうなるのか

炭素は鉄の中で何をしているか

炭素は鉄の結晶格子のすき間に入り込む(侵入型固溶)

→ 格子が歪む → 転位(すべり)が動きにくくなる

変形しにくい = 硬い・強い

→ しかし変形できない = 脆い

「変形できる」ことが靭性の本体です。金属が粘り強いのは、力を受けたときに塑性変形して吸収できるから。

転位が動けなくなると、変形せずにいきなり割れます。 これが脆性破壊。

炭素鋼の区分

区分C量用途溶接性
極低炭素鋼〜0.10%深絞り・ステンレスのL材良好
軟鋼(低炭素鋼)0.10〜0.30%圧力容器・配管・構造物良好
中炭素鋼0.30〜0.50%機械部品・軸やや劣る
硬鋼(高炭素鋼)0.50〜0.60%工具・ばね・レール不良
鋳鉄2%超鋳物・ベッド困難

圧力容器用鋼板(SB・SPV)はC量0.3%以下に規定されています。溶接するから。

JIS G 3118(SGV)、G 3115(SPV) などの規格を見ると、必ずC量の上限があります。

不純物 ── PとSは有害

元素由来影響
Si・Mn製鋼上必要(脱酸)強度向上。Mnは硫黄の害を軽減
P(リン)不純物低温脆性を助長/焼戻し脆化の原因
S(硫黄)不純物高温脆性(赤熱脆性)/MnSが割れの起点

PとSは0.03%以下に管理するのが一般的です。高品質材では0.01%以下。

ラメラテア(層状割れ)はMnSの介在物が原因です。板厚方向に引張力がかかると層状に剥がれる。

保安管理技術|材料と熱処理

結晶構造 ── 低温脆性の正体

構造略称特徴代表材料
体心立方BCC低温脆性を示す/すべり系が温度依存炭素鋼・フェライト系ステンレス・Cr-Mo鋼
面心立方FCC低温脆性を示さない/すべり系が多いオーステナイト系ステンレス・アルミ・銅・ニッケル
稠密六方HCPすべり系が少ない/加工性が悪いチタン・亜鉛・マグネシウム

なぜBCCだけ低温で脆くなるのか

すべり系の数と温度依存性

FCC:すべり系が12と多く、温度に依存しにくい

 → 低温でも塑性変形できる → 延性を保つ

BCC:すべり系はあるが、動かすのに必要な力が温度で急変する

 → 低温では転位が動かない → 変形せずに割れる

「低温で急に脆くなる」のがBCCの特徴です。ある温度を境に、破壊の様子が変わる。

これを遷移温度(DBTT:Ductile-Brittle Transition Temperature)と呼びます。

だからオーステナイト系は極低温で使える

材料結晶構造最低使用温度の目安
炭素鋼BCC−30℃程度
2.5%Ni鋼BCC−60℃
3.5%Ni鋼BCC−100℃
9%Ni鋼BCC(組織制御)−196℃(LNG用)
SUS304・316FCC−269℃(液体ヘリウム)
アルミ合金FCC極低温可
銅・銅合金FCC極低温可

9%Ni鋼はBCCなのに−196℃で使えるのは、Niの添加と熱処理で遷移温度を下げているからです。

Niは遷移温度を下げる最も有効な元素です。だからNi量で最低使用温度が決まります。

アルミ合金は低温で強度がむしろ上がるので、LNGタンクの内槽にも使われます。

磁性で見分けられる

実務での確認

磁石がつく → BCC(炭素鋼・フェライト系・マルテンサイト系)

磁石がつかない → FCC(オーステナイト系ステンレス

ただし加工したオーステナイト系は磁性を帯びることがあります(加工誘起マルテンサイト)。

曲げ加工した部分だけ磁石がつくのはこれ。材質の取り違えではありません。

SUS430(フェライト系)は磁性があります。 「ステンレス=非磁性」ではない。

ステンレス鋼の選び方MTが非磁性体に使えない理由

数値で確かめる ── シャルピー衝撃試験

試験の内容

ノッチ(切り欠き)を入れた試験片をハンマで打ち破る

吸収エネルギー[J]を測る

→ 温度を変えて測るとS字カーブになる

遷移温度曲線の読み方

温度域吸収エネルギー破面破壊の様子
高温側(上部棚)大きい繊維状(延性破面)大きく変形してから破断
遷移域急変する混合──
低温側(下部棚)小さい結晶状(脆性破面)ほとんど変形せず割れる

遷移温度を境に、吸収エネルギーが1桁変わります。

実際の値

材料遷移温度の目安上部棚エネルギー
普通の炭素鋼0〜20℃100〜200 J
圧力容器用鋼(TMCP材)−60℃以下200 J以上
SUS304なし(遷移しない)全温度域で高い

普通の炭素鋼の遷移温度が室温付近という点に注意してください。

冬の朝、−5℃で衝撃を与えると脆性破壊しうるということです。

だから圧力容器では、遷移温度の低い鋼(TMCP材・調質材)を使います。

規格での要求

典型的な要求(JIS・ASME)

最低使用温度における吸収エネルギーが27 J以上(3個の平均)

個々の値は20 J以上

→ この条件を満たす温度が最低使用温度になる

板厚が厚いほど遷移温度は高くなります。 拘束が強く、三軸応力状態になるから。

だから厚板ほど厳しい材料が要ります。

タイタニック号の事例

1912年の沈没は、氷山との衝突だけでなく鋼板の脆性破壊が被害を拡大したとされています。

当時の鋼の問題

硫黄・リンが多い(当時の製鋼技術の限界)

遷移温度が高かった(推定30℃前後)

海水温は−2℃

完全に脆性域で衝撃を受けた

同じ衝撃でも、延性域なら凹むだけ、脆性域なら裂ける。 これが致命的な差になりました。

第二次大戦のリバティ船の折損事故も、溶接構造+脆性破壊が原因でした。ここから破壊力学が発展します。

溶接性 ── 炭素当量で判断する

溶接は「急熱急冷」です。だから焼入れと同じことが起きます。

溶接部で起きること

溶接金属の周囲は1,500℃近くまで加熱される

→ 母材の熱で急速に冷える

マルテンサイトが生成する(硬く脆い)

低温割れのリスク

炭素当量(Ceq)

代表的な式(IIW)

Ceq = C + Mn/6 + (Cr+Mo+V)/5 + (Ni+Cu)/15

Ceq溶接性対応
0.40以下良好予熱不要
0.40〜0.50やや注意予熱推奨
0.50以上要注意予熱・後熱が必須

合金元素も炭素と同じ方向に働くので、まとめて「炭素相当」に換算します。

Cr-Mo鋼はCeqが高いので、必ず予熱・後熱を行います。

低温割れ(遅れ割れ)の3条件

3つそろって初めて起きる

① 拡散性水素(溶接棒の吸湿・大気の水分)

② 硬化組織(マルテンサイト)

③ 拘束応力(残留応力・外部拘束)

条件対策
水素低水素系溶接棒乾燥(300〜400℃で1時間)/後熱(水素を逃がす)
硬化組織予熱(冷却速度を落とす)/入熱の管理
拘束応力溶接順序の工夫/PWHT(応力除去焼なまし)

「溶接後すぐには検査しない」のはこのためです。割れは数時間〜数十時間かけて発生します。

24〜48時間後に非破壊検査するのが標準です。

設備管理と非破壊検査非破壊検査の使い分け

予熱の意味

予熱が効く2つの理由

① 冷却速度を落とす → マルテンサイトができにくい

② 水素の拡散を促す → 水素が抜けやすい

板厚が厚いほど予熱温度を上げます。 冷却速度が速いから。

後熱(PWHT)は残留応力の除去+組織の焼戻しが目的です。

高圧ガス設備では板厚に応じてPWHTが義務づけられます。

実務での失敗例

失敗例①:手持ちの材料で代替してしまう

よくある状況

SUS304の配管が必要だが、手元にSUS316しかない → これは問題ない(上位材)

SUS316が必要だが、SUS304しかない → ダメ(耐孔食性が足りない)

低温用鋼が必要だが、普通の炭素鋼しかない → 絶対にダメ

「上位材への置き換え」は原則OK、「下位材への置き換え」はNGです。

ただし上位材でも問題が出る場合があります。 SUS304の代わりにSUS316を使うと、Moの影響で応力腐食割れの挙動が変わることがある。

異材溶接になると、また別の問題が出ます。熱膨張率の差、希釈、炭素移行。

失敗例②:溶接部の硬さを管理しない

硫化水素環境では、硬さがSSC(硫化物応力腐食割れ)を決めます。

NACE MR0175 / ISO 15156

母材・溶接部とも HRC 22以下(ビッカースで約250 HV以下)

→ 溶接後の硬さ測定が要求される

溶接部は必ず硬くなるので、PWHTで軟化させる必要があります。

腐食と防食(SSC)

失敗例③:低温脆性を「−30℃以下だけの話」と思う

設計上の最低使用温度は、大気温度だけでは決まりません。

低温になる場面何が起きるか
安全弁の吹出断熱膨張で急冷(−50℃以下も)
緊急放出(デプレッシャリング)同上
液化ガスの漏えい気化熱で周囲が冷却される
寒冷地の停止中外気温まで下がる

安全弁の下流配管は、常温設計ではもたないことがあります。

吹出時の到達温度を計算して材料を選ぶのが正しい設計です。

熱力学第一法則(断熱膨張)安全弁の設計緊急放出設備

失敗例④:ミルシートを確認しない

確認すべき項目

化学成分(C・P・S・合金元素)

機械的性質(引張強さ・降伏点・伸び)

シャルピー衝撃値(低温設備なら必須)

熱処理条件

規格・グレード

「SUS304」と書いてあっても、C量が規格上限に近ければ鋭敏化しやすいことがあります。

低温用途では、衝撃試験の実施温度と値を必ず確認してください。

甲種化学ではこう出ます

技術検定の問3(高圧装置用材料)で毎年出ます。10年で25記述。

試験で問われる点

C量が増えると硬く強く、脆く、溶接しにくく(3回出題)

低合金鋼=添加元素の合計5%以下(2回)

オーステナイト系は面心立方で低温脆性を示さない

9%Ni鋼はNi量で最低使用温度が決まる

焼なまし(炉冷)と焼ならし(空冷)の区別(3回すり替えられた)

国試の問3は「材料の劣化・腐食」で、材料そのものではありません。

解き方と過去問は保安管理技術|高圧装置用材料と熱処理、腐食側は保安管理技術|腐食と防食にまとめています。

非破壊検査での磁性の話は設備管理と非破壊検査へ。

まとめ

  • C量が増えると硬く強くなり、脆く、溶接しにくくなる
  • 炭素は格子のすき間に入って転位を止める。だから強く、脆い
  • 圧力容器用鋼はC量0.3%以下(溶接するから)
  • PとSは有害。Pは低温脆性、Sは高温脆性
  • BCCは低温脆性を示し、FCCは示さない
  • 磁石で見分けられる(ただし加工で磁性を帯びることがある)
  • Niは遷移温度を下げる。9%Ni鋼で−196℃
  • 遷移温度はシャルピー衝撃試験で評価する(27 J以上が典型的な要求)
  • 普通の炭素鋼の遷移温度は室温付近
  • 溶接性は炭素当量 Ceqで判断(0.40以下なら良好)
  • 低温割れの3条件=水素+硬化組織+拘束応力
  • 安全弁の下流など、想定外に低温になる箇所に注意

次はステンレス鋼です。→ ステンレス鋼の選び方|SUS304/304L/316/316Lと鋭敏化

腐食は腐食のメカニズム耐食材料の選定、検査は非破壊検査の使い分けへ。