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海外のプロセス安全規制|セベソ指令・OSHA PSM・EPA RMPは何を要求するか

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日本には、米国のPSM規則に相当する包括的なプロセス安全の義務規定がありません。

だから海外規制を知ることには、2つの意味があります。海外拠点で実際に必要になることと、日本の自主保安が何を代替しているのかが分かることです。

この記事では、3つの体系が実際に何を要求しているかを整理します。

この記事の要点

  • セベソ指令=住民と土地利用、OSHA PSM=労働者、EPA RMP=周辺影響
  • OSHA PSMは14要素。RBPSの20要素より少なく、義務としてかっちりしている
  • PHAは5年ごと、監査は3年ごとと周期が明示されている
  • 日本は保安四法に分散し、「規程を自ら作って守れ」という形
  • 対象物質リスト方式には穴がある。T2ラボは規制対象外だった

1. 3つの体系と、その引き金

規制地域守ろうとしているもの
セベソ指令EU重大事故の予防と、周辺住民・土地利用
OSHA PSM
(29 CFR 1910.119)
米国その事業所で働く人
EPA RMP
(40 CFR 68)
米国敷地の外にいる人と、環境

この3つが分かれているのは、引き金になった事故の性格が違うからです。

セベソでは死者が出ませんでした。それでも規制が生まれたのは、ダイオキシンが敷地の外へ出て、住民が避難したからです。

ボパールは、その逆でした。被害のほとんどが敷地の外で発生しました。この構図が、米国でオフサイト影響に焦点を当てた枠組みにつながっていきます。

2. セベソ指令 ― 住民に知らせる、という発想

世代主な特徴
セベソⅠ1982年重大事故の届出、事業者の義務の明確化
セベソⅡ1996年安全管理システム(SMS)の要求、土地利用計画
セベソⅢ2012年
(2015年適用)
GHSへの整合、住民の情報アクセスの強化

仕組みの骨格は、こうなっています。

  • 対象物質と保有量で、下位事業所と上位事業所に分かれる
  • 上位事業所には安全報告書(Safety Report)の作成・提出が求められる
  • 重大事故防止方針と、それを実行する安全管理システムを持つ
  • 内部・外部の緊急時計画を作る
  • 近隣住民への情報提供(事故時に何をすべきかを、平時に伝える)
  • 土地利用計画との連携(危険な施設と、住宅・学校・病院との距離)
  • 近接する事業所間のドミノ効果を考慮する

下2つが、セベソ指令の性格をよく表しています。「事業所の中を安全にする」だけでなく、「そもそも、そこに何を建てるか」まで規制の射程に入れている。これは日本の枠組みにはあまりない発想です。

QRAの記事で扱った土地利用計画(Land Use Planning)は、この文脈から来ています。

3. OSHA PSM ― 14の要素

米国の労働安全衛生規則 1910.119 は、対象となる危険化学物質を一定量以上扱う事業所に、次の要素を義務づけています。

要素
(c)従業員の参加
(d)プロセス安全情報(物質・技術・設備の情報)
(e)プロセスハザード分析(PHA)
(f)運転手順
(g)教育訓練
(h)請負業者
(i)開始前安全レビュー(PSSR)
(j)機械的健全性
(k)火気作業許可
(l)変更管理(MOC)
(m)事故調査
(n)緊急時計画と対応
(o)コンプライアンス監査
(p)企業秘密

並べてみると分かるとおり、このブログでこれまで扱ってきた項目とほぼ一致します。PSMの14要素は、プロセス安全の実務範囲そのものです。

周期が、規則に書いてある

日本の実務と比べて印象的なのは、やる頻度が明示されていることです。

項目要求される頻度
PHAの再評価・更新少なくとも5年ごと
コンプライアンス監査少なくとも3年ごと
運転手順実態への適合を毎年確認(certify)

「実施すること」ではなく「何年ごとに実施すること」と書かれている。これが規則として運用しやすい理由でもあり、形式化しやすい理由でもあります。

監査については、実施者の資格と、是正が完了するまで文書を保持することも求められます。

4. EPA RMP ― 敷地の外を評価する

RMP(Risk Management Program)は、環境保護庁の枠組みです。PSMと要素は重なりますが、視点が敷地の外を向いています。

要求中身
オフサイト影響評価最悪ケース代替(より起こりやすい)ケースの放出シナリオを評価する
5年間の事故履歴過去に何が起きたかを報告する
予防プログラムPSMとほぼ同等の内容
緊急時対応プログラム地域の緊急対応機関との調整を含む
リスク管理計画の提出当局に提出し、一定の範囲で公開される

対象事業所は、危険性と既存の規制状況に応じてプログラム1・2・3に階層化され、要求水準が変わります。

1行目の「最悪ケースと、代替ケースの両方」という要求は、実務的によくできていると思います。最悪ケースだけを評価すると、実際に多い小規模な放出への備えが抜けるからです。

5. 日本の枠組みと、どう違うか

米国 PSM/RMP日本
形式包括的な義務規定が1つある保安四法に分散。包括的なPSM義務規定はない
線の引き方対象物質と量のリスト設備の種類・圧力・数量
要求のしかたやるべきことが列挙される「規程を自ら作り、守れ」(予防規程・危害予防規程)
周期PHA 5年、監査 3年と明示法定検査の周期はあるが、リスク評価の周期は事業者判断
監査3年ごとが義務自主保安。認定制度が受け皿
地域との関係RMPの公開、地域機関との調整石災法の防災体制、共同防災組織

3行目の違いが、いちばん本質的だと考えています。

米国は「これをやりなさい」と列挙する。日本は「自分でルールを作って守りなさい」と求める。

どちらが優れているという話ではありません。ただ、後者では「何をどこまでやるか」を自分で決める必要があります。その決め方の枠組みが、RBPSであり、この一連の記事で扱ってきた手法です。

日本の法体系そのものの地図は、こちらで整理しています。

また、PSMの14要素とRBPSの20要素の関係については、RBPSのまとめ記事に節を設けています。

6. 対象物質リスト方式には、穴がある

ここは、規制を学ぶうえで必ず押さえておきたい点です。

2007年に4名が亡くなったT2ラボラトリーズの暴走反応爆発は、OSHA PSMとEPA RMPのいずれの対象でもありませんでした。使用していた物質が指定物質ではなかったからです。

そしてCSBの2002年の調査によれば――

1980年から2001年までの米国で、重大な反応性化学物質事故は167件、死者108名。

そのうち50%超が、既存のPSM/RMP規制の対象外の物質によるものでした。

物質のリストで線を引く方式は、運用しやすい反面、「反応させたときに危険になるもの」を捉えきれません。単体では規制対象でない物質どうしが、混ざったり加熱されたりして危険になる場合です。

「規制の対象外だから安全」ではない。これは日本の枠組みでもまったく同じです。

7. 日本の技術者が、知っておく意味

場面効いてくること
海外拠点を持つ/建てる要求水準が違う。安全報告書やRMPの提出が必要になる
海外の親会社・顧客の監査を受ける14要素で聞かれる。対応表を用意しておくと早い
海外の事故報告書を読むどの要素の話をしているかが分かる
自社の仕組みを点検する「PHAは何年ごとにやっていますか」と自問できる

4行目が、実は最も価値があると思っています。

日本ではリスク評価の周期が事業者判断です。だからこそ、「米国では5年ごとが義務」という基準線を知っていると、自社の周期が妥当かを考えられます。

8. 自分の職場で確かめる6つのこと

  • HAZOPなどのリスク評価を、何年ごとに見直していますか。
  • 内部監査は、何年ごとに実施していますか。
  • 運転手順書が実態に合っているかを、定期的に確認していますか。
  • 開始前安全レビュー(PSSR)に相当する仕組みがありますか。
  • 法規制の対象外だが危険性の高い物質を、把握していますか。
  • 近隣住民に、事故時に何をすべきかを伝えていますか。

まとめ

  • セベソ=住民と土地利用、PSM=労働者、RMP=敷地の外
  • PSMは14要素。PHA 5年、監査3年と周期が明示されている
  • 日本は「規程を自ら作って守れ」という形。周期は事業者が決める
  • 物質リスト方式には穴がある。T2ラボは対象外だった
  • 「規制の対象外だから安全」ではない

海外規制を読むと、自分たちが何を自主的に決めているのかが見えてきます。決めていないなら、それは決めていないと分かる。それだけでも、読む価値があります。

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プロセス安全の全体地図

この記事は「プロセス安全・防災」カテゴリの1本です。約100本を6つの領域に整理した地図と、立場・目的別の読む順は、こちらにまとめています。

参考文献

※本記事は海外規制の全体像を理解するための概説です。適用範囲や要求事項は改正により変わります。実際の適用にあたっては、最新の規則原文と、各国の所管当局の公表資料をご確認ください。