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2007年12月19日、米国フロリダ州ジャクソンビルのT2 Laboratories社で、バッチ反応器が破裂して爆発しました。4名が亡くなり、32名が負傷。事故当時、構内にいた9名は全員が死傷しています。
亡くなった4名のうち1名は、この会社の共同オーナーであり、化学工学者でした。
そしてCSB(米国化学安全委員会)が最終的に勧告を出した相手は、企業でも規制当局でもありませんでした。大学と、技術者教育の認定機関です。
この記事の要点
- 試験は380°F(約193℃)まで。第二の発熱は390°F(約199℃)超から始まった
- 破裂板は400 psig設定。75 psigなら助かった可能性が高いとCSBは述べている
- 最初の10バッチのうち3回、予期しない発熱が起きていた
- 手順書に「冷却が効かなかったら」が書かれていなかった
- CSBの勧告先はAIChEとABET――化学工学のカリキュラムだった
1. 何が起きたのか
175バッチ目
T2社は、ガソリン添加剤であるMCMT(メチルシクロペンタジエニルマンガントリカルボニル)を製造していました。事故が起きたのは、通算175バッチ目です。
プロセスの第1段階はメタル化と呼ばれる工程で、金属ナトリウムを使います。オペレーターがナトリウムのブロックを手で投入し、反応器を密閉するところから始まります。
手順どおりに、冷却を起動した
| 時刻・温度 | 起きたこと |
| 7:30頃 | バッチ175の製造開始。原料を仕込み、ナトリウムを投入 |
| 11:00頃 | 加熱開始 |
| 210°F(99℃) | ナトリウムが溶融。オペレーターが撹拌機を起動。発熱が始まる |
| 300°F(149℃) | 手順どおり、熱媒油の加熱を停止。しかし温度上昇は続く |
| 360°F(182℃) | 手順どおり、冷却プログラムを起動。それでも温度は上がり続けた |
| 13:23 | オペレーターが、外出中のオーナー2名に「冷却の問題」を報告 |
| ― | 帰社したオーナー(化学工学者)が反応器へ向かい、「火災になると思う」と告げ、退避を促す |
| 13:33 | 反応器が破裂、爆発 |
ここを読み違えないでください。オペレーターは、手順を守っています。300°Fで加熱を止め、360°Fで冷却を起動した。手順書に書かれたとおりです。
それでも温度は上がり続けました。
破裂の直前、周辺の事業所にいた人が反応器頂部からのベントと「ジェットエンジンのような大きな音」を聞いています。
被害
| 項目 | 内容 |
| 死者 | 4名(共同オーナー1名、プロセスオペレーター1名、退避中の外部オペレーター2名)。死因はいずれも鈍的外傷 |
| 負傷 | 32名(T2従業員4名+周辺事業所の一般市民28名) |
| 爆発規模 | TNT換算 約1,400ポンド(約640kg) |
| 被害範囲 | 構造物32棟が損傷(最遠1,700フィート)。破片は最大1マイル先まで飛散 |
| 飛散物の例 | 厚さ3インチの鏡板の2,000ポンド片が隣接鉄道の線路を押しずらし、約400フィート先の建物に衝突 |
| 周辺 | 爆発は15マイル離れたジャクソンビル中心部でも感じられた。隣接する運送会社は廃業 |
亡くなったオーナーとオペレーターがいた制御室は、反応器からわずか50フィート(約15m)の位置にありました。
2. 10°Fの外側にあったもの
CSBは、事故後に反応の熱特性を実測しました。結果は、こうです。
| 温度 | 何が起きるか |
| 約350°F(177℃) | 第一の発熱反応(目的のメタル化反応) |
| 390°F(199℃)超 | 第二の、はるかに激しい発熱反応(ナトリウムと溶媒ジグライムの反応) |
第二の反応は、桁が違いました。圧力上昇 約32,000 psig/分、温度上昇 約2,340°F/分(約1,300℃/分)。CSBの試験セルは破裂しています。
試験は、380°Fまでだった
T2のオーナー(化学者)は、実機を作る前に1Lのガラス反応器で約110バッチの試験を行っていました。何もやっていなかったわけではありません。
CSB報告書は、こう記しています。
「試験中に極端な発熱挙動を見たことはなく、試験温度が380°F(193℃)を超えたことはなかったと本人は述べている。より高い温度での反応挙動を調べなかったため、暴走の可能性を示す証拠を目にすることがなかった。」
――CSB報告書 p.26(要旨)
試験は380°Fまで。第二の発熱は390°F超から。
この差の外側に、4人の命がありました。
ここから引き出せる教訓は、はっきりしています。反応の熱特性は、運転温度まで調べても足りません。制御を失ったときに到達しうる温度まで調べる必要があります。暴走反応の評価が「運転範囲の確認」ではないのは、このためです。
なお、T2がプロセスを組み立てた主な情報源は1950年代末〜60年代初頭の特許文献でした。CSBは、こう書いています。「特許はプロセスの化学を記述するが、プロセスの危険性は通常記述しない。」
破裂板は400 psig、75 psigなら助かった
反応器には4インチの破裂板がありました。設定は400 psigです。
この設定は、どう決められていたか。CSB報告書によれば――「通常運転中に発生が見込まれる水素ガスの最大量」に基づいてサイジングされていました。
そして、暴走反応を過圧源として評価した証拠を、CSBは見つけられませんでした。
CSBの結論は、次のとおりです。
- 第二の発熱反応が始まってしまえば、400 psig設定ではどんなサイズの放圧装置でも破壊を防げなかった可能性が高い
- 防げたのは、第一の発熱反応の段階で、より低い圧力で放圧する方法のみ
- 破裂板を400 psigではなく75 psigに設定していれば、第一の発熱段階で放圧され、第二の発熱反応を回避できた可能性が高い
放圧の目的が、ここで反転しています。「圧力を逃がす」のではなく、「沸騰させて熱と反応物の両方を系外へ出す」。暴走反応に対する放圧は、そういう設計になります。
冷却系に、代わりがなかった
冷却は、反応器の下部3/4を覆うジャケットに市水を注入して沸騰させ、蒸気を大気に放出する方式でした。能力そのものは十分で、加熱側(熱媒油系)の最大能力の10倍以上ありました。
問題は、能力ではなく構成です。
| CSBが挙げた単一点故障モード |
| 給水弁の閉固着/排水弁の開固着 |
| 弁を駆動する空気系の故障 |
| 給水配管の閉塞・部分閉塞 |
| 温度指示の誤り |
| 冷却系のスケール堆積 |
これらのどれか1つで、冷却が失われます。そして非常用の冷却源は存在しませんでした。
FTAの言葉でいえば、1次のカットセットが6つ並んでいたということです。
さらに、T2は予防保全を行わず、冷却系の部品を故障するまで使っていました。2006年以降に少なくとも1回、冷却の排水弁が運転中に故障して修理を要しています。
手順書に、「冷却が効かなかったら」がなかった
これが、個人的にいちばん重く感じた事実です。
事故当時の運転手順書には、冷却喪失時の緊急指示が一切ありませんでした。
しかも――以前の版の手順書には、あったのです。給水弁と手動バイパス弁を全開にせよ、という指示が。それが、事故時点の版では消えていました。
予備の水源は構内に貯えられていましたが、緊急時に直ちに使える状態ではありませんでした。
予兆は、最初の10バッチで出ていた
2004年、実機の立ち上げ時のことです。
| バッチ | 何が起きたか |
| Batch 1 | 第1段階で予期せぬ発熱反応。レシピと手順を調整し、冷却を追加 |
| Batch 5 | 第1段階で制御不能(暴走)発熱反応 |
| Batch 10 | 想定以上の温度上昇 |
最初の10バッチのうち3回。収率は0〜約70%とばらついていました。
そしてCSBは、こう指摘します。「T2は問題を切り分けるためにバッチレシピを繰り返すことをせず、最初の10バッチのそれぞれでレシピを変えた。」
毎回条件を変えれば、何が効いたのか分かりません。異常は「調整して乗り切るもの」として扱われ、「原因を突き止めるもの」にはなりませんでした。
Batch 11の後、オーナーは投資家に「プラント立ち上げ成功、本格生産開始」を宣言しています。
そして、バッチサイズを1/3増やした
2005年7月、Batch 42からバッチサイズが1/3増量されます。CSB報告書の記述です。
「このレシピ変更の一環として追加の化学的・プロセス的解析が行われた記録はない。これは重大な新しいリスクを持ち込んだ可能性がある。反応物の量が増えれば反応が生み出しうるエネルギーが増え、冷却および放圧の要求も変わったと考えられる。」
――CSB報告書 p.28(要旨)
設計コンサルタントの1社は、スケールアップに際してHAZOPの実施が必要だと指摘していました。しかしCSBは、T2がHAZOPを実施した証拠を見つけられませんでした。
3. 原因と、CSBの結論
| 区分 | CSBの記述 |
| 直接原因 | 冷却不足が、本事故の唯一の合理的な原因 |
| 根本原因 | T2は、自社が製造していたMCMTに伴う暴走反応の危険性を認識していなかった |
| 寄与原因① | 冷却システムは設計上の冗長性を欠き、単一点故障に弱かった |
| 寄与原因② | 反応器の安全弁系は、暴走反応による圧力を逃がす能力がなかった |
CSBは、汚染・原料濃度異常・局所濃度・過剰加熱といった他の候補を検討し、すべて否定しています。
なお、このプロセスはOSHA PSM規則とEPA RMP規則のいずれの対象でもありませんでした。使用物質が指定物質でなかったためです。CSBの2002年の調査では、1980年から2001年までの米国の重大な反応性事故167件のうち50%超が、既存のPSM/RMP規制の対象外の物質によるものでした。
4. CSBが勧告した相手は、大学だった
この事故の報告書が特異なのは、勧告先が2団体しかないことです。企業でも、規制当局でもありません。
| 勧告先 | 内容 |
| 米国化学工学会(AIChE) | ABETと協働し、学士課程化学工学のカリキュラム要件に「反応危険性の認識」を加えること |
| 同上 | 全学生会員にプロセス安全証明プログラムを周知し、参加を促すこと |
| 技術者教育認定機構(ABET) | AIChEと協働し、同じくカリキュラム要件に反応危険性の認識を加えること |
なぜ、そこへ向かったのか。報告書の記述が答えています。
「T2のオーナー(化学工学者)は化学工学の学士号を持ち、母校の化学工学カリキュラム諮問委員会でも活動していた。しかし、反応危険性の認識は現在の化学工学カリキュラムの基本的構成要素になっていない。(中略)それゆえ両名は、MCMTプロセスの反応危険性を理解し認識する備えが十分でなかった。」
――CSB報告書 §5.5(要旨)
裏づけとして、報告書は2006年の調査を引用しています。米国の大学の化学工学科180校のうち――
- プロセス安全教育を学士課程の必修としていたのは、わずか11%
- 選択科目として提供していたのが、追加で13%
- ABETの認定要件に、プロセス安全や反応危険性の認識を含める要求は存在しない
この事故は、「知らなかった人が悪い」で終わらせなかったという点で、読む価値があると思っています。
4名のうち1名は化学工学者で、母校のカリキュラム委員でもありました。その人が知らなかったのなら、それは個人の問題ではない。CSBはそう判断し、教育の側へ勧告を出しました。
5. 自分の工場で確かめる5つのこと
- 反応の発熱特性を、運転温度ではなく「制御を失ったときに到達しうる温度」まで測っていますか。
- 安全弁・破裂板の設定は、暴走反応を過圧源として評価していますか。通常運転のガス発生量だけで決めていませんか
- 冷却系に、単一点故障はありませんか。非常用の冷却源は、すぐ使える状態ですか
- 手順書に「冷却が効かなかったら」が書かれていますか。以前の版から消えていませんか
- バッチサイズや仕込み量を変えたとき、危険性を再評価しましたか。記録は残っていますか
まとめ
- オペレーターは手順を守っていた。それでも温度は上がり続けた
- 試験は380°Fまで、第二の発熱は390°F超から。調べていない領域に危険があった
- 放圧は「圧力を逃がす」だけでなく「熱と反応物を出す」設計が要る
- 予兆は最初の10バッチで3回出ていた。調整で乗り切り、原因を突き止めなかった
- CSBの勧告先は大学とABET。個人の不明ではなく、教育の欠落と判断された
「特許には化学が書いてあるが、危険性は書いていない」。この一文は、新しいプロセスを立ち上げるすべての人に向けられています。
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この記事は「プロセス安全・防災」カテゴリの1本です。約100本を6つの領域に整理した地図と、立場・目的別の読む順は、こちらにまとめています。
参考文献
- U.S. Chemical Safety and Hazard Investigation Board「Investigation Report — T2 Laboratories, Inc. Runaway Reaction」Report No. 2008-3-I-FL(2009年9月、PDF・77ページ) 本記事の事実関係・引用はすべてこの報告書に基づく
- CSB「T2 Laboratories, Inc. Reactive Chemical Explosion」(事故ページ)
- 安全工学会 監修、新井充・佐藤吉信・高木伸夫・野口和彦・若倉正英 編『実践・安全工学シリーズ1「物質安全の基礎」』化学工業日報社、2012年
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※本記事中の事実関係・数値・引用は、上記CSB報告書の記述に基づいています。日本語訳は筆者によるもので、正確な表現は原文をご確認ください。温度の℃換算は筆者による計算です。
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