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蒸気雲爆発(UVCE)|爆発にするのは、閉塞と障害物

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屋外に漏れた可燃性ガスに火がついても、たいていは「燃える」だけで終わります。炎が走り抜けて、それでおしまいです。

ところが1974年のフリックスボローでは、工場そのものが吹き飛びました。周辺の家屋1,800戸以上が損壊しています。

この差は、どこから来るのか。蒸気雲爆発(UVCE)が「爆発」になるかどうかを決めているものを整理します。

この記事の要点

  • 屋外の蒸気雲は、普通は爆発せず「燃えるだけ」で終わる
  • 爆発に変えるのは閉塞と障害物。プラントの中は開放空間ではない
  • 着火が遅れるほど、被害は大きくなる。雲が育つ時間ができるから
  • 被害見積りはTNT換算法よりMulti-Energy法のほうが実態に近い
  • 最も効く対策は在庫を減らすこと漏れを早く止めること

1. UVCEが成立する条件

UVCE(Unconfined Vapour Cloud Explosion:開放系蒸気雲爆発)は、いくつもの条件が重ならないと起きません。

条件中身
大量に、速く漏れる少量ならすぐ拡散して薄まる。短時間に大量が必要
爆発範囲の雲ができる濃すぎても薄すぎても燃えない。混ざり方が効く
着火が遅れるすぐ着けば火災で終わる。遅れるほど雲が大きくなる
閉塞・障害物があるこれが爆発と火災を分ける

4つのうち、①と②は物質と漏えい条件で決まります。設計と運用で動かせるのは、③と④です。

2. 「着火が遅いほど危ない」という逆説

直感に反する話から始めます。

可燃性ガスが漏れたとき、すぐに着火するほうが、被害は小さくなります。

着火のタイミング何が起きるか被害
漏えい直後ジェット火災、あるいは漏えい源での火災局所的。放射熱の影響範囲
やや遅れフラッシュファイア(雲が燃え抜ける)雲の範囲の人が被災。過圧は小さい
大きく遅れ蒸気雲爆発(UVCE)広範囲。過圧で建屋が壊れる

着火が遅れるあいだ、蒸気雲は育ち続けます。漏れは止まらず、雲は広がり、機器や構造物のあいだへ入り込んでいく。そして着火したとき、燃えるものの量と、閉塞された領域の量が、被害を決めます。

ここから、実務上の結論が出ます。

「着火源をなくす」ことは、UVCE対策として万能ではありません。

着火源を減らせば、着火は遅れます。しかしプラントで着火源を完全にゼロにはできません。遅れて着火した結果が、より大きな被害になり得る。

だから本命の対策は、着火源対策ではなく「漏らさない」と「早く止める」になります。

3. 爆発にするのは、閉塞と障害物

ここが、この記事の核心です。

何もない平地に可燃性ガスの雲があり、そこに火がついたとします。火炎はゆっくり広がり、燃焼ガスは自由に膨張します。圧力はほとんど上がりません。これがフラッシュファイアです。

では、なぜフリックスボローでは爆発になったのか。

障害物が火炎を加速させる

仕組みは、前回の記事で扱った配管内のDDTと同じです。

  • 火炎の前で押し出されたガスが、機器や配管にぶつかって乱流になる
  • 乱流は火炎の表面積を増やし、燃焼速度を上げる
  • 速くなった火炎が、さらに強く押し出す ―― 正のフィードバック
  • 膨張が妨げられる場所(建屋の中、機器の隙間)では、圧力が逃げられない

つまり、プラントの中は「開放空間」ではありません。配管ラック、熱交換器の列、構造物、建屋。これらはすべて、火炎を加速させる障害物です。

同じ量のガスが漏れても、どこに漏れたかで結果が変わります。タンクヤードの広い場所か、機器が密集したプロセスエリアか。「装置を詰めて配置する」という経済的な判断は、爆発の強さに直結しています。

4. 被害をどう見積もるか

UVCEの影響評価には、いくつかの手法があります。考え方の違いを押さえておくと、結果の読み方が変わります。

TNT換算法

雲に含まれる可燃物の燃焼エネルギーを、等価な質量のTNTに換算する方法です。TNTの爆風データは豊富にあるので、そこから距離ごとの過圧を読みます。

簡便で広く使われますが、弱点があります。

  • 燃焼エネルギーのうちどれだけが爆風になるか(爆発効率)を仮定しなければならない。この値の選び方で結果が大きく変わる
  • 閉塞の程度を反映できない。同じ量なら同じ結果になってしまう
  • TNTは点で爆発するが、蒸気雲は広がった領域で燃える。近距離では実態と合いにくい

Multi-Energy法

こちらは考え方が違います。蒸気雲全体ではなく、閉塞された領域ごとに評価します。

  • プラントを見て、障害物が密集している領域を特定する
  • 各領域に、閉塞の強さに応じた爆発強度のクラスを与える
  • その領域にある可燃物の量から、爆風を計算する
  • 閉塞のない部分は、爆発に寄与しないものとして扱う

「閉塞が爆発を作る」という物理を、そのまま計算に取り込んでいます。だからレイアウトを変えた効果が、評価結果に現れます。

手法の選択は、「何を判断したいか」で決まります。おおまかな影響範囲を早く知りたいならTNT換算。レイアウトや配置を検討したいならMulti-Energy法です。TNT換算では、装置を離しても結果が変わりません。

過圧のしきい値

計算した過圧を、被害の判断に使います。よく参照される目安を挙げます。

過圧の目安起こり得ること
約1 kPa窓ガラスが割れ始める
約7 kPaガラスはほぼ破損。軽量な建屋に損傷
約21 kPa建屋に重大な損傷。設備の変形
約35 kPa 以上建屋の倒壊。人への重篤な影響

ここで注意すべきことがあります。人が直接爆風で死ぬケースより、建屋の崩壊や飛来物で死ぬケースのほうが多いとされます。

だから影響評価の目的は、「何kPaになるか」を出すことではなく、「その場所にある建屋と人が、どうなるか」を判断することです。

5. フリックスボローに当てはめる

1974年の事故を、この枠組みで読み直します。

条件フリックスボローでは
① 大量・急速な漏えい仮設配管の破断で、数十トン規模のシクロヘキサンが噴出
② 爆発範囲の雲沸点をはるかに超えた温度の液体が瞬時に気化し、巨大な雲を形成
③ 着火の遅れ着火まで1分ほどとされる。そのあいだ雲は成長し続けた
④ 閉塞・障害物稼働中の化学プラントの中。機器と配管が密集

4条件がすべて揃っています。そして被害を決定的にしたのが、制御室の崩壊でした。死者28名の多くが、そこにいた人たちです。

TNT換算の推定値は、資料によって大きな幅があります。爆発効率の仮定と、雲のどこまでが爆発に寄与したかの見方が違うためです。この幅の大きさ自体が、TNT換算法の性格を表しています。

6. 設計と運用でできること

4つの条件それぞれに、打てる手があります。

条件対策効き方
① 漏えい量在庫を減らす(本質安全)最も効く。そこにない量は漏れない
① 漏えい量緊急遮断弁で区画を切る漏れ続ける量を減らす
③ 着火の遅れガス検知と早期の緊急停止雲が育つ前に供給を止める
④ 閉塞レイアウトを開ける/通風を確保火炎の加速を抑える
被害建屋の耐爆化、人の配置爆発の規模を変えられなくても、死者は減らせる

順序が重要です。①がいちばん効きます。フリックスボローから生まれた「そこにないものは、漏れない」は、UVCE対策として最も本質的です。

そして最後の行――人と建屋の配置は、爆発が起きてしまったあとに効く唯一の対策です。2005年のBPテキサスシティで15名が亡くなったのは、装置のそばに仮設トレーラーがあったからでした。

7. 自分の職場で確かめる7つのこと

  • 最大でどれだけの可燃物が、一度に漏れ得ますか。その量を減らせませんか
  • 漏えいを検知してから、供給を止めるまで何分かかりますか。
  • 緊急遮断弁で、系統をいくつの区画に切れますか。1区画の在庫量はどれくらいですか
  • 装置が最も密集しているのは、どこですか。そこは閉塞が強い場所です
  • その密集エリアの近くに、人がいる建屋はありませんか。
  • 影響評価は、どの手法で行いましたか。レイアウトの効果は反映されていますか
  • 制御室は、どこにありますか。爆風に耐えますか

2番目は、机上では答えにくい問いです。検知から遮断までの時間には、人が判断する時間が含まれます。

まとめ

  • 屋外の蒸気雲は、普通は燃えるだけで終わる。爆発にするのは閉塞と障害物
  • 着火が遅れるほど雲は育ち、被害は大きくなる。着火源対策だけでは足りない
  • TNT換算法は簡便だが閉塞を反映できない。レイアウト検討にはMulti-Energy法
  • フリックスボローは4条件がすべて揃った事例。制御室の崩壊が被害を決めた
  • 最も効く対策は在庫を減らすこと早く止めること

UVCEを考えることは、「自分のプラントは、どれくらい詰まっているか」を見直すことでもあります。効率よく配置された装置は、爆発にとっても効率的です。

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火災・爆発の型を全体として見分ける地図は、こちらにまとめています。

参考文献

※過圧のしきい値、爆発効率、TNT換算値は、資料・想定条件によって幅があります。本記事の数値は判断の目安であり、設計値ではありません。実際の影響評価は、専用の解析手法と最新の指針に基づいて行ってください。