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引火点・燃焼点・発火点の違い|混同しやすい3つの温度と「引火点が高い=安全」の誤解

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SDSを開くと、似たような温度が3つ並んでいます。引火点、燃焼点、発火点

この3つを正確に説明できるでしょうか。「引火点が高いから安全な溶剤」という判断を、根拠を持ってしていますか。

実はこの3つは、問うている質問がまったく違います。混同したまま危険性を判断すると、天ぷら油やDMSOのように「引火点は高いのに火災を起こす物質」を取りこぼします。

この記事では、3つの温度の違いを整理したうえで、測定方法によって値が変わること、法令がどこで線を引いているか、そして「引火点が高い=安全」という誤解がなぜ危険なのかを解説します。

この記事の結論

  • 引火点=液面上の蒸気濃度が爆発下限界に達する温度。着火源があれば火がつく
  • 燃焼点=引火した炎が燃え続けられる最低温度。引火点より数℃高いことが多い
  • 発火点着火源がなくても自ら燃え出す温度。3つの中で最も高い
  • 引火点は測定方法(密閉式・開放式)で値が変わる。一般に密閉式のほうがやや低い
  • 「引火点が高い=安全」ではない。加熱する工程では引火危険が増す

1. 3つの温度は、何が違うのか

まず全体像です。3つは「火がつく温度」ではなく、それぞれ違う質問への答えです。

温度問うている質問着火源
引火点
Flash point
火を近づけたら、一瞬でも火がつくか?必要
燃焼点
Fire point
火がついた後、燃え続けるか?必要
発火点
Ignition temperature
火を近づけなくても、自分から燃え出すか?不要

温度の大小関係は、通常は次のようになります。

引火点 < 燃焼点 << 発火点

燃焼点は引火点より数℃程度高い場合が多く、発火点はそれらより桁違いに高いのが一般的です。

身近な例で言えば、天ぷら油(動植物油)は一般に引火点が250℃以上あります。それでも料理中の火災が多いのは、加熱によって引火点を超えてしまうからです。この「加熱すれば危険が増す」という当たり前が、プラントでは意外と抜け落ちます。

2. 引火点 ― 蒸気濃度が爆発下限界に達する温度

引火点の本質を一言で言うと、こうなります。

引火点とは、液面上に発生した蒸気の濃度が、ちょうど爆発下限界(LEL)に達する液温である。

ここが理解できると、いろいろなことが腑に落ちます。

液体そのものが燃えるわけではありません。燃えるのは蒸気です。液温が低ければ蒸発量が少なく、蒸気濃度が薄すぎて燃えない。温度が上がると蒸発が進み、ある温度で濃度が爆発下限界に届く。その温度が引火点です。

つまり引火点は「蒸気圧」と「爆発下限界」という2つの物性が交わる点であって、独立した第3の物性ではありません。

濃度が変われば引火点も変わる

この理解が効いてくるのが、水溶液の場合です。一次資料が挙げるエタノールの例が明快です。

エタノールの濃度引火点
純エタノール11℃
3%水溶液70℃

水で薄めると蒸気圧が下がるため、爆発下限界に達するのにより高い温度が必要になります。だから引火点が上がる。

これを法令も踏まえていて、消防法ではエタノールは60%以上の濃度のものだけが危険物とされています(危険物の規制に関する規則 第1条の3第4項)。ただし一般論としては、含水液体であっても引火点があれば危険物に該当します

同様の現象は、可燃性液体へのハロゲン化合物の添加でも見られます。ただしハロゲン化合物は一般に消炎効果があるため、火炎が継続せず不安定になり、明確な引火が見られなくなるなど、現象はより複雑になります。なお消防法では一瞬でも液面上を火炎が走れば引火とみなします。このような物質は燃焼点を持たないことが多いのも特徴です。

3. 燃焼点 ― 燃え続けられるかどうか

燃焼点は、現場ではあまり意識されませんが、火災の広がり方を考えるうえで重要です。定義はこうです。

規定条件で試料を加熱し、小火炎で引火を確認した後、さらに5秒間燃焼が継続する最低試料温度

引火点では「一瞬火がつく」だけで、炎はすぐ消えます。蒸気の供給が追いつかないからです。液温がもう少し高くなると蒸発が持続し、炎が維持されるようになる。それが燃焼点です。

測定はクリーブランド開放式試験器またはタグ開放式試験器で行います。引火点より数℃程度高い場合が多く、燃焼点を持たない可燃性液体もあります。

継続時間の判定基準は制度によって異なります。国連危険物輸送勧告・GHSにもとづく試験では、火炎は15秒間継続して存在する必要があるとされています。試験報告書を読むときは、どの基準による値かを確認してください。

4. 発火点 ― 着火源がなくても燃え出す温度

発火点は、着火源を必要としない点で前の2つと決定的に違います。加熱された表面に触れただけで、火花もアークもないのに燃え出す温度です。

プラントで発火点が効いてくる場面は限られていますが、効くときは非常に重要です。

  • 高温配管・高温機器の表面温度との関係。保温材が破れて高温面が露出しているところへ可燃性液体が漏れれば、着火源がなくても発火します
  • 防爆機器の温度等級の選定根拠。機器の最高表面温度が、対象ガスの発火点を下回るように選びます
  • 減圧蒸留の残渣油のように、運転温度そのものが発火点付近にある流体

3つめは、被害局限化設計の記事で触れた「高温の減圧残渣油が漏れると自然発火により火災になる危険性が高い」という話と同じ現象です。

5. 測定方法で値が変わる

ここは実務で誤解が起きやすいところです。引火点は「その物質の絶対的な値」ではなく、試験方法に紐づいた値です。

消防法では、JIS K 2265にもとづく次の方法が採用されています。

方式試験器適用の目安
密閉式タグ密閉式引火点0℃未満のもの/0℃以上80℃以下で、その温度での動粘度が10cSt未満のもの
密閉式セタ式(迅速平衡法)引火点0℃以上80℃以下で、その温度での動粘度が10cSt以上のもの
密閉式ペンスキー・マルテンス密閉式タグ式が使えない場合。高粘性液体に適用
開放式クリーブランド開放式/タグ開放式引火点が80℃以下で測定されないもの。燃焼点の測定が可能

そして重要な原則がこれです。

一般に密閉式の測定結果のほうが、開放式よりもやや低い温度を与える。

密閉式は蒸気が容器内に溜まるため、より低い温度で下限界濃度に達します。開放式は蒸気が逃げるので、同じ濃度になるにはより高い温度が要る。つまり密閉式のほうが安全側(低め)の値です。

SDSや文献で引火点を比較するときは、どちらの方式による値なのかを必ず確認してください。数℃の差が、法令の区分を跨ぐことがあります。

動粘度と粘度の関係は 動粘度[cSt] = 粘度[cP] ÷ 密度[g/cm³] です。適用区分の判定に粘度が出てくるのは、粘性が高いと液面からの蒸発挙動が変わり、タグ密閉式では正しく測れないためです。

6. 法令はどこで線を引いているか

同じ「引火性」でも、法令ごとに境界値が違います。ここを押さえておくと、SDSと法令区分の対応が読めるようになります。

法令・基準引火点による線引き
消防法(第4類 引火性液体)原則として250℃までの範囲に引火点があれば危険物に該当。7つの品名に分類され、うち特殊引火物が最も火災危険が大きい
消防法(指定可燃物)引火点250℃以上の物質、および250℃未満でも一定以上の不燃物を含む物質は、原則として市町村火災予防条例による規制
労働安全衛生法引火点65℃未満を「引火性のもの」とする
国連危険物輸送勧告引火点60.5℃までの可燃性液体がクラス3(可燃性液体)の対象

GHSの4区分

GHSは輸送だけでなく製造・貯蔵・取り扱いの国際的な統一を目指した基準で、引火性液体を4つに分類します。

区分判定基準
区分1引火点が23℃未満で、初留点が35℃以下のもの
区分2引火点が23℃未満で、初留点が35℃より高いもの
区分3引火点が23℃以上60℃以下のもの
区分4引火点が60℃より高く93℃以下のもの

区分1と区分2の違いが初留点である点に注目してください。引火点が同じでも、沸点が低い(すぐ気化する)ほうが危険度が高いという考え方です。

1つの物質が複数の法令の規制を受けることは珍しくありません。たとえばシアン化水素は、引火点から消防法第4類に該当し、強い毒性から毒物及び劇物取締法の規制を受け、さらに高圧状態で取り扱われる場合には高圧ガス保安法の適用もあります。「消防法だけ見て済ませない」のが実務の鉄則です。

7. 「引火点が高い=安全」という誤解

この記事で最も伝えたいのがここです。引火点の数値だけを見て安全性を判断すると、確実に足をすくわれます。

落とし穴1:加熱する工程では引火危険が増す

一次資料はこう書いています。「物質の引火点が室温よりある程度高ければ、室温では火が着きにくいが、加熱する場合には引火危険が増す」。

天ぷら油はその典型です。引火点250℃以上でも、加熱するから火災になる。プラントで言えば、反応器・蒸留塔・熱媒系など、常温より高い温度で使う場所では、引火点の数字は安心材料になりません。運転温度と引火点を並べて見る習慣をつけてください。

落とし穴2:分解・暴走という別の経路がある

もうひとつ、引火点ではまったく捉えられない危険があります。一次資料が挙げるDMSO(ジメチルスルホキシド)の例が強烈です。

DMSOは引火点が高く(消防法 第3石油類)、比較的安全な溶剤ではあるが、多くの火災・爆発を起こしている

これは長期間の使用で分解が起き、また分解発熱して暴走反応を引き起こすことによるものである。平成21年には福島県いわき市で、DMSOの蒸留中に爆発事故が起こっている。

引火点は「外から火を近づけたらどうなるか」しか答えていません。物質が自分で発熱して暴走する経路については、まったく別の指標が必要になります。

落とし穴3:大量に扱う溶剤ほど意識が薄れる

アセトンやトルエンのように溶剤として大量に扱う物質は、危険性への意識が薄れがちだと一次資料は指摘しています。しかし引火点は低く、危険性は高い。「毎日触っているから慣れている」は、危険認識が更新されていない状態です。

8. 現場でやりがちな失敗

失敗1:試験方法を確認せずに引火点を比較する

密閉式と開放式では値が違います。方式が違う値を並べて「こちらのほうが安全」と判断してはいけません。

失敗2:純物質の引火点で混合物を判断する

エタノールの例のとおり、濃度が変われば引火点は大きく変わります。実際に扱う組成での値を確認してください。逆に、水で薄めたから安全とも限りません。運転中に水が抜けて濃縮する経路がないかを見る必要があります。

失敗3:常温基準で危険場所を決めている

引火点が運転温度より高いから危険場所ではない、という判断は、その温度が常に守られる前提に立っています。異常時の温度上昇、保温トレースの過昇、蒸気の混入。想定を超える経路がないかを確認してください。

失敗4:発火点を「高いから関係ない」と切り捨てる

発火点が数百℃だとしても、高温配管の表面温度がそこに届いていれば意味を持ちます。保温材が破れた箇所、スチームトレース、加熱炉まわり。着火源がない場所でも火災は起こり得ます。

まとめ

  • 引火点=蒸気濃度が爆発下限界に達する温度。「蒸気圧」と「爆発下限界」が交わる点であって、独立した物性ではない
  • 燃焼点=引火後さらに燃焼が継続する最低温度。引火点より数℃高いことが多く、持たない液体もある
  • 発火点=着火源なしで燃え出す温度。高温配管の表面温度や防爆機器の温度等級で効いてくる
  • 引火点は試験方法に紐づく値。密閉式のほうが開放式よりやや低い(安全側)
  • 法令の境界は消防法250℃/労安法65℃/国連クラス3は60.5℃、GHSは4区分
  • 引火点が高くても安全とは限らない。加熱する工程、そして分解・暴走という別経路がある

SDSの数字は、それがどんな質問への答えなのかを知って初めて使えます。3つの温度を区別できるようになると、「この物質のどこが危ないのか」を自分の言葉で説明できるようになります。

爆発範囲(LEL・UEL)の読み方と混合ガスの計算は、こちらで解説しています。

暴走反応が止まらなくなる仕組みと、SADT(自己加速分解温度)の読み方はこちら。

このカテゴリの全体像は、まとめ記事で解説しています。

参考文献

  • 安全工学会 監修、新井充・佐藤吉信・高木伸夫・野口和彦・若倉正英 編『実践・安全工学シリーズ1「物質安全の基礎」』化学工業日報社、2012年、第3章「可燃性液体」pp.93-116 Amazonで見る
  • JIS K 2265(引火点の求め方)
  • 消防法および危険物の規制に関する政令・規則/労働安全衛生法/国連危険物輸送勧告・GHS